Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/06/06)
はじめに
現在のスタンダードは格別な環境となっています。メタゲームは常に変化し続けており、競技レベルで戦える新たなデッキが毎週のように誕生しているのです。数日でその命を絶つものもあれば、本物であることを証明するものもあります。
私はTier1のデッキをすべて回してしまったので、ローグデッキに少しだけ足を踏み入れてみることにしました。すると、あるデッキに目を引かれたのです。そのデッキはメタゲームに合っているだけでなく、常識外れなことをやってのけます。連勝できたことから、しばらくはこのデッキを使い、弱点をカバーするために最善の調整を施そうと考えるようになりました。
デッキの基本的な解説
8 《島》
4 《繁殖池》
4 《内陸の湾港》
1 《シミックのギルド門》
-土地 (26)- 4 《ラノワールのエルフ》
4 《ハイドロイド混成体》
4 《培養ドルイド》
4 《楽園のドルイド》
4 《エリマキ神秘家》
1 《永遠神ケフネト》
-クリーチャー (21)-
このデッキが単なるネタデッキではないと認知され始めたのは、マーティン・ジュザ/Martin Juzaが配信中に非常に似通ったデッキで成功し、さらにはFandom Ledengs主催のMTGアリーナの大会で準優勝したことがきっかけだったかと思います。
一般的なゲームプラン
基本的にランプ / テンポデッキです。マナクリーチャーによって《世界を揺るがす者、ニッサ》をいち早く展開し、さらに畳みかける必要があるならば、大量のマナによる《ハイドロイド混成体》や《集団強制》で相手の上を行くことができます。
《エリマキ神秘家》や《幻惑の旋律》など、中盤戦を戦える要素も揃っているため、相手のゲームプランを狂わせたり、時間を稼いだりできるデッキでもあります。
キーカード
《世界を揺るがす者、ニッサ》
『灯争大戦』で登場したこのプレインズウォーカーがデッキの主役と言っても良いでしょう。このデッキなら《森》や《繁殖池》から追加の緑マナを生み出す能力を最も上手く使えます。マナクリーチャーが12枚も採用されており、そこから繰り出される3ターン目の《世界を揺るがす者、ニッサ》は手を付けられないほどです。前倒しで着地した彼女が一人でゲームを決めてしまうことも少なくないでしょう。場に残れば膨大なマナを発生させ、決定力がさらに高い《ハイドロイド混成体》や《集団強制》、場合によっては《破滅の終焉》へと繋がっていくのです。
《世界を揺るがす者、ニッサ》はパワーカードですが、『灯争大戦』発売当初のスタンダードでは見向きもされませんでした。しかし、とうとう然るべき注目を浴びるようになったのです。[+1]能力で起動された土地は、速攻によって忠誠度の低いプレインズウォーカーを脅かしつつも、警戒で《世界を揺るがす者、ニッサ》を守ります。これはまさに現在の環境で攻撃的なプレインズウォーカーに求めるものでしょう。常在型能力も活用できれば、理不尽なほどのカードになります。
《集団強制》、《幻惑の旋律》
青緑というカラーは着地してしまったパーマネントの対処に苦戦することで知られていますが、このデッキを「シーフ(Thief)」、つまり泥棒と呼ぶのには訳があります。相手のクリーチャーやプレインズウォーカーを破壊するよりも遥かに良い方法 – コントロールを奪うことで対処するのです。この色の組み合わせが盤面の脅威に対して綺麗に解答できるのは非常に珍しいですが、かなり早いターンから膨大なマナを生み出せる力がなければ、マナコストの重いこれらのソーサリーは使えなかったことでしょう。
《集団強制》はたった1枚の呪文でありながら、少なくとも最大の脅威となっているプレインズウォーカーやクリーチャーのコントロールを奪えますし、上手くいけば相手の盤面をごっそりと頂くこともできます。だからこそ、相手がどんなことをしてきてもその上を行けるのです。パワフルなプレインズウォーカーが溢れる環境ですが、《時を解す者、テフェリー》の存在によって打ち消し呪文はかつてないほど価値を低下させています。今こそ《集団強制》の時代がやってきたのです。
大量のマナにたどり着くまでの間、《幻惑の旋律》は序盤・中盤を支えてくれます。《ベナリア史》や《主無き者、サルカン》のトークンをたったの2マナでかすめ取るのです。
《ラノワールのエルフ》、《培養ドルイド》、《楽園のドルイド》
クリーチャーによるマナ加速は、このデッキのゲームプランに欠かせません。ゲームへの影響力が大きい呪文を素早く唱えていく必要があるからです。《支配魔法》系の呪文はゲームの流れを取り戻せる力を秘めていますが、劣勢時にマナ加速ができていなければその夢は叶わないでしょう。
《楽園のドルイド》の枠に《成長のらせん》を採用しているデッキリストもあるようです。《成長のらせん》はドローしながらマナ加速できるので、理にかなった選択と考えられます。
私も実際に両方のカードを試してみたのですが、《成長のらせん》がマナ加速にならないことがあまりにも多いと判明しました。手札にはいずれにせよ次のターンに置いていたであろう土地しかなかったり、あるいは手札に一切土地がないこともあったのです。《成長のらせん》は悪くない働きを見せることも多いのですが、このデッキにとって序盤のマナ加速はあまりにも重要であり、《成長のらせん》が単なるキャントリップになってしまうリスクを負いたくありません。
《楽園のドルイド》が呪禁を持っていることも加点対象でした。相手が軽量除去を持っていたとしても、3ターン目に4マナへのアクセスを確約してくれるのです。また、好きな色をマナプールに加えられる能力がありがたい場面も多々あります。《集団強制》は青マナを4つも要求するため、2色のデッキですら捻出するのが困難なのです。このデッキは青マナが生み出せる土地を17枚しか採用していませんが、これは《世界を揺るがす者、ニッサ》の常在型能力を最大限に有効活用できるよう、基本土地タイプ「森」の数を確保する意図があります。
《培養ドルイド》を使うデッキは数あれど、ここまで《培養ドルイド》の「順応」が重要で、起動させやすいデッキはありません。3マナの使い道は多いですし、3、4ターン目に《エリマキ神秘家》を構えた状態でターンを渡し、相手のターン終了時に「順応」することも珍しくないため、「順応」の段取りもさほど難しくないのです。
一般的なリストにはないカード選択
《永遠神ケフネト》
《永遠神ケフネト》のポテンシャルを遺憾なく発揮するにはインスタントやソーサリーの数が心許ないですが、4/5飛行というステータスは除去しづらいうえに相手の脅威を完璧に抑え込むため、単体でも非常に強力です。大抵は3ターン目に着地し、その瞬間から赤単やグルールのようなデッキに対して壁として立ちはだかり、イゼットフェニックスとの一戦でも飛行クリーチャーをブロックします。時には《薬術師の眼識》や《集団強制》、《幻惑の旋律》のコピーを軽量のマナで唱えることも可能です。
当初はこのデッキに《永遠神ケフネト》を入れる価値があるのか確信が持てなかったのですが、戦場に降臨するたびに私を驚かせてくれました。膨大なマナがあってフィニッシャーが欲しい展開が1ゲーム目に訪れたら、《破滅の終焉》でサーチすると良いでしょう。今日のスタンダードは目まぐるしく変化していますが、現在の環境で採用されている脅威や除去が今のままならば、この「ゾンビ・神」を使った方が良いように思います。
《破滅の終焉》
最後の枠を埋める際に採用したカードであり、自由枠に入れた私なりのスパイスと言っていいでしょう。「イラストにお気に入りの《殺戮の暴君》がいるから、あるいは『灯争大戦』で自分自身でがプレビューしたカードだから採用したんだろう」と思う人もいるかもしれません。正直に言いましょう。確かにそういった事実にそそられる面もあります。ですが、このカードの大きな柔軟性に心を惹かれたというのが真実です。3マナで《ラノワールのエルフ》をサーチしたり、先述の通り《永遠神ケフネト》を持ってきたり、(X)=10で唱えられればフィニッシャーにすらなります。
フィニッシャーの呪文になると言いましたが、サイドボード後に(X)=10以上で《破滅の終焉》を唱えれば、《ペラッカのワーム》や《殺戮の暴君》が速攻、トランプル、大幅なサイズ修正を得て戦場に着地するため、即座に勝利に結びつくのです。(X)=10以上の《破滅の終焉》はクリーチャー全体を強化しますが、マナクリーチャーは呪文を唱えるために大抵はタップされているでしょうから、戦闘には参加できないと想定しておきましょう。サイドボードの《アゾカンの射手》も《破滅の終焉》からサーチできる、ちょっとしたシルバーバレットです。
《切り裂き顎の猛竜》(サイドボード)
今の環境にピッタリのクリーチャー。《永遠神ケフネト》もそうでしたが、タフネス5は現在の除去やクリーチャーサイズに耐性があるのです。《永遠神ケフネト》と違うのは、「激昂」が戦闘ダメージ以外でも活躍する場面が多いということでしょう。
このデッキがどれだけ強力な呪文を早いターンから唱えられると言っても、アグレッシブなデッキの高速攻撃に耐えられなければ劣勢に立たされます(特に後手)。そこで《切り裂き顎の猛竜》が時間を稼いでくれるというわけです。豊富に採用されたマナクリーチャーによって《切り裂き顎の猛竜》は3ターン目に着地し、大抵の盤面を建て直してくれることでしょう。対処しづらいステータスを持ちながらも、《切り裂き顎の猛竜》は中盤からこのデッキの神髄である終盤までの橋渡し役となるのです。
アドバイスと小技集
おわりに
Here is my updated RDW List i played to Mythic today incl. Sideboardguide ??????
— Christian Hauck (@ChrHauck) 2019年5月9日
The Deck is still well positioned and I can recommend it to anyone playing in a tournament this weekend or to grind up the Ladder !@arenadecklists Special Thx @Loldajoe for typing it-
Good Luck ?? pic.twitter.com/MKfoYNmDRt
「今日ミシックに到達した際に使用した、最新の赤単のデッキリストとサイドボードガイドです。……」
先日、赤単のサイドボードガイドをツイートしたところ、大きな反響をいただきました。いかにサイドボードへの関心が高いのかを思い知ったのです。サイドボードの難しさを考えれば納得ですが、執着し過ぎている印象もあります。とはいえ、シミックシーフのサイドボードに関していくつかアドバイスをしておきましょう。ただし、スタンダードは毎週進化していますから、(《培養ドルイド》のように)状況に応じて「順応」することをお忘れなく。以降でご紹介するのは、現在のメタゲームにおける主要なマッチアップのサイドボーディングを大まかに示したものです。
シミックシーフの更新情報を知りたい方、ご質問のある方は私のTwitterやTwitchをチェックしてみてください。みなさんも《世界を揺るがす者》になりましょう!
サイドボードガイド
赤単
対 赤単
エスパーミッドレンジ
対 エスパーミッドレンジ
4色《戦慄衆の指揮》
対 4色《戦慄衆の指揮》
ジェスカイ / エスパープレインズウォーカー
対 ジェスカイ / エスパープレインズウォーカー
アゾリウスアグロ
対 アゾリウスアグロ
イゼットフェニックス
対 イゼットフェニックス
グルールミッドレンジ
対 グルールミッドレンジ
注意:プレインズウォーカーが少なく《不滅の太陽》を入れているタイプには《打ち壊すブロントドン》を数枚入れましょう。
ミラーマッチ(シミック/バント)
対 ミラーマッチ (シミック / バント)
ここまで読んでいただきありがとうございました。