Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/07/16)
はじめに
7月13日。私はMagic Online Championship(以下、MOCS)プレイオフで優勝を果たした。
MAGIC ONLINE CHAMPIONSHIPS HERE I COME!!! ??Had a pretty good chance of making it through the leaderboard anyway, but this is nice so I don't have to stress it anymore 😛 Copied @BraunDuinIt 's Esper list from earlier this week and it worked perfectly. BBD you're my Hero! pic.twitter.com/pxZtLYzVRS
— Matti Kuisma (@kuismatti) July 13, 2019
「Magic Online Championshipの権利を獲得!!!」
ご存知でない方のために説明すると、MOCSプレイオフはMagic Onlineの大会の中でも名誉ある大会だ。まず、日頃からイベントに参加し続けてQualifier Points(QP)を一定数獲得し、MOCS予選に参加する。そこで優秀な成績を収めることでようやくMOCSプレイオフで戦うチャンスを与えられるのだ。
したがって、必然的に大会のレベルは非常に高くなる。研鑽を積んできた才能あるプレイヤーに勝ち続けた先にある大会だからだ。プレイオフを優勝すると、本選であるMOCS 2019に参加できる。24名の招待選手が優勝賞金50000ドル(約540万円)を賭けて争うのだ。
エスパーヒーローを選択した理由
プレイオフのフォーマットはスタンダードだ。『基本セット2020』の参入により、新たなデッキが多く登場してきている。この最新のセットには《発現する浅瀬》や《夜群れの伏兵》といった脅威的なカードがひしめいているのだ。
そのような中で私は新カードを一切採用しないデッキ、エスパーヒーローを選択した。厳密には《静寂の神殿》を2枚採用しているが、革新的な影響を与えるわけではないため、実質的に新戦力としてはカウントできない。それだけでなく、緑のデッキは1マナの《謎めいた命令》である《夏の帳》を使ってくるようになってしまった。では、なぜエスパーヒーローを選んだのだろうか。
第一の理由。デッキ単体としてみれば最強でなかったとしても、新環境では完成度の高いデッキを選択することが往々にして正しい。エスパーヒーローは非常に安定したデッキであり、主だった弱点も特にない。前環境から時間をかけて無駄が削ぎ落され、洗練されたデッキリストになっているのだ。直線的なアグロデッキが新環境の序盤で成功しやすい理由もここにある。シナジーを重視したアーキタイプはデッキの核心を見つけるのに苦労するが、アグロデッキは遥かにそれを見つけやすい。
エスパーヒーローには現在の環境に合っているカードが多い、というのが第二の理由だ。特に《人質取り》は風向きが良い。大半のデッキはクリーチャーを潤沢に採用しているが、《人質取り》を除去する手段をあまり持っていないのだ。《第1管区の勇士》も依然として強力である。
たとえば、2ターン目に着地すれば新勢力であるシミックフラッシュに単体で勝てる。《第1管区の勇士》で人間トークンの軍勢を並べられるのならば、能力を誘発させた多色呪文がことごとく打ち消されたとしても問題ない。
新環境で活躍しているデッキに強いカードは他にもある。《時を解す者、テフェリー》は単体で《贖いし者、フェザー》デッキの戦略を打ち砕く。このデッキは脅威の枚数が少なく、《時を解す者、テフェリー》がインスタントタイミングでの動きを封じてしまえば、クリーチャーを守る呪文をかいくぐって除去することも容易なのだ。《時を解す者、テフェリー》が着地したターンに[-3]能力でクリーチャーを手札に戻せば、生き残った状態でターンが返ってくることも珍しくない。
エスパーヒーローが《夏の帳》で決壊しないのは、ひとえに《時を解す者、テフェリー》の存在があるからだ。1マナでキャントリップしつつ、手札破壊・除去・打ち消しを打ち消せるのだから、《夏の帳》はエスパーヒーローにとって極めて厄介である。ところが、《時を解す者、テフェリー》の常在型能力をもってすれば、まだ戦えるチャンスが残されるのだ。このプレインズウォーカーが戦場に出ている際は、青と黒の呪文は自分のターンに唱えるようにしよう。そうすればキャントリップすらできなくなる(キャントリップされたとしても絶望的になるわけではないが)。
そして最後に第三の理由。 エスパーヒーローを選択した一因は、「安心感」にある。自分が理解できているデッキを使うことは非常に重要だと思っているのだ。調整時間が限られているなら尚更であり、現在はミシックチャンピオンシップ・バルセロナ2019も間近に迫っているため、大半の時間はモダンや『モダンホライゾン』ドラフトの練習に充てている。正直言えば、モダンにはあまり時間を割いていない。『モダンホライゾン』ドラフトは歴代でもトップクラスの面白さだ。
『モダンホライゾン』の面白さはさておき、以前の記事でお伝えしたように、時間が限られているときほど練習の焦点を絞るべきだ。今回、最終的にエスパーヒーローに絞ったのは、前環境から使い込んできた経験があったからである。サブプランとして用意した《発現する浅瀬》入りのシミックネクサスを調整するよりも、エスパーヒーローの方が乗りこなせる確率が高いだろうと感じたのだ。
また、《発現する浅瀬》を入れたシミックネクサスはまだ調整の余地がある。今後数か月をかけて構成が変化していき、エスパーヒーローよりも優れたデッキになる可能性は十分にあるだろう。ただ、その境地にたどり着くには改善が必要であり、他方でエスパーヒーローはすでに完成されたデッキへと行き着いているのだ。
プレイオフで使用したデッキリストは下記の通り。
4 《神無き祭殿》
4 《神聖なる泉》
4 《湿った墓》
4 《水没した地下墓地》
4 《氷河の城砦》
3 《孤立した礼拝堂》
2 《静寂の神殿》
-土地 (26)- 4 《第1管区の勇士》
3 《精鋭護衛魔道士》
3 《人質取り》
-クリーチャー (10)-
3 《暴君の嘲笑》
2 《灯の燼滅》
1 《戦慄衆の指揮》
3 《ケイヤの誓い》
1 《ボーラスの城塞》
4 《時を解す者、テフェリー》
2 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《ドミナリアの英雄、テフェリー》
-呪文 (24)-
情報通な読者ならお気づきかもしれない。このデッキは、数週間前に開催されたFandom Legendsの大会でブライアン・ブラウン=デュイン/Brian Braun-Duinが使用したものと全く同じなのだ。実際に使わせてもらったところ、変更を加える必要は一切ないと感じた。私にしては非常に珍しいことだ。プレイスタイルや、特定のマッチアップで最も重要だと考えるものは十人十色であり、最善のデッキリストというのはプレイヤーの数だけ存在する。仮に「完璧なプレイヤー」というものが存在するならば、全く同じデッキリストをシェアすることになるだろう。しかし、人とはそのような存在ではないのだ。
サイドボードガイド
エスパーヒーロー(ミラー)
対 エスパーヒーロー(ミラー)
後手の場合は、《時を解す者、テフェリー》を2枚サイドアウトし、《暴君の嘲笑》を1枚だけ抜く。《暴君の嘲笑》の枠に《ケイヤの怒り》や《肉儀場の叫び》といった全体除去を入れるのも良いだろう。マナコストが重い呪文ではあるが、《第1管区の勇士》に盤面を圧倒されている場面で状況を立て直す手段となる。
《ボーラスの城塞》はミラーマッチにおけるベストカードとなるだろう。《第1管区の勇士》を抑え込んでいる限り、ライフが危険に晒される可能性が低い。《ボーラスの城塞》が着地すれば、相手はたちまちカードアドバンテージの波に飲み込まれるはずだ。
ただ、《ボーラスの城塞》はまだ土地を置いていないターンにプレイした方が価値が高まる、ということは知っておこう。6ターン目に着地させて山札の上に土地が合った場合、テンポが悪いだけでなく、何の爪痕も残すことなくいずれかのテフェリーにバウンスされてしまうのだ。土地を置いてしまったターンは別の呪文をプレイし、《ボーラスの城塞》は次のターンまで温存した方が基本的に良い。そうすれば、着地してすぐに山札の上から複数の呪文を唱えられる確率が高まる。
ジャンドダイナソー
対 ジャンドダイナソー
非常にわかりやすいサイドボーディングだ。《覆いを割く者、ナーセット》はやや悠長であるうえに、常在型能力が何ら意味を成さない。同じくカードアドバンテージ源である《戦慄衆の指揮》や《ボーラスの城塞》はマナコストが重いものの、ゲーム展開に即座に影響を与えられる。ライフを削りきることに特化させた相手でなければ、このようなアドバンテージ源の方が好ましいだろう。《精鋭護衛魔道士》をサイドアウトするのは、相手のクリーチャーと渡り合えるスペックではないからだ。
シミックフラッシュ
対 シミックフラッシュ
ここでのゲームプランは、デッキを軽量化することで、相手の打ち消し呪文とテンポで押し切るプランを上手く機能させないことだ。《灯の燼滅》や《ケイヤの怒り》が使える場面はやや限定的だが、大きな脅威である《夜群れの伏兵》を戦場に放置したままにはできないのだ。また、一般的にサイドインされる傾向にある《変容するケラトプス》への解答にもなる。
上記のサイドボードプランは、フィニッシャーを減らし過ぎているかもしれない。《ボーラスの城塞》、《戦慄衆の指揮》のいずれか、あるいは両方を残したままにするのも一考であり、その際は《ケイヤの誓い》などを抜くことになるだろう。これらの6マナの呪文はゲームに大きな影響を及ぼすため、打ち消されなければおそらく決着が着く。しかし、マナコストが重いため、打ち消されないという条件はなかなか達成しづらい。とはいえ、ゲームが非常に長引く展開もあるので、打ち消されないタイミングも巡ってくることだろう。
私が調べた限りでは、一般的に《夏の帳》の採用枚数は多くても1枚のようだった。だが、今後はさらに採用枚数が増えていくように思う。プレイオフの準決勝で当たった相手は少なくとも複数枚使っていたし、将来的にはこういった構築が主流になっていくだろう。できることならば、《ドビンの拒否権》は《夏の帳》を打ち消す、あるいは《時を解す者、テフェリー》を着地させるために温存したいところだ。《時を解す者、テフェリー》は間違いなくこのマッチマップで最も重要なカードだ。
赤単
対 赤単(先手)
対 赤単(後手)
赤単との対戦で重要なのは、《実験の狂乱》と《炎の職工、チャンドラ》への解答をできる限り用意し、アドバンテージを稼がれないようにすることだ。《人質取り》は一見したところでは活躍しなさそうに思えるため、2本目以降に残しておくことにいつも違和感を覚える。それでも残しているのは、サイドボード後はロングゲームとなってリソースが重要となる傾向にあるため、《人質取り》が予想以上に活躍するからだ。
赤単側は火力呪文を一定数サイドアウトすることが一般的であり、こちらのクリーチャーが生き残りやすくなっている。同時に、1本目ほどライフ総量に気を遣わずに済むようになるため、全力でライフを守らずとも一種のリソースとして使うことができる。
ゲームが長引くため、終盤でも有効性が保たれる《ドビンの拒否権》の方が《強迫》よりも若干優れている。ただ、後手の場合は中盤戦の初期段階で2回行動を起こせるターンが1度はあった方が良い。用途のないカードを引いてしまうリスクはあるものの、マナを効率的に使う観点から後手では《ドビンの拒否権》ではなく《強迫》をサイドインしよう。
中盤から終盤にかけて、訳もなく《強迫》や《思考消去》を唱えてはいけない。後々《時を解す者、テフェリー》を引いた際に価値が高まるからだ。《実験の狂乱》を[-3]能力でバウンスし、《強迫》で捨てさせよう。
赤単に対するサイドボーディングは、相手のデッキリストに大きく依存する。プレイオフ準々決勝で対戦したドミトリー・ブタコフ/Dmitriy Butakovのデッキリストにはプレインズウォーカーが豊富に採用されていたため、《古呪》をサイドインした。《無頼な扇動者、ティボルト》や《炎の職工、チャンドラ》は定番のカードとなっているし、新環境になってからは《炎の侍祭、チャンドラ》が採用されることもある。
《軍勢の戦親分》が採用されている場合には、《肉儀場の叫び》を数枚入れた方が良いだろう(特に後手)。《宝物の地図》も時折採用されているため、相手のデッキリストに入っていることが確認できたのならば《人質取り》を最大限残しておくべきだ。
《第1管区の勇士》を1~2枚サイドアウトするのは少々意外に思えるかもしれない。だが、少なくとも私の中ではマナカーブを埋めることが主目的のカードだ。デッキ名となっているクリーチャーではあるが、赤単との対戦においては重要な場面での活躍が期待できないのだ。サイドボード後は《ショック》がサイドアウトされやすいため《第1管区の勇士》の立ち位置は改善されるが、1枚でも《ショック》が残っているようなら、さらにサイドアウトする枚数を増やす(特に後手)。
このように、このマッチアップで絶対的なサイドボードプランというのは存在しない。サイドボードガイドの限界を示す好例だろう。相手のデッキの細部まで気を払うようにし、先ほど紹介したような柔軟な対応をしてもらいたい。
ボロスフェザー
対 ボロスフェザー
ボロスフェザーにはいまだに負けたことがない。先述の通り、3マナのテフェリーが圧倒的な強さを見せ、サイドボード後にはさらに勢いを増す。テフェリーを先読みして脅威を展開することもできるが、クリーチャーたちが《ケイヤの怒り》に一掃されるリスクを背負うことになる。《強迫》は役割が多彩で、《神々の思し召し》を”打ち消し”たり、《人質取り》を除去から守ったり、手札のプレインズウォーカーを対処できる。
《軍勢の戦親分》と《アダントの先兵》が両方採用されているようなら、《肉儀場の叫び》を1~2枚サイドインする。いずれか一方だけしか確認できない場合はサイドインしない方が良いだろう。
シミックネクサス(《荒野の再生》入り)
対 シミックネクサス(《荒野の再生》入り)
説明が必要なものはあまりないだろうが、《ケイヤの怒り》が少々予想外だっただろうか。これは主に《生体性軟泥》を対処するためである。クリーチャー除去を大幅にカットしてしまうため、《生体性軟泥》が不意を突いてくることがあるのだ。そのような場合に備えて全体除去は有効な選択肢となる。代わりに《人質取り》を残したままにしても良い。また、エスパーヒーローがプレインズウォーカーを対処できるデッキであることから、どちらのカードも《世界を揺るがす者、ニッサ》にある程度効果があると言える。
さいごに
「組織化プレイ」に関する最近の変更は、現実世界の大会やMagic OnlineよりもMTGアリーナにスポットライトを当てたものが多いため、今回のMOCSが最後になる可能性もあるように思われる。非常に楽しい大会であるようなので、過去のものになる前に参加できる機会を得られたことはとても喜ばしい。
エスパーヒーローは新環境でも良い選択肢であり続けるだろう。大会が控えているプレイヤーには自信を持っておすすめする。デッキに関して質問や意見があれば、Twitterでコンタクトをとってもらえればと思う。
マッティ (Twitter)