USA Modern Express vol.23 -三度の稲妻、舞い戻る赤き不死鳥-

Kenta Hiroki

 みなさんこんにちは。

 今週末にはいよいよ『アルティメットマスターズ』がリリースされます。「最後の『マスターズ』製品になる予定」と公式でも告知されているだけあり、再録されるカードもこれまでにないほど豪華なので足りないパーツを揃えるチャンスです。日本国内では今月末にThe Last Sun 2018が開催され、モダンは今熱いフォーマットの1つです。

 さて、今回の連載ではSCGO BaltimoreSCG Classics Baltimoreの入賞デッキを見ていきたいと思います。

SCGO Baltimore
スタンダードで大活躍のあのクリーチャーがモダンでも猛威を振るう

2018年12月1-2日

  • 1位 Izzet Phoenix
  • 2位 Mono Red Phoenix
  • 3位 UW Control
  • 4位 Grixis Death’s Shadow
  • 5位 Jund
  • 6位 Jeskai Control
  • 7位 Jeskai Control
  • 8位 Ironworks
Ross Merriam

Ross Merriam

StarCityGames.com

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 今大会では、グランプリでも活躍しているBant Spiritが最も高い2日目進出率で、次点でTron、Ironworksと続いていましたがプレイオフの結果は大きく異なるものでした。

 UW ControlやJeskai Controlといったコントロールデッキが上位に多数勝ち残り、Grixis Death’s Shadowも復権しています。最終的に決勝戦まで残ったのはIzzet PhoenixとMono Red Phoenixで、スタンダードで活躍している《弧光のフェニックス》を使った戦略はモダンでも通用することが証明されました。

SCGO Baltimore デッキ紹介

「Izzet Phoenix」「Mono Red Phoenix」「Jeskai Control」

Izzet Phoenix

 《弧光のフェニックス》は、『ラヴニカのギルド』がリリースされた当初から一部で注目されていたカードです。MOを中心に複数のバージョンが試されていましたが、どのバージョンにも一長一短があり、これまでは大型イベントであまり目立った結果を残すことができませんでした。

 今大会で見事に優勝を果たしたSCGの強豪プレイヤーであるRoss Merriamは、Izzetカラーの《弧光のフェニックス》デッキをMOで調整し続けていました。調整段階から勝率が良く、チーム戦のSCGO Las Vegasでも結果を残しているようです。

 このタイプのデッキでよく採用されている《騒乱の歓楽者》が不採用となっており、代わりに《弾けるドレイク》が採用されているなど、まるでスタンダードのIzzet Phoenixをモダンに落とし込んだような構成になっています。

☆注目ポイント

弾けるドレイク

 《弾けるドレイク》は、Izzetカラーの新戦力として注目されていたクリーチャーでしたが、4マナと重いためモダンでは少し遅いと考えられていました。しかし、このカードは《騒乱の歓楽者》と異なり、《安らかなる眠り》《虚空の力線》といった墓地対策に耐性があるため、サイドボード後に強いという長所があります。さらにタフネスが4と固く、《稲妻》《稲妻のらせん》といった火力除去に耐性があるのもこのクリーチャーの価値を上げており、Jeskai Controlとのマッチアップでも活躍していたようです。

はらわた撃ち稲妻の斧

 《イゼットの魔除け》《航路の作成》といった2マナのドロースペルが減量され、 《はらわた撃ち》《稲妻の斧》といった軽い除去スペルを多めに採用することで、序盤の攻防に強くなり、より速いターンで《弧光のフェニックス》を戦場に戻しやすくなっています。《はらわた撃ち》《貴族の教主》《荒廃の工作員》《ぎらつかせのエルフ》《鋼の監視者》《墨蛾の生息地》など、環境にはタフネス1のクリーチャーが多数存在するので軽い優秀な除去として機能します。《幻影の像》対策にもなり、《氷の中の存在》のスペルカウントも稼ぎやすいのでこのタイプのデッキではお勧めです。

イゼット副長、ラル

 サイドの《イゼット副長、ラル》は、主にUW/Jeskai ControlやGolgari Midrange(Jund)など、コントロールやミッドレンジとのマッチアップで対策されにくい追加のフィニッシャーとして機能します。このタイプのデッキに対しては墓地対策が有効とされていましたが、《氷の中の存在》《僧院の速槍》《弾けるドレイク》、そしてサイドの《イゼット副長、ラル》など、墓地に依存しない脅威を多数積んでいるため効果は薄くなっています。青赤という構成上エンチャント対策が乏しいので、このデッキを対策するならば《拘留の宝球》などが効きそうなので覚えておきたいところです。

Mono Red Phoenix

 Jeffrey Carrのリストは赤単色のバージョンで、《騒乱の歓楽者》もフル搭載されているなど墓地を活用した構成になっています。

 《信仰無き物あさり》という優秀なドロースペルが存在するので、《苦しめる声》《魔力変》と合わせてIzzetなどほかの型に引けを取らない回りを見せます。

☆注目ポイント

信仰無き物あさり溶岩の撃ち込み大歓楽の幻霊熱烈の神ハゾレト

 《信仰無き物あさり》《苦しめる声》によって《弧光のフェニックス》を墓地に送り込む手段が豊富で、《騒乱の歓楽者》をコストダウンさせるために墓地を肥やすことも容易です。Jeffrey Carrは《溶岩の撃ち込み》をメインからフル搭載し、サイドには《大歓楽の幻霊》《熱烈の神ハゾレト》が忍ばせてあるなど、Burnデッキとハイブリットさせることで相手の墓地対策に備えています。

危険因子最大速度

 《危険因子》《最大速度》など新しいカードも採用されています。「再活」で《弧光のフェニックス》を墓地に落とすことができ、《癇しゃく》の「マッドネス」も誘発させやすくなります。

トーモッドの墓所

 Dredgeや同型も意識していたようで、サイドには《トーモッドの墓所》が4枚採用されています。先ほどのIzzetバージョンと比べると《騒乱の歓楽者》が入っているので墓地対策に少し弱くなっていますが、サイド後のBurnプランによって速攻で相手のライフを削り切ることが可能で、単色なのでデッキの回りも安定しています。

Jeskai Control

 アメリカのプロプレイヤー、Seth ManfieldとBrad Nelsonは使い慣れたJeskai Controlでプレイオフ進出を決めていました。

 Jeskai Controlはここ最近数を減らしていますが、《稲妻》《流刑への道》を始めとした軽い除去に、《瞬唱の魔道士》やコントロール定番のフィニッシャーとして定着している《ドミナリアの英雄、テフェリー》など優秀なスペルが揃っています。

 Jeskaiにとって相性の悪いTronは今大会でもそれなりの数が見られましたが、IronworksやInfectといったコンボデッキに苦戦し失速していたのもこのデッキの勝因だと思われます。

☆注目ポイント

ヒエログリフの輝き残骸の漂着ドミナリアの英雄、テフェリー

 今大会入賞を果たしたSeth ManfieldとBrad Nelsonは、ドロースペルの枠に《ヒエログリフの輝き》を選択していました。序盤は「サイクリング」によって土地事故防止になり、中盤以降は手札を強化する手段となるなど汎用性が高いスペルです。カウンターと一緒に構えることができるので、大きな隙を作らずにアドバンテージを得られるのが魅力です。Dredge、Hollow One、そして今大会でブレイクを果たした《弧光のフェニックス》など、墓地を活用する戦略に対抗するためにスイーパーとして《残骸の漂着》を選択しています。

 《弧光のフェニックス》など環境には速攻持ちのクリーチャーが多数存在するので、《精神を刻む者、ジェイス》が抜けて3枚目の《ドミナリアの英雄、テフェリー》が採用されています。点数で見たマナコストが5マナなので《呪文捕らえ》に捕らえられないところも重要なポイントです。

安らかなる眠り石のような静寂

 青白系のコントロールデッキが結果を残し続けている理由の一つに、豊富なサイドボードの選択肢があります。《安らかなる眠り》《石のような静寂》といった特定の戦略に刺さるカードにアクセス可能で、サイド後にDredgeやIronworksなどコンボデッキとの相性を改善できます。

SCG Classics Baltimore
《弧光のフェニックス》が遁走する

2018年12月02日

  • 1位 Runaway Red
  • 2位 Gruul Land Destruction
  • 3位 Goryo’s Vengeance
  • 4位 Azorius Control
  • 5位 Grixis Death’s Shadow
  • 6位 Mono-Green Tron
  • 7位 Golgari Midrange
  • 8位 Elves
Aaron Sanford

Aaron Sanford

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 本戦でも活躍した《弧光のフェニックス》を使った赤単デッキが併催イベントのClassicsでも優勝を飾りました。

 Tron、UW Control, Golgari MidrangeといったフェアデッキやGoryo’s Vengeanceなど直線的なコンボデッキも勝ち残っており、本戦と比べ混沌としたメタだったようです。

SCG Classics Baltimore デッキ紹介

「Runaway Red」

Runaway Red

 《遁走する蒸気族/Runaway Steam-Kin》を主力にしていることからRunaway Redとも呼ばれています。「ラヴニカのギルド」から《弧光のフェニックス》《遁走する蒸気族》が加入したことで成立したデッキで、本戦で準優勝していたJeffrey Carrのリストよりも《弧光のフェニックス》を活用することに重点を置いたスタイルのようです。

 ほかの《弧光のフェニックス》デッキと同様に、《遁走する蒸気族》《損魂魔道士》など墓地の状態に依存しない勝ち手段もあるので、墓地対策にもある程度は耐性があります。

☆注目ポイント

遁走する蒸気族損魂魔道士

 《遁走する蒸気族》は、《信仰無き物あさり》《魔力変》《はらわた撃ち》といった赤い軽量スペルを多用するこのデッキでは強化しやすく、マナを生み出す能力も《噴出の稲妻》の「キッカー」や「再活」スペルの《危険因子》などに充てることができます。このカードは《弧光のフェニックス》と並んでこのデッキの主力となります。

 《損魂魔道士》は、《僧院の速槍》と異なり速攻がないので奇襲性は落ちますが、軽い火力を多用するこのデッキにフィットしており、《タルモゴイフ》《虚ろな者》《グルマグのアンコウ》のような、本来火力スペルだけでは仕留めきれない高タフネスのクリーチャーを使うデッキとのマッチアップで活躍します。

外科的摘出

 メインから採用されている《外科的摘出》は、Dredge、Storm、Ironworks、ミラーマッチ、《瞬唱の魔道士》など、現環境には墓地を活用する戦略が多数存在するため腐りにくく、墓地対策を必要としないデッキとのマッチアップでも、《弧光のフェニックス》を墓地から復活させるためのスペルカウントを稼ぐことに貢献します。

血染めの月燃え上がる憤怒の祭殿反逆の先導者、チャンドラ

 ほかのバージョンと同様に、サイド後のゲームに備えて軸をずらしたアプローチが見られます。《血染めの月》着地させるだけで相手の動きを大きく制限させることが可能で、このデッキはクロックも早いので土地コンボデッキにとってはBlue MoonやMarduの《血染めの月》よりも脅威となります。赤い軽量スペルを多く採用しているため、《燃え上がる憤怒の祭殿》は追加の勝ち手段として十分に機能します。追加の除去、アドバンテージ獲得手段としての《反逆の先導者、チャンドラ》も忍ばせてあり、サイド後は墓地対策に耐性を持たせています。

ボーナストピック:~プレイヤーインタビュー Kat Light~

グランプリで勝ち続けていることで注目を集めているBant Spiritsは、SCGO Baltimoreでもトップの2日目進出率で、現環境のトップメタの一角に位置しています。今回の連載のためにSCG Openで準優勝経験もありBant Spiritsを使い続けているKat Lightさんにお話を聞くことができました。

Kat Lightさんは、SCG Tourの強豪プレイヤーをスポンサーするTeam Lotus Boxの一員です。ストリーマーとしての一面もあり、マジック関連のコンテンツであるV Clique Podcastを定期的に配信するなど幅広く活動しているプレイヤーです。

Bant Spirits


――「それでは初めにBant Spiritsを使用している理由を聞かせていただけますか?」

呪文捕らえ

Kat Light「私の好きなカードが《呪文捕らえ》だと知っていた友人から、モダンのFNMでBant Spiritsを借りたのがきっかけでした。始めは中々勝てませんでしたが使っていて楽しいデッキで、マジックで必要なことをたくさん学ぶことができ、それ以来ずっと使い続けています。使い始めて1年半ぐらい経ちますね」

――「なるほど。確かに《呪文捕らえ》を使ったデッキは、インスタントでプレイできるカードが多くて楽しいですよね。《呪文捕らえ》《集合した中隊》はスタンダードリーガルの頃によく使っていたので分かります。 モダンのSpiritsには、青白とBantの2種類をよく見かけますがBantの方を使う理由も教えていただけますか?」

貴族の教主集合した中隊

Kat Light《貴族の教主》《集合した中隊》という強力なカードにアクセスできるのが理由の1つです。特に《反射魔道士》を採用しはじめた最近のリストでは、マナクリーチャー経由で2ターン目に展開することでテンポアドバンテージを得られるのが非常に大きいですね。2ターン目に相手のアクションを《呪文捕らえ》で妨害することは、テンポ面で最もプラスになるプレイングです」

秋の騎士

Kat Light「あと最近《秋の騎士》が加わりました。このクリーチャーのおかげでBurnとのマッチアップがかなり改善されたんです。置物にも触れるフレキシブルなクリーチャーなので、環境によってはサイドに4枚採用することも考えられるカードです。」

――「メインの《反射魔道士》について詳しく教えていただけますか?」

反射魔道士

Kat Light「盤面を固めているときに相手の脅威を対策する手段が限られていたのと、戦闘以外の場面で相手のクリーチャーを対策できなかったのがこのデッキの弱点だったので、《至高の幻影》が登場する前の環境では、《反射魔道士》を採用していました。《流刑への道》をフルに採用していたときは、《集合した中隊》が空振りすることも結構あり、一緒に調整していたチームメイトのZan Syedも同じ経験をしていたこともあって《反射魔道士》の採用に至りました。《集合した中隊》から相手のクリーチャーを対処できるようになったのは大きな改善点で、より安全にビートダウンプランを実行できるようになり《反射魔道士》を再び採用することにしたのは正しい判断でした」

――「なるほど、確かに《反射魔道士》《流刑への道》と違って、《集合した中隊》クリーチャーとしてもカウントできるから理にかなっていますね。 ほかのリストと比べると、現在のリストは追加のマナクリーチャーとして《極楽鳥》が採用されていたり《ドラグスコルの隊長》《幻影の像》の枚数が減量され、《鎖鳴らし》が追加されていたりしますがそこに至った経緯も教えていただけますか?」

ドラグスコルの隊長

Kat Light《ドラグスコルの隊長》は3マナで動きがもっさりすることがあり、特にサイド後は相手の除去やスイーパーなどが増えて対処されやすくなります。なので《ドラグスコルの隊長》2体によるロックもそこまで重要でなくなることもあって、サイドアウトすることも多かったので3枚に減らすことになりました」

鎖鳴らし極楽鳥

Kat Light《鎖鳴らし》はBaltimoreでは1枚の採用でしたが、《石のような静寂》をサイドインするIronworksなどのマッチアップにおいて、インスタントでスピリットをキャストできることは思ったよりも重要だと感じました。相手の単体除去に対してもカウンターのように機能し、アドバンテージも取れるので2枚目を採用することに決めました」

Kat Light「2ターン目に3マナのアクションを取りやすくするために、追加のマナ加速として《極楽鳥》も採用することにしました。元々《幻影の像》を3枚採用するのはあまり好きではありませんでした。《ドラグスコルの隊長》などがすでに戦場にいる状態でないと《集合した中隊》から捲れてもそれほど有効ではなく、除去の多いデッキ相手にはサイドアウトすることも多いクリーチャーなので2枚が適正な枚数だと思っています」

――「サイドボードはBant Spiritsらしく墓地対策、コンボ対策、置物対策など非常に分かりやすい構成になっていますね。追加の除去の《拘留の宝球》はBaltimoreでも活躍していた《弧光のフェニックス》デッキとのマッチアップでも使えそうですね」

拘留の宝球

Kat Light《拘留の宝球》は便利な素晴らしいカードで、多くのマッチアップで使えます。クリーチャーデッキには追加の除去として機能し、コントロールに対してはプレインズウォーカーや《アズカンタの探索》などを対策できます」

――「最後に、このデッキをトライしてみたいというプレイヤーのために覚えておいた方が良いテクニックや注意しておく点もお願いできますか?」

Kat Light「下記項目は覚えていたほうがいいでしょう」

――「今回はインタビューにご協力していただき、ありがとうございました!」


 《至高の幻影》が登場して以来、グランプリを中心に結果を残し続け最近はトップメタの一角として定着しているBant Spirit。サイドボードのガイドラインについては、彼女のツイッターにアップされているので気になる方はぜひ参考にしてみてください。

総括

弧光のフェニックス

 先週末に開催されたSCGのイベントの結果から、『ラヴニカのギルド』が環境に与えた影響は大きく、特に《弧光のフェニックス》を使ったデッキのポテンシャルの高さが証明されました。

 今週末にはアメリカでもSCG Invitationalが開催されます。スタンダードとモダンで2日合わせて16ラウンドという長丁場の招待制イベントなので、見ごたえがありそうです。

 USA Modern Express vol.23は以上です。

 それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいモダンライフを!

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Kenta Hiroki アメリカ在住のプレイヤー。 フォーマットを問わず精力的に活動しており、SCGやグランプリの結果などからグローバルな最新情報を隔週で発信する「USA Modern Express」「USA Legacy Express」を連載中。 Kenta Hirokiの記事はこちら