2020年に得た教訓

Sebastian Pozzo

Translated by Kido Kouhei

原文はこちら
(掲載日 2020/12/30)

はじめに

みんな元気にしているかな!僕が最後に記事を書いてからしばらく期間が空いてしまったね。2020年もいよいよ終わりを迎えようとしている。この記事では、今年の「僕とマジック」について書こうと思う。良かったところや悪かったところ、そして上手くいったことやもっと上手くやれたはずだったこと、さらにはマジックをやるうえで大事な考え方についてもみんなに共有したい。

名誉の報賞

この難儀な2020年という年に、僕はウィザード・オブ・ザ・コースト社から総額10万ドル以上の賞金(約1030万円)を得た。3~4年前なら考えもしなかったことだね。賞金額が並外れた世界選手権2019に参加できたり、ライバルズ・リーグに所属していたのが大きかった。両方とも2019年の成績がとてもよかったから可能になったことで、去年は今年の賞金総額の1/3も獲得できなかったけど、2020年の実りにつながったんだ。アルゼンチンの経済状況は今とても悪くて、人々の月収は大ざっぱに言えば200ドルとかだ(ほかの国の人からすればそこまで大きな賞金総額に見えない可能性もあるから、一応参考情報として書いておいた)。

僕のマジックとの関係がこれによって影響を受けない可能性もあったかもしれないけど、実際には影響があった。マジックのプロシーンで成功を収めたプレイヤーが、その後少し勢いをなくしてしまうのを何度も見てきた。友人のルイス・サルヴァット/Luis Salvattoも、プレイヤー・オブ・ザ・イヤーに選ばれてMPLに招待されてから少しそうだったかもしれないね。でも、すべてのプレイヤーがそうだというわけではないのもまた事実だ。ハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezが頂点に立ったあともプロ意識と勝利への渇望を高いレベルで保っていることは、彼のすばらしい活躍以上に尊敬している。

2020年の大会を振り返る

全容を把握するために少し過去を振り返ろう。

世界選手権2019

僕にとって2020年の大会はプレイヤーズツアー・フェニックス2020、そしてその翌週のハワイでの世界選手権2019で始まった。当たり前だけど、プレイヤーズツアーの準備はせずに世界選手権に焦点を当てていたんだ。『テーロス還魂記』が出て間もない環境だったから準備に使える時間は長くなかった。

鍛冶で鍛えられしアナックスエンバレスの宝剣

そのため、一番強いデッキよりも使いやすくてそれなりに強いデッキを求めてデッキを研究した。賞金総額や重圧を考えたら、たとえばコントロールデッキをうまく使いこなすのはとても難しくなると感じていたからだ。《鍛冶で鍛えられしアナックス》《エンバレスの宝剣》を付けた瞬間、赤単アグロを使うことになるような気がしていたね。

誤解しないで欲しいんだけど、赤単アグロを使うのがコントロールデッキを使うよりも簡単だと言うつもりはまったくない。ただ僕にとっては、特に世界最高のプレイヤーたちに囲まれる大会であれば、使っていて自信が持てるデッキなんだ。

メンタルを整えよう

神秘の瞑想

世界選手権のためにマジックの練習をしている間、今まで戦ったことがない賞金額の大会に参加するプレッシャーを和らげるために少し精神的にも準備をすることにした。

一日のなかで、寝る前のベッドの中やシャワーを浴びているときなど、リラックスしているときに目を閉じてハワイにいる自分を思い浮かべたんだ。そこでの自分は……

大会の前に1か月もこれをやっていたことで、本番での気分もプレッシャーへの対処もだいぶ楽になったよ。

似たようなことを試したい人がいたら、自分に言い聞かせるフレーズに否定文は使わないほうがいい。たとえば「ストレスを感じていない」「怖くない」と自分に言い聞かせたとしよう。「~ない」とは言い聞かせていても、無意識に「ストレスを感じる」「怖い」と感じてしまうものだ。専門家ではないから深入りはしないけど、こういうことに興味があったら書籍がたくさんある。

また、自分史上もっとも重要な試合をするのがいつになるのかその日までわからないという状況もよく起きる。たとえば、プロツアー予選の決勝やグランプリのベスト8が懸かった試合を戦ったことがなかったとして、それがいつ訪れるのかはわからないから事前に心の準備をしておくことはできない。でも、重要な試合の前に5分時間を取るだけでも自身の助けになると思う。こういう突然の大舞台に立たされたら、とにかく自分のプレイに集中して、全力を出し切ったのなら結果がどうなろうとOKだと自分に言い聞かせることが本当に大切だ。

安全維持

もうひとつやってよかったと思ったことがある。それは、現時点の収入で無理なく続けられる快適なライフスタイルを前もって確立しておき、ハワイでの結果がどうなろうともその生活を続けられるようにしておいたことだ。こうすることで、16人しか参加できない大会で最下位でも1万2500ドル(約130万円)、優勝すれば30万ドル(約3040万)の高い賞金がかかっていたにもかかわらず、経済的なプレッシャーを和らげることができた。

人生は続く

マジックのトップレベルを目指しているけど、まだそこに到達できていない人のためのアドバイスもしよう。競技マジックを長い期間やり続けることになると意識するんだ。その長い期間には良いときも悪いときもある。幸運な勝利や不運な敗北、そしてマジックに多くの時間を割ける時期もあればそこまでできない時期もある。

そして、重要なのはゴールに到達することだけではなく、その道のりなんだ。大きな大会を優勝してからマジックの競技人生が始まる人はいない。まずその大会の参加権を得ないといけないからね。自分が到達したい高みに到達したときのことをイメージすることは、継続的に成長していく助けになる。たとえば、プロツアー予選にもプロツアーの準備をするときと同じくらいの準備をすることは可能だ。同様に大会中も予選であれ、プロツアーだと思って臨むことだってできる。

リーグ・ウィークエンド

ハワイでの大会が終わって家に帰ったらパンデミックが始まった。どうなるかは誰にもわからなかったけど、2か月以上家にいられることに少しほっとしている自分もいた。2016年以来なかったことだからね。そのときの僕はマジックに対する自信も結構あったし、ライバルズ・リーグで戦うことをとても楽しみにしていた。

その後すべての大会が公式に中止され、何か月かオンラインでグランプリ級の大会しかない状態が続いた。オンラインで大会ができるのはすごいことだけど、賞金はさておいても懸かっているものが小さかった。僕にとってそのときは、賞金があったとしてもすごく熱心に大会準備をして努力する動機にはなっていなかった。

僕は競技に向かう気持ちが少し弱ってしまって、それに従って自信も少しなくしてしまった。それによって僕の試合結果が左右されたのかはわからないけど、たぶん影響を受けていたと思う。

空を放浪するもの、ヨーリオン山火事の精霊

リーグ・ウィークエンドが復活して、大会スケジュールが出たときにモチベーションが戻ってきて本当に勝ちたいと思えた。最初のリーグウィークエンドではアゾリウスヨーリオンを使って4-8の成績だった。僕のチームメイトも同じデッキを使ってひどい成績だったし、僕らの大会準備が悪かったと思っている。デッキ登録1週間前の時点で悪くはない程度のデッキを選んだんだけど、大会本番ではひどいパフォーマンスだった。家に居ながら準備をできることにはメリットもあるけど、あまり慣れていなかったし、大会準備も上手くやれなかった。本気で準備することを2月からやっていなかったことによるブランクも感じていたね。

2回目のリーグウィークエンドではトップメタのグルールアドベンチャーを使った。使っていて自信の持てるデッキだったし、大会で使うデッキとしても問題なかったと思う。友人たちは上手くいったけど、僕はあまりツイていなくてまた4-8で終わってしまった。僕のプレイングも最高だったとは言えないけど、今回は運がなかった。そういうこともある。

『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップ

無意識の流れ

しばらく前に『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップが開催された。この大会はスタンダードとヒストリックの混合フォーマットだ。ライバルズ・リーグからの脱落を防ぐには、この大会で良い成績を収めないといけないことは知っていたけど、そのプレッシャーは自分のプレイには決して良いものではなかったんだ。だからあまり考えずに、使いたいデッキを使って結果があとからついてくるのを待つことにした(いつもこうあるべきなんだけど、成績があまりに重要で、意識しないようにすることが難しくなる状況は発生するものだ)。

好発進して途中まで9-1だったけどそこから5連敗した。2敗は優勝したブラッド・バークレイ/Brad Barclayに対して喫したものだったし、MPLのアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucciとオンドレイ・ストラスキー/Ondrej Straskyにも敗北した。途中まで良かったし接戦も多かったからがっかりしたけど、結果は変わらない。

この結果によってリーグのポイントが1つ得られた。途中まで良かったからもっと得られる可能性もあったはずだったけど、次のリーグウィークエンドで良い結果を出してこの1ポイントが意味を持てるように努力するよ。今は、リーグに残るための重要なチャンスになるからがんばろうという気持ちになっている。ベストを尽くしたいし、リーグから脱落する結果になっても、懸命に戦ったよとは言いたいからね。

おわりに

熱情

話をまとめると、無意識の世界について多くを語ったわけではないけど、ゲームに向かう気持ちも競技マジックでは大事だということを指摘したいんだ。「このプレイングをした理由はわからない。正しくないことはわかっていたけどやってしまったんだ」ということを何度聞いたかわからない。無意識はゲーム中の判断を即座に下す。それが正しいのか僕らは検証しながらプレイして、最初から正しいことも多いけど初見では気づいていなかった重要な要素が試合に存在していることもある。でも、最初の判断が正しいのに考えすぎてしまって間違えるのもよくないから、悩み過ぎないほうがいい。

悲観的になりすぎるとプレイングも悪くなる。決勝ではいつも運が悪いとか特定の相手と相性が悪いと信じてしまうとかそういうのはよくない。すべて無意識に思考に入ってしまうし、そうなると間違いを犯しやすくなる。無意識の世界は子供のようなもので、意識できていることほど論理的ではない。特定の状況で必ず負けると考えてしまったら無意識の世界ではそれが正しくなってしまう。

それから、身近な人々が自分に対して、マジックをやる時間を減らして人生をほかのことに使ってほしいと思っていると、自分が無意識に最高のパフォーマンスをするのはとても難しくなる。負けてマジックをやる時間を減らすべきだと自分もどこかで思ってしまうからね。非論理的だと言う人もいるとは思うけど、これは正しいと思っていて、パートナーが支えてくれることと成功の間には相関関係があるのを見てきた。

今日はここまで。この記事を楽しんでくれているとうれしいね。

みんなよい年越しを!そして2021年がいい年になりますように。

セバスティアン・ポッツォ (Twitter)

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Sebastian Pozzo 2016-2017シーズンの「スタンダード・マスター」を獲得し、アルゼンチン人として初めての世界選手権出場を決めたゴールドレベル・プロプレイヤー。 その称号の通り、構築フォーマットを得意とし、特に優れたデッキを選択する慧眼を持つ。プロツアー『破滅の刻』でも大本命の『ラムナプレッド』を使用して、見事に『スタンダード・マスター』となった。 チームメイトでもあり同じアルゼンチンを代表するプレイヤーでもあるLuis Salvattoと共に、Hareruya Prosに加入。 Sebastian Pozzoの記事はこちら