現ヴィンテージ神・横川 裕太のサイドボーディング・テクニック
先日開催された『2025 Asia Vintage Championship』の会場にて、強豪プレイヤー・横川 裕太の姿があった。
横川といえば、晴れる屋主催の『ヴィンテージ神決定戦』での現・ヴィンテージ神でありながら、去年の『2024 Asia Vintage Championship』の優勝者でもある、言わずと知れたヴィンテージマスターだ。今年も当然のようにトップ16入賞という結果を残した。
「マジックの深淵」ヴィンテージにおいて、横川がなぜここまで安定して勝ち続けることができるのだろうか?
「なぜそんなにも勝てるのか?」と問うと、横川は言った。
「BO3ならメインが1ゲーム、サイド後は2ゲーム。マジックはメイン戦よりサイド後の試合の方が多いゲームなんです。つまり……」
なるほど。どうやら、横川の強さの秘密はサイドボーディングにありそうだ。さっそく話を聞いてみた。
シンプルな考え方が重要。基本的なサイドボーディングの考え方
サンプルデッキ・ディミーアルールス(2025 Asia Vintage Championshipにて横川が使用)
――それでは、このディミーアルールスのデッキを例として、サイドボーディングのコツを教えてください。
はい。まず、ルールスデッキというのは受けのデッキです。すなわち、ヴィンテージにおけるもっとも一般的なコントロールデッキと考えることができます。
序盤から相手の動きを妨害し、出鼻をくじいて徐々にアドバンテージが取れるカードをプレイしていき、ゲームをコントロールしていくというのが目指す勝ち方です。
序盤の妨害がとにかく肝心なため、0-1マナでプレイできる打ち消しが多めに採用されています。いかに自分が得意とするゲームレンジに持ち込むか、というところに重点を置いているため、サイドボードに採用するカードも基本的にはそこを目指すために必要なカードで構成されています。
――なるほど。「自分のデッキの勝ちパターンを想定し、その実現のために必要なカードを選択していく」ということですね。
そして、さらに「対戦相手のデッキに対し、こちらがなにをすれば勝てるのか」を考えることが、的確なサイドボーディングをするためのコツだと考えています。
――ヴィンテージにはたくさんのアーキタイプがあり、すべてのデッキに対応するのは難しくありませんか?
確かに、いろんなデッキがありますが、大別することで4つまで絞ることができると考えています。
例えばヴィンテージにおける現在の有力デッキはコントロール・イニシアチブ・アーティファクト・ドレッジの4つです。もちろん、オースのような例外もありますが、基本的にはその4つのデッキに対して「自分がどんな動きをすれば勝てるのか?」を突き詰めて考えることで、対策案を非常にシンプルにまとめることが可能となります。
――なるほど。メタゲームを読んで的を絞るということですね。
例えば、イニシアチブ相手には「①序盤のマナアーティファクトを打ち消す。②相手のクリーチャーを除去する。③こちらがクリーチャーで殴り返してイニシアチブを奪い取る」という動きをすれば勝てるので、それを実現するためのカードをサイドインします。
イニシアチブのようなクリーチャーデッキ相手に《否定の力》をサイドインすることは、一見、アンマッチに見えますが僕は入れます。序盤のマナアーティファクトを打ち消すことが可能だからです。
マナアーティファクトの着地を許すと、一方的な展開を作られて逆転が難しくなります。逆に、初動を挫くことで除去やこちらのクリーチャーの殴り返しが間に合う展開となり、互角以上に戦えるようになるのです。
――常に有効なカードだけではなく、「自分が勝てる展開に持ち込むためのカード」も重要というわけですね。
アーティファクトデッキの場合はさらにシンプルで、「致命的な呪文を打ち消して《無のロッド》を置いたら勝ち」です。
《無のロッド》さえ置けたら、あとは《アージェンタムのマスティコア》のような《無のロッド》を無視してくる脅威に対して打ち消しを使えば勝てます。
ドレッジの場合は「墓地対策カードをプレイして、マストカウンターを対処すれば勝ち」です。
このように、デッキを絞り、それらに勝つための条件を考えることが的確なサイドボーディングのコツだと考えています。イメージとしては「サイド後にデッキを適切にする」という感じですね。
ちなみに、どのマッチアップでもメインから6-7枚ほどのカードは入れ替え候補となります。
ルールスデッキにとってはサイドボードの枠は14枚しかありません。今回のようにアーキタイプを大別して4つまで絞ったとしても、1つに対して割ける対策カードは平均3.5枚しかなく、サイドボードの枠は圧倒的に足りないということがわかります。
――4つまで絞っても、足りない。アーキタイプを大別しなければ、もっと大変なことになっていましたね。
サイドボードのカードの選び方
――実際に、サイドボードに入れるカードはどうやって決めているのでしょうか?
大きく2つに分けて考えていて、「役割が多いカード」と「役割は少ないが、そのカードにしかできない仕事をするカード」をバランスよく採用することを目指しています。
例えば、《虚無の呪文爆弾》だったら墓地対策をしつつ、いざとなったら《夢の巣のルールス》と組み合わせてドロー・エンジンに変換することができます。同じ墓地対策でも、《トーモッドの墓所》と比べると、役割が1つ多いカードと考えることができますよね。
誘発型能力も対象に取れる《記憶への放逐》は対応できる幅がとても広く、あらゆるデッキに対してサイドインすることができます。
《ダウスィーの虚空歩き》はブロックされずらいクロックなのでアグレッシブ・サイドボーディングにもなりますし、イニシアチブを巡る戦いでも役に立ちます。さらには墓地対策にもなり、いざとなれば対戦相手のカードを奪って使用できるオールマイティなカードです。
――《ダウスィーの虚空歩き》がオールマイティなカードならば、メインに4枚採用したりはしないのですか?
オールマイティといっても「(なにかの)代わりになる可能性がある」ぐらいです。毎ゲーム
が簡単に用意できるわけでもありませんし、ブロッカーとしては期待できなかったり、使いにくい部分もそれなりにあります。
役割が多いカードは足りないサイドボードの枠を補填するという意味もありますが、メインのカードと入れ替えたとき、なるべくデッキの動きを制限せずに「幅」を持たせることができるという意味もありますね。
一方、《レイ・オヴ・エンフィーブルメント》はあまりにも役割が少ないカードです。このカードを採用していることでほかのプレイヤーに笑われることもあります(笑)。
しかし、白単イニシアチブ相手に《エメリアのアルコン》を出されてしまうと、セットしたフェッチランドをすぐに切って「紛争」達成からの《致命的な一押し》といった動きができず、致命的なテンポロスになることがあります。そんなとき、ライフを温存しながらたった黒1マナで《エメリアのアルコン》を対処できるカードは《レイ・オヴ・エンフィーブルメント》以外になかなかありません。
《美徳の喪失》も役割は少ないのですが、イニシアチブに採用されることが増えている《ヴェクの聖別者》を確実に対処できる数少ないカードです。 《致命的な一押し》のように汎用性が高いカードばかりに頼っていると、対処できない盤面が訪れることがあります。
このように、役割が少なくても「このカードにしかできない仕事がある」というのはサイドボードに採用する理由になります。各マッチアップの得意・不得意、有利・不利を考えながら、バランス良く「役割が多いカード」と「劇的な活躍をするカード」を採用すると良いですね。
――尖ったカードの採用にも明確な理由があり、「サイド後にデッキを適切にする」という考えがしっかり伝わってきました。そんな横川さんが考える「このデッキから今後、一番抜ける可能性が高いカード」はなんでしょうか?
《徴用》ですかね。安定して撃てるタイミングが少なく、最近はアンプレイアブル寄りのカードという評価になってきました。
ヴィンテージ神に導いてくれた《オークの弓使い》と《Timetwister》は絶対に抜きませんよ(笑)!





























