決勝: 加藤 翔也(ラクドス門コントロール) vs. 早田 晃(オルゾフタッチ青)
晴れる屋メディアチーム
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By Tsutomu Date
「リミテッドにはマジックの基礎が全て詰まっている」
かの八十岡翔太プロはそう言った。マリガン判断、コンバット、ダメージレース…リミテッドには、マジックで勝つために必要な要素が全て含まれているという。
今期のリミテッド東海王決定戦は、『ラヴニカの献身』発売からわずか2日後の開催となった。新セット発売間もない現在では、プロの環境分析結果もさほど出回ってはいない。「頼れるものは己のみ」とまさに各人のマジックの基礎力が試される大会となった。
このような環境の状況下で、実力も実績も申し分ない2人が勝ち上がってきた。
スイスラウンドを1位で通過した早田晃は、プロツアー霊気紛争場を筆頭に、これまでに数々の実績を残している。
過酷極まるPPTQの突破は数知れず、大会優勝の度に「やはり早田さんか」と思わせる、東海のプレイヤーなら誰もが認める強豪だ。競技を主とするプレイヤーはシーズンに合わせたフォーマットで活動するものだが、早田はいずれのフォーマットでも実績を上げており、その実力を疑うものはいない。
特に局面の把握とプランニング、数ターン先までの読みの深さには定評がある。カードショップ『王の洞窟 岐南店』を中心に活動しており、PPTQシーズンでは他県への遠征も積極的に行っている。
本環境について聞いたところ、「特にギルド毎の強弱は意識していませんが、オルゾフが好みですね。接死ビートもできますし、コントロールとして振る舞うこともできます」とのコメント。決勝ドラフトではオルゾフに青をタッチした中速デッキを構築した。
「ドラフトする前から多色カードでスタートすることは意識していて、ファーストピックで《無慈悲な司教》、2手目に《解任+開展》、3手目に《欲深いスラル》と比較的容易にオルゾフにいけました」と語る。
一方、スイスラウンドを2位通過の加藤翔也といえば昨年10月の『GP名古屋』TOP4入りが記憶に新しい。リミテッドの実力は言うまでもなく、「どんなフォーマットでもプレイしますよ」と言う言葉通り、全てのフォーマットに精通しているオールラウンダーだ。
2/22~24にクリーブランドにて行われる、ミシックチャンピオンシップへの出場も確定しており、リアルマジックとMTGアリーナ双方のフィールドを用いての準備に余念がない。普段はカードショップ『アップキープ』や大会『バクシーシ杯』を中心に活動している。
これだけの実力を持ちながら、プレイヤーとしての活動のみならず、PPTQシーズンではDCI認定のレベル2ジャッジとして活躍している。多芸多才な人物であり、彼を羨む者も多いことだろう。
本環境のギルドについては「アゾリウスが強いと考えていますが、他の色も大差はないですね。重要なのは上家と被らないことです。ちなみにラクドスはコントロールで組むのが強く、アグロは罠です」と理解の深さを伺わせる。
「レアから入ってラクドスを目指していましたが、2パック目中盤から《スフィンクスの眼識》が複数流れてきたので、ラクドス中心で青白が入った門コントロールにしました。今回の卓はギルド門が多く流れてきたのが幸運でしたね」
2人の対戦は初めてではない。これまでもPPTQやストアチャンピオンシップ等、様々な大会の決勝戦で相まみえてきたという。奇しくもこのリミテッド東海王決定戦でもその再現となった。場慣れしている2人のやりとりには落ち着きが感じられ、まさに知的格闘技の頂点にふさわしい決勝戦である。
先手の早田はマリガン。
互いに1、2ターン目はギルド門のタップイン処理で動きはなく、3ターン目の加藤の《ラクドスの人足》に対し、早田が《有毒グルーディオン》の召喚で応える立ち上がり。
加藤は《ラクドスの人足》のアタックを通しながら《不正相続》を展開しプレッシャーをかけるが、早田も《有毒グルーディオン》の攻撃後に《刃の曲芸人》を絢爛でプレイ、と譲らない。
加藤としては《不正相続》の後ろ盾を得ながら攻勢を続けたいところだが、《砂利皮のゴブリン》、《瓦礫の投げ手》に対して《ヴィズコーパの吸血鬼》が立ち塞がる。
十分なサイズ感のある《地下墓地のクロコダイル》を追加するも《有毒グルーディオン》の前では相打ちを許容せざるを得ない。
続いて2体目の接死クリーチャーである《死に到る霊》が立ち塞がると、まずはコンバットで盤面の整理にかかる加藤。《瓦礫の投げ手》対《死に到る霊》で殴り合う場を作り上げる。
このまま攻撃を通しあう状況が推移していくかと思いきや、早田がプレイしたのは《アゾリウスの空護衛》。これにより加藤の陣営は大きくパワーダウンし、早田は6点クロックを形成、一方的に有利な場となる。
加藤も負けじと《欲深いスラル》から《空の縛め》でこれに応え、制空権を手に入れる。
膠着すると存在感が高まっていくのは《不正相続》だ。加藤が4ターン目に設置したこのエンチャントは、早田のライフを10点近くも奪っており、そのライフは既に7まで落ち込んでいる。
しかし早田はここで手札に温存しタイミングを見計らっていた《会稽》をキャスト!一気にライフが14まで回復し、加藤のそれは17から8と落ち込み形勢は逆転した。
打って変わって防戦に回る加藤だが、ターン経過とともに《不正相続》が早田に傾いた天秤を静かに戻していく。
続いて加藤は展開と除去、クリーチャーの相打ちを繰り返し、盤面の脅威を取り除くと最後に《アーチ道の天使》でなんと5つのギルド門から10点ゲイン!
駄目押しに《冷気をもたらす者》を追加し、飛行の6点クロックを作り上げると、早田はうなずきながら盤面を畳み始めた。
早田 0-1 加藤
対コントロールを意識し、アグレッシブな構成にシフトしていく早田に対し、加藤は序盤を凌ぐカードを減らし、より後半戦を意識した構成へと変更する。
両者キープ。
先手の早田が3ターン目に《ラクドスのラッパ吹き》からスタート、《傲慢な支配者》と続けると、加藤は《ラクドスの人足》で応え、続く4ターン目には1ゲーム目では見せなかった強力なエンチャント《恐怖の劇場》をプレイ!
「ラクドスはコントロール」の言の通り、毎ターン確実にアドバンテージを獲得する切り札の設置に成功する。対する早田も冷静にテキストを確認し、静かにうなずく。
しかし早田もアドバンテージ面では負けていない。《ギルドパクトの秘本》をプレイすると、《欲深いスラル》でドローを進めつつ、着実にクロックを刻んでいく。
一方の加藤は《スフィンクスの眼識》をプレイしつつ反撃の準備を進めるものの、早田の展開は速く盤面を覆すことができない。用意するブロッカーも除去され万事休すの局面だ。
しかし《恐怖の劇場》が呼び込んだのはこの盤面への十分過ぎる回答だった。
思わず「おおお…!」と驚愕と感嘆が混じった声を発する早田に対し、静かなプレイを続けていた加藤も感極まったか「盛り上がってきたぜ!」と一言。門コントロールを組む十分な理由となるこのスイーパーが盤面を一掃する。
しかし早田も壊滅的な場から《死の歓楽》で《欲深いスラル》と《ラクドスのラッパ吹き》を回収し、クリーチャーを再展開。更に1ゲーム目に苦しめられた《不正相続》を自ら張ることで着実に盤面を掌握していく。
《アーチ道の天使》の召喚こそ許すものの、《拘留代理人》で悩みの種であった《恐怖の劇場》を追放、なおも攻勢を続ける。
加藤も除去を続けていくが、《ギルドパクトの秘本》で継続的なバックアップを受けた早田が対処を上回る展開で押し切り、勝敗をイーブンにすることに成功した。
早田 1-1 加藤
早田は《一面の視線》をサイドインし《黄昏の豹》をサイドアウト、占術で不要牌を減らしながらもコントロールの交換効果で攻勢の場を維持し続けるプラン。
一方加藤は決め手となりうる重いスペルの打ち消しを狙って《火消し》をサイドイン、《地下墓地のクロコダイル》をサイドアウトする。
両者ともにキープ。
例によって互いにギルド門のタップイン処理から、早田の《ヴィズコーパの吸血鬼》がファーストアクション。
これを《興行》で除去られると、「うおー、1点だと!?」と驚きを隠せない。
続いて《有毒グルーディオン》と《欲深いスラル》を展開するが、加藤も《欲深いスラル》は召喚しており相打ちとなる。1、2ゲーム目と同様の長期戦が予想される流れだ。
この状況で早田が《一面の視線》をプレイすると、加藤の表情が曇る。
カードの質が重要となるロングゲームで占術の価値は非常に高い。それを毎ターン行える上、コントロール交換効果は攻勢時にゲームを決める力を持つ。
対する加藤は対抗すべく《スフィンクスの眼識》で手札を整えつつ、《用心深い巨人》を用意するが、依然として《有毒グルーディオン》は止まらない。
更に加藤の前に《アゾリウスの空護衛》が立ち塞るが、これは《用心深い巨人》のアタックと《短剣使い》で撃ち取り、憂いの芽を断つことに成功する。
対処に回っているものの盤面を自分に傾けたい加藤、ついに虎の子の《恐怖の劇場》を展開。ここから駒を補充し自軍を強化していきたい構え。
しかし早田は対処を上回る展開を進めていた。《刃の曲芸人》、《傲慢な支配者》と1/1飛行のスピリットトークンの陣営。ここに《不敗の陣形》を唱え、陣営全てに+1/+1カウンターと警戒、破壊不能を付与し大攻勢に出る。
ライフが9まで落ち込んでいる加藤にチャンプブロックを強いることで戦局を一気に自軍に傾け、加藤が用意した《冷気をもたらす者》を《一面の視線》で奪取、支えきれない盤面を理解した加藤は投了を宣言した。
『第5期リミテッド東海王決定戦』、東海王の座を手に入れたのは、早田 晃!おめでとう!