USA Legacy Express vol.147 -奇跡は天使を引き連れて-

Kenta Hiroki

 みなさんこんにちは。

 今月末にはいよいよ国内でレガシーのプレミアイベントであるグランプリ ・静岡2018が開催されます。グランプリ・千葉2016と同様に、世界中のレガシーファンが集まる楽しいイベントとなりそうです。

 アメリカではEternal Weekend North America 2018が開催され、先週末はチーム戦のSCGO Las Vegasが開催されるなど、レガシーのイベントが充実していました。今回の連載では上記2イベントの入賞デッキを見ていきたいと思います。

Eternal Weekend North America 2018
Miraclesが北米のレガシー選手権を制する

2018年11月3-4日

  • 1位 Miracles
  • 2位 ANT
  • 3位 4C Leovold
  • 4位 Sneak Show
  • 5位 Turbo Depths
  • 6位 Grixis Control
  • 7位 Elves
  • 8位 Turbo Depths
Patrick Green

Patrick Green

Card Titan

トップ8のデッキリストはこちら

 今年も開催されたEternal Weekend North America 2018。昨年のレガシー選手権では、Grixis Delverや4C Leovoldといったデッキが上位を支配していましたが、今年は《死儀礼のシャーマン》《ギタクシア派の調査》が禁止になったため環境が大きく異なります。

死儀礼のシャーマンギタクシア派の調査

 《死儀礼のシャーマン》《ギタクシア派の調査》が禁止カードに指定されて以来のレガシー環境は、旧環境と比べてコンボやLoam系、Death and Taxesといった青を使わないデッキも見られるようになりました。《死儀礼のシャーマン》を失い、旧環境の時よりもマナ基盤の安定性に難があるものの、4C LeovoldやGrixis Controlなど多色の青いフェアデッキも結果を残し続けています。

 Miraclesは、《師範の占い独楽》を失ってもカードアドバンテージエンジンとして《蓄積した知識》を取り入れ、多色のデッキやEldrazi、Loamなど特殊地形に頼ったデッキに対しては決定打となる《基本に帰れ》を採用するなど、環境に対応することでトップメタに留まり続けています。

Eternal Weekend North America 2018 デッキ紹介

「Miracles」「Sneak Show」「Turbo Depths」

Miracles

 MiraclesはMOのLegacy Challengeでも毎週のように入賞しており、このデッキのエキスパートによる研究も盛んに行われています。

 グランプリ・リッチモンド2018の頃は、Death’s ShadowやGrixis Delver、Death and Taxesといった《不毛の大地》デッキが人気だったのと、多色デッキや特殊地形に依存したデッキに刺さる《基本に帰れ》を無理なく採用できるということで青白の2色バージョンが主流でしたが、ミラーマッチやGrixis Controlなど、環境の青いフェアデッキに対抗するために再び赤をタッチするようになりました。

蓄積した知識予報

 《師範の占い独楽》を失っても、キャントリップスペルによって《相殺》《終末》(《天使への願い》)を仕込むという基本的なところは変わりません。《師範の占い独楽》《相殺》によって相手をソフトロックへと持ち込むことが不可能となったため、《蓄積した知識》《予報》といったドロースペルによってアドバンテージ差を広げつつ相手を妨害していくというスタイルへと変化しています。

☆注目ポイント

仕組まれた爆薬解呪議会の採決

 《虚空の杯》《森の知恵》など対処が困難な置物に対抗するために、メインから《仕組まれた爆薬》が採用されています。サイドの《解呪》と追加の《議会の採決》も合わせると、合計4枚の置物対策があるので多くの戦略に対応していくことが可能となります。

天使への願い

 フィニッシャーには《天使への願い》が選択されています。《蓄積した知識》によってロングゲームに持ち込むことも容易で、Grixis Controlのようにメインから除去や《トーラックへの賛歌》など妨害スペルを大量に積んだデッキに対しては、《僧院の導師》よりも信頼性が高いフィニッシャーとなります。

紅蓮破赤霊破

 タッチ赤はサイドに2枚の《紅蓮破》と1枚の《赤霊破》のみと必要最低限に留まっています。《Volcanic Island》を2枚採用することで、特殊地形対策に弱くなるというリスクと引き換えに、青白の2色の時と比べて《精神を刻む者、ジェイス》の処理が格段にしやすくなりました。

封じ込める僧侶トーモッドの墓所

 最近特にMOでは、DredgeがLegacy Challengeで結果を残し続けているため、墓地対策は多めに用意しておく必要が出てきました。定番の《外科的摘出》やSneak Showに対しても効果がある《封じ込める僧侶》のほかにも、《トーモッドの墓所》が採用されています。一度限りの効果しかないのが難点ですが、0マナで置くことができ、最近ではDredge側が《外科的摘出》対策に採用している《沈黙の墓石》を無視できる墓地対策となります。《無のロッド》はMiraclesのサイドではあまり見かけないカードですが、《ライオンの瞳のダイアモンド》などマナ能力もシャットアウトするので、StonebladeやDeath and TaxesのほかにもANTなどにも効きます。

Sneak Show

 コンボデッキの中では、ANTと並んでコンスタントに結果を残し続けているSneak Show。

 基本的な動きは従来と変化ありませんが、最近は《カラカス》《封じ込める僧侶》といった対策も増えてきたため、《全知》を採用したリストが主流となっています。

☆注目ポイント

すべてを護るもの、母聖樹精神を刻む者、ジェイスヴェンディリオン三人衆

 Miraclesなど青いデッキとのマッチアップに備えて、確実に《実物提示教育》を通すために《すべてを護るもの、母聖樹》がメインから採用されています。コンボ以外の勝ち手段として《精神を刻む者、ジェイス》や、妨害手段にもなる《ヴェンディリオン三人衆》もメインから採用されていますが、その分《騙し討ち》《グリセルブランド》といったコンボパーツの枚数が削られているのは気になるところです。メインはできるだけコンボにフォーカスした方が勝率が高くなる傾向にあるので、このデッキを試してみる際はSneak ShowのエキスパートであるJPA93のリストをお勧めします。

秘儀の職工血染めの月神聖の力線

 サイドの《秘儀の職工》は、《引き裂かれし永劫、エムラクール》《グリセルブランド》といったフィニッシャーのコストを踏み倒す追加の手段となり、《実物提示教育》《騙し討ち》と異なり《封じ込める僧侶》で妨害されないところが強みです。しかし、タップ能力なので起動できるまでにラグがあるので注意が必要です。

 《血染めの月》は、Grixis ControlやDelver、Landsなど特殊地形に頼ったデッキをシャットアウトするので、それらのデッキに対しては実質追加の勝ち手段としても機能します。普通にキャストすることも容易なのでマストカウンターとなり、《実物提示教育》《騙し討ち》なども通りやすくなります。ANTなどコンボデッキやハンデス対策になる《神聖の力線》もサイドに4枚採用されているため、《思考囲い》などで妨害されなくなりコンボが決めやすくなります。

Turbo Depths

 Turbo Depthsとネーミングされていますが、アドバンテージを稼げる《闇の腹心》《壌土からの生命》も採用されています。サイドには《緑の太陽の頂点》《ガドック・ティーグ》《ドライアドの東屋》などが採用されており、Aggro Loamの要素もハイブリットしたバージョンで、少し遅めなデッキであるためSlow Depthsとも呼ばれています。

 《暗黒の深部》+《演劇の舞台》(《吸血鬼の呪詛術士》)のコンボを可能な限り速く決める戦略だったバージョンと比べると、コンボスピードが下がった代わりに《剣を鍬に》を採用したMiraclesなどとのマッチアップに耐性が付いています。

 マリット・レイジに対する対処法が限られるGrixis ControlやDelverに対して強い戦略となり、ハンデスによる妨害もあるので苦手なコンボに対してもある程度は勝負になります。

☆注目ポイント

闇の腹心壌土からの生命

 《闇の腹心》《壌土からの生命》のおかげでロングゲームにも対応できるようになり、一度マリット・レイジを対処されてしまってもリカバリーが容易になりました。

緑の太陽の頂点ガドック・ティーグ森を護る者

 サイド後は《緑の太陽の頂点》《ドライアドの東屋》、各種緑クリーチャーが投入されミッドレンジ寄りになり、マリット・レイジを守る《森を護る者》などを状況に応じてサーチしていきます。《ドライアドの東屋》は、マナ加速だけでなくマリット・レイジを布告系の除去からも守ることもできます。従来の《暗黒の深部》デッキと異なりクリーチャーが並びやすくなっているので、布告系の除去に対してはかなり耐性が付いていると言えます。

 このデッキの全体をよく見渡してみるとTurbo DepthsというよりもGolgari Midrangeに《暗黒の深部》+《演劇の舞台》のコンボを取り入れたバージョンにも見えます。このデッキのアップデート版を、アメリカのレガシーエキスパートであるBob HuangがLegacy Challengeで使用し、準優勝という好成績を残していたことからも注目に値するデッキです。

SCGO Las Vegas
ANTがEternal Weekendのリベンジを果たす

2018年11月17-18日

  • 1位 ANT
  • 2位 Lands
  • 3位 Golgari Depths
  • 4位 Grixis Control
  • 5位 Grixis Delver
  • 6位 Elves
  • 7位 Grixis Delver
  • 8位 Mono Blue Wizard
Corman-Gill, Zhang, Thibeau

Corman-Gill, Zhang, Thibeau

StarCityGames.com

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 Las Vegasで開催されたチーム戦のSCGO。フェアデッキではGrixis ControlやGrixis Delverが、コンボデッキではEternal Weekendでも準優勝と安定した成績を残し続けているANTやDark Depths系が上位で多く見られました。

 今大会でチームを優勝に導いたのはANTでした。デッキの使用者であるCyrus Corman-Gillは、2週間前に開催されていたEternal Weekendで惜しくも決勝戦で敗退しており、今大会で彼は念願のリベンジを果たすという結果となりました。

SCGO Las Vegas デッキ紹介

「Grixis Control」「Grixis Delver」

Grixis Control

 ハンデス、除去、カウンター、プレインズウォーカーと一通り揃っており、その対応力の高さからレガシーのJundとも形容されています。

 同じ環境を代表する青いフェアデッキであるMiraclesと異なり、Grixis Controlは単体除去などで1対1交換を繰り返しつつ、《悪意の大梟》《コラガンの命令》などでコツコツとアドバンテージを稼いでいくミッドレンジ寄りのデッキになっています。

 《トーラックへの賛歌》などハンデスを搭載しているため、Miraclesよりもコンボデッキに対して強く《虚空の杯》など置物も対処しやすくなっています。3色デッキなのでマナ基盤にやや難があり、《血染めの月》《基本に帰れ》といった特殊地形ヘイトに弱く、Loam系のデッキも苦手なマッチアップとなります。

☆注目ポイント

 Miraclesなどが、メインから採用していることも多い《基本に帰れ》による被害を最小限に抑えるために、基本地形を可能な限り採用しています。

苦花血染めの月

 メインとサイドにそれぞれ1枚ずつ採用されている《苦花》は、エンチャントで対策されにくく、現環境で最もポピュラーなデッキの1つであるMiraclesやミラーマッチで有効です。マリット・レイジに対するブロッカーを用意できるのも採用される理由の1つとなります。

 サイドの《血染めの月》を運用するには少し無理があるマナ基盤ですが、LandsやEldrazi Postといったこのデッキにとって相性の悪いマッチアップで大きな助けとなります。

Grixis Delver

 《死儀礼のシャーマン》《ギタクシア派の調査》が禁止になり弱体化を強いられましたが、まだまだ現環境のDelver系の代表格として結果を残し続けているGrixis Delver。

 《死儀礼のシャーマン》《ギタクシア派の調査》が禁止カードに指定された当初は、過去のレガシー環境でトップメタに位置していたTemur Delverが復権してくることが予想されましたが、ほかのデッキが新戦力を獲得し強化されてきたのに対して過去の形と変化がなく、グランプリ・リッチモンド2018でも結果を残していましたが復権にまでは至りませんでした。

 理由としては《致命的な一押し》など対策も増え、除去耐性のある《敏捷なマングース》《グルマグのアンコウ》《悪意の大梟》に止められてしまうなどが挙げられます。

 Grixis DelverはTemur Delverと比べると重めの構成となりますが、デッキ内の脅威の質で勝ります。構成が重くなった分土地も《Volcanic Island》が追加され19枚となっています。

☆注目ポイント

苦花もみ消し

 Grixis Delverは《若き紅蓮術士》が4枚採用されたリストが主流でしたが、Tannon Graceは《若き紅蓮術士》2枚を《苦花》に差し替えています。コンボに対しては悠長なクロックとなるものの、エンチャントを対策できないGrixis Controlや置物対策が限られているMiraclesとのマッチアップでは活躍します。

 Tannon Graceのリストには《もみ消し》も1枚だけ採用されており、「奇跡」の誘発などを妨害することも可能です。デッキリストが公開されていない大会では、1枚でも見せてしまえば相手も意識せざるを得なくなります。

瞬唱の魔道士電謀

 サイド後は《瞬唱の魔道士》も追加され、ミッドレンジ寄りにシフトしていきます。色拘束の強い《最後の望み、リリアナ》《湿地での被災》はサイドから外され、全体除去には《電謀》が選択されています。マイナス修正の《湿地での被災》と異なり、《真の名の宿敵》は対処できなくなりますが軽く使いやすいスペルです。Death and TaxesやElvesといった低タフネスのクリーチャーを並べてくるマッチアップで活躍します。Grixis ControlやMiraclesとのマッチアップも想定していたのか、追加の《苦花》も採用されています。

総括

 現在のレガシーは、支配的なアーキタイプは特に存在せず、SCGやLegacy Challengeの結果を見渡してみても複数の異なるデッキが結果を残しており面白い環境です。

 グランプリ・静岡2018の直前ということで、今回は環境のトップメタに位置するデッキを中心に見ていきましたが、みなさんの参考になれば幸いです。

 USA Legacy Express vol.147は以上となります。

 それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいレガシーライフを!

この記事内で掲載されたカード

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Kenta Hiroki アメリカ在住のプレイヤー。 フォーマットを問わず精力的に活動しており、SCGやグランプリの結果などからグローバルな最新情報を隔週で発信する「USA Modern Express」「USA Legacy Express」を連載中。 Kenta Hirokiの記事はこちら