忘れていたマジックを楽しむ気持ち──プロツアーでの敗北と再出発

松浦 拓海

命運を懸けたプロツアー

こんにちは、Hareruya Prosの松浦(@ura_frst)です。

今回は9月に行われたプロツアー『久遠の終端』を軽く振り返りつつ、当時の心境やこの遠征で自身のメンタルについて感じたことを書いていこうと思います。

このプロツアーでは、自分は7勝以上すれば次回のプロツアー権利を得ることができ、10勝ぐらいできると精算マッチポイントによって世界選手権に出られるかもしれないという状況でした。

当然、気合を入れて練習に取り組もうという気持ちでした。

チーム練習前:葛藤

万物の定めを追う者銀河の旅人ピナクルの突撃艇

プロツアーのフォーマットのひとつであるドラフトは、発売から1ヶ月以上経っている『久遠の終端』を使って行われます。いつものように発売から間もない状態ではなく、参加者全員がいつも以上にかなりやり込んでいる状況が予想されたため、自分も発売されたらすぐにやり込んでいこうと思っていました。

しかし、8月の頭にMTGアリーナに『久遠の終端』が実装されても、当初の意気込みとは裏腹に、どうも気持ちがついてきませんでした。なぜモチベーションがついてこないのか、自分なりに考えてみると、いくつかの要因があったように思います。

1. モダンへの苦手意識

精力の護符モンスーンの魔道士、ラルゴブリンの放火砲

モダンに関しての個人的な嗜好の話になりますが、自分はお互いにコンバットしあって20点を削り合うゲームが好きで、コンボデッキと対戦するのが苦手なので、コンボが数多く存在するモダンはあまり乗り気にはなれませんでした。

2. 停滞感とプレッシャー

停滞域

もちろん漠然と勝ちたいという気持ちはあるものの、渡航費や宿泊費、滞在先での食事などで30万円近くかかる今のプロツアー制度。コロナ禍が終わり、プロツアーでやり残したことがあると思い復帰したプロツアーで2回もトップ4に入ったことに達成感もありつつ、今の実力ではこれ以上の成果を上げることの難しさも感じていました。

また、自分のマジックの実力があまり上昇していないことも、この1、2年で感じていました。もちろん、日々の努力が足りていないところもありますが、3年プロツアーに出続けているのに、あまり成長を感じられないことが楽しめていない要因のひとつだったかもしれません。

精神的つまづき

プロツアーに参加することが楽しいとは分かっているものの、勝たなければすべてを失う状況が続いていて精神的に疲れてしまったのもあるのでしょう。スポンサードをしていただいている身にもかかわらず、マジックのモチベーションを上げることが困難な状況に陥ってしまったのです。

シーズンが終盤に差し掛かっていることから、今回のプロツアーでひと区切りをつけることも視野に入ったほどでした。

ただ、ちょうどよく公開されたこの記事を読んだりして「そもそも自分はどうしてプロツアーに行きたいんだ」と自問自答したりする日もあったり。

チーム練習:背中を押す仲間

9月になって森山ジャパンのチーム練習が始まってからは、プロツアーに行くんだという実感も沸いてきました。チームメイトに触発されて徐々にモチベーションが上がり、身を入れて練習に励みます。

■森山JAPANとは

日本選手権覇者として知られる、森山 真秀を中心とした調整チーム。プロプレイヤーを含む、数々の強豪プレイヤーが参加している。

学生時代も夏休みの宿題をギリギリにやるタイプだったので、1ヶ月以上準備期間があるとこうなってしまうのかもなと思いつつ、尻に火をつけてくれたチームメイトには感謝です。

ドラフト

上にも書いている通り、モチベーションを上げることに苦戦していたものの、8月下旬に森山ジャパンで行ったドラフト練習会では9勝9敗と手ごたえを感じる結果に。ちょっと練習すればなんとかなるかなと思っていたのですが、もちろんそんなわけなく、Magic Online(以下、MO)のシングルエリミネーションではあり得ないほど負けました。

▲森山JAPANのメンバー、行弘 賢。リミテッドの達人。

危機感を覚え、普段はあまりやらないMTGアリーナでとにかく数を重ねて感覚を取り戻しました。さらに行きの空港では、行弘さんから「いつもの松浦くんらしいピックじゃなくなってるよ」と言葉をいただき、本来の自分と自信を取り戻すことができました。

具体的にいうと、自分は序盤に取ったカードで方向性をかなり固めて一直線にピックを進めていくのですが、自信がないからなのか、序盤ピックしたカードとは関係ないけど、少し強いカードをつまんだりして完成度の低いデッキを作ることが増えていました。

このアドバイスをもらったことで、森山ジャパンのメンバーとドラフトをして3-0、2-1と本番にむけて完全に仕上がりました。

思い返してみれば、失敗体験からくる弱気な心によってピックが歪んでしまっていたのでしょう。メンタルの重要性、今後同じような状況に陥ったときに、俯瞰して自分のことを見れるようになれれば1つ成長だと感じました。

デッキ選択

選択したのは「ボロスエネルギー」です。ほぼ決め打ちでした。

デッキリストページ

結果的に大会全体で見ると負け組となってしまったボロスエネルギーでしたが、チーム内で有力とされていた「ベルチャー」「親和」「エルドラージ系」「ブリンク」などには、サイドカードの枚数を用意できればサイド後は若干有利の手応え。

1本目もブン回れば多少の不利も跳ね返す高い対応力があり、意識されても強いデッキであることを確認できたので、サイドを練りに練ってボロスエネルギーに決定。

封じ込める僧侶真昼の決闘

欲を言えばネオブランドや《御霊の復讐》デッキに有効な《封じ込める僧侶》、ルビーストームやリビングエンドに有効な《真昼の決闘》など入れたいカードはありましたが、枠の都合とそんなに数がいなさそうという予想で断念。

自分が想像するメタゲームの大体のデッキに4.5~5.5割の相性であると感じたのと、デッキの動きが自分のプレイと合っているのでこのリストで確定させました。

このデッキ選択は、良い意味でも悪い意味でも安定しているので、最低目標である7勝はドラフト込みで考えると手堅いのではないかと思っていました。

本番:ネオブランドの壁

ドラフト

1枚で勝つようなレアはないですが、大量の除去でなんとか粘り勝ちをして2-1。

アドバイスどおりに、いつもの自分らしくピックして一直線に白黒に向かったので、とにかく色の合っているカードを大量に取りました。そのおかげでサイド候補のカードを大量に取ることができ、サイドチェンジを駆使していい感じに立ち回ることができました。

モダン

感覚を取り戻したとはいえ、不安だったドラフトラウンドを2-1したことで一気に気が楽になって、初日抜けどころかトップ8まで目指せるとこのときは本気で思っていました。

新生化アロサウルス乗りグリセルブランド

しかし、絶望的な相性のネオブランドと3回も当たってしまい、1回は奇跡的に勝ちましたが、その後も意識していなかったエスパー御霊に手も足もでず、さらにミラーで粉砕されて構築1-4で初日落ちとなってしまいました。

封じ込める僧侶

《封じ込める僧侶》をサイドにとっていればと思いましたが、サイドボードの枠が足りないボロスエネルギーの問題点が露呈しました。デッキタイプの多いフォーマットで対応する側に回ると痛い目を見るという教訓を得ます。

ネオブランドに当たった1回目はついてないな、しょうがないかぐらいの気持ちだったのですが、2連続で当たったときは絶望しました。3回目はこれでプロツアーの権利が途絶えるのか……と不完全燃焼な気持ちを抱えながら対戦していましたが、相手の事故に助けられて勝つことができました。

ナカティルの最下層民、アジャニスカルドの決戦ゴブリンの砲撃

7回戦ではエスパー御霊に負けてしまい、3-4で迎えた最終戦はミラーマッチ。自分はこういうバブルマッチによく勝利してきたので、今回も勝てると自分を鼓舞して臨んだのですが、2-3本目で《スカルドの決戦》から《ナカティルの最下層民、アジャニ》《ゴブリンの砲撃》がめくれるなど圧倒的にボコボコにされて終了しました。

ミラーマッチでは、《スカルドの決戦》を採用しなかった自分と相手の差が出ていて納得の初日落ちです。

2023年の2月から続いていたプロツアー継続参加も途切れることになり、3年連続の世界選手権出場も叶わずすべてを失うことになりました。ただ、8月に思うような練習ができず、100%練習をやり切って臨むことができなかったのもあり、いつもより悔しい気持ちは小さかったです。

ふとここで、楽しむ気持ちを忘れていたことに気づきました。

再起:PTQへの挑戦

翌日はホテルの部屋でふて寝することも考えたのですが、ふさぎ込んで落ち込むのは日本に帰ってからでもできます。アメリカ滞在中は楽しむことを思い出してみようと考え、参加費125ドルのリミテッドのプロツアー予選(以下PTQ)に参加することにしました。

400人以上の参加者で8回戦のシールド戦があり、32位以内に残った選手たちで翌日に4卓に分かれて8人ドラフトを行います。そのドラフトで3-0をした4人がプロツアー権利獲得となる過酷なイベントです。

かき鳴らす巣槽

まずは予選のシールド戦。全体除去がたくさん飛んできましたが、《かき鳴らす巣槽》に助けられて6-1-1で32位以内に残ることができました。

銀河の旅人新星のヘルカイトピナクルの特使

2日目のドラフトでは、初手は緑の《銀河の旅人》でしたが、2手目《新星のヘルカイト》、3手目《ピナクルの特使》から青赤に一直線に向かっていきました。

卓には二度の世界選手権で準優勝しているマルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoさんや、世界王者である高橋 優太さんもいて厳しい戦いが予想されましたが、1回戦からその2人がぶつかっていたため、彼らとは対戦することなくまさかの3-0!

決勝ラウンドのドラフトの試合は全試合熱戦で、1手でも違っていたら負けていたような試合でした。大きなものが懸かっている試合を、本気の相手と競い合うことの楽しさを思い出せましたね。

初日落ちからすべてを失ったはずだったのに、出来過ぎな結果だと自分でも思いますが、マジックを楽しむことを思い出してPTQを勝利し、次回のプロツアーの参加権利を得ました。

プロツアーに出るためには、とにかく大会に出ることも重要なのでPTQに参加して良かったです。紆余曲折ありましたが、次回は全力でプロツアーに臨みたいという気持ちになりました。

みなさんも、マジックを楽しむ気持ちを忘れずに遊んでいきましょう。

次回は、11月にモダンで行われる『チャンピオンズカップファイナル』、そして1月末に行われるプロツアー『ローウィンの昏明』です。楽しい話題を持ち帰れるように全力で頑張ります!

松浦 拓海(X)

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松浦 拓海 プロツアー『霊気紛争』でプロシーンにデビュー。 アグロデッキを得意とし、そのスタイルに磨きがかかると、2022-2023シーズンでは破竹の勢いで勝利を重ねていく。 エリア予選を赤単アグロで、チャンピオンズカップファイナル サイクル1を白単人間で突破すると、プロツアー・ファイレクシアでも同じく白単人間で自身初となるトップ4に入賞。店舗予選から一気に世界選手権の権利まで獲得し、スター選手の仲間入りを果たす。 また、同シーズンの全プロツアーで2日目に進出しており、安定感のある実力者であることを証明した。 松浦 拓海の記事はこちら