はじめに
こんにちは。晴れる屋メディアの紳さんです。
週末に『第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』が開催され、アメリカのセス・マンフィールド選手が2015年以来、自身2度目の優勝を果たしました。
マジックプレイヤーにとって最高の名誉である「世界選手権制覇」を2度も達成したことは、イスラエルのシャハール・シェンハー、スペインのハビエル・ドミンゲスに続く3人目の快挙となります。
さて、今回は世界選手権の結果を見ながら、最新のスタンダードのデッキを紹介していきます!
世界選手権のメタゲーム
まずは、今大会におけるデッキの分布、メタゲームについて見ていきます。
ごらんのように、トップメタはイゼット講義、使用率2位にティムールカワウソ、3位にバントエアベンダーというメタゲームとなりました。
最新デッキのイゼット講義とバントエアベンダーが人気を集め、さらには、既存デッキながら新カードの加入によって劇的な進化を遂げたティムールカワウソが急激に勢力を拡大しています。
また、《叫ぶ宿敵》の禁止が響いたのか、ながらくスタンダードのメタゲームを牽引してきた赤単アグロは上位から姿を消しました(使用者3名)。代わりに、イゼットルーティングがアグロデッキの期待の新星として頑張っています。
カード採用枚数ランキング トップ20
つづいて、カード採用枚数ランキングを見ていきましょう。どんなカードが多く採用されたでしょうか。
| カード名 | 採用枚数 |
|---|---|
| 《ブーメランの基礎》 | 253 |
| 《アナグマモグラの仔》 | 183 |
| 《アイローの表演》 | 97 |
| 《積み重ねられた叡智》 | 92 |
| 《爆裂の技》 | 91 |
| 《火の技の修行》 | 90 |
| 《ばあば》 | 90 |
| 《愛着を捨てる》 | 78 |
| 《素早き救済者、アン》 | 68 |
| 《不動の守護者、アッパ》 | 67 |
| 《岐路に立つアン》 | 58 |
| 《トラアザラシ》 | 43 |
| 《飲めば潤う!》 | 42 |
| 《クルクの伝説》 | 38 |
| 《キヨシ島の大ウナギ》 | 29 |
| 《気のベンダーの位に至る》 | 26 |
| 《アグナ・ケラ》 | 22 |
| 《アバターの怒り》 | 19 |
| 《アンの氷山》 | 19 |
| 《黒い太陽の日》 | 15 |
《ブーメランの基礎》が253枚で1位、《アナグマモグラの仔》が183枚で2位という集計結果となりました。この2枚の採用枚数は圧倒的ですね!
3位には講義デッキの除去の要である《アイローの表演》がランクインしています。小粒クリーチャーをまとめて除去したり、システムクリーチャーの除去に持ってこいの性能です。
『第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』
それでは、世界のトッププレイヤー126名が集結した『第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』の大会結果を見ていきましょう。
『第30回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』
優勝 イゼット講義
準優勝 イゼット講義
3位 ティムールカワウソ
4位 イゼット講義
5位 イゼット講義
6位 イゼットルーティング
7位 ティムールカワウソ
8位 スゥルタイリアニメイト
9位 イゼットコントロール
10位 イゼット講義
11位 ディミーアミッドレンジ
12位 ジェスカイコントロール
13位 イゼット講義
14位 ティムールカワウソ
15位 バントエアベンダー
16位 ティムールカワウソ
《ばあば》おそるべし。
圧倒的な強さで勝ち進んだイゼット講義が、優勝&準優勝のワンツーフィニッシュを決めました。なんと、トップ16中6名がイゼット講義という、素晴らしいパフォーマンスを見せています。
さらにはメタゲームで上位人気だったティムールカワウソもトップ16に4名が入賞しており、現環境の有力デッキの1つであることを証明しました。
イゼット講義
イゼット講義を使用したセス・マンフィールド選手はドラフトで始まった予選ラウンドを2連敗してから、怒涛の10連勝で予選突破を決め、その勢いのままに決勝トーナメントでは3-0、3-0、3-0と1ゲームも落とすことなく優勝しております。強すぎましたね。
おなじくイゼット講義を使用し、初出場ながら見事に準優勝という成績を残した日本の芝田 輝良選手にも注目が集まりました。セス選手とは採用するカードに微細な違いはありますが、マナベースを含めてほとんど同じ構成のデッキです。
ひとえにイゼット講義といっても、初期の頃に流行った《「占星術師」の天球儀》と《勇敢なブーメラン使い、サカ》を採用した型、初日の予選ラウンド全勝者であるデリック・デイヴィス選手のように《渦泥の蟹》を採用した型など、アプローチは多岐に渡ります。
しかし、なんといっても圧巻だったのは《忍耐の記念碑》と《美術家の才能》を採用したルーティングシナジー型でした。《美術家の才能》によってクリーチャーではない呪文を唱えるたびにルーティングが誘発し、《忍耐の記念碑》の性能をあますことなく発揮することが可能です。
さらには覚醒した《ばあば》やレベル2にアップした《美術家の才能》によってクリーチャーではない呪文のコストを下げられる点も強力で、爆発的なターンをつくることができます。《忍耐の記念碑》をプレイするためのコストまで下がるところがポイントで、ドローを回しながら2枚目、3枚目の《忍耐の記念碑》を引いてきても嬉しい状況となります。
デッキの構造的に、不必要なカードはルーティングで捨てればいいため、クリーチャー除去としてしか使えない火力もふんだんに採用することができます。また、これらのカードが講義であるため、《ばあば》を素早く覚醒させながら1マナで《積み重ねられた叡智》を唱えるといった黄金ムーブが可能です。
デッキに《アンリコ》が4枚も入っていたら、そりゃあ強いですよね。
結果的に、《忍耐の記念碑》を対処するためのアーティファクト対策をメインから採用しているデッキが少なかったことが、今回の活躍に拍車をかけました。ただし、これだけ派手なパフォーマンスを見せつけられては今後のマークがキツくなることは間違いありません。
現スタンダード環境では《削剥》や《無効》などは無理なく採用されることでしょう。緑のデッキなら《嵐追いの才能》や《美術家の才能》などもまとめて破壊することができる《削弱》の採用に注目したいところです。
《忍耐の記念碑》でカードを引かれたあとに破壊するのは損ですが、放置するよりはマシだと思われます。
それにしても、イゼット講義を対策するのは難しいですね。《カワウソトークン》の相手をしつつ、墓地対策にも気を配り、さらには置き物もこまめに破壊しなければならないなど、勝つために要求されることが多いです。
これらをこなしながらアドバンテージ面でも上回らないといけないため、並大抵のデッキでは太刀打ちできないのも納得です。今後のスタンダード環境は、どのようにしてイゼット講義を攻略するかがポイントになることでしょう。
ティムールカワウソ
3位入賞を含む、大活躍を見せたティムールカワウソは今大会で再ブレイクしたデッキの一つです。
注目ポイントとしては、青いデッキの定番となっている《ブーメランの基礎》と《嵐追いの才能》のコンビがそのままループコンボのパーツとして機能するということです。
上記の一連の流れが合計


で可能なのですが、《渓間の洪水呼び》と《永劫の活力》が戦場にいるならば、3体のカワウソ(ネズミでも可)がいるだけでループが成立します。
(《嵐追いの才能》や《ブーメランの基礎》をプレイするとカワウソ達がアンタップするため、3マナ出ればOK)
当然、新カードの《アナグマモグラの仔》がいればさらにハードルは下がり、マナを生み出せるカワウソは2体でも大丈夫です。
ひとたびループコンボが成立すれば無限トークン + 無限ドローとなるため、《トーテンタンズの歌》にたどり着いた時点で勝ちとなります。(厳密にはライブラリーアウトの可能性を考えると無限ループではないのですが、おおむね勝ちと言って差し支えなさそうです)
《渓間の洪水呼び》が瞬速を持っているため奇襲性があること、《永劫の活力》は破壊されてもエンチャントとして戦場に戻ってくるため除去耐性があること、そもそも《カワウソトークン》を並べて攻撃するだけでも強いことがこのデッキの強度を高めているようです。「コンボに依存せずとも勝てる」のは強いコンボデッキの特徴ですよね。
さらに、クリーチャーコンボでありながら《門衛のスラル》《倦怠の宝珠》によって妨害されない点も好材料です。ただし、《鳴り渡る龍哮の征服者》はえぐい刺さり方をするため、油断しないようにしましょう。
新型のティムールカワウソがメタゲームにどのような影響を与えるのか、今後の展開に注目です。
スゥルタイリアニメイト
行弘 賢選手は破壊力抜群のスゥルタイリアニメイトで快進撃を続けました。所属する「森山ジャパン」のチームメンバーである中村 修平選手や原根 健太選手も同じリストのデッキを使っており、おそらくチームによる調整デッキの1つだと思われます。
なお、行弘選手はプロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』で悲願の初優勝、さらには世界選手権トップ8入賞と目覚ましい活躍のシーズンを過ごし、見事にプレイヤー・オブ・ザ・イヤー(年間最優秀賞)を獲得しました。
墓地を肥やしてから、《スーペリア・スパイダーマン》を実質的に《最後の贈り物の運び手》としてプレイすることで、戦場と墓地のクリーチャーが入れ替わるという派手な能力が誘発します。なぜか追放される予定だった《最後の贈り物の運び手》まで一緒に戦場にでてくるのが面白いコンボです。
今回のリストでは《簒奪者、アーデン》が3枚と多めに採用されているため、一撃性能が高くなっています。デーモンである《最後の贈り物の運び手》たちが速攻を持つため、即座に攻撃してゲームを終わらせることができるでしょう。一緒に《峰の恐怖》が戦場に出た場合は、攻撃するまでもなく対戦相手のライフが消し飛びます。
また、このデッキは2マナのアクションもそれなりに強いため、ただ墓地を肥やすためだけの「犠牲のターン」になりにくいという特徴があります。特に《不注意な読書家》と《繁殖蜘蛛》はタフネス3と、2ターン目に出るブロッカーとしてそれなりに信頼のできる性能です。
《ベイルマークの大主》は序盤のガードこそ下がりますが、お互いにリソースを消耗し合ったゲーム終盤に5/5のクリーチャーとして機能する点が優秀です。コンボパーツを探すための手段としても重宝しますね。
除去をしながら墓地の状況を良くしていき、4ターン目には実質的に勝負を決める動きが可能ということで、ハマったときの爆発力・理不尽さは現環境トップクラスです。
動きが派手な分、打ち消しなどの妨害も気になるところですが、《魂の洞窟》が打ち消し耐性を持たせています。証拠収集した《花粉の分析》によって《魂の洞窟》をサーチすることもできるため、青いデッキ相手に対する苦手意識は少なさそうです。
弱点はサイドボード後の墓地対策によって完封されることでしょうか。これらの対策を乗り越えるためには置き物破壊が必要となることでしょう。
今回のリストでは、サイドボードから「対策の対策」として置き物を破壊できるカードが数種類採用されていました。メインからフル採用している《誉れある死者の目覚め》と合わせて考えれば、それなりに枚数は確保できています。
《網撃の精鋭》は面白いカードで、

を支払ってサイクリングすることで、ドローしながらマナ総量Xのエンチャントやアーティファクトを破壊することができます。起動型能力なので打ち消されにくいところが良いですね。
破壊したい置き物のマナ総量によっては、それなりに重いコストの支払いが求められるカードではありますが、ほとんどの墓地対策カードは1-2マナなので現実的に破壊することができそうです。


で《嵐追いの才能》を破壊することもでき、《ブーメランの基礎》で手札に戻そうとしたときや、レベル2に上げようとしたときに狙って破壊できれば脳汁が溢れてきそうですね。
イゼット講義が台頭した影響で環境的に墓地対策への意識が少し向上していることが気がかりではありますが、多少の不利や対策を乗り越えて勝ちきるデッキパワーは魅力です。果たして、今後はどのような立ち位置になるでしょうか。
バントエアベンダー
バントエアベンダーは前年度王者のハビエル・ドミンゲス選手が使用し、見事トップ16入りを果たしました。
決勝トーナメント進出まであと一歩のところで負けてしまいましたが、「史上初のスリータイムス・チャンピオンの誕生」が現実的に見えるラインまで勝ち残ったのは、さすがですね。
このデッキもまたクリーチャーコンボの一種ではありますが、コンボパーツの《素早き救済者、アン》が妨害札としても優秀なところが最大の強みです。スタックにある呪文や戦場にいるクリーチャーを対象に取れるため、対応できる幅が広いですね。
相手の決め手となる動きを《素早き救済者、アン》で一旦封じておいて、返しのターンに《不動の守護者、アッパ》を着地させて勝ちにいけるのはさすがに強力です。
3種類で合計11枚のマナクリーチャーは、ブン回りルートへの案内人でもありながら、事故を起こす要因にもなるため、ほかのカードとバランスよく引けるかどうかが決め手となりそうです。
《アナグマモグラの仔》と相性が良いのは間違いありませんし、《自然の律動》という絶好のマナの注ぎ先があることは強みとなるでしょう。《木苺の使い魔》は「気の技」で追放し、出来事面を踏み倒して唱えるという裏ワザがあり、将来性が抜群です。とりあえず2マナで出しておけば対戦相手にプレッシャーをかけることができますね。
1枚の除去で簡単にコンボが止まるため、スゥルタイリアニメイトのように警戒された状態からでも決めきるほどの貫通力はありません。こちらのクリーチャーと相手の除去がぶつかり合い、消耗戦になった際には《岐路に立つアン》を「気の技」で使い回したり、サイドボード後は《量子の謎かけ屋》を投入して長期戦に備えるようです。
サイドボードに1枚採用された《アブソリュートヴァーチュー》が「このデッキの覚悟」を体現していました。ただし、《忍耐の記念碑》は対象を取らずにライフルーズさせてくるため、なんと《アブソリュートヴァーチュー》の影響下でもゲームに負けうるのです。なんということでしょうか……。
さておき、相手の仕掛けを誘い、《素早き救済者、アン》で弾いてからの《不動の守護者、アッパ》という流れは、武道における「後の先」に通じるものがあってカッコいいです。マジックの達人を目指すなら、ぜひ使ってみたいデッキですね!(隠しきれない《灰毛の天才、オーロック博士》の存在感はさておき)
おわりに
以上、『第31回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権』の結果と活躍デッキをお伝えしました。
もちろん、今回紹介したデッキ以外にもまだまだ有力なデッキはありますが、まずはイゼット講義とティムールカワウソが環境のツートップと考えて問題はないでしょう。
これらのデッキを使用する側に回るのか、あるいは倒す側に回るのか。メタゲームがまた激しく動き出しそうですね!
2025年もラストスパートです!次回の大会結果もお楽しみに!
























































