16回戦の予選ラウンドを終え、ミシックチャンピオンシップ・バルセロナ2019もいよいよ佳境、決勝ラウンドへと移行した。
今大会は『灯争大戦』から始まり、『モダンホライゾン』、『基本セット2020』と環境に大きく影響の与えたエキスパンションの発売、そして《黄泉からの橋》の禁止と目まぐるしく環境が変わり続けていたモダンによって行われた。
ホガークヴァインの圧倒的な勝率を鑑みて《黄泉からの橋》が禁止になったものの、その勢いは留まることを知らなかった。
ホガークヴァイン使用率 驚異の21.4%!
モダンは多様性に富んだフォーマットである。大概の場合は使用率が20%を超えるようなデッキは生まれない。だがそれでも、このミシックチャンピオンシップというトッププレイヤー達が集まる場で、それが起きてしまったのだ。
あまりの支配率に予選ラウンドの間、トップ8デッキリストにホガークヴァインが6つほど並ぶ様を思い描いていたものだが、蓋を開けてみればそんなことはなかった。
ホガークヴァインの使用率が高かったということはつまり、プロ達の共通認識で「まだまだホガークヴァインはやれる」と思われていたということだ。
強いデッキであり、使用率が多くなることがわかっているなら当然、対策も厚くなる。これだけのホガークの海を渡り切ったデッキ達。その勝因はどこにあったのか、トップ8に残った全アーキタイプをひとつずつ分析していこう。
ジャンド
1 《森》
1 《山》
2 《草むした墓》
1 《血の墓所》
1 《踏み鳴らされる地》
3 《血染めのぬかるみ》
3 《新緑の地下墓地》
2 《樹木茂る山麓》
4 《黒割れの崖》
2 《怒り狂う山峡》
1 《育成泥炭地》
-土地 (23)- 4 《タルモゴイフ》
3 《漁る軟泥》
2 《闇の腹心》
1 《歴戦の紅蓮術士》
4 《血編み髪のエルフ》
-クリーチャー (14)-
4 《稲妻》
2 《致命的な一押し》
2 《思考囲い》
1 《突然の衰微》
2 《大渦の脈動》
1 《コラガンの命令》
3 《レンと六番》
4 《ヴェールのリリアナ》
-呪文 (23)-
ジャンドは『モダンホライゾン』によって《レンと六番》・《歴戦の紅蓮術士》などを得て、一躍トップメタへ舞い戻ったアーキタイプだ。
今回唯一トップ8に2人の進出者を送り出したことからも、そのデッキパワーや立ち位置の良さが伺えるだろう。
メインボードに3枚採用された《漁る軟泥》や、サイドボードの《虚空の力線》・《虚無の呪文爆弾》などから、ホガークヴァインを意識して組まれたデッキだというのが見て取れる。
また、《レンと六番》の奥義は「実質勝ち」であり、コントロールにとっても放置しがたいプレインズウォーカーだ。ホガークヴァインの対抗馬として有力視されていたアゾリウスコントロールに対しても、《ヴェールのリリアナ》以外のクリーチャー以外による攻め手を獲得したことで有利に立ち回ることができる。
モダンは長らくミッドレンジにとって不遇だったが、ジャンドを筆頭にミッドレンジ全般の復権となるのだろうか。
ホガークヴァイン
2 《血の墓所》
2 《草むした墓》
1 《踏み鳴らされる地》
4 《血染めのぬかるみ》
4 《新緑の地下墓地》
1 《湿地の干潟》
3 《黒割れの崖》
-土地 (19)- 4 《屍肉喰らい》
4 《墓所這い》
4 《縫い師への供給者》
3 《傲慢な新生子》
4 《恐血鬼》
4 《サテュロスの道探し》
4 《復讐蔦》
4 《甦る死滅都市、ホガーク》
-クリーチャー (31)-
デンマークの若きエース・Martin Mullerが使用したのはホガークヴァイン。これだけ意識されている中でもしっかりと勝ち上がるだけのデッキパワーがある。
注目すべきは、メインボードに採用された《虚空の力線》だ。ミラーマッチを強く意識した結果だろう。また、ミシックチャンピオンシップ特有のデッキリスト公開がそれを後押ししているのかもしれない。
《面晶体のカニ》を採用したタイプや《叫び角笛》・《傲慢な新生子》を採用したタイプなど様々な構成が見受けられた。
今回、ホガークヴァインは母数に対してトップ8進出は一人に留まったが、上記の通り、プロ達の中でも構築にばらつきの多かったアーキタイプでもある。最適解が見つかったとき、ホガークヴァインはどうなっていくのか。今後にも期待がかかるアーキタイプだ。
鱗親和
2 《ラノワールの再生地》
1 《ペンデルヘイヴン》
4 《ダークスティールの城塞》
4 《墨蛾の生息地》
1 《ちらつき蛾の生息地》
1 《ファイレクシアの核》
-土地 (20)- 4 《搭載歩行機械》
4 《歩行バリスタ》
4 《電結の働き手》
4 《電結の荒廃者》
2 《金属ミミック》
-クリーチャー (18)-
鱗親和はモダンでも随一の爆発力を持ったデッキだ。除去コントロールのようなデッキが苦手という側面はあるものの、干渉し合わないマッチアップではより輝く。件のホガークヴァインは墓地を用いたブン回りが売りだが、比較的どのリストも除去が薄い。
また、サイドボードの《墓掘りの檻》を《古きものの活性》で探せることもホガークヴァインに優位性がある一因だろう。鱗親和はアンチ《甦る死滅都市、ホガーク》デッキになり得るのかもしれない。
エルドラージトロン
4 《ウルザの塔》
4 《ウルザの鉱山》
4 《ウルザの魔力炉》
4 《エルドラージの寺院》
2 《幽霊街》
2 《爆発域》
1 《魂の洞窟》
1 《屍肉あさりの地》
-土地 (24)- 3 《歩行バリスタ》
4 《作り変えるもの》
4 《難題の予見者》
4 《現実を砕くもの》
2 《終末を招くもの》
-クリーチャー (17)-
1 《歩行バリスタ》
1 《ワームとぐろエンジン》
1 《次元の歪曲》
1 《トーモッドの墓所》
1 《墓掘りの檻》
1 《真髄の針》
1 《バジリスクの首輪》
1 《液鋼の塗膜》
1 《罠の橋》
1 《神秘の炉》
1 《マイコシンスの格子》
-サイドボード (15)-
エルドラージトロンは一時期隆盛していたものの、最近ではその勢いを落としていたデッキだった。その要因は様々あるとは思うが、何より緑トロンの方が環境に合致していた状況が長らく続いていたことが要因に挙げられるのではないだろうか。
しかし、《大いなる創造者、カーン》の登場を皮切りに状況は変わった。緑トロンでの《大いなる創造者、カーン》の採用はまちまちだが、エルドラージトロンにとっては今やマスターピースとなっている。
さらにエルドラージトロンに4枚採用されている《虚空の杯》も現在のメタゲームでは非常に心強い存在だろう。実際、今大会のメタゲームでは使用率1位がホガークヴァイン、2位がイゼットフェニックスとマナコスト1の呪文を多用するデッキである。
《大いなる創造者、カーン》の能力でメインボードから《トーモッドの墓所》などの墓地対策を使用することができ、何より《マイコシンスの格子》との必殺コンボも手に入れた。柔軟性と最強の矛を手に入れ、前より1段階強くなったこのデッキの今後にも期待しよう。
ウルザソプター
1 《冠雪の山》
1 《冠雪の沼》
1 《神聖なる泉》
1 《蒸気孔》
1 《湿った墓》
4 《汚染された三角州》
4 《沸騰する小湖》
1 《宝石の洞窟》
-土地 (20)- 3 《ゴブリンの技師》
4 《最高工匠卿、ウルザ》
-クリーチャー (7)-
3 《発明品の唸り》
4 《ミシュラのガラクタ》
4 《オパールのモックス》
4 《アーカムの天測儀》
2 《虚無の呪文爆弾》
1 《墓掘りの檻》
1 《真髄の針》
1 《黄鉄の呪文爆弾》
3 《飛行機械の鋳造所》
2 《精神石》
2 《弱者の剣》
1 《胆液の水源》
1 《罠の橋》
1 《イシュ・サーの背骨》
2 《時を解す者、テフェリー》
-呪文 (33)-
3 《思考囲い》
2 《儀礼的拒否》
2 《虚空の力線》
1 《練達飛行機械職人、サイ》
1 《古えの遺恨》
1 《真冬》
1 《時を解す者、テフェリー》
1 《ボーラスの工作員、テゼレット》
-サイドボード (15)-
スイスラウンドを1位で通過したのはこの、ウルザソプターだ。以前より存在していたソプターコンボデッキが《最高工匠卿、ウルザ》によって無限コンボを手に入れ、《ゴブリンの技師》によってさらなる安定感を手に入れた。
このデッキの構築の難しさはピオトル・グロゴゥスキも説いているところではあるが、それを形にし、ここまで勝ち上がったのには感服するばかりだ。
実際各所でも構築の難しさやデッキリストの不完全さを理由に使用を諦めたという話を聞くが、それでも1位でスイスラウンドを通過することでその実力を見せつけてくれた。
現環境においてこのアーキタイプが通用するものなのか。実際に判断するのは皆さんだが、今回の結果はウルザソプターを使用する後押しにはなるだろう。
赤単フェニックス
4 《はらわた撃ち》
4 《溶岩の撃ち込み》
4 《稲妻》
3 《溶岩の投げ矢》
4 《魔力変》
4 《舞台照らし》
1 《約束の終焉》
1 《血染めの月》
-呪文 (29)-
3 《トーモッドの墓所》
2 《燃え上がる憤怒の祭殿》
2 《崇高な工匠、サヒーリ》
1 《コジレックの帰還》
1 《貪欲な罠》
1 《悪ふざけ》
1 《高山の月》
1 《ドラゴンの爪》
-サイドボード (15)-
本大会、使用率の2番手が同じく《弧光のフェニックス》を使用したイゼットフェニックスだったが、トップ8に名を連ねたのはこの赤単フェニックスだった。
イゼットフェニックスと比べると、軽量のドローソースや《氷の中の存在》を失っている代わりに、より攻めっ気のある構成になっている。スイスラウンドのフィーチャーマッチでもその力を遺憾なく発揮して、ホガークヴァインを打ち倒しトップ8へと進出した。
《弧光のフェニックス》デッキといえばイゼットが主流ではあるが、今後この赤単フェニックスをよく見ることになるのかもしれない。
緑トロン
最後は言わずと知れた“モダンの顔”緑トロンだ。トロンがロンドンマリガンによってどれほどの恩恵を受けているのか、名だたるプレイヤー達が散々説いてきていると思うので多くは語らないが、正式採用されたロンドンマリガンが勝利を後押ししてくれたことは間違いないだろう。
今回トップ8に残ったThoralf Severin選手のリストで特徴的な点といえば2点、サイドボードの《虚空の力線》と《夏の帳》だろう。元来、メインボードから《大祖始の遺産》を複数枚採用していることから、緑トロンは比較的墓地デッキにも勝てるものとされていて、サイドボードに《虚空の力線》を採用するのはあまりメジャーではなかった。
しかし、今回その程度では《甦る死滅都市、ホガーク》の猛攻を凌ぎ切れないと判断したのか、《虚空の力線》が採用されている。惜しくも12位だったHareruya Prosのクリスティアン・ハウクも同じく緑トロンを使用していて、サイドボードには《虚空の力線》を忍ばせていた。今後はそういった構成がメジャーになるのかもしれない。
さらに、最新エキスパンションの『基本セット2020』からは《夏の帳》が採用されている。スタンダードのカードと侮るなかれ、その効果はモダン以下のフォーマットでも通用するスペックになっている。大量のカウンターを擁するアゾリウスコントロールへの強烈なアンチカードとして、今後はトロンに限らず様々なデッキでも使われることになるのではないだろうか。
以上がトップ8雑感だ。《甦る死滅都市、ホガーク》に完全に支配されたミシックチャンピオンシップになるかと心配されたが、結果的にトップ8に異なるアーキタイプが7種類揃うという実にモダンらしい結果に終わった。
これらのデッキは少なくとも今大会においては《甦る死滅都市、ホガーク》の海を渡り切ったデッキ達ということになる。モダンによるMCQが始まる今、環境解明の足掛かりとして参考にしてみてはいかがだろうか。