ミシックインビテーショナル ~最善のデッキ選択~

Christian Hauck

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2019/04/08)

最善のデッキ選択

ミシックインビテーショナルが幕を閉じました。大会を振り返り、環境を分析し、下した判断がどうだったのかを顧みるにはベストなタイミングです。記事をご覧になっている時点ではご存知の方も多いでしょうが、私が使用したのはエスパーコントロールとゴルガリミッドレンジでした。

大会が始まってみれば、エスパーコントロールが一番人気のデッキで、ゴルガリミッドレンジは大分マイナーな選択のようでした。これらのデッキを選択したのは、自分に馴染むからでもなく、偏見を持っていたからでもありません。勝利を目指すにはこの2つのデッキが最高の組み合わせだと思っていましたし、今でもその考えは変わりません

BO1最強のデッキ

まずは環境で最強のアーキタイプから見ていきましょう。多くのプレイヤー、特にマジックプロリーグの選手たちは、エスパーコントロールを選択していました。1本勝負(BO1)でこのデッキを使った、あるいは使われたことがある人であれば、何の驚きでもありませんでした。エスパーコントロールはスタンダードで最強クラスのカードを使える上、万能な対応力があり、ゲームプランが一定です。また、環境で人気のデッキに対し、相性が極端に悪いマッチアップが基本的に存在しないという強みがあります。

私は《ドビンの鋭感》を採用したタイプではなく、従来から存在していたタイプのリストを選択しました。前者のタイプで気をつけるべきカードは、《首謀者の収得》《不滅の太陽》《ミラーリ予想》といった1枚挿しのカードだけですから、古典的なタイプの方がミラーマッチでは有利だろうと考えたのです。

首謀者の収得

私が加えた唯一のスパイスは、古典的なエスパーコントロールにも《首謀者の収得》を採用した点です。このカードのためだけに構築したサイドボードがあれば、非常に強力ですからね。しかし残念なことに、デッキ提出日になるころにはこの構築が知れ渡ってしまっていました。古典的なエスパーを使うプレイヤーのほとんどが追従し、採用してしまったのです。

否認ミラーリ予想悪賢い隠蔽啓蒙

そして最後に、2枚目の《首謀者の収得》を2枚目の《否認》に変更しましたが、今思えば失敗だったかもしれません《否認》が2枚あればミラーマッチにおいて非常に心強いのは間違いないですが、《首謀者の収得》が2枚あればゲームが長引いた場合に幅広い戦略が取れるようになるのです。私のサイドボードには《ミラーリ予想》《悪賢い隠蔽》がありませんでしたが、今なら全体除去と《啓蒙》の代わりに入れるでしょう。総じてこのデッキは円滑に動くものになっているので、BO1であればエスパーコントロールを選択して間違うことはないでしょう

2つ目のデッキ

もうひとつのデッキ選択は、頭を抱えることになりました。結果、エスパーコントロールよりもはるかに目を引くようなデッキを選択することになったのです。そのデッキとは、ゴルガリミッドレンジです!

調整をしていくなか、エスパーコントロール以外のもう1つのデッキをどうするか決めかねていました。最終的に選択肢として残ったのは、赤単、白単、そして愛用のゴルガリです。

偏見なく判断するのは困難でした。どれだけゴルガリが好きか、どれだけ調整に労力を費やしてきたのか、どれだけのゲームを勝ち取ってきたのかを考えてしまったのです。本番までの数週間、すべてのデッキについて戦績を振り返ってみることにしました。すると、全体的な勝率という観点で言えば、ゴルガリが明らかにトップだったのです。ですが、非常にマナカーブが低く、攻撃的なデッキをエスパーコントロールの相棒にすべきなのではないかという思いは拭いきれませんでした。

荒野の再生大嵐のジン

私はティムール《荒野の再生》や青単と対戦することを恐れていました。というのも、いずれもゴルガリにとって相性が最高だとは言えず、相手からすれば3戦目のデッキ選択が容易になってしまうと思っていたからです。公平を期するために言っておくと、私はこの2種のデッキが本番では多くないだろうと予想していました。ですが、エスパーコントロールが環境に多いのであれば、ミシックインビテーショナルでは誰しもがティムール《荒野の再生》の列車に乗り込んでもおかしくはないという恐怖が心のどこかにあり、依然として判断しかねていたのです。

以下に掲げたのは、デッキごとのゲーム単位での戦績です。この4種のデッキは、デッキ提出の2週間前になっても調整を続けていたものになります。

デッキ名 勝利数 敗北数 勝率
赤単 42 38 52.5%
白単 66 46 60.0%
エスパーコントロール 84 43 66.1%
ゴルガリミッドレンジ 147 72 67.1%

私の心は、アグロデッキこそが進むべき道であり、白単よりも赤単の方が優れている選択肢だと訴えかけていました。赤単は白単に対して若干有利ですからね。その一方、白単は適切に立ち回り、正しい順序で呪文を唱えることができれば、エスパーコントロールと互角に渡り合うことができます。ときおり《軍団の上陸》が3ターン目に変身しそのまま勝利することもありますが、この動きがなくとも、勝つことはできるのです。

とはいえ、数多のゲームを消化しても、同程度の勝率を出せないのであれば、そのようなデッキを選択するのは難しいものがあります。ゴルガリを選択肢から外す覚悟はできていましたが、練習での勝率を加味するとこのデッキを見捨てるのは恥ずべき行為でしょう。また、白単はエスパーコントロールに次ぐ、人気のデッキだと予想していました。白単ウィニーはゴルガリにとって非常に相性が良く、私のデッキリストはエスパーコントロールに対しても良い結果を残していました。ですから、メタゲーム予想が的中していれば、最大勢力の2つのデッキに対して相性が良く、しかも全体の勝率が67%であるデッキを選択することは、裏目にはならないと考えられるのです。

「デッキ登録を済ませ、ほっと一息つけました(最終的に私が登録したのは、BO1で1000ゲーム近くを消化してもっとも勝率が高い2つのデッキでした)。今日やっとP1 Visaを取得できたことの方がはるかに重要でしたけどね。さて、これでミシックインビテーショナルへの準備はすべて整いました」

スゥルタイにしなかった理由

最終的なデッキリストにたどり着くまで、カード選択やデッキ構築に関して興味深い判断がありました。配信中によく尋ねられたのは、なぜスゥルタイではなく、純正のゴルガリにしたのか?ということです。ゴルガリのマナベースは、スゥルタイよりも断然強固であるとは言えません。だとすれば、なぜBO3のように《人質取り》《ハイドロイド混成体》を採用しなかったのでしょうか?

人質取り貪欲なチュパカブラ

調整を重ねていくうちにわかったのは、BO1において《貪欲なチュパカブラ》《人質取り》の純然たる下位互換にはならないということでした。青単や白単が相手であれば、《人質取り》の方が好ましいですが、白単との戦績はすでに良かったですし、青単も使用率が高くないだろうと考えていました。そして、赤単に対しては間違いなく《貪欲なチュパカブラ》の方が優れています。赤単のクリーチャーは基本的に速攻や戦場に出たときの能力を持っていますし、何よりも赤いデッキは《人質取り》を除去して人質を取り戻す手段を豊富に持っていますからね。

ハイドロイド混成体殺戮の暴君愚蒙の記念像《採取/最終

《ハイドロイド混成体》は驚異的なカードですが、《殺戮の暴君》の方がエスパーコントロールに対するゲームプランに合致しています。デッキリストをご覧の通り、《採取》《愚蒙の記念像》《殺戮の暴君》を何度も出し直せる構成にしています。特に《愚蒙の記念像》は3枚も採用しており、打ち消されない強みがあります。

《殺戮の暴君》の連鎖を断ち切る手段は、《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》で墓地の《殺戮の暴君》を追放することだけです。ですから、《愚蒙の記念像》がある場合には、10マナに伸びるまで《殺戮の暴君》を出さずにおいた方が良いタイミングもあります。そうすれば、《ケイヤの怒り》で除去されたとしても、《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》の墓地追放能力に対応して回収できるようになります。

大抵の場合、エスパーコントロールはこちらの第一波を凌ぐために全体除去を必要とします。そのあと《殺戮の暴君》を何度も叩きつけていけば、いつかは全体除去が底をつくはずです。相手には《思考消去》があるため、《殺戮の暴君》を手札に抱えておきたくはありません。ですから、《愚蒙の記念像》を起動するのは、必ず相手のターン終了時、そして次のターンに《殺戮の暴君》を唱えたい場合のみにしましょう

《魔術遠眼鏡》の採用理由

魔術遠眼鏡

メインデッキに《魔術遠眼鏡》が1枚採用されていることに驚かれた方もいらっしゃるでしょう。このカードは予想されたメタゲームで多くをこなしてくれること、そして《破滅を囁くもの》の起用に伴いメインデッキに採用するにいたりました。コントロールデッキ対して、2ターン目に《魔術遠眼鏡》《ドミナリアの英雄、テフェリー》を指定すれば、それだけで勝ってしまう可能性がありますし、他のマッチアップでも大きく活躍してくれたカードでもありました。私が実際に指定したカードは、《成長室の守護者》《一番砦、アダント》《水没遺跡、アズカンタ》であり、何も役割が期待できないときには《ゴルガリの女王、ヴラスカ》の+2の能力で生け贄にすることもありました。

破滅を囁くもの

《魔術遠眼鏡》の採用に踏み切ったのは、《破滅を囁くもの》の使用を決めたときでした。6/6飛行というだけで攻撃的なデッキに対して非常に有効ですし、コントロールが相手であっても、除去された返しのターンのドローを見事に操作できる魅力もあります。エスパーコントロールが《破滅を囁くもの》を除去、あるいは《ドミナリアの英雄、テフェリー》でライブラリーに戻した返しのターン、どんなカードをドローできると良いでしょうか?そうですね、《ビビアン・リード》は素晴らしい後続であり、《殺戮の暴君》《採取/最終》も選択肢に入ります。

ですが、《魔術遠眼鏡》であればゲームエンドです。「諜報」にライフ18を払えば、36枚もデッキを掘り下げられるため、それが《魔術遠眼鏡》を1枚採用しようと思った大きな要因となりました。また、相手が私のデッキリストに《魔術遠眼鏡》が入っていることを知っている場合、副次的な効果も期待できます。コントロールを使うプレイヤーは常にその存在に怯えることになり、判断を下しづらくなるのです。

ミシックインビテーショナル当日

本番当日、私は大きな自信を持って迎えましたが、1回戦で早々に負けてしまいました。負けたゲームはどちらも土地が伸びなかったのです。重要な大会でこのようなことが起きてしまったのはとても受け入れがたい現実でしたが、BO1のシャッフラーをもってしても時として土地事故は回避できないのです。まだ大会からの敗退が決まったわけではないため、連勝からトップ16を目指すことになりました。2回戦と3回戦は勝利したものの、4回戦では相性の悪い相手と当たってしまい、大会から去ることになってしまったのです。

「1回戦の辛い敗北から再起を図ろうとしましたが、私のミシックインビテーショナルでの挑戦は4回戦で終わってしまいました。この大会は私にとって素晴らしい経験となりました。サポートしてくれたみなさんに多大なる感謝を!」

私は常に目標を高くして生きてきましたから、今大会の目標を問われたときには、優勝が目標だと言い続けてきました。一切後悔していないですし、それこそが大会後にもっとも重要なことだと私は思っています。仮にもう一度やり直すことになったとしても、私は同じデッキを選択するでしょう。

ミシックインビテーショナルは非常に楽しいものとなり、素晴らしいプレイヤーたちと直接お会いできたことを嬉しく思います。新しい友人もできましたし、以前から知り合いだった人とも親睦を深めることができました。紙ではなく、MTGアリーナで大会を行うというのは、想像よりもはるかに面白いものでしたね。初めてMTGアリーナで開催されるミシックチャンピオンシップが今から楽しみでなりません。

「マジックのプロたちと配信コミュニティがひとつになった今週末は、本当に喜ばしいことであり、素晴らしい経験となりました。ミシックインビテーショナルはマジック業界全体にとって大成功であると思いますし、ウィザーズ社への賞賛しか耳にしません。ナイスプレイ!」

クリスティアン・ハウク @Twitter / Twitch

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Christian Hauck 2017-2018シーズンはクリスティアン・ハウクにとって実りの多い1年となった。シーズン開幕戦となるプロツアー『イクサラン』でトップ8に入賞すると、プロツアー『ドミナリア』も29位と手堅い順位で終える。さらにはグランプリでも2回のトップ8を含む数々の好成績を収め続け、なんとノンレベルからプラチナ・レベルまで駆け上がったのだ。 誰もが羨む絵に描いたようなサクセスストーリーをひっさげ、ハウクはHareruya Prosへと加入した。 Christian Hauckの記事はこちら