週刊デッキウォッチング vol.156 -むかつきデプス-

伊藤 敦

 マジックの華は、デッキリストだ。

 そのデッキに込められた意思を汲み取ろうとするとき、75枚の物言わぬ文字列はしかし、何よりも雄弁に製作者の心情を物語ってくれる。

 だから、デッキリストを見るということは。

 そのデッキを作った人物について、より深く知ろうとする行いに等しいのだ。

 この連載は晴れる屋のデッキ検索から毎週面白そうなデッキを見つけて、各フォーマットごとに紹介していく、というものだ。

 もし気に入ったデッキがあれば自分で作って試してみてもいいし、Magic Online用のtxtフォーマットでダウンロードすることも可能だ。

 それでは、それぞれのフォーマットで気になったデッキをご紹介しよう。

■ スタンダード: ローグ

黄金の守護者耕作者の荷馬車約束の刻

 『イクサランの相克』の両面カードたちは初見ではパッとしないように思えて、《ハダーナの登臨》はスゥルタイ《巻きつき蛇》で活躍しているし、《不敬の行進》もエンチャントに触れないグリクシスカラーのデッキ対策としてよく見られるところであり、《アゾールの門口》もエターナル環境での活用が試されているなど、様々な可能性に満ちていた。となれば、いまだ安価ストレージに眠る《黄金の守護者》にも活躍の機会があるかもしれない。

 「変身」すると2マナ土地になる上に毎ターン4/4ゴーレムを生み出せるようになるという破格の性能を持つこのカードの課題は、やはりその達成困難な変身条件にある。だが《耕作者の荷馬車》と組み合わせれば、《黄金の守護者》を「搭乗」させた上でクリーチャー化した5/5と格闘させることで、容易に「変身」させることが可能なのだ。

 4マナ4/4防衛という防御スペックも頼もしく、相手にこれを乗り越えるための余分なアタッカーを用意させることで《残骸の漂着》の威力が増すといったゲームプランも構築できる。

 《再燃するフェニックス》《熱烈の神ハゾレト》《スカラベの神》といったカードの活躍により、《残骸の漂着》《燻蒸》系デッキはメタゲーム内でグリクシスカラーの後塵を拝しているけれども、もしかすると《黄金の守護者》は白系コントロール復権のカギとなるかもしれない。

「ローグ」でデッキを検索

■ モダン: 多色ビートダウン

思考囲い血編み髪のエルフ騒乱の歓楽者

 《血編み髪のエルフ》《精神を刻む者、ジェイス》の解禁はモダン環境に多大なる影響を及ぼすこととなった。最強のミッドレンジとして「ジャンド」が復権する傍らで、解禁前に隆盛していたマルドゥ・パイロマンサーは、《血編み髪のエルフ》《精神を刻む者、ジェイス》双方の恩恵を受けられず、ポジションの後退を余儀なくされることとなった。しかし、本当に恩恵を受けられないのだろうか?そうした発想から生まれたと思われるのがこちらのジャンド・パイロマンサーだ。

 従来は赤黒ベースに《未練ある魂》だけタッチしていたところ、ジャンドベースにして《ウルヴェンワルド横断》を取り入れることで、《騒乱の歓楽者》のコスト軽減率を高めつつ採用枚数を減らすことに成功している点が特徴的である。

 さらに《血編み髪のエルフ》も搭載しており、その欲張りぶりは「続唱」で《ミシュラのガラクタ》《信仰無き物あさり》がめくれようが知ったことではないと言わんばかりである。

 グランプリ・マドリード2018のトップ16リストを見ても思ったより《精神を刻む者、ジェイス》が活躍していない現状に鑑みれば、対クリーチャーデッキ最強のポジションを持つ《騒乱の歓楽者》デッキもそう悪くない選択肢と言えそうだ。

「多色ビートダウン」でデッキを検索

■ レガシー: 複合コンボ

暗黒の深部狡猾な願いむかつき

 最近では《暗黒の深部》《演劇の舞台》コンボに特化した「黒緑デプス」の活躍が見られるが、ここまで斬新な形はさすがに見たことがなかった。本日紹介するのは「《狡猾な願い》からの《むかつき》」プランを取り込んだ「青黒デプス」だ。

 デプスコンボ自体「0マナ+0マナ」か「0マナ+2マナ」で成立するコンボであることから、デッキ内のスペルを可能な限り0マナに抑え、《むかつき》サーチ用の《狡猾な願い》《吸血鬼の呪詛術士》でデッキ内の総マナコストをわずか18にまで抑えた構成は芸術的とすら言える。ひとたび《むかつき》が解決したならば、《水蓮の花びら》《モックス・ダイアモンド》《オパールのモックス》から2枚目の《狡猾な願い》《稲妻の嵐》を打ち込むという、モダンの「アドグレイス」と同様のプランがとれる。

 この構成のメリットは「X=1」の《虚空の杯》を躊躇なく設置できる点にあり、《輪作》が不在な分は《トレイリア西部》が補っている。手札破壊は打てないが《否定の契約》を「変成」することが可能だし、《狡猾な願い》から《狼狽の嵐》もサーチできる。

 いわば「ANT」と「デプスコンボ」のハイブリッドとも言うべきこの形は、《死儀礼のシャーマン》に支配されたレガシー環境に新風を吹かせてくれそうだ。

「複合コンボ」でデッキを検索

■ フロンティア: ジャンド

残忍な剥ぎ取り密輸人の回転翼機飛行機械技師

 軽量クロックと軽い妨害でテンポを稼ぎ、相手に思うがままの行動をとらせないデッキタイプである「インタラクション・アグロ」は様々なフォーマットにおいて頂点に立ってきたが、ここフロンティアでもその兆しが見え始めているようだ。

 ジャンドカラーの「昂揚」デッキをベースにしながらも、4枚ずつの《密輸人の回転翼機》《屑鉄場のたかり屋》でライフを攻めつつ同じく4枚の《強迫》で相手の構えたスペルを突き崩すというコンセプトは、《霊気池の驚異》《集合した中隊》など4マナ以降のスペルによるスウィングが大きいフロンティアにおいては理に適った構成と言える。

 また攻撃的な2マナ域とは対照的に3マナ域は《飛行機械技師》《ピア・ナラー》《異端の癒し手、リリアナ》で攻撃のベクトルを変えつつ、《霊気圏の収集艇》で攻防のバランスをとっているのもセンスが良い。

 《血編み髪のエルフ》こそないものの、手札破壊/除去/2マナのクロック/アドバンテージソースという構造はモダンにおけるジャンドのそれと比べても遜色なく、今後のフロンティア環境でも活躍が期待されるアーキタイプと言えるだろう。

「ジャンド」でデッキを検索

 いかがだっただろうか。

 すべてのデッキリストには意思が込められている。

 75枚から製作者の意図を読み解くことができれば、自分でデッキを作るときにもきっと役に立つだろう。

 読者の皆さんも、ぜひ色々と面白いデッキを探してみて欲しい。

 また来週!

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