週刊 統率者戦デッキを作る vol.1 「自由に作品を作ろう」
「あいつの作るデッキは強い」。
「あいつのデッキは面白い」。
「あいつのデッキをまわしてみたい」。
競技大会のない統率者戦では、デッキビルダーと呼ばれることがゲームの勝者になること以上の名誉かもしれない。
統率者戦はマジックでもっともカードプールの広いフォーマットの一つ。「デッキに1枚しか同名カードが入れられない」ことは毎回ゲームの行方をわからなくさせるだけではなく、デッキ構築の幅を広げるのだ。
新規参入者に向けて、ウィザーズからは定期的に「統率者デッキ」が発売されている。晴れる屋ではその「統率者デッキ」を強化するパッケージの販売が始まった。インターネットには統率者デッキのリストがごまんとある。
しかし統率者戦は自己表現の世界! 小説を書くように、絵を描くように、歌を歌うように統率者のデッキを作ってもいいはずだ! 自分だけのデッキを!
人と違うデッキが欲しい? 変なギミックで翻弄したい?
なら作るのだ! 自分で統率者デッキを! それはもはやあなたの作品です!この連載「週刊 統率者デッキを作る」では統率者戦に挑戦するあなたを徹底バックアップします!
案内人は統率者戦大好きいってつです! よろしくおねがいいたします!
Commander is for……
まず統率者戦の哲学に触れておこう。ルール委員会による統率者戦の哲学の初めの一文はこうである。
Commander is for fun.
>(統率者は楽しむためにある)
素晴らしい一文。統率戦で重視されるのは「勝った負けた」ではなくデッキ構築やゲームを通して自分を表現することだ。
だから好きなカードをデッキの顔「統率者」に据えてもよいし、好きなメカニズムを盛り込んだっていい。大好きだけど競技レベルではないカードを使ったっていい。もちろん全員が勝利を目指してプレイしていくわけだが、全員が「勝者」になりうる素晴らしいフォーマットなのだ。
素晴らしい作品たち
では実際に存在する統率者デッキと、それがどんな思想で組み上げられたのか見てみよう。いずれも筆者が実際に出会い、対戦もとい鑑賞した作品たちだ。
好きなカードを統率者にしたデッキ
《軍団のまとめ役、ウィノータ》
スタンダードだけではなく、パイオニア、モダン、レガシーでも活躍した有名なカードだ。このデッキの作者はもともとスタンダードを主に遊んでいたそうだ。スタンダードで愛したカードを連れだって統率者戦のテーブルにやってきたわけだ。より幅広いカードプールのなかで、より強いクリーチャーがより強いクリーチャーを連れてくる。追加戦闘も絡んで無限に戦闘フェイズを繰り返すコンボも搭載していた。
素晴らしい。
あなたの切り札が伝説のクリーチャーなら幸運だ。それをデッキの顔にできるし、いつだってそばにいてくれる。今までとはまったく違う体験を今までの相棒と一緒に得ることができるはずだ。
《大いなる歪み、コジレック》
でっけ~~~~。マナコストもサイズも効果も無茶苦茶だ。こんなカードを統率者領域におかれてしまったら、相手のマナ基盤が伸びていくのを見るだけで恐ろしい。無色のクリーチャーを統率者に指定した場合、当然無色の呪文しか唱えることができない。インスタントタイミングでできる行動が極端に少ないのだ。
無色のデッキはあまりにもデッキ構築上の制約が重すぎるのでかなり珍しい。《絶え間ない飢餓、ウラモグ》はしばしば見かけるが、それはあくまでマナ加速やコスト踏み倒しが得意なデッキに採用されているだけで、統率者になっているわけではない。素晴らしい。
彼は統率者戦を始めるにあたって自宅にあったカードで組み上げたらしい。曰く、「絶対にかぶらなくて面白いと思ったから」。事実、その卓にいた誰もが無色統率者に驚いていたし、何をされるのか全く想像がつかなかったのだ。
僕はこのデッキに感化されて後に《真実の解体者、コジレック》を統率者にしてデッキを組んだ。彼の作品は僕の貯金を滅殺したのである。いつか無色統率者どうしで戦ってみたいものだ。
好きなギミックを搭載したデッキ
《粗暴な年代学者、オベカ》
『統率者レジェンズ』で登場した伝説のクリーチャー。早い話が自分のターンを終わらせることができるカード。一見デメリットのように思えるが……
《最後のチャンス》、《最後の賭け》といった「追加ターンを得るが、その追加ターンのエンドフェイズ開始時に敗北する」カードとの相性の良さで注目されたカード。このほかにも自分のターンに誘発するデメリット効果をなんでもキャンセルすることができる。なかなか成立しないのだが無限ターンも夢じゃない。
素晴らしい。
圧倒的に強い! というわけではないが面白いことをするカードを使いたいという想いから生まれた作品だ。癖の強い馬を乗りこなしたい。こいつを一番上手に使えるのは俺だ! そんな想いで作られた作品はきっと愛着がわいて末永く楽しむことができるだろう。
《Phelddagrif》
(緑):Phelddagrifはターン終了時までトランプルを得る。対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは緑の1/1のカバ(Hippo)・クリーチャー・トークンを1体生成する。
(白):Phelddagrifはターン終了時まで飛行を得る。対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーは2点のライフを得る。
(青):Phelddagrifをオーナーの手札に戻す。対戦相手1人を対象とする。そのプレイヤーはカードを1枚引いてもよい。
知っているか、この空飛ぶカバを! よほどの古参でもない限り知らないだろう! 《Lake of the Dead》や《意志の力》といった名カードを輩出した『アライアンス』からの参戦だ。
この作品と戦ったあのゲームはとても忘れられない。統率者領域に置かれたこのカバのテキストを見て、みんな「なんかよくわからないやつだな」といった印象を持った。さらに彼は手札制限を消滅させたうえでプレイヤー全員にドローさせたり、《発見の誘惑》で土地をプレゼントしたり、大きなクリーチャーで殴られそうになるとカバトークンを与えて守ってくれたりとまるで接待を受けている気分。
「私は皆さんに楽しんでもらいたいので」。お互いにライフがなかなか減らせないが、みんなで気持ちよく遊んでいた。しかし突然このデッキは全員に大量のドローをさせる呪文を連打し始め、対戦相手をライブラリーアウトに追い込んだのである。
素晴らしい。
相手にデッキの真意を悟られることなく、のらりくらりと相手のコンボを交わし、刺す。まさに「蝶のように舞い、蜂のように刺す」デッキだ。カバだけど。デッキが100枚の統率者戦で相手をライブラリーアウトに追い込むのは至難の業である。思いついてもこんなデッキを組もうとはとても思えないだろう。しかし彼はやった。作り上げたのだ。すごい。
結果としてはカバと彼の甘言に踊らせられた形なのだが、彼には拍手が送られ、仲間内で語り草になっているそうだ。
統率者戦はもっと自由でいい!
ゼンディカー次元が好きだということで、デッキのほとんどすべてをゼンディカー出身のカードで固めたデッキや、「リリアナ推し」ということで大量の「リリアナ」カードでハンデスとリアニメイトを繰り返す「マジックの物語」を表現したデッキにも出会ったことがある。《悪魔の教示者》はわざわざリリアナがイラストにいるバージョンに買い替えたほどのこだわりっぷり。
統率者戦の世界は、その外側から見える印象よりもずっとずっと自由なのだ。だからカードファイルで眠っている<往年の切り札を引っ張ってきてもいいし、競技シーンでは活躍できなかったあなたのオリジナルコンボを狙ってもいいのだ。ひょっとしたらなかなか勝てないかもしれない。しかし、そのデッキをゆっくり時間をかけて改良していくことも統率者戦の醍醐味。なにせ100枚の組み合わせだ。一発で100点満点は出ないのが当たり前。ある統率者にこだわって、何年も地道なアップデートを続けている人だっている。
あなたの統率者デッキは永遠に完成しない。つまり、永遠に調整を楽しめるのだ! もし友達にニコル・ボーラスがいるならぜひおすすめしてくださいね。
弱いデッキで参加して迷惑じゃないか
自分で強いデッキを作る自信がない人もいるかもしれない。不安はもっともだ。統率者戦は4人の思惑が複雑に交錯するため、実際に強いのか、コンボが成立するのか一人で確認するのは難しい。いざ対戦、しかし何もできないまま負けてしまった……そんな切ない思いをするのではないか……
これは実のところ杞憂だ。
統率者戦は参加人数が多いフォーマットだけに、常に新たなプレイヤーが現れるのを待っている。閉じたコミュニティで長く遊んでいるといくら再現性の低いゲームとはいえ新鮮味が薄れていく。そんなところに未知のデッキを持ったあなたがやってきたら歓迎間違いなしだ。よほど競技性の高いコミュニティでもない限りきっと喜んで迎え入れてくれるはずだ。(お互いに敬意と感謝の気持ちを忘れずに!)
そして経験の長いプレイヤーは大体二、三個のデッキを持っていて、あなたの経験やデッキパワーにあったデッキを使ってくれるはずだ。僕は五つ持っている。こんなことは競技フォーマットではありえないだろう。勝利よりも体験を重視する統率者戦ならではの光景だ。
わからないことがあれば遠慮なく質問しよう。自分のカードの効果を聞かれてうれしくないプレイヤーなんていない。
構築済デッキがダサいわけじゃない
もう統率者デッキを買ってしまったという君。大丈夫、まったく焦る必要はない。
僕自身、《円渦海峡の暴君、アシー》のデッキを購入して遊んでいる。ある日、偶然対戦相手も《アシー》デッキだったのだが、その戦法は大きく違った。
僕のデッキが土地加速とドローを重ねて大きな呪文で圧倒するデッキだったのに対し、
相手方は《死者の原野》と土地加速を重ねたさきに無限ターンを目指すコントロール型だったのだ。
この出来事は「同じ統率者でも戦術は一つとは限らない」ことを示唆している。これも統率者戦の面白いところで、四人がまったく同じ統率者でもみんな戦法が違っていて面白いのだ。対戦後は感想戦までして、どうしたらもっといいデッキになるのか議論する「学会」も楽しい。
「よくわからないからデッキを買ってみる」のは決して後ろ向きな選択ではない。むしろ《太陽の指輪》、《秘儀の印鑑》といった必須品が手に入るのでいい選択かもしれない。
大切なのは「デッキ構築」を楽しむことだ。せっかく過程を楽しめる統率者戦だ、いきなり最強を目指さなくていい。まずは持っているカードを組み込んでみよう。統率者戦は逃げない。「週末の予選に間に合わせないと……」なんてこともない。ゆっくりとデッキが育っていくのを楽しもうではありませんか。
最初のステップ
さあ、今度はあなたがカードファイルを開き、ストレージボックスをひっくり返す時です。いよいよあなたの統率者デッキビルドが始まります。
次回からはより具体的な統率者デッキ作りの手法をご提案。今までのマジック生活を振り返って大好きな色の組み合わせを決めるか、大好きな「伝説のクリーチャー」をお手元に用意して更新をお待ちください!