15年ぶりの出場、新たな決意。平林 和哉のプロツアー『久遠の終端』参戦インタビュー!

晴れる屋メディアチーム

平林 和哉、15年ぶりプロツアーへの旅。

今年の6月、『マジック・スポットライト:FINAL FANTASY』にて、「孤高のデッキビルダー」こと晴れる屋の平林 和哉が優勝した。

人物紹介:平林 和哉

マジック歴29年、TC東京の立ち上げ当初から晴れる屋に関わってきた重鎮。10年前は晴れる屋で記事も書いていた。それらの記事はコアな人気を獲得しており、復帰も望まれる。豊富なマジックキャリアと屈指の理論派として知られるプレイスタイル、メタゲームに合わせた独自のデッキ構築術に定評があり「孤高のデッキビルダー」の異名を取る。

■主な戦績

プロツアー『久遠の終端』 出場
マジック・スポットライト:FINAL FANTASY 優勝
『グランプリ北九州・07』 ベスト8
『プロツアーサンディエゴ04』 9位
『グランプリ岡山04』 ベスト8
『グランプリ仙台01』 準優勝
『The Finals00』 ベスト8

しばらく離れていた競技マジック。重いブランクがありながらも、平林は優勝してみせた。そして、15年ぶりとなるプロツアー『久遠の終端』への出場を決めたのだ。

……そこまではいいのだが、そのプロツアーの種目(構築フォーマット)にはモダンが含まれていた。平林はなんと8年間もモダンに触れていない

8年という月日はどのような長さだろうか。

甦る死滅都市、ホガーク悲嘆一つの指輪有翼の叡智、ナドゥ

モダンホライゾン』『モダンホライゾン2』『指輪物語』『モダンホライゾン3』など、モダン環境を激変させるセットが発売された。《甦る死滅都市、ホガーク》《悲嘆》《一つの指輪》《有翼の叡智、ナドゥ》といった傑物が蛮勇を奮っては姿を消した。

オパールのモックス

平林がいない間に、モダンを代表するカードであった《オパールのモックス》は禁止され、これまた平林がいない間に解禁された

……8年間でモダン環境は激変しているのだ。

否定の力レンと六番ウルザの物語敏捷なこそ泥、ラガバン知りたがりの学徒、タミヨウ超能力蛙

さながら浦島太郎。このブランクの塊のような男がどのような調整をしてプロツアーに挑み、そしてどのような経験を積んできたのか。話を聞かせていただこう。

平林 和哉『久遠の終端』参戦インタビュー

ドラフトとモダンの練習割合

――今回、プロツアーに出場するにあたってドラフトとモダンはどれぐらいの割合で練習しましたか?

プロツアー出場を決めてから、約2ヵ月ほどの練習期間があったんだけど、最初のうちはドラフトの練習を多くやったかな。

天井に隠れろスパイダーパンクスーペリア・スパイダーマン

……というのも、プロツアー直前に『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スパイダーマン』の発売が控えていて、このセットの内容次第ではモダン環境が大きく変わる可能性があり、練習が無駄になる不安があったんだよね。

最終的にはモダン6、ドラフト4ぐらいの割合で時間を使って練習したと思うよ。

森山JAPANと合流。ハイレベルなチームメンバーとの調整

――練習やデッキの調整については、どのような取り組みをしたのでしょうか。

今回の調整に関しては、福岡でカード仲間だった行弘(@death_snow)が森山JAPANに誘ってくれて。プロツアーまでの間、オンラインを中心にみんなと情報交換しながら調整して、とても有意義な時間が過ごせたんだ。

森山JAPANとは

日本選手権覇者として知られる、森山 真秀を中心とした調整チーム。プロプレイヤーを含む、数々の強豪プレイヤーが参加している。

▲森山JAPANのメンバー、行弘 賢。平林とは旧知の仲。

こういったプロプレイヤーも所属する調整チームに入って練習することは以前にも経験があった。だけど、なかしゅー(中村 修平)やrizer(石村 信太朗)、井川くん(井川 良彦)みたいな元々の友人といえるような親しい仲間と一緒に練習するのは初めてのことだったから楽しかったし、いい刺激になったね。

▲rizerこと石村 信太朗。デッキビルダーとして知られ、とくにシールド戦には定評がある。

rizerに関しては、ドラフトにしてもモダンにしても型破りで、人とは違うことを試したがるというか、手広くやるタイプだった。その試行によってチームにもたらされる恩恵は大きく、感心したね。

>

▲森山JAPANメンバー原根 健太。平林とは職場の同僚。

原根くんはおなじ晴れる屋で働く仲間で近しい間柄ではあるけど、同じチームで調整したことで彼のすごさが改めてわかった。「自分が勝つために足りないことがなにか」を突き詰めて考える人で、マジックに対する姿勢、競技との向き合い方がすごく勉強になったよ。

モダンで「ベルチャー」を選択した理由

――今回、モダンの使用デッキに「ベルチャー」を選択されていました。どのような経緯で決めたのでしょうか。

デッキリストページ

実は今回、8年ぶりのモダンに触れる上で、最初に手に取ったデッキがベルチャーだったんだよ。ブランクがあって、モダンの対戦経験が少ない状況でフェアデッキは使いたくなかったし、『モダン神決定戦』で内藤さんが連続で使用して勝っているのを見て、強いデッキという印象があった。

▲第30期モダン神、内藤 圭佑。

2か月前の時点では、ベルチャーは「結構、勝っているわりに過小評価されている」デッキの1つだと考えていたんだ。さらに森山JAPANの調整デッキ候補の1つでもあったので、スムーズにベルチャーを使う流れになったかな。とにかくフェアデッキを使いたくなかったからね。

チームメンバーに小原 壮一郎(@komatta_man)さんがいて、メンバー内ではベルチャーを一番よく回しているということで、彼のリストを調整しながら75枚の統一したリストをみんなで作り上げたんだ。

ピナクルの特使オパールのモックス河童の砲手

森山JAPAN内ではベルチャー以外のデッキを選択したメンバーもいたよ。「親和」も有力だったけど、最終的には各々のプレイスタイルに合ったデッキを選んだ感じだね。

――ベルチャーに関して、どのような点を課題として調整されましたか?

剃刀草の待ち伏せ魔女の結界師現実の設計者、タメシ

細かいところだけど、気になったのは白の両面ランド(ボルトインランド)の必要性だったね。《発明品の唸り》を唱えるのに邪魔になることが気になって、「いっそのこと抜いた方がいいんじゃないか?」と話し合ったり。

《現実の設計者、タメシ》の能力を起動するために白マナ、アンタップインランドの枚数確保が必要ということもあり、結局は《剃刀草の待ち伏せ》を1枚採用するリストに落ち着いた。

傑出した発明家、レディ・オクトパス睡蓮の花

新カードでは《傑出した発明家、レディ・オクトパス》を試すこともあった。「待機」なしで《睡蓮の花》を戦場に出せるという強みがあったけど、採用には至らなかったね。

自己分析とフィードバック

――今回は初日落ちという結果でした。プロツアー全体を振り返って、どのような印象がありますか。

モダンに関しては、最初に自分が手に取ったデッキがベルチャーで、最後に手にしたデッキもベルチャー。さらには優勝したデッキもベルチャーだからね。8年ぶりのモダンだったけど「カンは良かった」と思っているよ。

もっとも、最終的にプロツアー全体のベルチャーの勝率は負け越していたみたいで、デッキ選択として最善だったかどうかはわからない。プレイの要求値が高く、リスキーなデッキではあったね。

ベイルマークの大主御霊の復讐偉大なる統一者、アトラクサ

ちなみにプロツアー本番では「エスパー御霊」に2回負けてしまった。実のところ、本番であたるまでエスパー御霊との対戦経験がなかったんだけど、それも含めてブランクが響いたね。マッチアップとしてはベルチャーが有利だと考えていたんだけど。

――具体的にどんなところが敗因となったのでしょうか。

やっぱり、一般的な大会とプロツアーは全然違うよね。たとえばプロツアーはデッキ公開制なので、お互いに相手のデッキリストが分かった状態でのプレイングが求められるんだ。

エスパー御霊との対戦で、こちらがコンボをスムーズに決められそうな初手がきて「キープ」を宣言したゲームがあったんだけど、これがぬるかった

思考囲い超能力蛙

相手が7枚キープを宣言したとき、「不利マッチのベルチャー相手にキープする7枚ってどんな内容だろう?」ともっと考えるべきだったんだよ。十中八九、《思考囲い》《超能力蛙》が絡んだハンドに決まっているのに、自分がコンボにいけるからって《超能力蛙》を対処できないハンドをキープして負けてしまった

呪文嵌め厳しい説教

こちらのデッキにはせっかく《超能力蛙》を綺麗に打ち消せるカウンターがあるのに、まんまとやられてしまった。相手のキープの仕方を観察すれば、おのずと手札が予想できるんだから、それらにぶつけるためのハンドをキープすべきだったよね。

――リミテッドはいかがでしたか。

イルヴォイの諜報部員真社会性工学頭角表す士官候補生、ハリーヤ

リミテッドに関しては、結果的に追い込み練習が足りなかったように思う。『久遠の終端』環境は思ったより繊細で、盤面で押すこととアドバンテージの両立が必要な環境だった。そのバランス感覚がむずかしく、うまく着地させられなかったな。

思えば今回のプロツアー、ずっと「ふわふわ」してたんだよね。いまいちゲームに集中しきれずに終わった感じがする。

――15年ぶりの海外プロツアーということで、適応しきれなかった部分もあったでしょうか。

時差ボケもあったし、海外で宿泊すると眠れないんだよな~とか、もともと自分のメンタルの弱い部分を15年ぶりに思い出した感じ。忘れたふりをしていたけど、そういう部分があったな、と。

でも、ぜんぶ出場する前からわかりきっていたことだからね。15年ぶりのプロツアーなのも、8年ぶりのモダンなのも、時差ボケがくることも。そういうのも含めて、要は実力不足だったということ。

――それでは、今回のプロツアーでもっとも「収穫」だと感じたことはなんでしょうか。

「競技マジックっていいなぁ」ってまた思えたことだね。ひさしぶりにプロツアーの舞台に立って、やっぱりここは多くのプレイヤーが目指すのにふさわしい場所だなって強く感じたよ。

実は今回、出場するにあたって決めていた目標があって、それは「また自分が真剣に競技マジックに取り組みたいと思えるようなモチベーションになること」だったんだ。だから、目標は達成できたかな。ちょっと、目標としてはゆるすぎたのかもしれないけど(笑)

――平林さんがまた本気で競技に取り組むということで楽しみです!余談ですが、きたしまも先日、スペシャル予選を抜けたそうですよ。

ああ、そう。それはよかった。

とりあえず、自分も次の地域チャンピオンシップ出場を目指して、予選大会に参加するつもりだよ。本番前日のラストチャンストライアルとかもあるしね。

総括

平林にとって、今回のプロツアー出場は世界中を飛び回っていた15年前の自分と再会したような懐かしさがあったに違いない。結果は初日落ち。厳しい戦いとなったが、競技マジックとは、かくあるべきだ。

そして、日本を代表する調整チーム、森山JAPANと一緒に切磋琢磨したという体験は「孤高のデッキビルダー」平林 和哉を目覚めさせるのにちょうどいい刺激となったようだ。

「ぬるい目標はもう、必要ない」

最後に見せた平林の表情が物語っていた。これは15年ぶりの復帰ではなく、新たな競技マジック人生のスタートなのだと。

晴れる屋メディアチーム 晴れる屋メディアチームの記事はこちら