Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/07/24)
吸血鬼の時代の幕開け
『基本セット2020』の新カードたちも環境に馴染みはじめ、メタゲームが徐々に姿を現してきています。新しく誕生したデッキの中には今後も生き残っていくものもあるでしょう。
現時点で私が最強の一角だと思っているデッキは、多くのデッキの実力が均衡しているため「群を抜いて強い」とまでは言えませんが、デッキパワーや安定性の点ではトップレベルにあると思っています。また、対策がされづらいという強みも備わっているデッキです。
新環境になって最初に試したのは、『基本セット2020』で新カードが追加された既存のデッキでした(赤単、白単、グルール恐竜、シミックランプ、青単)。どれも悪くはなかったものの、あまりしっくり来るものではありませんでした。そこで、私は新入りのデッキーーオルゾフ吸血鬼を試すことにしたのです。
こちらが現在のデッキリストになります。MTGアリーナに並外れた時間を注がずとも、構築ランキングでミシックのトップ10に導いてくれました。メインデッキ・サイドボードともに可能性のあるカードを色々と試し、最大限に納得がいく構築にたどり着いたのです。
現在の環境で吸血鬼が最善の選択であると考える理由は至ってシンプルであり、勝率が高く、ゲームプランを安定して遂行でき、対処されづらいからです。このデッキの構造や狙いを見ていけば、吸血鬼が『基本セット2020』で生まれた単なるオリジナルデッキでないとわかることでしょう。今や吸血鬼の時代がやってきたのです!
デッキの概要
マリガンに強い
初手が5~6枚になるまでマリガンしながらも、勝てる見込みが十分にあり、実際にマッチを勝利したことが何度もありました。初手に必要なのは白と黒マナ源、そして軽量の吸血鬼数体だけです。ゲームの序盤では土地が2~3枚あれば十分であり、《軍団の上陸》が3マナ目になることもあります。また、《傲慢な血王、ソリン》の[-3]能力を使えば、3マナしかなくとも《薄暮の勇者》を出すことができるため、リソースが尽きてしまうことはありません。
圧倒的な初動が可能
理想的な初動は、1ターン目に1マナ域、2ターン目に2マナ域(あるいは1マナ域を2枚)、3ターン目に《傲慢な血王、ソリン》から《薄暮の勇者》を展開してドローする流れです。このテンポの良い動きができれば、盤面にはクリーチャーの軍勢とプレインズウォーカーが並び、手札には後続の脅威や妨害が控えている状況が生まれます。3ターン目という早さで実現する動きですから、相手としてはほぼどうしようもないですし、後手の場合はさらに厳しいでしょう。
攻撃的で能動的なゲームプラン
吸血鬼は現在もアグロデッキです。相手のデッキが何であろうと、複数の《軍団の副官》を並べながらマナカーブ通りに動いたり、《アダントの先兵》と合わせて《漆黒軍の騎士》を序盤から育てていったりすれば、大抵はデッキとして機能します。
長期戦でアドバンテージ勝ちも狙える
アグロデッキというのはゲームが長引けば普通はガス欠を起こすものです。相手のライフを直接削る手段がなく、トップデッキにも期待できないようであれば勝ち目はないでしょう。赤単の最大の強みは《実験の狂乱》という終盤戦でも戦えるツールを持っていたことにあります。
吸血鬼も《薄暮の勇者》が同様の役割を果たすため、後続が途絶えることはありません。《軍団の上陸》も変身すればアタッカーを用意できるだけでなく、《傲慢な血王、ソリン》の[+1]能力に使う継続的な生け贄要員となります。
多彩なシナジーと個々のカードパワー
ほぼ全てのカードに「吸血鬼」という記載がありますから、当然カード間の結びつきは強くなっています。互いを強化したり、《傲慢な血王、ソリン》・《薄暮の勇者》・《聖域探究者》とシナジーがあるのです。
こういったつながりを除いても、《漆黒軍の騎士》・《空渡りの野心家》・《アダントの先兵》はマナレシオが高い優秀なアグロクリーチャーであり、吸血鬼をテーマとしないビートダウンデッキでも使われます。たまたま吸血鬼でこのデッキに完璧に噛み合っていたというだけのことです。
クリーチャーが多いデッキでありながらライフを直接狙える
部族にフィーチャーしたアグロデッキは、クリーチャーの攻撃が通らない盤面でプレイヤー本体を狙って勝つことできないのが一般的です。ところが、《傲慢な血王、ソリン》の《稲妻のらせん》能力であったり、タイミング良く引いた《聖域探究者》、はたまた《ケイヤの誓い》でさえ、突如として相手のライフを削ることができます。
2色のデッキとしては強力なサイドボード
黒と白はサイドボードの選択肢が優秀です。《強迫》はサイドボードとして常に歓迎される呪文であり、マイナーなデッキ・コントロール・《風景の変容》相手に投入することになるでしょう。それだけでなく、吸血鬼はスタンダードでもベストな除去が取り揃っています。《害悪な掌握》は白と緑のクリーチャーを幅広く除去でき、《世界を揺るがす者、ニッサ》や《時を解す者、テフェリー》も対応できるため、『基本セット2020』で最強の色対策カードかもしれません。
さらに《灯の燼滅》や《軍団の最期》、《喪心》といったカードもサイドボードにあるのですから、どんな脅威にも戦えるツールがあります。残りの枠にプレインズウォーカーを何枚か採用しておけば、全体除去に対する耐性を付けつつ、相手にプレッシャーをかけることができるでしょう。このように見てみると、2色のサイドボードに求めるものが基本的に全て備わっていると言えます。
注目のカード
これからご紹介する2枚のカードは『基本セット2020』で登場したものであり、吸血鬼デッキが成立した理由であると言っても過言ではありません。デッキの核でありながら、デッキパワーを最大限まで高めたのです。
《漆黒軍の騎士》
数ゲーム使ってみたところでこの騎士にはすぐに惚れ込みました。スタンダードでは歴代でも最強の1マナ域の1枚に数えられるのではないでしょうか。このカードには感動させられるばかりであり、序盤・中盤で優秀なだけではなく、終盤でも驚くほど強力です。
ゲームのどの段階で引いても残念なトップデッキには決してなりません。タフネスが2であるため、《ゴブリンの鎖回し》や《狂信的扇動者》で序盤から除去されることもなく、起動型能力をちらつかせることで《グルールの呪文砕き》や《切り裂き顎の猛竜》がいても攻撃が可能です。
1つでも+1/+1カウンターが載れば《肉儀場の叫び》を耐えられるようになりますし、ちょっとしたクロックであったクリーチャーも瞬く間に勝敗を決定づけるパワーカードへと進化します。《漆黒軍の騎士》は放置できない脅威であると同時に、ダメージ系の除去に強く、接死があるためブロックやダブルブロックすら困難です。終盤には余ったマナの使い道となり、《アダントの先兵》やプレインズウォーカーとの相性も良好。長所を挙げればきりがありません。ここまで述べてきた全てのことが、たった黒1マナのカードがやることです。
《傲慢な血王、ソリン》
続いては《傲慢な血王、ソリン》ですが、初めてお披露目されたときから注目していました。他の3マナ、4マナのプレインズウォーカーと能力を比較した場合、4マナ相当だろうと思えたからです。これだけ強力な設定にできたのは、専用のデッキを構築しなくてはならないからでしょう。吸血鬼にフォーカスした戦術でなければまともに運用できません。特注品とでも言うべきカードは、デッキのパーツが不足していることから競技レベルに達しないことが大半であり、使われる機会に恵まれないものです。
幸い、今回は例外でした。このデッキはイクサラン世界の吸血鬼と『基本セット2020』からの新規勢がいたため、見劣りするカードで枠を埋めるようなことなく完成されたデッキが実現しているのです。《傲慢な血王、ソリン》が着地したターンは、[-3]能力を使って《薄暮の勇者》を戦場に展開するロケットスタートを切るか、忠誠度を5にして守りを固めるかになります。[+1]能力はいずれも戦闘を有利に運べるものであり、常に有効な攻撃を仕掛けることでプレッシャーをかけ続けることが可能です。
《傲慢な血王、ソリン》の《稲妻のらせん》能力がとどめの一撃になることは先述しましたが、どちらの[+1]能力もライフ回復できるため《アダントの先兵》や《薄暮の勇者》の能力によるライフ損失を補填できます。
覚えておきたいテクニック集
サイドボーディングガイド
オルゾフ吸血鬼
対 オルゾフ吸血鬼
エスパー
対 エスパー
シミックネクサス
対 シミックネクサス
赤単
対 赤単
シミックフラッシュ
対 シミックフラッシュ
ボロスフェザー
対 ボロスフェザー
ジャンド恐竜
対 ジャンド恐竜
ティムールエレメンタル
対 ティムールエレメンタル
《風景の変容》
対 《風景の変容》
青単
対 青単
シミック/バントランプ
対 シミック/バントランプ
まとめ
オルゾフ吸血鬼は間違いなく現在のスタンダードでベストデッキの1つです。手に取りやすく、ゲームプランがわかりやすいものとなっています。特定のデッキの人気が沸騰すれば、メタゲームは変化し、その他のデッキは結果を出しているデッキに応じようとするものです。仮に吸血鬼が目の敵にされたとしても、吸血鬼は非常に安定したデッキであり、完全に対策しきることが難しいという特徴を兼ね備えているため、環境に生き残り続けると予想しています。巷で話題になっているデッキの中には、このような特徴がないものもありますからね。
現在は《風景の変容》デッキがますます人気を博しているため、ゾンビトークンを一掃できるうえに柔軟性にも富んでいる《軍団の最期》の増量すら検討しています。サイドボードに3枚目を入れるか、場合によってはメインデッキに1枚入れても良いでしょう。《静寂の神殿》はメインデッキで最も抜きやすい枠ですから、ここに《軍団の最期》を入れることになるかと思います。
何かご質問があればTwitterでお知らせください。私が吸血鬼でランクマッチを駆け上がる姿をご覧になりたい方はTwitchでお会いしましょう!
「この黄金の通りを敵の血で染めるのだ。」
《薄暮の勇者》によるこの指示をみなさんも遵守しましょう。
ではまた次回。