By Shin Tomizawa
2017-2018シーズンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤー(以下PoY)レースは手に汗握る接戦となり、最終的には史上2度目の同率タイ2名という結果に終わった。その結末は2人の選手によるプレイオフという世紀のマッチに委ねられることになる。
そしてその戦いに臨む暫定PoYのうち1人は、ランタンコントロールによるプロツアー『イクサランの相克』優勝者にして晴れる屋ラテン所属のルイス・サルヴァット/Luis Salvattoだ。
また、ルイス・サルヴァットといえば類まれなるリミテッドの達人としても知られており、昨年度のリミテッドマスターレースでは惜しくもエリアス・ウェストフェルト/Elias Watsfeldtに追いつけなかったものの、第2位で終えている。
そこで、今回はルイス・サルヴァットへとPoYレースを前にしての意気込みと、新セット『ラヴニカのギルド』のリミテッドの所感について伺った。
苛烈なプロポイントレースを通じて得たもの
――「今シーズンはプロツアー優勝、チームシリーズ1位、PoYレースの同率1位と素晴らしいシーズンでしたね。ずっと言われ続けていると思いますが、改めておめでとうございます」
ルイス「何度言われても嬉しいものだよ。ありがとう」
――「昨シーズンの感想、特にプロツアー優勝とPoYレース首位について聞かせてもらえますか?」
ルイス「プロツアーに優勝については、大会前には自分が勝つなんて思ってもみなかったから、望外の結果という言葉をもっともっと増幅させた幸せな気持ちで満たされた。友達にもらったデッキリストだったから、彼にも本当に感謝しているし、人生で絶対に忘れることのできない思い出ができたね」
ルイス「PoYレースについて言えば、これも本当に大きな転機の一つだね。プロツアー優勝と併せて、自分のキャリアに大きなマイルストーンを置くチャンスを手に入れた。もしかしたら殿堂入りを目指せるかもしれないって思い始めてる」
――「PoY獲得についてはいつごろから意識しましたか?」
ルイス「ミネアポリスでのマジック25周年記念プロツアーを6位で終えたときに、この位置からなら狙える可能性に気が付いた。例年だとPoYレースはシーズン最後のプロツアーまでの結果で決まっていたけど、今回はマジック25周年記念プロツアーから世界選手権まで、もう少し計上する期間があったからね。1点で埋まったグランプリ・キャップを更新するのは今の俺なら十分に可能だと考えたんだ」
――「実際に追いつけると感じたのはいつごろですか?」
ルイス「いや、最後まで全くわからなかった。ひたすらに遠征を続けたけど、思うようには結果が出せなくて、8月中はずっと焦っていたよ」
(※ルイスは8月3日のマジック25周年記念プロツアーから9月15日のグランプリ・ストックホルム2018まで、全ての週末でグランプリに参加していた)
(Frank) @LuisSalvatto came to #GPStockholm in the hope of overtaking @SethManfield for 2017-2018 Player of the Year. He needs to a semifinal finish for that, but his start today couldn’t have been better: 8-0. The race is on! pic.twitter.com/qOXuoYHvVw
— Magic Pro Tour (@magicprotour) 2018年9月15日
――「短期間でプロポイントを稼ぎ出そうとするにはやはり相当なプレッシャーがかかっていたんですね。平常心を保つために意識していたことはありますか?」
ルイス「プロポイントを取れないプレッシャーの中で、フラットでいるのはとても難しい。今思えばプレイにも影響を与えていたような気がする。でもだからこそ、いつでもリラックスするように心がけていたんだ。旅を続けるというだけでも中々大変なことだからね。この経験で思考方法というか、気の持ちようがかなり鍛えられたと強く感じているよ。でも、特別なルーチンを自分に課すようなアプローチはしなかったな」
――「世界選手権と並行してのグランプリの練習・遠征は大変だったと思いますが、どういう方法で取り組みましたか?」
ルイス「構築の練習はやはりどこでもできるMOが中心だね。しかしどちらを重視したかというと、友人たちとのドラフト練習だった。構築はMOでもあまり変わらないけれど、ドラフトについてはMOがリーグ形式なのでまずルールが少し違うし、良いテストができない可能性がある。7人も強いプレイヤーを集めるのが大変だけれどね。世界選手権のフォーマットである『ドミナリア』ドラフトの練習というよりは、ドラフト技術そのものを上げたかった」
――「ありがとうございます。では、プレイオフの相手であるセス・マンフィールド選手の印象を教えてもらえますか?」
ルイス「とても強いプレイヤーだ。現役選手の中で最強の一角であることは疑いようがない。まだどんな形式で戦うかは知らされていないが、間違いなくタフな試合になるだろうな。でも自信がないわけじゃないよ。今年の俺は同じくらいの選手に成長したと思ってる。とてもいい試合ができるはずさ。どっちが勝ってもおかしくはない」
チームシリーズで触れた『ラヴニカのギルド』への所感
――「話は変わりますが、チームシリーズ決勝のフォーマットは『ラヴニカのギルド』を用いたリミテッドでしたね。試合には惜しくも敗れてしまって残念でしたが、世界中の人に先駆けてこのフォーマットをプレイする上で、Hareruya Latinはどのような戦略で臨んだのか、どのようなことを学んだのか教えてください。例えば、ギルドごとに強弱はありますか?」
ルイス「俺の今のところの印象では、ディミーアが一番使いやすいんじゃないかな。コモンの良いカードがいっぱいあるし、『諜報』という能力はとても優れている。有用なスペルのおまけに占術が加わっているような感じだ」
――「では逆に、プレイしたくないギルドはありましたか?」
ルイス「ゴルガリは他のギルドと比べると組みにくい部類に入るだろう。コモンで強力なカードが比較的少なくて、水準以上のデッキを作るのにはアンコモン以上のレアリティを持つカードがたくさん求められる。他のギルドはコモン中心でも良いデッキが組めるというのが今のところの認識だ」
――「各キーワード能力についてはどのような印象を持ちましたか?」
ルイス「個人的に気に入ったのはボロスの能力、『教導』だ。これはとても強い、というか簡単にゲームを終わらせることが多いね。大した制限もなく『+1/+1』カウンターを乗せる能力は攻め側の有利を助長していて、《癒し手の鷹》さえ採用に値する。『諜報』も先ほど言った通り良い印象だ。『再活』は余った土地が呪文に変わるというだけでわかるよね?」
ルイス「反対に『召集』はトークンを並べたりすることが難しいから、第一印象よりは使いにくかった。最後に『宿根』だが、これを活用するデッキを組むのは難しい。他のシステムと比べて墓地にクリーチャーを落とすという一手間が必要になるんだが、それを難なくこなせるカードはほとんど存在しない」
――「なるほど。チームシールドの場合は、3人をどのようなギルドに分けるのがオススメですか?」
ルイス「まだ練習を含めて数回しか触っていないから、もちろん暫定的な意見ということになるんだけど、まずやってみて欲しいのがボロスとディミーアを中心に組むことだ。あとは残った緑に白を組み合わせてセレズニアというのが簡単なカードプールだろう。ここに黒をタッチしても良いね。ディミーアにタッチ赤や緑をしてゴルガリやイゼットの強力な多色カードを入れるのも定番になるだろう。逆に、今セットでフィーチャーされていない青緑や赤黒といった組み合わせは止めておいた方が無難だね。コモンからレアまでよほど単色の強力なものに恵まれている場合はその限りじゃないかもしれないが」
――「なるほど、ゴルガリが少し不遇な扱いなんですね。どうしても緑黒で組まないといけない場合は、どんな方向性のデッキになるんですか?」
ルイス「ミッドレンジ指向のデッキになるね。重要なコモンカードを挙げると、《冷酷なゴルゴン》のようなカードが盤面を支える上で役割を果たす」
――「環境のゲームスピードといった観点からはどうですか?早いゲームと遅いゲームどちらを目指すべきかという指針はありますか?」
ルイス「これはもうギルド次第ということになる。ボロスはとにかく速く攻めるためのカードが多いし、ディミーアは時間を稼いで勝つようなデッキになることが多いだろう。早いデッキといえば、イゼットの持つスペルとクリーチャーのシナジーを生かしたテンポアグロはカードの出方に左右されるが非常に強力なアーキタイプだ。《ピストン拳のサイクロプス》を生かすようなデッキだね」
――「2マナ域のクリーチャーの重要性はどのようなものでしょうか?」
ルイス「ボロスでは非常に重要で、攻め手を早いターンに出すためにマナカーブを厚くしたいマナ域ということになる。それ以外のギルドでは、《雇われた毒殺者》がコモンにあるからそれと睨み合うことも多くなるし、ほとんどは飛行クリーチャーを止められるカードではないので無条件に入るわけではない。ボロスをプレイするときと、ボロスのスピードに追いつくために入れる場合を除くと重要性は低い」
――「各ギルドの『ロケット』の使い勝手はどのようなものでしょうか? ドローができるとはいえ、マナアーティファクトはそもそもプレイアブルなカードですか?」
ルイス「ディミーアとイゼット、そしてゴルガリの遅いデッキなら入れることはある。それだけをもって失敗デッキということにはならないが、大方の予想通り素晴らしく強いわけではない」
――「コンバットトリックについて、この環境特有の使い方や、入れるべき枚数はありますか?」
ルイス「セレズニアではあまり印象的な活躍はしないだろう。しかしボロスは非常に上手く扱える。『教導』がその要因で、対戦相手からするとこれが誘発する前に除去してしまいたいんだが、そこにインスタント呪文を合わせられてしまうというジレンマが頻繁に発生するよ」
――「最後に、神話レアを除いたベストレアと、ベストコモンを教えてください」
ルイス「《破滅をささやくもの》は神話レアなんだっけ? それなら《敬慕されるロクソドン》か《模写》かで悩むね。どちらもゲームを決める力があって、しかも対策されにくい上にそれほど重いわけでもない。コモンでは《巧みな叩き伏せ》。普通に使ってもインスタントの除去でありながら、殴りあっている状況では実質的に1:2交換ができるような感覚で使えて、そのままゲームに勝ってしまうことさえあった」
――「ありがとうございました。私自身も、これを記事にしたものを読んだ日本人プレイヤーも新環境についての理解が深まると思います!」
PoYレースのプレイオフのフォーマットはまだ決まっていないが、セス・マンフィールド選手からはウィンストン・ドラフトではどうかとウィザーズ社に提案したらしい。ルイス・サルヴァット選手は、少なくとも2つ以上のフォーマットで行われると予想する。
2010年以来8年ぶりのPoYプレイオフはどのような方式で行われどちらが勝利するのか。プロマジックのファンにとっての目下のところの関心事になるだろう。
そして、早くも各ギルドの強弱や使われるべきレアといった情報を惜しみなく披露してくれたルイス選手には多大な感謝を送りたい。
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