2025年11月10日 禁止制限告知
2025年11月10日、スタンダード・パイオニア・レガシー・パウパーで禁止制限告知が行われました。
ここでは、禁止された各カードについて紹介していきます。
【スタンダード】
《迷える黒魔道士、ビビ》 禁止
《叫ぶ宿敵》 禁止
《プロフトの映像記憶》 禁止
【パイオニア】
《心火の英雄》 禁止
【モダン】
変更なし【レガシー】
《納墓》 禁止
《有翼の叡智、ナドゥ》 禁止
【ヴィンテージ】
変更なし【パウパー】
《満潮》 禁止
スタンダード
《迷える黒魔道士、ビビ》 禁止
スタンダードはここ数か月、芳しくない状況が続いています。「イゼット大釜」が環境最強デッキの地位を完全に固め、勝率/使用率ともに受け入れられない値が持続しています。
あまりにも強すぎたイゼット大釜。ここしばらく、あらゆる大型大会で上位を独占するほどの活躍が続いており、スタンダードのメタゲームを大きく歪めていました。
問題は《迷える黒魔道士、ビビ》が持つ「パワー分のマナ(しかも
と
を好きなように組み合わせられる)を加える」という能力を、《アガサの魂の大釜》によって、ほかのクリーチャーにまで付与できてしまうことでした。
単に《迷える黒魔道士、ビビ》&《アガサの魂の大釜》のコンボを止めるだけであれば、いくらでも方法はあります。しかし、イゼット大釜は強力なコンボを搭載しながらも、フェアに戦う動きも強く、デッキの強度がほかのアーキタイプを凌駕していました。
私たちは、《迷える黒魔道士、ビビ》の禁止を選択しました。このカードをスタンダードに残すと、将来的にもバランス上の問題を起こす可能性が高いという判断です。《迷える黒魔道士、ビビ》の禁止によって、スタンダードはより楽しく多様性に富んだものになると私たちは信じています。
《アガサの魂の大釜》を禁止にするという考えもあったかと思いますが、将来的にまた《迷える黒魔道士、ビビ》とコンビを組んでメタゲームを破壊するカードが登場することを危惧し、今回は《迷える黒魔道士、ビビ》を禁止にしたようです。
逆に、《迷える黒魔道士、ビビ》のような強力な能力を持ったクリーチャーが今後のセットに収録されるようであれば、今度は《アガサの魂の大釜》の禁止が検討されることになるでしょう。
《叫ぶ宿敵》 禁止
アグレッシブなデッキが明確にベスト・デッキであるメタゲームでは遅いデッキの多くが競争力を持てず、得てして多様性が損なわれるものです。そのような結果を避けるため、私たちは《叫ぶ宿敵》の禁止を選びました。
赤単アグロはイゼット大釜に肉薄する強さを持ったデッキでした。もしも、単に禁止改定によってイゼット大釜だけがスタンダードから姿を消した場合、赤単アグロの独壇場になることは容易に想像できるでしょう。
《叫ぶ宿敵》は赤単アグロでもっとも強いカードであり、問題点は2つありました。「赤単に対する対抗策であるライフゲインを封じてしまうこと」「大型ブロッカーを用意しても解決策にならないこと」の2つです。
このような性質を持ったカードがある限り、赤単アグロに対抗するためのデッキ構築や工夫が意味をなさないようになってしまいます。また、コントロールやランプデッキのような遅いゲームレンジのデッキがまったく活躍できないようでは、マジックの本来の特徴である「多様性があって楽しいゲーム」からは遠ざかってしまいます。こういった理由から《叫ぶ宿敵》は禁止となったようです。
《叫ぶ宿敵》の禁止によって、大幅に評価が高くなったのは《跳ねる春、ベーザ》ではないでしょうか。今後は確実に「ライフゲイン」と「ブロッカー」という2つの軸で対抗することができ、赤単アグロのようなデッキに対しては最強のメタカードとして機能することになります。
《稲妻のらせん》や《不可避の敗北》などもこれまで以上に信頼ができるカードとなり、コントロールデッキの地位が全体的に向上することになるでしょう。
一方、赤単アグロが環境から完全に消えてしまうことは望ましくありません。《叫ぶ宿敵》が使えないのであれば、これまで以上に速度を上げるか、対策の上からねじ伏せるような高火力の飛び道具があると良いでしょう。
具体例としては《残響の力線》のような爆発的なダメージに繋がるカードを軸としたデッキや、《無感情の売剣》の出来事面や《自爆》のようなゲーム終盤にブロッカーを無視して大ダメージを与えるカードが活躍することに期待したいですね!
《プロフトの映像記憶》 禁止
《プロフトの映像記憶》には、6月に禁止された《豆の木をのぼれ》との明確な類似点があります。それらはどちらも1枚でゲームプランを立てることができ、ゲームを通して大きな力を発揮します。加えて、戦場に出たときにカードを引ける2マナのエンチャントという点も共通しています。これにより対処されてもカード1枚分の得は残り、対処する側が有利になりにくいのです。
《プロフトの映像記憶》は継続的にクリーチャーに+1/+1カウンターを置いて強化させるエンジンとして優秀なカードです。《量子の謎かけ屋》や《冬夜の物語》といったドローを進めるカードとの相性も良く、これ1枚でゲームプランが立てられるほど、ゲームに強い影響を与えます。
また、すでにスタンダードでは禁止されている《豆の木をのぼれ》もそうですが、このような強力なカードにキャントリップまでついていることが問題視されたようです。放置するわけにいかない性能のためにエンチャント破壊カードなどで対抗するものの、戦場に出たときに1枚引かれているため、実質的に1:2交換を強要されることになります。
スタンダードの基準では、このような性能を持った2マナのエンチャントは許されないようですね。
ところで、まもなく登場する新セット『マジック:ザ・ギャザリング | アバター 伝説の少年アン』には2マナのエンチャントである《妄執の追跡行》がありますね。
キャントリップという面では《豆の木をのぼれ》や《プロフトの映像記憶》ほどの即効性はありませんが、得られるアドバンテージ面では同等です。また、戦場に残った場合はゲームに与える影響もそれなりに大きいので、かなり活躍が期待できるカードなのかもしれません。
教訓と今後
今回、公式が発表した『禁止制限告知』の記事には、スタンダードの項目にだけ「教訓と今後」についての記載がありました。
そのなかで特に印象的だったのは、今回3枚のカードを禁止措置にしたことについての方針に対し、共通点として挙げていた「反撃」というテーマについての記述です。
明確で強力なゲームプランを持つデッキの世界で健全なメタゲームを築くには、それらのデッキに対する強烈な反撃手段を用意する必要があります。有効な反撃の手立てがない強力なデッキが存在するフォーマットは、失敗するでしょう。
今回、まさに問題となった《叫ぶ宿敵》についてですが、本来期待していた役割は「赤単アグロに逆風が吹くメタゲームであっても、赤アグロを使いたいと思えるようなカード」であったということでした。結果としては「赤単アグロへの対抗策を封じ、反撃の手立てをなくすカード」となってしまいましたが、取り組みとしては必要なチャレンジであったのではないでしょうか。
スタンダードのメタゲームは、カード単体のパワーレベルではなく複数の強力なカードが生み出すシナジーの上限によって定義されることが多くなってきています。これに適応できるよう、デザインの変化が進行中です。私たちにはまだ成長の余地があります。
また、マジックのプレイ・デザイン・チームに所属するデザイナーたちの話によると、「今後はカード単体のパワーだけでなく、複数の強力なカードが生み出すシナジーにもより一層の注意を払う」ということが言及されていました。
さらに、来年からは禁止制限告知の頻度を上げる予定であることも発表されています。スタンダードに健全なメタゲームが訪れることを期待しましょう!
パイオニア
《心火の英雄》 禁止
今回の禁止措置の目標を総じて言うなら、赤単の勝率を下げることです。なかでも《心火の英雄》が環境に与えている「第1ターンに対処できるかどうか」の(あるいは第3ターンに負けてしまうという)プレッシャーを緩和することをターゲットにしました。
スタンダードに比べればパイオニアのメタゲームは遥かにうまく回っています。それでも、やや赤単アグロの勝率が高すぎることが問題となっていたようです。
1ターン目《心火の英雄》、2ターン目《多様な鼠》の動きは特に強力で、《心火の英雄》に毎ターン二段攻撃が付与されるとブロックもままなりません。
また、《巨怪の怒り》や《無感情の売剣》の出来事面による《投げ飛ばし》要素まで加わると先手3ターン目にゲームが終わってしまうこともたびたびありました。
《心火の英雄》を禁止にすることで、1ターン目から過剰なプレッシャーがかかることを避ける目的があるようです。今後は《僧院の速槍》がまた赤単アグロのエースアタッカーとして採用されるようになるかもしれませんね。
また、《心火の英雄》と比べると見劣りはしますが、《騒音の悪獣》も《投げ飛ばし》するのに適したクリーチャーなので注目です。
赤単の勝率が少し下がり、パイオニア環境がさらにバランスが良くなることを期待しましょう!
レガシー
《納墓》 禁止
「ディミーア・リアニメイト」は何年にもわたりレガシーのメタゲームの頂点に君臨し続け、複数回の禁止を経てもなおほとんど揺るぎませんでした。
はい。ディミーアリアニメイトをなんとか弱体化させるために、運営がずっと頑張っていたことはみなさんもご存じだと思います。
2024年8月に《悲嘆》、2024年12月には《超能力蛙》、2025年3月には《カザド=ドゥームのトロール》が禁止となりました。これだけメスを入れても、ディミーアリアニメイトはずっとレガシーで最強デッキのままだったのです。
やはり、《納墓》+《再活性》のプレイパターンが強すぎたことが問題でした。リアニメイトされるクリーチャーも《墨溜まりのリバイアサン》のような可愛らしいファッティではなく、戦場に出るのを許したら「ほぼ挽回不可能」となる《偉大なる統一者、アトラクサ》であることがディミーアリアニメイトの強さに拍車をかけています。
この強力なリアニメイト戦略をハンデスとピッチカウンターでサポートされては、なかなか突破口が見出せません。サイドボードを含めて墓地を過剰にメタっても、今度は《ダウスィーの虚空歩き》や《バロウゴイフ》によるフェアなビートダウンプランが止められず、対処が非常に難しいデッキとなっていました。
《納墓》の禁止は決して安易に決められたものではなく、踏み切った一歩は喜びに満ちたものではありません。《納墓》は数年にわたり、ゲーム・デザインの観点から素晴らしいことを多数成し遂げてきました。デッキのアイデアを生み出し、象徴的な存在となり、ときにレガシーでの使用に耐えるカードの幅を広げたこともありました。
《納墓》自体はレガシーを象徴する素晴らしいカードであると認めています。禁止理由について説明する文章から、ゲームデザイナーたちの悔しさがにじみ出ていますね……。幾度の禁止改定を経てもディミーアリアニメイトによる支配を止めきれず、ついには《納墓》を禁止することでしか解決策がなかったようです。
また、リアニメイトデッキの「通常でない手段で大型クリーチャーを繰り出す」側の部分が好きだったプレイヤーに対しては、そのプレイスタイルに合う道をぜひ見つけていただきたいと思います。
クロックパーミッション側の部分が好きな方にはイゼットデルバーやディミーアテンポなどがお楽しみいただけるでしょう。「両方が簡単に狙えるデッキはダメ」ということですね。
《有翼の叡智、ナドゥ》 禁止
《有翼の叡智、ナドゥ》の禁止はまったくの予想外だったかもしれません。こちらは《納墓》と比べてもう少しわかりやすい存在です。これまでレーダーを潜るように飛んできましたが、そのパワーレベルは異常値を指しています。
このカードが禁止されることについて、疑問を持つプレイヤーはいないでしょう。このあたりは日本と海外のメタゲームの違いが影響しているかもしれませんが、「まったくの予想外」ということはありません。
ただし、禁止理由についての説明では「セファリッド・ブレックファースト」で使われる分には問題ないとされていました。動きがコンボ・デッキとして好ましく、対抗手段が機能するポイントが非常にはっきりしており、干渉しやすいデッキであるからです。
問題視されたのは「バントナドゥ」のようなミッドレンジ型のデッキです。
ミッドレンジ版の「ナドゥ」デッキは、相手だけコンボをしていると感じられるほど他のデッキの上を行く動きを見せ、しかもその「コンボ」は確定で決まらず、解決までに長い時間を要し、管理が物理的に難しく、またゲームが実質的に決着しているにも関わらず対戦相手を倒すまでに時間がかかります。
コンボ中のゲーム体験があまり良くない上に、コンボが決まらなかったとしてもゲームが続き、ダラダラと長期化してしまうことがよくありました。クリーチャー主体のデッキであるためコンボ対策もしづらく、好ましいコンボデッキではなかったということでしょう。
パウパー
《満潮》 禁止
堅実な成績に、コンボ完遂までにかかる時間の法外な長さ、楽しくないプレイ・パターン、そして極端な展開がフォーマットに生まれることを鑑みて、私たちはここで再び《満潮》を禁止することにした。試験的禁止解除は素晴らしい実験であり、やってよかったと思う。
今回の《満潮》の禁止については別途、パウパー・フォーマット委員会のガヴィン・ヴァーヘイが「2025年11月10日のパウパーにおける《満潮》禁止についての説明」という記事でより詳しく説明しています。
そもそも《満潮》はマジック史上初の「試験的禁止解除」とされたカードであり、これによってパウパー・フォーマットのメタゲームがどのように変化するか経過観察するための「実験」を兼ねた解禁でした。
目論見通り、パウパーで新たに「ハイタイド」というデッキが誕生し、一定の活躍を見せたのは良いことです。しかも、メタゲーム全体的の占有率が高すぎるということもなく、許容範囲のデッキであったと言えるでしょう。それでも、《満潮》は禁止となりました。
2025年11月10日のパウパーにおける《満潮》禁止についての説明より引用
「ハイタイド」側のプレイヤーは、次のターンに敗北すると見ればコンボ始動に踏み切ることだろう。つまりどのゲームでもコンボのターンが発生することになる。そうなれば「ハイタイド」側のプレイヤーがゲーム時間の大部分を占有し、その間対戦相手は座り続けるという悲惨なゲーム体験に帰結するだろう。
《満潮》が問題視されたのは、ほぼ毎ゲームでハイタイド側の長いターンが発生してしまうことでした。対戦相手のプレイ体験も決して良いものとは限らず、トーナメントにおいて、このようなデッキが存在するとイベント全体のタイムスケジュールにも影響を及ぼします。
加えて、コンボデッキであるハイタイドとマッチングしたフェアデッキの多くは「コンボ始動ターンまでに決着をつけたい」と考えるようになり、「どちらが先に勝つかのレースが過熱」するようになったとのことです。
勝つにしても負けるにしてもプレイヤーたちのゲーム上のやりとりは減り、ゲーム自体が圧縮され、パウパーの魅力である「ゲームが段階的に展開していく」という要素が極端に少なくなってしまいました。
ハイタイドが強すぎたということはありませんが、パウパーをより楽しいフォーマットにするためには、このようなデッキが人気になることは望ましくないようですね。
2025年11月10日のパウパーにおける《満潮》禁止についての説明より引用
いつもパウパーをプレイしてくれているみんな、そして試験的禁止解除という実験に参加してくれたみんな、本当にありがとう。やる価値のある実験だったし、たぶん将来的にまた試すことになると思う。
ちなみに「試験的禁止解除」はこれからもたびたび行われるそうです。カード単価が比較的安い、パウパーだからこそできる実験なのかもしれませんね。
展望
今回はスタンダード・パイオニア・レガシー・パウパーと、4つのフォーマットで禁止改定がありました。なかでも影響が大きいのは、スタンダードとレガシーでしょう。
スタンダードで有力なデッキとしては「ディミーアミッドレンジ」や「シミックウロボロイド」は禁止されたカードがなく、依然として強そうです。
レガシーは完全にディミーアリアニメイトがいなくなるかどうか、現時点では予想がつきません。ただ、ディミーアリアニメイト勢が一斉にデッキを乗り換えるとしたら、おそらくは「ディミーアテンポ」が最有力となるでしょう。
また、今回の禁止改定を無傷で乗り越えた「カーンフォージ」や「エルドラージ」からも目が離せません。
そして!今週金曜日からは『マジック:ザ・ギャザリング | アバター 伝説の少年アン』のプレリリースが始まり、各フォーマットで新セットのカードが使えるようになります!まさしく心機一転、フレッシュなメタゲームが始まるのではないでしょうか。
新カードはもちろん、これまで活躍の場が与えられなかった既存のカードたちにもスポットライトが当たるチャンスです!ぜひ、いろんなカード、いろんな構築を試して新環境のマジックを楽しんでいただければと思います!

































































