決勝:佐藤 元彦(ドレッジ) vs. 清原 大地(ティムールデルバー)
晴れる屋メディアチーム
晴れる屋メディアチーム
By Date Tsutomu
『灯争大戦』と『モダンホライゾン』のリリース以降、初となるレガシー東海王決定戦が開催された。レガシー環境はそのカードプールの広さから、新セットがリリースされても環境への影響は小さいとされるのが常だ。
しかし前述の2セットは高パワーで、かつエターナル環境を想定してデザインされたかのようなカードが多い。
《覆いを割く者、ナーセット》、《大いなる創造者、カーン》、《人知を超えるもの、ウギン》、《レンと六番》、《否定の力》や《甦る死滅都市、ホガーク》など、レガシーに影響を及ぼすカードについては枚挙に暇がない。近年稀に見る劇的な環境の変化と言える。
東海のレガシープレイヤーたちも大きな刺激を受けたのか、今期の参加者は97名を数え、東海王決定戦における最多動員数を更新した。
かような大変動を乗り切ったTOP8の面々は、名声と実績溢れる強豪の揃い踏みとなった。
東海地方のレガシープレイヤーなら誰もが知る8人が顔を揃えたのだ。
誰が優勝してもおかしくない豪華絢爛なメンバーの中で、見事決勝戦に駒を進めた2人を紹介しよう。
スイスラウンドを5位で通過した佐藤 元彦は、モダンとレガシーを主戦場とするプレイヤーで、第4期モダン東海王の称号を持つ。
墓地を使うギミックを得意としており、モダン東海王で優勝した際にもドレッジを使用していた。
本大会でも、『モダンホライゾン』の《甦る死滅都市、ホガーク》でアップデートされたレガシー版のドレッジを手に王座を狙う。
「今回のドレッジは《甦る死滅都市、ホガーク》が出る前に1回、出てから1回FNMで使いました。卓上での練習機会を多くは持てませんでしたが、勝ち筋がはっきりしているデッキなので実際にカードがなくとも脳内で回すことができます。移動中などのちょっとした時間でも練習できるのがよかったですね」と語る。さらりと「脳内で回すことができる」と言っているが、常人のできることではない。これも卓越した才能と蓄積された経験があってのものか。
佐藤は準々決勝、準決勝をともに圧倒的な速度と勢いで勝ち上がってきた。それらの試合を観戦していると、ドレッジというデッキには苦手なマッチアップなど存在しないのではないかと錯覚してしまうほどだった。
そこで佐藤に苦手なマッチについて尋ねてみたところ、「自分より速いコンボデッキ、特にANTは苦手です。リアニメイトも後手だときついですね。今回はマッチアップにも恵まれました」と答えてくれた。ここ最近のレガシー環境の墓地対策カードは、ドレッジに対して劇的な《安らかなる眠り》や《虚空の力線》といったものよりも《外科的摘出》が優先される傾向にあり、そういった背景もドレッジにとって追い風になっているようだ。
一方、スイスラウンド6位の清原 大地。「東海で最強のレガシープレイヤーは誰か?」この問いがあれば、多くの票を集めるであろうプレイヤーが清原だ。特にデルバー系統のデッキに精通しており、東海のデルバー使いは彼のプレイや発言を大いに参考にしているという。第3期レガシー東海王であり、第6期レガシー東海王をも制している清原は、初の連覇に向けて最後の戦いに挑む。
今回の使用デッキはティムールデルバー(カナディアンスレッショルド)。一時期は古代兵器と揶揄されることもあった同アーキタイプだが、メタゲームの推移から徐々にその地位を取り戻し、『モダンホライゾン』で完全復活を果たした。
従来と比べ、カナスレはどのような変化を遂げたのだろう?「《レンと六番》のおかげで全てが変わりました。《レンと六番》はカナスレが欲しかったもの全てを兼ね備えています。特にアドバンテージを確保できるのが大きいですね。《霊気の薬瓶》系のデッキに対してはマイナス能力が強力で、今までは《稲妻》を撃たなければならなかった《スレイベンの守護者、サリア》などのクリーチャーを容易に対処できるようになりました。ミラーマッチでも忠誠度の高さが頼りになりますし、コントロール相手も奥義までいけば大体投了してくれますね」
また、清原は家庭とマジックを両立させているプレイヤーとしても知られている。限られた時間の中で好成績を残す秘訣を問うと、佐藤と同じく「脳内での調整」という解答が返ってきた。その中でここまで勝ち上がってきたのは流石と言えよう。
決勝に進出した2人は本大会まで交流はなかったそうだが、スイスラウンドの3回戦でマッチアップされ、その後スイスラウンドの最終戦をID(同意の上での引き分け)したプレイヤーたちで昼食に出かけた際に親交を持ったという。それもあってか、東海王の座がかかる決勝戦にあっても、ゲーム開始前にはフリープレイを思わせる本音トークがかわされる。
清原「メインどうやって勝つんだろうなぁ」
佐藤「とは言っても噛み合いがあるからね」
佐藤「(ドレッジは)《終末》とか使われるときつい」
清原「あっちのブロックで、浅野さん(白青奇跡)に当たって欲しかったなあ。」
泣いても笑っても、これが最後の一戦だ。 ドレッジマスターの佐藤が2階級を制覇するのか、はたまた東海最強のデルバー使い清原が連覇を達成するのか。勝敗はいかに。
先手の佐藤はドレッジの理想と言っていい上記の7枚をキープ。
一方の清原は、1マリガン後にこの手札をキープ。
ファーストアクションは佐藤の《ライオンの瞳のダイアモンド》。
早々に重い選択を突き付けられた清原。これを通すとドレッジ側の手札は全て墓地に落ちるため、「発掘」の連打を許してしまう。また、《ライオンの瞳のダイアモンド》のマナ能力は《信仰無き物あさり》の「フラッシュバック」、《セファリッドの円形競技場》の起動とドレッジの潤滑油となる。
長考の後、意を決した清原は《意志の力》でこれをカウンター(コストは《呪文嵌め》)。
しかし佐藤は間髪入れず2枚目の《ライオンの瞳のダイアモンド》をプレイ。これが打ち消されなかったことを確認すると、《真鍮の都》から《信仰無き物あさり》で2ドローし、《臭い草のインプ》と《ゴルガリの墓トロール》を墓地に落とす。
これで「発掘」の準備は整った。
《敏捷なマングース》でターンを返す清原に対し、佐藤は《ゴルガリの墓トロール》を「発掘」すると、続いて《ライオンの瞳のダイアモンド》を砕いて手札から《ゴルガリの墓トロール》を墓地に落としつつ、《信仰無き物あさり》を「フラッシュバック」。《ゴルガリの墓トロール》を「発掘」、さらに墓地に落ちた《ゴルガリの墓トロール》を「発掘」と続け、わずか2ターンにして溢れんばかりの墓地を形成する。
もちろん、そこには《黄泉からの橋》、《ナルコメーバ》や《陰謀団式療法》といったカードも含まれていた。そして《陰謀団式療法》の「フラッシュバック」で清川のハンドが詳らかになると、清原は「まだ(自分は投了せずに)やるのこれ」と苦笑する。
ターンが返ってくると、サイドボード後が本番と清原は投了した。
佐藤 1-0 清原
メインの強力な勝ち筋をそのままとし、3枚のみを交換する佐藤。《沈黙の墓石》は、清原が投入してくるであろう《外科的摘出》を無効化する狙いだ。対する清原はドレッジに効果の薄いカードをアウトし、墓地対策を中心に投入していく。
両者ともに7枚でキープ。先手をとった清原の初手は……。
《意志の力》こそないがクロックと妨害がバランスよく含まれたハンド。
対する佐藤は、《打開》が通ればそのまま発掘ルートに入るハンドだ。
清原が《Volcanic Island》から《紅蓮破》を構えてターンを返すと、佐藤はトップから引き込んだ《マナの合流点》から《沈黙の墓石》でターンを終了と、先ほどとは打って変わって静かな立ち上がり。
続いて清原は妨害の構えを崩さないまま、《Tropical Island》から《秘密を掘り下げる者》とクロックを用意。
次ターンには《紅蓮破》を公開しながら《秘密を掘り下げる者》を「変身」させ、さらに《思案》から《墓掘りの檻》を設置して佐藤に対処を迫る。
一方の佐藤は打ち消し呪文を警戒してか、《打開》から仕掛けることはせず、クリンナップ・ステップに《ゴルガリの凶漢》をディスカードするのみ。
しかし、墓地に落ちた《ゴルガリの凶漢》を見た清原の判断は早かった。《不毛の大地》で佐藤の《マナの合流点》を叩き割ると、《敏捷なマングース》を追加しさらなる圧をかける。
佐藤は「発掘」から墓地に解答が落ちることを期待するが、2度の「発掘」でもそれは叶わず、勝負の行方は3本目にもつれ込んだ。
佐藤 1-1 清原
対する清原は、サイドボードの入れ替えはなしで最終戦に臨む。
いつにも増して入念なシャッフルを行う2人。このゲームの結果に全てが委ねられる。
再び先手となった佐藤のハンドは以下の布陣で、そのまま7枚でキープを宣言。
一方、清原は悩ましい7枚となった。
「うーん、難しいなあ……」と呟きつつ、考えを巡らす。2ゲーム目とは違い、今回は後手の清原。《意志の力》がない初手はそれだけで致命傷になりかねない。
清原は覚悟を決めたようで、「そのままで!」と力強くキープを宣言した。
先手となった佐藤のファーストアクションは、自分を対象とした《陰謀団式療法》だった。清原はこれを通すほかなく、佐藤は《臭い草のインプ》を宣言。自身の手札を公開しつつ《臭い草のインプ》を墓地に落とす。佐藤の手札には《通りの悪霊》が含まれており、任意のタイミングで「発掘」が可能であることを意味していた。つまり、1枚であれば《外科的摘出》を無効化することができるのだ。
清原は《思案》をプレイしターンを返すが、ここからは佐藤のドレッジの本領発揮と言わんばかりの展開だった。
ドロー・ステップで《臭い草のインプ》を「発掘」。その過程で墓地に落ちた2枚目の《臭い草のインプ》を、《通りの悪霊》の「サイクリング」を使用することでさらに「発掘」を重ね、瞬く間に墓地を肥やしていく。そして、ライブラリーから現れた《ナルコメーバ》をコストに《陰謀団式療法》を「フラッシュバック」。すでに墓地には複数枚の《黄泉からの橋》が控えており、複数体のゾンビ・トークンが現れる。
さらにはこれらのゾンビ・トークンを「召集」コストに《甦る死滅都市、ホガーク》を出現させ、わずか2ターン目にして16点ものクロックを作り上げた。
ここまでの展開を見守り、投了までの気持ちを整理するかのようにこぼす清原。
清原「盤面できあがってしまったら無理なんだよね」
佐藤「除去する手段ないしね」
清原が新たなレガシー東海王の誕生を祝福すべく握手を求めると、佐藤は力強くそれに応えた。
佐藤 2-1 清原
『第7期レガシー東海王』の称号を手に入れたのは、佐藤 元彦!おめでとう!