あなたの隣のプレインズウォーカー ~第18回 ハロー、ニューファイレクシア~

若月 繭子

若月 繭子

メムナークはもういない。エルフの英雄、グリッサ・サンシーカーに倒された。緑のマナの太陽はミラディンの空に、四つの兄弟とともに燃えている。
魂の檻は外れ、ミラディンの古い世代を故郷の次元へと送り返した。この次元に残されたのは魂の檻を持たない、年長者達の世界ではなくミラディンを故郷とする者達。彼らこそミラディンの真の子供たち。人間にエルフ、ゴブリンにヴィダルケン、ロクソドン、レオニン……ミラディン人。彼らは困惑しながら推測する以外に、年長世代の消失を説明することはできない。彼らの世界は鉄と金と輝く金属の侘びしい風景。傷跡は多く、答えは僅か。
それは一つの時代の終わりのようで。だが終わりというものは全て、次なる夜明けを記す境界線。金属世界の物語は、終わりには程遠い。

(公式記事『Moreover: Doing Sequels Right』より抜粋・訳)


こんにちは、若月です。
プレインズウォーカーが、以前登場した次元を再び訪れる。ストーリーにおいては割とよくある展開です。最近でもドラゴンの迷路の小説『Dragon’s Maze: The Secretist, Part Three』において、ミルコ・ヴォスクの手から逃れたジェイスが一時的にゼンディカーへとプレインズウォークしていました。

石鍛冶の神秘家

DGMの小説ではゼンディカーの地下深くで「コーの女性が剣を鍛えていた」という描写が。
それはまさしく……


ミラディンの傷跡ブロックは、それまで複数回再訪していたドミナリアや複数の次元を垣間見ていた未来予知・タイムシフト以外では初めて、以前登場した次元へと再び戻ったブロックです。すっきりと終わったと思われた旧ミラディン。再訪によって物語が、世界が、カードがどうなったのか。今回はそれを見ていきたいと思います。



1. 帰る理由

「ミラディンへ帰る理由」は様々あったと思いますが、一つは上でも引用しました記事にはっきりと書かれていました。その部分を引用して訳します。


物語とフレイバー的観点から、続編を作る良い理由はただ一つだけだ。

語るべきことがまだあるからだ。

これ以上の物語を持たない世界もある。一芸しかできない動物のように、一回きり、導火線に火を付けて爆発させてそれでおしまいという世界もある。一シーズンだけで世界が既にすり切れてしまうような、再訪するほどのフレイバー的な厚みを持たない世界もあるかもしれない。
ミラディンはそういった世界ではないと我々はわかっている。その深く密集し多層からなる、多くの種族と文化と魔法と神秘が息づく世界は、三つのエキスパンションで終わるものではない。我々は興奮しながら古いスタイルガイドを発掘し、その世界の人々と場所に再び触れ合い、その知識に浸り、その舞台の可能性を再点火する。



「語るべきことがまだあるから」。物語的にも、前回記事ラストに書いた通りに旧ミラディンには未解決の伏線が残されていました。メムナーク自身は打ち倒されましたが、そもそも彼を狂わせたと思しき「黒い油」とは一体何だったのか? そして《マイコシンスの格子》《マイコシンスのゴーレム》といったカードに登場している「マイコシンス」。これは小説によるとミラディンの核を蝕みながら、金属を肉に、肉を金属へと変える「何か」であり、メムナークもその正体は知りませんでした。なおMycoは「菌の」、synth は「統合、合成するもの」といったくらいの意味です。


ミラディンの核マイコシンスの格子

マイコシンスの柱が立ち並び、その胞子が静かに降り注ぐミラディン核内の風景は、
神秘的で美しいものでしたが……


更には時のらせんブロックにて、ミラディン世界の創造主であるカーンが不穏な描写とともに姿を消してしまっていました。


カーンは、自身の身体と意識の深層に黒いものが深く浸透していくのを感じた。こんな事が起こる筈などなかった。考えうる以上の最悪の事態だった。
“ヴェンセール、私は行かなくてはならない。おそらく戻らない。ジョイラに伝えて欲しい。すまない、と”
「カーン? カーン! どうしたんだ!」
私のやった事だ。カーンは思った。昔、私が作り出した敵はついに私を壊した。
“ヴェンセール、決して諦めてはいけない。不可能な事など何もない。君にはやるべき事が沢山ある。それを手助けできないのが、残念でならない”
「カーン? 待ってくれ! 何が――」
“もしジェスカに会ったなら、私を探すなと伝えてくれ。君もだ。決して”
「ジェスカって誰だ? カーン? カーン、頼む!」
カーンは応えなかった。その代わり、可能な限りの速さでドミナリアから遠ざかり、瞬きながら久遠の闇を駆け抜けた。その軌跡を誰も追えないように。

(小説『Planar Chaos』 P.304より)


この時、カーンに一体何が起こったのかは全くの謎でした。
そしてミラディンの傷跡の段階で、カーンの気配はありませんでした。そもそもミラディンの住人達は自分達の世界の創造主のことは知っておらず、僅かなフレイバーテキストだけがその存在を記しているだけでした。


アージェンタムの鎧


「ミラディンの造物主はまだ生きていて、金属を形作り続け、世界を揺るがす力を手にしている。」
《アージェンタムの鎧》のフレイバーテキストだけが、ミラディンの創造主カーンがまだどこかにいるという事をぼんやりと示しています。
カーンがミラディンに戻ってきている、という事が明かされたのはミラディン包囲戦になってからでした。




そして、あの時カーンに起こったことの真実が明らかになります。プレインズウォーカーの灯を失ったことにより、カーンの内にあった「ファイレクシアの油」が活性化し、彼を蝕み始めたのでした。カーンは自らが創造した、とはいえ今やその名前も姿も違う世界――ミラディンへと飛び込みました。
メムナークを狂わせた「黒い油」。ファイレクシアの油はその世界の核に、静かに深く根を張っていたのでした。汚染された創造主は「機械の父」としてその世界の玉座に繋ぎ止められ、更にはファイレクシアがミラディンを侵略していく様子を見てその心は次第に裂かれ、油に屈していったのでした。

堕落した良心遥かなる記憶

《遥かなる記憶》に描かれているのはウルザとヴェンセール。
もしかしたらかつてのカーンが持っていた「最初の記憶と最後の記憶」でしょうか。



……と書いてきましたが、「いずれカーンが登場する」ことは早くから全く別の形でネタバレされていました。傷跡ブロック小説のタイトル『Scars of Mirrodin: The Quest for Karn』は、ミラディンの傷跡発売前に既に発表されていました。ヴェンセールの初出といい、小説絡みは変なネタバレがあることが多いですね。
カーンの行方と、メムナークを蝕んでいたもの。つまり傷跡ブロックでは、旧ミラディン時のらせんブロック両方の「伏線回収」が行われることになるのでした。



2. ファイレクシア

ミラディンを密かに蝕んでいたのは「ファイレクシア」でした。ミラディンの傷跡ブロックでは拡大するファイレクシアと、ミラディン人達との戦争が描かれます。では、そもそもファイレクシアとは?

「ファイレクシア」は一つの世界の名前ですが、しばしばそれ以上の意味を持って語られます。世界の名前であることもそうですが、それが内包する性質そのものを「ファイレクシア」と呼ぶこともあります。結構昔のものですが、公式記事「Time Spiral Style Guide: How to draw Phyrexians」に、ファイレクシアについてのわかりやすい説明があります。抜粋して翻訳します。


ファイレクシアは古の邪悪なプレインズウォーカーによって創造された人工次元である。金属と死と生物組織で構成された生態系。不自然に加速された人造生命の進化。機械生命が闊歩する地獄の世界。この悪意に満ちたシステムは数千年の昔、ファイレクシアの神にして主となった強大な魔術師、ヨーグモスによって徴用された。ヨーグモスはファイレクシアの有機体へと目的を与えた。繁栄し、ファイレクシアという枠を飛び越えて多元宇宙へと広がること。


ファイレクシアの実際の、とてもおぞましい風景はウルザズ・サーガの黒のカードに多く描かれています。


ファイレクシアの塔汚物の雨



またプレインチェイス(2009)では、ファイレクシアの内部階層が「次元カード」として登場しました。公式記事「The Planes of Planechase」からその説明文を翻訳します。




ファイレクシア、第四球層
恐ろしきファイレクシア、汚らわしい工学とよじれた肉体が融合したクリーチャーがはびこる次元は、かつては多元宇宙で最も止められない勢力の一つであり、最も恐るべき場所の一つであった。ファイレクシアは九つの層からなる入れ子状の球で、それぞれが異なる陰惨な役目を持つ。ファイレクシアの第四球層は屠殺場であり試験場である。異常が認められた創造物はどれが生き残るかを観察するため、地獄のような人工的生態系へと解き放たれる。



さて、「ファイレクシア」の名前が初めて登場したのはマジック黎明期も黎明期、アンティキティー(1994年)です。このエキスパンションでは、ウルザとミシュラの「兄弟戦争」とその影に潜むファイレクシアの姿が描かれました。


Gate to PhyrexiaPriest of Yawgmoth

まだ「色の役割」が定まっていなかった時代。
《Gate to Phyrexia》は黒なのに
アーティファクトを破壊できるという極めて珍しいカードです。



兄弟戦争が終結した後も、ファイレクシアの影は常にドミナリアの各所に残り続けていました。

Phyrexian Devourerファイレクシアの歩行機械

《ファイレクシアの歩行機械》のフレイバーテキストにある
「黒い雨が降り、大地は焼けただれ、鋼が悲鳴を上げるという、恐ろしい場所」とは
勿論ファイレクシアを指すのでしょう。



そしてウェザーライトから始まる、空を駆ける船の冒険物語「ウェザーライト・サーガ」。乗組員達は異次元ラースへと誘拐された《艦長シッセイ》を救い出し、敵艦に追われながらもその恐ろしい次元を脱出しようとします。そうして物語は収束に向かうと思われましたが、ストロングホールドエクソダスの数枚の何気ないカードが、謎めいた敵の背後にあるものを示していました。

要塞の監督官弱者選別


《要塞の監督官》 フレイバーテキスト
楽しい仕事が一つ終わるたびに、われわれはヨーグモス様の聖なるお姿に一歩近づく。
――― 要塞の建築技師の日誌


《弱者選別》 フレイバーテキスト
弱者の血は、偉大なるヨーグモス様の御名を書き記すためのインクになるだろう。
――― 要塞の建築技師の日誌.



そこに記されていたのはヨーグモスの名。ファイレクシアはドミナリアに散在する過去の戦争の遺物ではなく、今もまだどこかに存在し、世界へとその手を伸ばそうとしていたのでした。「ウェザーライト・サーガ」は、アンティキティーから続くファイレクシアとの戦いの物語だったのでした。乗組員の一人、《銀のゴーレム、カーン》はウルザによって、対ファイレクシアの切り札の一つとして創造された存在だったことも後に明らかになります。


銀のゴーレム、カーンウルザの青写真

カーン、ウェザーライト号。ウルザの対ファイレクシア計画の重要なパーツです。



最終的に、ドミナリアへと侵攻してきたファイレクシアとヨーグモスは、世界の総力を結集した戦いの末に《レガシーの兵器》によって「痕跡も残らず抹消/Obliterate」されました。ですがファイレクシアの侵攻の残骸は今もドミナリアのそこかしこに残っています。空は毒の色をしており、ファイレクシア兵の死骸の多くはまだその地表に転がったままです。
ファイレクシアは滅びましたが、その「油」はそこかしこに残されています。これはいわゆるナノマシンのようなものであり、ファイレクシアの情報を内包しているのだそうです。油はその行く所どこへでも伝染し、堕落を広め、ファイレクシア化を促進します。
彼らはまた「ファイレクシア病」をばら撒きます。カード能力においてはダメージやマイナス修正を広範囲に与えることで特徴づけられています。

疫病吐き



そしてフレイバーでも。特にウルザブロックとインベイジョンブロックの複数のカードに、ファイレクシアが広がる様子が表現されていました。

汚染うんざり


《汚れ》フレイバーテキスト
土地はそれに触れられるとたちまち腐り果てた。一瞬のうちに、油ぎった胆汁と化した。
――― 大天使レイディアント


《うんざり》フレイバーテキスト
ファイレクシア人が有機生命体に対して抱く唯一の興味は、それの弱さを見つけることだ。


ファイレクシアがドミナリアを侵略した際には、「潜伏工作員」を送り込み、長期間に及ぶ工作をしてきました。例えばケリックという名の工作員は、当時トレイリアのアカデミーの学生であった《ギトゥのジョイラ》に接触し、その遭遇は悲劇をもたらしました。
カードの《潜伏工作員》は伝説のクリーチャーではありませんが、ファイレクシアから「失敗作」として処分されそうになった所をウルザに助けられ、彼へとファイレクシアの様々な情報を与えたザンチャという女性が描かれています。そして彼女の「心」のパーツがカーンへと受け継がれ、それがファイレクシアの油を内包していたためにやがてミラディン世界が汚染される……という長大な物語です。第10版において伝説のクリーチャーが各色二体計十体再録されましたが、それらとは別にザンチャこと《潜伏工作員》も実はいます。まさしく「隠れて入り込んでいた」のかもしれません。




《真に暗き時間》フレイバーテキスト
ヨーグモスはファイレクシア人に人間の皮膚をかぶせるために長い時間を費やしたわ。そうして作られたのが潜伏工作員よ。彼らはどこにでも入り込んでいるわ。
――― ザンチャからウルザへ



ドミナリア侵略は数千年をかけて計画を練られた大規模なものでした。一方、カーンが持ち込んでミラディンに沁みついた油はごく僅かでしたが、そのほんの数滴から数十年と経たずにミラディンは危機を迎えます。公式記事『ファイレクシアと大霊堂の王』には、感染が急速に拡大したのは「ミラディン世界とファイレクシアの親和性の高さが原因」と書かれています。

(記事より抜粋)
金属の構築物と金属を仕込まれているミラディンの住人は、ファイレクシア化の堕落が拡散するのに格好の温床と言える。


とはいえその世界によってファイレクシアの油との「親和性」はピンキリのようです。私が大好きな世界としてメルカディアがありまして、ここには数千年前からファイレクシア産アーティファクト・クリーチャーである《ドラゴン・エンジン》というそれこそ油まみれであろう存在が居座っているのですが、世界がファイレクシアの油に侵食されたような様子は特に見られません。レイモスという名のそのドラゴン・エンジンは、ドミナリアを揺るがした兄弟戦争においてミシュラ軍の兵器だったのがウルザに奪われ、改造・再プログラムされて、戦火のアルゴス(《アルゴスの女魔術師》《アルゴスのワーム》のアルゴスです)にて「難民船」の役割を与えられたのでした。レイモスは兄弟戦争を終結させた《Golgothian Sylex》の破壊の衝撃波によってファイレクシアへと飛ばされ、そこからポータルを抜けてメルカディアへと辿り着き、その地に難民達を下ろしました。チョー=アリムの民(マスクスの白の人間種族)やマーフォーク達はその子孫であり、彼らは兄弟戦争によく似た伝説を今も語り継いでいます。マスクスのストーリーについてはこれだけでなく一から十まで熱くじっくり語りたいのですが、それはまたいずれ……


環状列石の守護者

レイモス伝説は本当にいい話。
フレイバーテキストによればこれはレイモスの姿を模しているのでしょうか。
「Duel Decks: Knights vs. Dragons」版では
その設定を汲んでかクリーチャー・タイプに「ドラゴン」が付きました。



話がそれました。繰り返しますが、銀のゴーレム・カーンは「対ファイレクシアの切り札の一つ」として創造されました。そのはずのカーンが、ミラディンの傷跡にて新たに興ったファイレクシアの王となったのです。何という運命。公式記事『ゴーレムの遺産』にはこう書かれています。

(抜粋)
彼はファイレクシアを打ち負かす助けとなるべく作られた。彼の創造した次元は、まさにその敵の手へと堕ちた。その知識の破片を心に刺したまま、彼はあらゆる世界の打ちひしぐような悲痛を負うであろう。


そして私達は、ミラディン世界とその人々の打ちひしぐような悲鳴を聞くことになります。



3. 奈落へ落ちる物語

密かにミラディンを蝕んでいたファイレクシア。まず、以前の主人公達はどうしたのか?
前回記事のラスト近くで、フィフス・ドーンのエピローグについて述べました。グリッサとスロバッドの二人は再び手をとりあってミラディン世界へと戻った、そのはずでした。ですが地表に出た彼らを待っていたのは、パニックに陥ったゴブリン達でした。メムナークが倒された際に、彼が他の次元から生物を持ちこんだ「魂の檻」が壊れ、連れてこられた人々は元の次元へと帰りました。「魂の檻」を持たないミラディン生まれの者達は残され、年長世代が何の前触れもなく消失したことに困惑するのみでした。ゴブリン達がパニックを起こしたのは後に「大消失」と呼ばれることになるこの突然の出来事が原因でした。スロバッドはゴブリン達の中に巻き込まれて行方不明となり、グリッサはミラディンの核へと引き返します(そしてスロバッドは……公式からの説明は僅かですが、ゴブリン達によって殺されたとされています)。そこで彼女は《メムナイト》の軍隊に遭遇します。小さなアーティファクト・クリーチャー達はグリッサを核の奥深くへと連れ去り、その中で彼女は長い眠りにつきました。

メムナイト

実はこの子、フィフス・ドーンの小説にて既に登場していました。
当時から「どこかメムナークに似た小さな構築物」と書かれていまして、驚きのカード化。



ミラディンの核、そこではファイレクシアの油が着々と感染を拡大していった場所です。核内で眠り続けているうちに、グリッサは油に「完成」させられてしまったのでした。そして緑派閥(後述)の幹部として、かつて自分が救ったミラディン人と戦うことになるのです。

グリッサ・サンシーカー裏切り者グリッサ


そんなグリッサについて救いがあるとすれば、スロバッドの結末を見ていないことと、ファイレクシア化した彼女はその「新たな人生」をとても楽しそうに過ごしている、ということでしょうか……。
グリッサ以外にも、旧ミラディンと傷跡で「対応」しているカードが沢山あります。多くはビフォー・アフター、ファイレクシア化される以前と以後の様子を表しています。

ダークスティールの巨像荒廃鋼の巨像

ちらつき蛾の生息地墨蛾の生息地

ヴィリジアンの堕落者

 

対応、とはちょっと違うでしょうが、奇遇なことに傷跡ブロックの物語も基本は旧作と同じ「三人パーティー」です。しかも「女剣士」「工匠」「岩みたいなの」(ごめん)という組み合わせまで同じです。傷跡の主人公達三人はそれぞれ異なる因縁をミラディン/ファイレクシアに持っています。

エルズペス・ティレル


アラーラの断片から二度目の登場のエルズペス。彼女の故郷の次元はその名前も定かではありませんが、ファイレクシアに支配されていました。

滞留者ヴェンセール


初の新世代プレインズウォーカー、ヴェンセール。この連載で何度も語ってきましたが、ミラディンの創造主カーンと深い縁があり、失踪した彼をずっと気にかけていました。

槌のコス


そしてミラディン次元出身のプレインズウォーカー、コス。優れた地操術師である彼はファイレクシアに汚染された鉱石を浄化できることから頭角を現し、ヴァルショック族(ミラディンの人間種族のうち、赤に列する人々)のリーダーとなりました。いつ、どのようにプレインズウォーカーとして覚醒したのかは定かではありませんが、ファイレクシアの脅威を理解し、助力を求めてかつてファイレクシアを退けたドミナリア次元を訪れると、そこでエルズペスに出会い、続いてヴェンセールを半ば誘拐してミラディンへと帰ります。「ミラディンを救いたくば、創造主カーンを探すべき」というヴェンセールの説得に渋々応じてミラディン内部への旅に出るものの、自らファイレクシアと率先して戦いたいという意志はずっとコスの中にくすぶり続けていました。

金屑の嵐大地のうねり

傷跡ブロック小説の主役はヴェンセールでしたが、
ミラディンを救おうという気持ちが最も強かったのは間違いなくコスでしょう。
「地元のプレインズウォーカー」ですのに、物語上の扱いがあまり良くないのが可哀想です。



三人がミラディンの奥深くへと旅をする一方で、ミラディンとファイレクシアの激しい戦いは続いていました。その戦いは私達プレイヤーが実際のカードやイベントで体験していました。ミラディンの傷跡ブロックのカードはほとんどが「ミラディン陣営」「ファイレクシア陣営」に分かれ、エキスパンション内でのその比率は勢力の大きさを表していました。

ミラディンの十字軍ファイレクシアの十字軍


この二枚のように、カードのテキスト欄にある「すかし模様」がミラディン/ファイレクシア陣営を表しています。陣営のシンボルを持たないのはプレインズウォーカーだけです。

ボーラスの工作員、テゼレット

傷跡ブロックは多色カードの枚数は僅かですが、ヴェンセール、グリッサ、テゼレットと
物語上の重要人物が名を連ねていま…す……?



彼らはストーリー上では明らかにどちらかの陣営に属していたのですが、プレインズウォーカーは究極的には何にも属さない存在ということで、すかし模様が入っていません(ラヴニカの回帰ブロックにおいても同様に、ギルドに所属するプレインズウォーカーであってもギルドのすかし模様は入っていません)。
ミラディンの傷跡ブロックの第三エキスパンションのタイトルは、戦争の勝敗を決するものとして長いこと隠されてきました。清純なるミラディン」か、「新たなるファイレクシア」か。そして2011年3月29日、「待つのはここまで」「大いなる完璧への業は成された」と、ファイレクシアの勝利が明らかにされたのでした。ある意味、実際のカードと物語の究極のシンクロの形ではないでしょうか。



しかしこれ、「清純なるミラディン」の製品パッケージ画像まで用意しておくという徹底ぶり!





またファイレクシアサイド、カードには使用されていなかったものの、箱絵や公式ウェブサイトにて使用されていたこのアートは何だったのでしょうか? 「目のない顔」はファイレクシアの象徴、そして五つのマナの色をした球がめぐるのは……つまりこの絵は、「ミラディンがファイレクシアに完全に支配された」ことを象徴的に表現しているのでしょう。



4. 新ファイレクシアの姿

ミラディンの小説『Moons of Mirrodin』のプロローグ、「汚染」される前のメムナークはとても純粋に願いました。


「私はここを生命が溢れ、息づく、色彩豊かな世界へと作り変えよう」


色彩豊かな世界。皮肉なことに、新ファイレクシアは少なくとも色彩豊かな世界です。元々黒だけであったファイレクシアはこの次元の強烈な各色のマナに触れた結果、全ての色へと拡散・発展しました。そしてそれぞれがファイレクシアの原理原則を守りながら、色ごとの個性を持つ存在となっています。
ファイレクシアは常に黒マナとアーティファクトで動いており、彼ら自身それをよしとしていました。別に「全色へとその勢力を拡大する」という野心を抱いていたわけではありません。同じ「黒」の次元でもそこがグリクシスと違う点です。グリクシスは元のアラーラから分かたれた時に白と緑のマナを失ったことから、その二つを激しく切望しています。

ヴィスの吸収

「ヴィス」とは生命エネルギーのこと。
グリクシスでは生者も死者もヴィスを求めて果てしない共食いを繰り広げています。



新ファイレクシアは各色の「派閥」を、それぞれの長である「法務官」が統べています。「法務官」は役職ですが、クリーチャー・タイプとしても新たなるファイレクシアにて初めて登場しました。また、その後のオラクル変更でカード名に「法務官/Praetor」を持つ過去のカードにもこのタイプが与えられました。各色派閥とその法務官の様子を紹介しましょう。

アメーバの変わり身

どうも、法務官です。



お前はもういいから!


白:機械正典

大修道士、エリシュ・ノーンノーンの僧侶砕けた天使

《砕けた天使》のフレイバーテキストにも「機械正典」の名を見ることができます。

前述の通り、元々のファイレクシアは「黒」でした。ですが宗教的、全体主義といった白という色の「悪い」面は、ファイレクシアの思想に非常に合致しています。法務官のうち、カードとして一番活躍したのも白のエリシュ・ノーンですね。白派閥はまさに宗教であり、厳格な階級制度と戒律の下に機械の父カーンを崇め、またファイレクシアの聖書「銀白の刻文」に従って「完成」を目指しています。彼らの多くは身体の皮膚を「究極の境界、壁」とみなし、統合を妨げるものとして忌み嫌っていることからそれを剥がされているか、元々持たずに生まれてきます。そしてエリシュ・ノーンに見られるような白い硬質な金属を身にまとっています。


黒:鋼の族長達

囁く者、シェオルドレッド大霊堂の王、ゲス四肢切断

ファイレクシアの「元々」の色、黒。この派閥では「族長」と呼ばれる有力者達が権力争いをしながら、機械の父の座を狙っています。彼らはカーンを簒奪者とみなしており、ファイレクシア人である自分達こそがこの世界を統べるべきだと考えています。
族長の一人、ゲスは面白いキャラです。前回にも少し名前を出しましたが、初登場は旧ミラディンでした。屍賊(ゾンビ)を統べる王としてグリッサ達と敵対するのですが、諦めの良さと妙に飄々とした態度でしたたかに生き延びてきました。フィフス・ドーンのストーリーにおいて部下に造反されて生首だけの姿となり、グリッサやラクシャに持ち運ばれて味方側で役に立っていました。グリッサとメムナークの決戦においては、屍賊の大群を召喚してグリッサを助けるという格好いい見せ場もありました。


屍賊の塊が降ってきた。彼らは黒の大空洞から大群で出現し、次から次にメムナークへと襲いかかり、体勢を立て直す隙を与えなかった。
「なっ!」
グリッサは左の方向を見た。暗い天井にラクシャがぶら下がり、ゲスの耳を掴んでその首を持っていた。屍術士の目は屍賊達を凝視していた。
「言ったであろう、わしこそがこの世界で最も恐れられる屍術士だとな」
グリッサの目が見開かれ、そして滑稽なものを見るような笑みが彼女の顔に広がった。

(小説『Fifth Fawn』 P.289より)


ミラディンの傷跡にてファイレクシア製ボディを手に入れてめでたくカード化されたのですが、物語においては同じくファイレクシアへと堕ちたグリッサと仲良く喧嘩していました。傷跡ブロックの物語で唯一、昔を思い起こさせる場面だったかもしれません。


青:発展の動力源

核の占い師、ジン=ギタクシアス無感覚の投薬ファイレクシアの変形者

旧ファイレクシアの支配者ヨーグモスは、人間だった頃は「医者」でした。彼は古代スラン帝国の有力者の病の治療にあたったことから地位を手に入れました。ファイレクシアを得てからは、プレインズウォーカーを解剖して次元渡り能力の秘密を解き明かそうとしたこともありました。
その流れを受け継ぐためか、古くからファイレクシアは人体の研究・解剖・改造に長けてきました。ここミラディンで蘇った新ファイレクシアでもそれは変わらないようです。青派閥、創造を絶する不気味な外科医からなる彼らはその「医学」を用いて「完成」を目指し、そして究極のファイレクシアの創造物をもたらすために日々おぞましい生物実験を行っています。


緑:悪意の大群

飢餓の声、ヴォリンクレックスヴィリジアンの堕落者ぎらつかせのエルフ

法務官はヴォリンクレックスですが、緑派閥を実際に支配しているのはグリッサです。彼女は弱肉強食の自然の摂理こそ至上であり、捕食と適者生存こそが「完成」への道であると信じています。そしてこの考えから、実験と改造によって「完成」を目指す青派閥とは対立関係にあります。
緑派閥の領土はかつてエルフやトロール達が住んでいた絡み森。今やそこでは、ファイレクシア化した獰猛な獣達が生態系の覇権をめぐって戦っています。


赤:静かなる焼炉

隠れしウラブラスク石弾化ウラブラスクの僧侶

カラーホイール順かと思いきやそうではないこの並びは、公式記事「プレインズウォーカーのための『新たなるファイレクシア』案内」の各派閥の「掲載順」です。元のファイレクシアから最も離れていながら今やファイレクシアの思想を最も体現するであろう色となった白から、ミラディンにて最後まで対ファイレクシアの砦であり続けた赤まで。
赤のマナが表すのは個人主義、自由、熱情。それらはファイレクシアの思想に反するものです。また至極単純に「油は燃える」からなのか、赤はファイレクシアから最も遠い色であり続けています。実際、赤のマナに触れて赤の特性を手に入れたファイレクシア人達自身、とても困惑していました。彼らは自分達の仕事に打ち込むことでその悩みを克服しようとし、そしてミラディン人の難民達に対して抱いた「共感」や「憐れみ」は、「その存在を無視する」ことで乗り切ろうとしました。その結果、赤派閥の領土であるミラディンの地下、「溶鉱炉階層」は難民達の避難所となりました。


ヴァルショクの難民シルヴォクののけ者、メリーラ



ファイレクシアの感染を治療するという不思議な力を持つ《シルヴォクののけ者、メリーラ》の存在が、難民達の支えです。この先、昔ファイレクシアが何千年もかけてドミナリア侵攻の準備を進めたように、ミラディン人も密かに再興の準備をしていくのでしょう。
清純なるミラディンを取り戻すために。





































と思ったでしょ? 「俺達の戦いはこれからだ!」 だと思ったでしょ? 数年後に「Announcing…」って公式ウェブサイトで告知が来て、玉座にふんぞりかえる機械の父テゼレット&その隣に控えるハートレス・ヴェンセールって宣伝画像を期待したでしょ? 少なくとも私は期待したねー、心なきヴェンセールってのも一周まわってそれはそれで良いかなって……あ、まつがんさんまた芸風お借りしました



5. 失われし告白

テーロスのプレビューで盛り上がる2013年9月11日13時過ぎ(豆知識:公式ウェブサイトの更新時刻は日本時間13時、冬期は14時)。突然ショッキングな知らせがネットを駆けました。

「コス死んだ!?」

情報源は毎週水曜掲載の背景世界記事「Uncharted Realms」、その最新回『The Lost Confession』でした。「貴方がこの手紙を読むことはないでしょう」から始まるその記事は、エルズペスがアジャニへと宛てた手紙という形式で、新ファイレクシアのその後が語られていました。この記事の翻訳版から、ミラディンの抵抗軍についてエルズペスが語った箇所をいくつか抜粋します。


コスは非凡な男です……でした。彼が生きているのかどうか、私にはわかりません。私にわかるのは、彼は残忍な、とても苦しい方法で殺されたという事だけです。コスもファイレクシアの汚染への免疫を持っていますから、ファイレクシア人達は彼が屈するまで切り刻み続けることでしょう。
(略)
抵抗軍は失われました。
(略)
メリーラとその守り手達とは散り散りになってしまっていました。彼らが捕らわれたのかはわかりません、ですが逃げ延びられたとも思えません。


ここに至るまでにも、グリッサとスロバッドの友情は引き裂かれ、彼女らの英雄的行為は忘れ去られ、戦いの果てにミラディン人は破れ、世界はファイレクシアと化し、プレインズウォーカー達が創造主カーンを探す旅もまた、救いのない結末を迎えていました。その全てを超える、絶望以外には何もない告白がこの手紙では綴られていました。


生命の終焉戦争報告



ミラディンの抵抗勢力は全滅し、彼らの希望であったメリーラは行方不明に。コスとエルズペスは特製の呪文爆弾を携えて、法務官達が揃う玉座の間の地下へと潜入します。コスはエルズペスを逃がし、呪文爆弾を起動したのでした。
エルズペスはコスの最期を見届けたわけではありません。ええ、「きちんと死体を確認してないって事は後から生きて再登場するんだろう」と考えたくなる気持ちはわかります。ですがあえて言わせて下さい、マジックにおいて「爆発オチ」で生きていられるのはイゼット団だけです。「清純なるミラディンを取り戻す希望」? そんなもの何処にありましたかね……
世界の中心地区が壊滅する危機は一応あったものの、熱く楽しい「ギルド対抗レース」を繰り広げ、最終的にはギルドパクトが蘇って平和が訪れたラヴニカへの回帰ブロックの穏やかさ?を体験した後となっては、ハードな世界のさらにハードな結末でした。アッハイ、そうです。ラヴニカへの回帰ブロックは平和に終わりました。こちらもまたいずれお話しましょう。

思考を築く者、ジェイス

僕、ギルドパクト。



この先、新ファイレクシアが再び登場するのかは勿論わかりません。今回の記事冒頭でも述べた通り、帰って来るとすれば、それは語るべきことがまだある時。カーンがミラディンを取り戻しに来るのか、ファイレクシア内で新たな争いが起こるのか……それともコスが言ったように、「この世界に封をして、鍵を捨て」てしまうのか。はたまた人工次元の宿命として、新ファイレクシアもいずれ崩壊へと向かうのか。
かつてファイレクシアに対抗したウルザは、物語上でも、実際のマジックでも激震を引き起こしたカード《精神力》にて言いました、「今まで通りだ」「待つのだ」と。

精神力


その通りに私達も今はしばし、ファイレクシアが再び動き出すのを待つしかないのでしょう。

(終)




※編注:記事内の画像は、以下のサイトより引用させて頂きました。
『堕落した良心』
http://mtg-jp.com/reading/translated/001087/
『Action Packaging』
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/arcana/667
『新たなるファイレクシア、派閥のアート』
http://mtg-jp.com/reading/translated/001527/