原根健太選手はどうやって上級者に?『言語化の鬼』に聞く、リミテッド中級者からのステップアップ法

海星 アル

ドラフト強者の話を聞こう!!

去る9月19日、『ハレリミ学園』にて、プロプレイヤー原根選手によるドラフト上達のコツについての講習が行われた。

リミテッド好きな私はプライベートで聞きに行っていたのだが、たいへん素晴らしい講習だった。

さっそく、そのアドバイスをもとに「正しいカード評価」(※)を重視して準備しつつ挑んだ『第29期リミテッド神決定戦』では、あと一歩でトップ16という結果を残すことができた。

私にとっては過去一の成績である。

※講習内容を「カード評価はほかの技術の基礎部分」だと解釈し、紹介されたサイト(17Lands)でカード評価を覚えた。実戦ではシールドでの色判断やタッチすべきカードの判断に活用し、何より悩む時間が減ってデッキ構築時間がグンと短縮された。

予想外の結果おかわり

講習は30分と短く、原根選手曰く「短時間でも価値のある部分に絞って伝えた」とのことだったが……わずか1か月足らずで効果があるとは望外の結果だ。

たまたま上手くいった可能性もあるものの、講習を聞く前後で取り組み方が大きく変わったことを実感している。これだけ効果がある講習を聞けば、さらにもっと話を聞きたくなるのも当然だった。

そこで、メディアチームの立場を利用して原根選手にインタビューをする機会をいただくことにした。

原根選手へのインタビュー

人物紹介

■人物紹介

原根健太

マジックを初めて数か月のグランプリで3位、『プレイヤーズツアー・名古屋2020』で優勝。特に言語化能力が卓越しており、論理的に分析された氏の記事や語られる内容は非常に納得性が高い。

過去記事一覧

中級者と上級者の違い

──『ハレリミ学園』の講習は、主にドラフト中級者を対象にしていましたが、中級者と上級者の違いはどこだと思いますか?

原根健太

一言でまとめるのは難しいですね。リミテッドに必要な能力は多数ありますが、その能力が全体的に高いのが上級者という印象です。

たとえば、ドラフト中で色を決めるまでのプロセスだと、中級者は「決め打ち」「色の保留」「色変え」などのバランスが極端になりがちで、柔軟性に差があります。

転用された執行人記憶の罠Recursive RecruitmentYour Fate Ends Here
原根健太

3手目で別の色の強いカードが流れてきて取ったとしても、その後最初の色に戻ることが正しいことだってあります。

ですが、こういったときに変えた色をロックしてしまったり、そもそも最初の数手で色を決め切ってしまったり、中間択がないことが多いですね。

Mindseeker OculusSurveillance Phantasm

例:強さの指標的には《精神追いの眼》が上だが、2マナが必要なことも

原根健太

ほかには、中級者は1手1手で何を取るかを考えがちですが、上級者はデッキ全体の必要性を考えています。

42手のドラフト中にデッキを作り終えるために、(ほかと比べると弱くても)今はこのカードが必要だから取る、というような大局観をもって選んでいるわけです。

Paradox ShaperGenerous RevivalFblthp, Impossibly Lost

例:やや珍しいライブラリーをすべて掘り切る戦略

原根健太

あとは、ピック中以外でも「思考のアップデート方法」に柔軟性の差がありますね。

流行の戦略や他人の戦略を知ったとき、中級者は自分の戦略を完全に上書きしたり、試すこともしなかったりと、これも極端になりがちです。

いっぽう、上級者はその戦略のどこが優れているのかを噛み砕いて、自分の戦略にプラスワンするような、引き出しとして選択肢を持つように取り入れています。

上級者はこれらの能力が高くバランスが取れているわけですが、それは「どの能力が不足しているか」「この環境は普段とどこが違うのか」などを説明できるからです。

原根健太

説明できるからこそ、足りない能力を伸ばしてバランスを取ることができます。

どこが違うと一言ではまとめられませんが、こういった部分が中級者と上級者では違いますね。

──なるほど……極端や柔軟性といえば、過去の原根さんも決め打ちをしていた時期があると聞きました。

氏の過去記事抜粋

過去記事では「ドラフト下手で有名」とまで自称。と言いつつ環境末期の勝率が高いのはさすが。

──ですがプロツアー『霊気走破』では、1パック目12手目で大きな方針転換をしての3-0とまさに柔軟性のある選択をしています。いったい原根さんはどうやって変わったのでしょうか。

12手目から色変えした実践例

『ハレリミ学園』講習資料より引用
プロツアーの場で、序盤のピックを投げ捨てた青赤にて3-0している

原根選手の成長の秘密

原根健太

僕は急成長をしたというわけではなくて、いくつかのきっかけを経つつ、少しずつ変わっていきましたね。

マジックを初めて3か月という、ものすごいヤル気があるころ、『グランプリ・静岡2015』で11位になれたんです。

タルキール覇王譚ブースターBOX 〇日本語版

3色環境に「変異」も加わった、かなり独特な速度感のセット

原根健太

『タルキール覇王譚』のリミテッドだったんですが、そのころは暗記というか「テンプレート戦略」でリミテッドを遊んでいました。

神秘の僧院ジャングルのうろ穴カマキリの乗り手
原根健太

ドラフトだと、「1パック目で土地を集めて、その後は強いカードを取りつつ3パック目でまとめていく」とか、シールドだと「こういうレアが出たときにはこう組む」とか、方針を決めてました。

パックから出てくる無数の組み合わせの全パターンをテンプレート化していたんです。

──全パターンを!?

原根健太

だいたいドラフト200回、シールド60回の経験でのパターン化でしたが、当然毎セットはできませんよね(笑)

とはいえ、急には戦い方を変えられず、その後の環境も「テンプレート戦略」を続けていた結果、大負けはしないが良い成績も出ないという状態でした。

──そこからどう変わっていったんでしょうか。

《カラデシュブースターBOX 〇日本語版》[KLD]

「機体」が初登場したアーティファクトメインのセット。メインギミックである「エネルギー」や「機体」のバランス調整が難しい。

原根健太

1つ目の転機は『カラデシュ』のときですね。

そこでものすごく負けたんです。

つむじ風の巨匠歯車襲いの海蛇
原根健太

『カラデシュ』は「エネルギー」や「アーティファクトシナジー」のようなギミックを要求するシナジー環境で、マナカーブを整えるだけの「テンプレート戦略」は通用しませんでした。

それを機にテンプレートをこなすだけではなくて、「今回は○○シナジーのデッキを組んでみよう」と少しずつ試すようになったんです。

天頂の閃光繁栄の狐ドラニスの刺突者
原根健太

さらに『イコリア:巨獣の棲処』でMTGアリーナにBotではなく対人のドラフトが初実装されて、たくさん遊びました。

この環境は「サイクリング」がとても強いんですが、みんなが取り合うのでそれ以外のカードがたくさん流れてくるんですよ。

見事な根本原理滑りかすれ
原根健太

流れて来たレアをどう上手く使おうか、とテンプレート外のデッキをいくつも試しました。

公式が定めたアーキタイプ以外にも挑戦するようになると、リミテッドが面白くなってきたんです。

そうして面白いので続けていくうちに、少しずつ知識が貯まっていったんだと思います。

──ですが、その知識ってそのセット限りのものではありませんか?

原根健太

カード単体の知識と考えると一面はそうですが、ギミックやデッキの知識は応用が利きます。

トレイリアの恐怖鬼流の金床武勇の審判者、ファーヤ世界樹への道
原根健太

たとえば「スペル軸」に「アーティファクトギミック」や「セカンドキャスト」、もっと広くいえば「多色」もそうですね。

こういったギミックはよくリミテッドに採用されるので、試した経験は将来のセットにもつながります。

いろんな構築を試しておくと、その経験が少しずつ蓄積していくわけです。

上級者になるためには?

──原根さんのやり方を真似しようと思うんですが、何から手を付けたらいいのかわかりません。おすすめはありますか?

Skilled Battlecarver暴れ咲き花Karn, Gilded Guardian
原根健太

まずは極端なことをやってみるといいと思います。

思いっきり低マナに寄せたり、特定のアーキタイプに特化したり、使いづらいと思っているレアをあえて使ったり。無理やりにでも、やってみるところからですね。

原根健太

そこで失敗してもいいんです。

「ああ、さすがに軽すぎたから軽く寄せるにしても4マナが数枚くらい欲しいな」とかが分かってくるので。

──なるほど、新しいことをやってみて知識をつけていく、と。ただ、新しいことを試していたら負けてしまいませんか?それが嫌で、つい知っている戦略に逃げてしまいそうです。

原根健太

実際、僕自身もそうでした。

「負けたくないなーこれをやっていたら勝てるしなー」と『カラデシュ』で大負けするまで、テンプレート戦略を続けていましたからね。

上達したいと思う人は勝率も気になるでしょうから、なおさらそうでしょう。

原根健太

ですが、同じことばかり続けて伸び悩む人をよく見ます。

たしかに、勝てる戦略を使い続ければそのときの勝率は高くなりますが、これでは成長できません。

構築と違って、1つの戦略を極めたとしても、それを選べるとは限らないので。

マーフォークの秘守り冷気をもたらす者旅の準備

──私は長いことレアを使わないコモン戦略ばかり遊んでいて全然成長しなかったのですが、そういう理由だったんですね。

原根健太

実は僕も、同じように再現性の高い戦略がいいと思っていた時期がありますよ(笑)

でも、そういうデッキは最大値が決まっていて、レアや上振れした動きに勝てません。

原根健太

こういうことが言えるのも、全部僕自身が経験したことだからなんです。

──今の原根さんのように挑戦する、コツみたいなものはあるんでしょうか。

原根健太

いろんなカードで遊ぶことに楽しみを見出せるといいのかな。

僕は「お気に入りの1枚を見つける」というのをセットごとにやっています。

楽しめないと続きませんからね。

──楽しんで続けることも成長につながるんですね!まずは極端にでも、次のドラフトでさっそく何か挑戦したいと思います!!

その他、リミテッド小話

今と昔の定石の違い

──本題とは話が逸れるんですが、昔から言われる「定石」で今は変わってきているな、というものはありますか?

原根健太

ありますよ。クリーチャーの枚数は明確に違います。

最近ならクリーチャー18枚にスペル5枚でも全然いいのでは、と感じています。

深海艦隊の扇動者ロクソドンの軍曹訓練されたアーモドン
原根健太

昔はクリーチャーのカードパワーが低く、クリーチャーばかり採用すると盤面が膠着してしまいがちでした。

膠着盤面を突破するために、スペルの枚数が必要だったんです。

技量ある彫闘士名誉にかける小姓岐路の監視者
原根健太

ですが最近のクリーチャーは能力もスタッツも優秀です。クリーチャーしか引かなくても、盤面を突破しやすくなりました。

こうなると、クリーチャー枚数を増やした方が事故が減ります。(スペルと違って)クリーチャーは少なくとも盤面に出せるので。

──クリーチャーの枚数が増えている話は聞いたことありますが、そういう理由だったんですね。

平地島
原根健太

ほかには……土地の色バランスも変わっています。

リミテッドでよくある《平地》9枚、《島》8枚のようなマナベースは、60枚デッキ換算で基本土地12枚&12枚の2色デッキを回すようなものです。

これは当然事故ります。

そこで、以前のリミテッド上級者は、メインカラーを片方に寄せて《平地》11枚、《島》6枚のようにマナベースの悪さに対応していました。

平穏な入り江コンストラリの急造者ゴブリンの板金鎧
原根健太

今ではほとんどのセットに2色土地が入っていて、どちらの色も10枚以上の土地から出るマナベースを構築することもできます。

混成マナのカードが増えたことも、色事故リスクが減る要因です。

こういった事情から、以前のようにメインカラーを1色に寄せる必要性は減ったといえます。

タップイン土地の話

──その2色土地の話ですが、タップインの土地は何枚まで入れていいんでしょうか。

原根健太

デッキによりますね。一概には言えません。

何ターン目にタップインできるのかを考えていくと、これが見えてきます。

精神追いの眼平地フェイトホールド別館フェイトホールド別館
原根健太

3マナが多いデッキだと、3ターン目のタップインを許容できません。(※)

逆に2マナが多いデッキであれば、3ターン目にタップイン処理できるので許容しやすいです。

※土地2枚でキープせざるを得ないときに引いたり、初手でタップインの土地を2枚引いたときなど。4枚目の土地がないことも多いので、処理は3ターン目を考えることが多い

マナリスつぶやく書物水薬師の収集品
原根健太

3マナのマナアーティファクトもそうですね。

3ターン目だけではなく、4ターン目に2マナのカードと合わせてプレイすることも考えたいカードです。

ピックの時点からどのターンで処理するのかを考えて、2マナのカードを多めに取ったり、タップインが許容しがたければリスクをとって基本土地17枚を選んだりします。

インタビューを終えて

恐怖ひるまぬ勇気

私は、ドラフトで混みそうな色を選ぶのが怖くて弱小カラーに逃げてしまうという、まさに最初の話で出た「バランスが極端な中級者」そのものだ。

そんな私がこの話を聞き終えて、「楽しむこと」や「勇気」といった精神面が重要ではないかと感じた。

というのも、実は『ハレリミ学園』の最後にも「勇気」という言葉が出てくる。

講習資料「勇気」のスライド

『ハレリミ学園』講習資料より引用

色変えにはリスクが伴うため覚悟が必要で、勇気を出せず遅れて参入すると下のプレイヤーと同時に色変えして共倒れ、なんて事態も起きてしまう。

だから、最後には「勇気」が必要だ、と講習で原根選手は口にした。

今回必要になるのも、一時的に負けることへの覚悟と一歩踏み出す「勇気」である。

安全維持難題への挑戦

原根選手のおかげで、選択肢は提示された。

もちろん、マジックの楽しみ方は自由だ。楽しく遊ぶために、なにもわざわざ苦しさや恐怖と戦う必要はない。

だが私は、いつか上級者と胸を張って言えるよう、そしてその過程を楽しめるようになるよう、挑戦していきたい。この記事を読んで、同じように感じた方もいるだろう。

そう思わせてくれるインタビューであった。


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海星 アル リミテッドと特殊フォーマットでデッキを作るのが好き。あまり使われないカードをどうにかして使おうと、リミテッドでも変なレアと戯れている。 海星 アルの記事はこちら

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