Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/03/29)
ロンドンマリガンがもたらすもの
やぁみんな!
ミシックチャンピオンシップ・ロンドン2019では新しいマリガンルールが試験的に運用されることになった。そこで今回は、僕がこの新しいマリガンルールについてどういう印象を抱いているのか、そして既存のデッキにどんな影響が出てくるのかを話そうと思う。
知らない人もいるだろうから、ロンドンマリガンについて説明しておこう。
あなたがN回目のマリガンを行うとき、あなたはカードを7枚引き、その後N枚のカードをあなたのライブラリーの一番下に望む順番で置く
キープするかどうかの判断に際してより多くの情報をもとに判断できるため、この新ルールは占術よりもはるかに強力なものだと言える。それに、手札7枚のなかから一番価値が低いカードを任意に選択してライブラリーに戻すことができるんだ。リミテッドやスタンダードにとって、この変更が好ましくないものだと思う人はほとんどいないだろう。何もできずに負けるゲームが減るわけだからね。
しかし、ロンドンマリガンが試験運用されるのはモダンだ。モダンはできることが多いフォーマットだから、おそらくメタゲームに大きな影響を与えるだろう。他よりも大きく恩恵を受けるデッキがあるのは間違いない。まずはそのようなデッキたちを指摘していこう。
あらかじめお断りしておくけど、ロンドンマリガンは従来のマリガンルールよりも明確に強力なものであるため、どのデッキもその恩恵にあずかることができる。ただ、そのルールをより有効活用できるデッキが他に存在する場合、相対的にそのデッキは弱体化したと考えられるんだ。
大幅に強化されるデッキ
アドグレイス
明らかに大幅に強化されるデッキだ。《稲妻の嵐》や《研究室の偏執狂》のようにゲーム序盤から手札になくてもいいカードがあるし、それにコンボパーツが余りやすいんだ。このデッキは《睡蓮の花》や《五元のプリズム》によるマナ加速から、たった2枚のカードでコンボを決めるデッキだからね。最近はあまり人気がないみたいだけど、マリガンのルールが変われば復権するかもしれない。アドグレイスよりも速いコンボデッキがTier1にならなければね。
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《精力の護符》コンボ
これも強化されたデッキのわかりやすい例だ。高速の勝利を目指せるデッキでありながら、必要とするカード枚数も多くないからね。このデッキはコンボパーツの代替性をある程度持ち合わせている(マナ加速と《原始のタイタン》でサーチするバウンスランドや土地がそれにあたる)し、初手に《精力の護符》があれば、勝利できる確率は大幅に上がる。新マリガンルールにおいて、効果抜群の対策カードがないというのは、コンボデッキにとって非常に意味のあることだ。相手はその対策カードを探し当てやすくなってるわけだからね。
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感染
このデッキはマリガンの回数が多い傾向にある。「感染」を持つクリーチャーがいないと機能しないからだ。また、感染はその他の有力なコンボデッキとの相性がいい。もしメタゲームがコンボ寄りのものになり、黒緑系のミッドレンジやマルドゥパイロマンサー、ジェスカイコントロールの立場がなくなるようであれば、感染が環境を支配するチャンスかもしれない。また、そのようなメタゲームでは《呪文貫き》のような序盤の妨害が活躍する。
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グリセルシュート
このデッキも初手にたった3枚のカードがあれば2ターン目に勝てる可能性がある。具体的には、初手が土地、《信仰無き物あさり》、《御霊の復讐》の3枚で、《信仰無き物あさり》から《グリセルブランド》を引きつつ、2ターン目に土地がプレイできれば勝つことができる。間違いなくロンドンマリガンの恩恵を大きく享受できるデッキだ。しかし、同じく恩恵を受けるであろうデッキと比較した場合、グリセルシュートは墓地対策を苦にするため、相手も対策カードを引き込みやすくなっていることを考えれば、サイドボード後のゲームは厳しい戦いをしいられるかもしれない。
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《硬化した鱗》
《精力の護符》デッキと同様に、デッキ名を冠しているカードが初手にあるかどうかで動きに大きな差が出てくる。そして、新しいマリガンルールが適用された場合、初手に《硬化した鱗》がある確率は当然大きく上昇する。墓地対策カードは当たり前のように大量に採用されていることが多いけど、サイドボードの枠がないためアーティファクト対策はそれほど数が多くない。だから、新マリガンルールによって対戦相手がそれにたどり着くことを過度に恐れる必要はないだろう。
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《献身のドルイド》コンボ
特別にこのデッキが好きだというわけではない。でもさっきも言ったように、3ターン目までに勝てるデッキで、墓地対策がそこまで効かないのであれば注目に値する。また、このデッキはマナ加速するカードばかりの手札になってしまうこともあるから、マリガンでライブラリーに戻すカードも選択しやすい。《召喚の調べ》からシルバーバレットにアクセスできるのも、コンボが増えたメタゲームでは魅力的だね。
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そこそこ強化されるデッキ
《発明品の唸り》プリズン
個人的にあまり馴染みがないんだけど、最近は結果を残しているね。このデッキが主にやろうとしているのは、《罠の橋》を戦場に出すこと、それから手札を空にすることだ。新しいルールになれば、どっちも格段に達成しやすくなる。《トーモッドの墓所》や《減衰球》のようなシルバーバレットをメインデッキから採用しているので、《発明品の唸り》でサーチできる強みもあるね。
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ドレッジ
新ルールがどう影響するのかが気になるデッキだ。従来と比べた場合、1本目は恐ろしいほど強くなるだろうけど、2本目以降はかなり厳しくなるだろう。
1本目に負けるとすれば、動きが遅い手札をキープしてしまったか、あるいはマリガンを過度にしてしまったことが主な要因だ。ロンドンマリガンになれば、上手くいくことを願って遅い手札をキープする必要はなくなるし、《ナルコメーバ》や《這い寄る恐怖》、余分な土地をライブラリーの一番下に戻すことは何ら問題がない。
しかし、自分で計算をしたわけではないけど、以前読んだ記事では「相手が4枚採用している《虚空の力線》を見つけるまでマリガンを繰り返した場合、ほぼ間違いなく初手に引き込むことができる」と言われていた。この戦略が優れたものだと思わない。もし4枚以下の手札で、内1枚が《虚空の力線》の手札をキープできたとしても、ドレッジ側に解答を見つけるだけの余裕を与えてしまい、結果的に相手のゲームプランを遂行させてしまうだろう。
でも、対策カードにより一層の備えをしなければならないのも事実だ。求めているカードを見つけ出す確率がはるかに高くなり、《虚空の力線》はより魅力的なものになったんだからね。相手が徹底的に対策するプランを取ってきた場合に備えて、サイドボード後に別のプランを用意しておくといいかもしれない。
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トロン
トロンを「大幅に強化されるデッキ」に入れなかった理由はひとつだけ。新ルールの環境が元々トロンに強いデッキに支配されるだろうと思っているからだ。もし僕の予想が外れた場合には、間違いなく「大幅に強化されるデッキ」に入るだろう。トロンは初手が5枚でも何の問題もなく機能するからね。
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グリクシス《死の影》
「大幅に強化されるデッキ」ではないのは、そもそもあまりマリガンしないし、ライブラリーに戻したいカードもないからだ。でも、相手の初手が6枚スタートになることが増えるようになれば、1ターン目の手札破壊呪文の有効性が高まるから、それが一番恩恵として大きい部分だろうね。クロックも速いし、妨害要素も多いから、コンボデッキに対して有利なのも魅力的だ。
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親和
攻撃的であり、シナジーも重視するデッキだから、自然と強化されると思う。でも、メタゲームが親和にとっていい方向に変化していくとは思えないし、《石のような静寂》や《古えの遺恨》のようなカードが常に邪魔な存在になるだろう。今後は、アーティファクト好きのプレイヤーが《硬化した鱗》を使う傾向が一層強まっていくはずだよ。
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ストーム
3ターンキルがある程度安定するようになるんじゃないかな。「大幅に強化されるデッキ」に入れなかったのは、《血清の幻視》や《手練》を多く採用しているデッキであれば、元来マリガンをあまりしないからだ。それにストームは呪文が一定数必要だよね?呪文をライブラリーの底に戻したくないわけだ。さらに、墓地対策が絶望的なデッキではないけど、有効であることに違いはないし、その墓地対策が数を増やしていくのは向かい風だろうね。
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呪禁オーラ
トロンとまったく同じ状況に置かれると予測している。デッキはとても円滑に動くようになるし、マリガンが多い上に初手が5枚でも機能するデッキだからね。でも、相性の悪いマッチアップばかりのメタゲームになってしまう可能性があるのはとても気がかりだ。ただ、呪禁オーラはモダンでも屈指のサイドボードカードを運用できるから、僕が間違っている可能性もあるだろう。
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5色人間
妨害ができるアグロデッキだから、新しいルールは5色人間にとって非常に相性のよいものだろう。余分な《霊気の薬瓶》があっても仕方ないときもある。恩恵をあまり得られない場面は、サイドボード後だ。5色人間が使う対策カードは《墓掘りの檻》ぐらいなものだからね。
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スピリット
5色人間と似ているけど、スピリットはマリガンすることが多いし、ときには《霊気の薬瓶》を設置する余裕がない展開もある。ライブラリーの底に戻してもいいと思えるタイミングがあるのは《霊気の薬瓶》だけじゃないかな(手札に土地が4枚以上あったら話は別だけどね)。5色人間と比較した場合、スピードでは劣るものの、サイドボードは断然強力だ。それにロンドンマリガンであれば《安らかなる眠り》や《石のような静寂》を引き込みやすくなるから注目のアーキタイプだね。
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《虚ろな者》
最近すっかり人気がなくなってしまったのは、イゼットフェニックスやドレッジが隆盛してきたからだ。新ルールによってトップにまで返り咲くとは思わないけど、プラスに働く可能性はあるだろう。爆発的な初動ができるデッキだし、墓地対策が効くとはいえ完全に機能が停止するわけでは決してないからね。
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あまり強化されないデッキ
イゼットフェニックス
今のモダンで最強のデッキの一角だ。とても強力な動きが可能なデッキだけど、新ルールの恩恵はそこまで得られないと思っている。
このデッキには《信仰無き物あさり》があるから、手札でカードが腐るということがあまりない。それに《氷の中の存在》や《弧光のフェニックス》にとって、手札に呪文の枚数が確保されていることはとても重要だ。ライブラリーの底にカードを戻す代償は大きい。
ロンドンマリガンがメタゲームに与える影響を判断するという意味で、このデッキはミシックチャンピオンシップ・ロンドンで一番注目を浴びるデッキだと思う。今現在、イゼットフェニックスは明確な捕食者の立ち位置にいる。もしロンドンでは違う様相が呈されるのであれば、新ルールがいかに大きな意味を持つのかという証明になるだろう。もちろん、デッキがあまりにも強くて、新ルールなんてお構いなしに環境を食い荒らしてしまう可能性もあるけどね。
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バーン
新ルールの恩恵を大きく受けるデッキだと考える人も多いだろう。でも、呪文がどれか1枚でも欠けていたら勝てなかっただろうというゲームがあまりにも多いと思う。それにバーンは極端にマリガンが多いデッキではない。どの呪文も果たす役割は基本的に同じで、ダメージを与えることだからね。
こういう意見を持つ人もいるだろう。「土地が1枚しか手札にない場合、現行のルールであればマリガンはしない。しかし、新ルールであれば土地が2~3枚含まれる7枚を求めてマリガンをし、土地2枚、呪文4枚のバランスになるようにライブラリーにカードを戻すのではないか?」僕はそれでも危険なプレイだと思う。すでにバーンはとても安定性のあるデッキだからね。
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青白 / ジェスカイコントロール
これらのデッキは土地を伸ばしたいデッキだから、マリガンをそこまでしない。また、1ゲーム目は相手が何のデッキを使っているかわからないから、どの解答が必要になるのかがわかりづらい。だから、ライブラリーに戻すカードの判断がギャンブルになってしまいかねない。とはいえ、《終末》を採用する意味が大きくなった。マリガンをすれば、大抵はライブラリーのなかにすべての《終末》を眠らせておくことができるからね。
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黒緑系ミッドレンジ
このデッキもあまりマリガンをしたくないタイプだ。その安定性の高さが最大の強みだからね。ミッドレンジ好きにとって喜ばしいのは、グリクシス《死の影》で解説したように、1ターン目の手札破壊呪文が飛躍的に価値を高め得るということだ。また、環境に順応できるアーキタイプでもあるから、ロンドンマリガンによってメタゲームが変化し、今ほどデッキの多様性がなくなった場合、黒緑系ミッドレンジの戦略がハマる可能性はある。
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タイタンシフト
(何人か思い当たる節があるけど)《溶鉄の尖峰、ヴァラクート》が好きな人には申し訳ない。あらゆる面において劣化してしまうと思う。高い安定性があり、マリガンをあまりしない。デッキを円滑に動かすには順調に土地を伸ばしていく必要があるからね。しかも、新マリガンルールによって、速いコンボデッキはどれも3~4ターンまでの勝利が大幅に安定するようになる。タイタンシフトにとって厳しいメタゲームになるだろう。
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おわりに
いつものことだけど、解説すべきデッキはモダンにはまだまだある。でも今回はここまでにしよう。最近開催されたグランプリ・ビルバオ2019とグランプリ・タンパベイ2019では、イゼットフェニックスが明確な環境の覇者であり、ドレッジがそれに続く形となった。今後どうなっていくのか、本当に目が離せないね。
とはいえ、ミシックチャンピオンシップはとてもエキサイティングなものになると思う。リミテッドラウンドは新セット『灯争大戦』で行われるし、ロンドンマリガンのお披露目にもなるからね。今回の記事はどうだったかな?僕の考えに賛成の人も、反対の人も、特定のデッキに新ルールがどう影響するのか意見が欲しい人も、ぜひ僕に知らせてほしい。
じゃあまた次回の記事で!
セバスティアン・ポッツォ@sebastianpozzo