はじめに
絶えず悪をのぞみ、絶えず善をなす、あの力の一部分です。
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ『ファウスト』
《Candelabra of Tawnos》が禁止になった衝撃も束の間、『マジック:ザ・ギャザリング | マーベル スーパー・ヒーローズ』統率者デッキに収録された“とある”カードがレガシーで一世を風靡している。
ご存知、《ファンタスティッカー》だ。
その流行はすさまじく、特にMagic Onlineでは石を投げれば《ファンタスティッカー》に当たるといっても過言ではないかもしれない。
現在のレガシー、あらため「峠」では、日々走り屋たちが新車を4つに分裂させ、しのぎを削っている。
何がレガシーに起こったか?
リリース当初、《ファンタスティッカー》が爆走したのはヴィンテージだった。
《Mishra’s Workshop》から《ファンタスティッカー》を唱え、《Black Lotus》、各種Moxなどの
マナアーティファクトを3つ唱えればいとも容易く分裂条件を満たすことが可能だ。
さらに《まばゆい肉掻き》が戦場にいる状態で《ファンタスティッカー》が分裂すると、きれいに20点削りきることができる。レイカーショップは現在もヴィンテージのトップメタだ。
一方でレガシーコミュニティにはどこか楽観があったように思われる。
もちろん《ファンタスティッカー》のポテンシャルを期待する声や、ぶっ壊れという意見もあったが、《Black Lotus》や《Mishra’s Workshop》、各種Moxが存在しないレガシーでは、デッキの構築を《ファンタスティッカー》のためにかなり寄せなければならず、使われたとしても主戦場になることはないだろう、と。
しかし、デジタル実装後すぐに結果を出すデッキが登場した。ドゥームズデイだ。
ドゥームズデイは本来、アーキタイプ名にもなっている《最後の審判》を唱え、自身のライブラリーを5枚にし、最終的に《タッサの神託者》の能力で特殊勝利を目指すコンボデッキだが、デッキの構成を極端に変えることなく《ファンタスティッカー》を採用することで高速ビートダウンというサブプランを実現していた。
これを皮切りに、レガシーの様々なデッキで《ファンタスティッカー》が試されるようになっていった。
ぼくらの大好きな《ファンタスティッカー》
非論理的なものを考えることはできない。なぜなら、それができるのならば、私たちは非論理的に思考しなければならなくなるからだ。
ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン『論理哲学論考』
もはや自明かもしれないが《ファンタスティッカー》は何が強いのだろうか?
まず挙げられるのが、その規格外のビートダウン性能だろう。ひとたび分裂すれば飛行・速攻の4/4構築物・トークン4体となりたちまち16打点を作り出す。1ターン目に16点ダメージを与えれば対戦相手は虫の息であり、その状態で4体の4/4飛行クリーチャーへの対処を強要する。
次は、分裂条件の緩さと対処しづらさを挙げることができる。
先に述べたように、ヴィンテージと異なり、レガシーで同一ターンに4回非クリーチャー呪文を唱えるためにはそれなりに構築を寄せる必要があり、ハードルが高いと考えられていた。しかし、《暗黒の儀式》や《厳かなモノリス》といったマナ加速に
マナのアーティファクトを絡めることで存外容易に条件を満たすことが可能であった。
たとえば土地から《暗黒の儀式》→《ファンタスティッカー》→《水蓮の花びら》ですでに3つのスペルを唱えており、次に《ミシュラのガラクタ》などの
マナアーティファクトや《水蓮の花びら》から《思案》なり《渦まく知識》なり《思考囲い》なり1マナの呪文を唱えれば条件をクリアだ。リソースを大きく消費するものの決まればほぼ勝ちなのだからなんの問題もないだろう。
また、《ファンタスティッカー》はアーティファクト・機体であるため比較的対処されにくく戦場に残りやすい。よって、出したターンに分裂せずとも準備を整えてから動き始めることも可能である。
非クリーチャー呪文を唱えた際に4/4飛行のクリーチャーになることを選べるが、クリーチャー除去や《輪作》からの《カラカス》などを考えると無闇にクリーチャー化しない方がいいだろう。
対戦相手からすると、誘発型能力であるという点も厄介だ。もちろん、《もみ消し》や《記憶への放逐》といったカードで対処することは可能ではある。しかし、青くないデッキがこれを行うのは不可能ではないものの極めて難しい。
たらればの話ではあるが、《ファンタスティッカー》の能力が《真髄の針》や《無のロッド》で対策できる起動型能力であったならば、これほど隆盛することはなかったかもしれない。
最後に、《ファンタスティッカー》の強さとして挙げられるものといえば
マナというマナコストだろう。
レガシーにおいて3マナは決して軽いとは言えない。ヴィンテージほどのマナ加速ができないため《目くらまし》が環境を定義する1枚として存在しているからだ。それでも出ないわけではない。
先述の《暗黒の儀式》や、《古えの墳墓》《裏切り者の都》といったソルランドに《水蓮の花びら》《金属モックス》《オパールのモックス》《厳かなモノリス》などのマナアーティファクト、あるいは《エルフの指導霊》《猿人の指導霊》のように手札から追放することでマナを生み出せるクリーチャーを絡めることで捻り出すことは可能だ。もたらされるリターンを考えれば、十分払う価値のあるコストなのだ。
さらに、不特定マナであることが非常に多くのアーキタイプで採用される要因になったといえるだろう。もし《ファンタスティッカー》のマナコストが

のように色拘束がきついものであったのならば、これほど見かける機会はなかったと考えられる。
色を問わない不特定3マナと、非クリーチャー呪文を4回唱えるだけという条件の緩さ。この2つが組み合わさることで、本来はまったく異なる速度で回っていたはずの各アーキタイプが、次第に同じ坂道を攻める姿へと均されていった。
天路歴程
現在のレガシー、もとい「峠」には《ファンタスティッカー》を採用した様々なデッキが存在する。
ドゥームズデイ
《ファンタスティッカー》を採用し、最初に結果を出したドゥームズデイでは、すでに定番カードとなりつつある。6月23日の『Legacy Challenge』で結果を出した以降も、『League』5-0や『Challenge』入賞など活躍をみせている。
コンボデッキではあるものの、コンボパーツにデッキが圧迫されるということが比較的少なく2軸を取りやすいデッキであったことに加え、《暗黒の儀式》や《水蓮の花びら》など《ファンタスティッカー》とも相性のいいカードが標準搭載されていたため、構築上のリスクもそれほど高いとはいえないだろう。
極太のサブプランによってコンボのみならず豪快なビートダウンも行えるようになったこのデッキは、ほとんど隙のない強さを手に入れたといえるかもしれない。
TES
TESやANTといったストーム系デッキでも《ファンタスティッカー》の採用は確認できる。もともと呪文を連打してストームを稼ぐデッキなのだから相性がいいのは道理だろう。
構築に関しても《暗黒の儀式》などのマナ加速に加えて《水蓮の花びら》《ライオンの瞳のダイアモンド》といった
マナアーティファクトが豊富に採用されており、《ファンタスティッカー》を運用するために構築を極端に歪める必要はないだろう。
さらに《苦悶の触手》で16点削るためにはストームが7必要だったが、《ファンタスティッカー》であればたった4で済むのだから採用しない手はない。
ただ《苦悶の触手》はドレインであるためライフ回復が可能であり、あらゆる状況で《ファンタスティッカー》のほうが優れているとはいえないかもしれない。
対戦相手の妨害をかいくぐりストームを積み重ねた先に得られるカタルシスも捨てがたいが、たった4回で勝利を手繰り寄せることができる痛快さもまた格別だろう。
フェニックスアライブ
フェニックスアライブも呪文を連打するデッキの一つであり、《ファンタスティッカー》が採用されるのは当然の帰結だったかもしれない。
先の例に漏れずこのデッキにも《暗黒の儀式》《水蓮の花びら》といったカードが採用されている。
土地、《暗黒の儀式》×2《ファンタスティッカー》《水蓮の花びら》《生き埋め》と条件はかなり厳しいものの、《弧光のフェニックス》と《ファンタスティッカー》が同時に空を舞い、1ショットキルを決めたときの高揚感はひとしおだろう。
また《ファンタスティッカー》は墓地対策に引っかからないためこのデッキにとっては喜ばしいところである。
ただ、《弧光のフェニックス》の誘発条件がインスタントとソーサリーに限られているため、若干の食いあわせの悪さは否めない。
The Spy
ここ最近なにかと話題になることが多いThe Spyにも《ファンタスティッカー》は採用されている。こちらのデッキについてもマナ加速は豊富であり《ファンタスティッカー》を出すのに困ることはないだろう。
ただ分裂するためには4回非クリーチャー呪文を唱える必要があり、そちらをクリアするのはデッキの構成上難易度が高そうである。
そういった事情もあるのか、プラン的には、《欄干のスパイ》《ゴブリンの放火砲》に続く3番手といった具合だ。
8-Cast
もちろん《暗黒の儀式》を用いないデッキでも《ファンタスティッカー》の姿を見ることができる。それは8-Castなど《古えの墳墓》に加え軽量なアーティファクトを複数採用しているデッキだ。
環境に《オークの弓使い》が多くいたこともあってか、ここ最近は8-Castから《物読み》や《思考の監視者》といったいわゆるCast要素が抜けストンピィ的な側面が強く出ていた。
しかし《ファンタスティッカー》の隆盛により環境から《オークの弓使い》が減り、《物読み》《思考の監視者》が再び採用されている。これによって、《ファンタスティッカー》でリソースを消費してもしっかりと補填できる構成になったといえるだろう。
ほかにもリアニメイトがメインから《ファンタスティッカー》を採用するなど、跳梁跋扈、あるいは横行闊歩などといってしまいたくなるほどの活躍をみせている。
ディミーアカーテンポ
《ファンタスティッカー》を採用したデッキのなかでもエポックメイキングだったものは、ディミーアカーテンポだろう。
有り体にいえば、従来のテンポデッキの骨格に《ファンタスティッカー》《暗黒の儀式》《水蓮の花びら》といったカードを加えただけではあるものの、コンボあるいはコンボ的な要素を持つデッキでなくとも《ファンタスティッカー》の運用ができることを示した。その後、イゼットテンポでも採用を試みる動きもみられ、《ファンタスティッカー》の可能性を押し広げた功績は計り知れない。
《ファンタスティッカー》への抵抗
しかし、レガシープレイヤーも暴走する車を前にただ黙って指をくわえているわけではない。むしろこの車をどう捌くかが、目下のレガシーでもっとも頭を使わされる局面になっている。
対策方法にもいくつかのアプローチがある。
まず《意志の力》《否定の力》《記憶への放逐》《もみ消し》など《ファンタスティッカー》自体を打ち消したり、誘発した能力を打ち消したり、スタック上で対処するもの。
次に《耳の痛い静寂》《減衰球》《三なる宝球》のように呪文の連打を制限・抑制することで分裂を防ぎ爆発的な打点を封じるもの。
さらに《空の怒り》《残響する真実》《ハーキルの召還術》《絶望の力》《仕組まれた爆薬》など分裂したトークンをまとめて対処するもの。
そして、場にいる《ファンタスティッカー》を破壊する《削剥》や《活性の力》、はたまた《モグの分捕り》のようなカードの採用もみられる。
デッキ単位でいうならば、アゾリウステンポが対《ファンタスティッカー》として有望かもしれない。メインから《もみ消し》だけでなく《記憶への放逐》も採用が可能だ。
さらに《溌剌の牧羊犬、フィリア》の遅延誘発を《もみ消し》や《記憶への放逐》で打ち消せば、クリーチャー除去では触りづらいパーマネントにも対応できる。
《石鍛冶の神秘家》を採用した型であれば、《隕鉄剣》もあるためより楽に対応できるだろう。《ファンタスティッカー》を採用したデッキは基本的にメインに除去を取っていないため、《石鍛冶の神秘家》がアクティブになれば対抗しうる可能性は持っていそうである。
いずれにせよ、《ファンタスティッカー》がどれだけ速度を上げようと、この「峠」を駆ける者たちが積み上げてきた研鑽と広大なカードプールは、まだ見ぬ回答も示してくれるはずだ。
俺たちの狂い咲きサンダーロード
歓喜に生まれつく者もいれば、
終わりなき夜に生まれつく者もいる。ウィリアム・ブレイク『無垢の予兆』
テンポデッキが必殺技を持つという構造から、在りし日のディミーアリアニメイトが再来したのでは?との声もあるが、一方で、ただのハイプであり騒ぐほどではないという意見も存在する。このことから《ファンタスティッカー》に対する確定的な評価はまだ出ていないように思われる。
しかし、6月29日の禁止制限告知には、
いずれのフォーマットであれ体験を損ねるカードであることが明確に示された場合はただちに行動を起こす意思がある
と記されており、このまま勢いが衰えないようであれば、この「峠」の先に待っているのは、禁止という消失点なのかもしれない。
さりとて「峠」に灯りが絶えることはないだろう。新たな車に乗り込む者や馴染みの車を転がす者が尽きることはないのだから。
おわりに~レガシーは祭りだ。共に生きよう~
ここまで読み、レガシーにたいしてネガティブな感情を持った諸兄姉がいるかもしれない。実際、《ファンタスティッカー》で理不尽ともいえる負けを経験した人にとっては、素直に頷けない話もあるだろう。それでも、この「峠」の先に何が待っていようとも、それは今この瞬間の速さを否定する理由にはならない。
レガシーの精髄は、いってみればヘミングウェイの「移動祝祭日」なのだ。
そう、レガシーは祭りだ。共に生きよう。これからも、誰かが「峠」を攻める。願わくば、そのなかにあなたがいることを。
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