By Yuya Hosokawa
シールド。
6パックを開封し、その中からデッキを構築するというシンプルなこのフォーマットは、一言で言えば”遊びやすい”。ドラフトのように8人を集める必要もなければ、構築戦のようにデッキを用意する必要もない。ただ6パックを用意すれば遊べる。
そんなお手軽に楽しめるシールドだが、万人に好まれているフォーマットかと聞かれると、そうではないだろう。運の要素が高いことから、シールドはRPTQやグランプリの種目となっているにも関わらず、苦手としているトーナメントプレイヤーも多い。端的に言ってしまえば、シールドでは「パック運」が非常に重要となってくるからだ。
ドラフトでは、自分が引いた強力な爆弾レアを他人に渡さないためにカットすることができるし、シールドに比べてよりシナジーに富んだデッキや高速ビートダウンを構築しやすいため、超強力な重いレアを無視できる可能性もある。
しかし、シールドは剥いた6パックがすべてだ。他人が強力なレアを掴むことに干渉できないし、レアが上家から舞い降りてくることもない。言うなればその日の「パック運」ですべて決まってしまう可能性が高い。シールドを「くじ引き」と揶揄するプレイヤーが多いのはそのためだ。
そんなことを考えていると、ひとつの純粋な疑問が湧いてきた。
シールドは、つまらないのだろうか?
そしてこの質問に完璧な回答をしてくれそうなプレイヤーが、目の前にいた。
プラチナレベル・プロプレイヤー、佐藤 レイである。
関東の古豪であり、これまでプロツアーに何度も参加してきた佐藤は、2017-18シーズンで大ブレイクを果たし、一気に52点のプロポイントを獲得し、プロプレイヤークラブの最高レベルまで上り詰めた。
そんな佐藤は今年だけでリミテッドのグランプリ(グランプリ・香港2017とグランプリ・シンガポール2018)で2度のトップ8入賞を果たし、香港では優勝を果たしており、日本屈指のリミテッダーだ。彼ならば、この問いにきっと答えてくれるだろう。
■ シールドはつまらない?
――「突然ですが、シールドってつまらないですか?」
佐藤「えっ(笑) 何、突然。いや、面白いよ。僕はドラフトの次にシールドが好きってぐらい」
――「シールドのどんなところが好きですか?」
佐藤「やっぱり自由度の高さだよね。構築って75枚のカードで戦うし、ドラフトはピックした42枚。シールドはと言えば、84枚のカードを使えるじゃん。しかもメイン戦で使うのは23枚かそこらだから、3倍以上のカードが余ってて、それをサイドボードとして使えるんだよ。めちゃくちゃ自由じゃない?」
――「言われてみれば確かに」
佐藤「剥いた6パックしか使えないから不自由に思えるかもしれないけど、実際はシールドが一番自由に何でもできるフォーマットだと思うよ。サイド後に色変えなんて他のフォーマットじゃありえないからね」
■ シールドが敬遠される理由
――「それならばなぜ、シールドを敬遠する人が多いのでしょうか?」
佐藤「それはたぶん、1対1のゲームしか経験してこなかった人が多いからだと思うんだよね」
――「と、言いますと?」
佐藤「例えばスタンダードの大会に出るときってさ、どのデッキを使って、どんなカードを使うかは自分が決められるでしょ? 運の要素ってのは、当たり運だったり、土地事故だったり、特定のカードが引けなかったりって部分だけで、大会に持ち込むデッキには、運の要素は一切絡まないよね」
――「そうですね」
佐藤「デッキっていうのはいわば武器。武士にとっての刀のようなもので、その得物は自分で選びたいって人が多いんだと思う。というより、今まであらゆる遊びでそうしてきたから、シールドには違和感を感じるんじゃないかな。1対1のゲームで、自分の使うものがランダムで決まるってそうはないからね」
――「なるほど」
佐藤「僕の場合は、麻雀やポーカーを経験して来たから、戦う武器がランダムであることに抵抗がないんだよね。麻雀やってて配牌が悪いことなんて当たり前だし、ポーカーでも同じ。シールドのカードプールなんてまさしく配牌みたいなものだからね。勝負できないものを掴むことだってある」
――「ある意味、悟りの境地ですかね」
佐藤「そうとも言えるかな。でも僕は経験則で、麻雀やポーカーのような運の要素が高いとされるゲームでも、試行回数を重ねれば必ず上手いプレイヤーが勝つ、ということを知っている。だから弱いカードプールを掴んでも気にならないし、つまらないとも感じないな。自分が上手くプレイすれば、いつかは勝てるし、大局的に見た時に勝率は良くなる。戦う武器を天運に任せるゲームだって技術介入度は高いんだよ」
■ 許容できるかできないか
佐藤「そもそも、マジックにおいて運っていうのはシールドだけじゃなくてあらゆる場面で必要になるよね」
――「それはそうですね」
佐藤「デッキを半分掘ってもキーカードを引けなかったり、土地事故を起こしてしまったりすることだって、どうしようもないよね。運が悪いからそうなる。シールドで弱いプールを引くっていうのは、それと同じことだと思うんだよね。どちらもどうしようもないことなんだから。ドローの差もカードプールの差も、両方が理不尽なんだよ。みんな前者は許容できているんだから、後者も許容できるはず」
――「シールドにも土地事故などはありますから、構築戦に比べてカードプールと言う運の要素が一つ増えていることが、敬遠される理由にもなっているのでしょうか」
佐藤「自分がカードを選択してデッキを組むのと、与えられたランダムな84枚からデッキを組むこと。この2つを比べたら確かに運の要素は後者にしか存在しないけど、その代わりに後者はデッキを構築する技術が必要になる。だから総合的に見て、僕は極端にシールドが運に比重のかかったフォーマットだとは感じない」
――「なるほど」
佐藤「結局、『自分の戦う武器がランダムで決まる』ということに違和感を感じなくなれば、シールドに対する苦手意識は消えると思うんだ。今まで経験してなかった、あるいはその経験が薄いことが障壁になっているだけで、実際慣れてきたらシールドだって面白いし、得意になるはず。同じマジックだからね」
■ シールドの魅力
――「佐藤さんの考えるシールドの魅力ってどんなところにありますか?」
佐藤「さっきも言ったけど、まずは自由度の高さだよね。84枚のカードを使えて、メインボードのカードと色を全部変えて2ゲーム目に挑むことができる。こんな自由なフォーマットは他にないからね。1回のシールドで何度も楽しめるのが魅力かな」
――「今までそんな風に考えたことがありませんでした。
佐藤「後はそうだな、RPG感覚っていうのかな? 自分のレベルが上がってることを実感しやすいんだよね」
――「それは勝てるようになったから、とかではなくてですか?」
佐藤「違うね。シールドってさ、結局完璧な40枚のメインボードを作るのがめちゃくちゃに難しくて、それこそプロだって1~2枚はミスをしたりするんだよ。でもきちんと回数を重ねていくにつれて、どんどん自分の組む40枚が完璧になっていく。正しいかどうかは、いろんな人にプールを見せたりすればいい。特に自分がシールドが上手いと思っているプレイヤーと40枚一致したら、それはもう嬉しいよね。構築戦だと、やっぱり大会で優勝したり、グランプリでベスト8に残らないと、なかなか自分の成長を実感できないけど、シールドだと成長を感じる機会が多いんだよ」
――「RPG感覚の意味がわかりました」
佐藤「だから40枚を完璧に構築できた時の快感は格別だよね。これを味わいたくてシールドをやっているのかな、とも思うね」
■ シールドのコツ
――「せっかくなので、佐藤さんの考えるシールドのコツについて簡単に教えてもらえますか?」
佐藤「色々あるけど、一番はゲーム展開を構築段階でイメージしておくってことかな。これはすごく大事」
――「もう少し詳しくお聞きしても良いですか?」
佐藤「デッキが何に弱いか、何に強いかを考えておくのが大事なんだよ。わかりやすく言うと、例えば重いレアがたくさん入った強いデッキができたとして、その”23枚目”として何を入れるか。2マナ0/5の壁か6マナ5/5。重いレアが入っているならカードパワー対決では勝てるだろうから、怖いのはアグロデッキだよね。だから壁をチョイスすべき」
――「弱点を事前に知っておくことが大事と」
佐藤「そう。そしてそれは点数表なんかよりも大きな意味を持つ。カードの強さっていうのは流動的だからね。いくら《ショック》が強くても、相手のデッキにクリーチャーが10枚しか入ってなくてそのすべてがタフネス4以上なんだったら、《ショック》は《溶岩の斧》以下になる。2マナ2/1が3枚入ったアグロデッキは、相手の2マナ1/3が弱点になる。そういうのが分かっていれば、サイドボードに用意する第二のシールドデッキだって、指針が見えてくる」
――「なるほど」
佐藤「メインデッキがアグロでサイドデッキもアグロだったら、メインデッキの弱点は補えていないよね。しかもメインで使用しないということは、サイドデッキの方がデッキパワーが落ちているはずだから、勝てる見込みも薄い。サイドデッキっていうのは自分の弱点を補うために用意しておくべきなんだよ」
――「よくわかりました。今までなんとなく、余った2色や強いレアのある1色を、サイドボードに忍ばせていました」
■ シールドは、楽しい。
佐藤「手ぶらで事前準備もなくて楽しめるし、自由にデッキは組めるし、しかも沢山デッキが組める。カードプールだって良いものがもらえるかどうか、くじ感覚でドキドキできて僕は楽しい(笑)。だからみんなもシールドを楽しんでほしいって思うよね」
――「私自身、シールドは得意ではなかったのですが、佐藤さんの話を聞いてシールドがやりたくなりました」
佐藤「もうすぐ『ラヴニカのギルド』のプレリリースだしね。プレリなんて、ただでさえ楽しいシールドがもっと楽しめる最高の機会だよ。知らないレアに負けたり、あんま強そうじゃないと思って入れたレアが大活躍したり。だからシールドって理由でプレリを敬遠してる人も、一度は遊びに行ってほしいね」
――「プレリリースをもっと楽しむために、今日佐藤さんからお聞きしたことを意識してみようと思います!本日はありがとうございました」
佐藤「ありがとうございました。皆さん、シールドを楽しんでくださいね」
プラチナレベル・プロプレイヤー、佐藤 レイのインタビューはここまでだ。
今までシールドを敬遠していたプレイヤーも、まだ経験したことがない人も、この記事をきっかけに、シールドを遊んでみてほしい。
新セット「ラヴニカのギルド」が一足先に遊べるイベント、プレリリースはいよいよ9/29(土)、9/30(日)! 「ラヴニカのギルド」の新カードを満喫できるのはもちろん、佐藤の語るシールドのコツを実践する良い機会だ。
今週末はシールドを満喫しよう!