波乱の幕開け
10月21日、禁止制限告知が発表され、スタンダードからは《死者の原野》が禁止となった。『エルドレインの王権』発売から1か月足らずでの出来事だった。
《死者の原野》を使ったデッキは、新環境になってすぐに支配力を示し始めた。先週末に開催されたミシックチャンピオンシップ・ロングビーチ2019(MC V)では使用率が42%まで及んでいる。
環境トップのデッキから禁止カードが出たことでメタゲームは大きく変わり、プレイヤーたちは適応を余儀なくされるだろう。しかし、プレイヤーたちに休息はない。MTGアリーナでは10/26にミシックチャンピオンシップ予選、日本では同日に第15期スタンダード神挑戦者決定戦、その翌週にはグランプリ・名古屋2019がある。
トッププレイヤーたちは禁止改定を受けて何を思うのだろうか。Hareruya Prosの木原 惇希選手、第14期スタンダード神でありHareruya Hopesである江原 洸太選手、Hareruya Prosのペトル・ソフーレク選手にインタビューを行った。
木原 惇希 (Hareruya Pros)
事前の禁止予想はどうでしたか?また、実際の禁止制限告知にはどのような印象を持ちましたか?
事前の予想は《ハイドロイド混成体》の禁止でした。ゴロスランプと「食物」(フード)の両方を弱体化させつつ、他のデッキにチャンスが生まれますからね。
《ハイドロイド混成体》が使えなくなるなら、《死者の原野》は禁止にしなくても良かったんじゃないかなと思います。《ハイドロイド混成体》がいるからこそ、後続の土地や呪文を確保できてしまうので。
《王冠泥棒、オーコ》も禁止になっておかしくないカードパワーですが、新エキスパンションだから禁止にするのは難しいだろうなという予想でした。その意味で発売から時間が経っている《ハイドロイド混成体》の禁止はあり得るのかなと。
今後のメタゲームはどうなっていくと予想していますか?
禁止後のメタゲームでは、シミックとバントを合わせて5割以上になるでしょう。ミラーが増えることを考えると、《拘留代理人》を使えるバントが良いと思います。除去が少ないシミックカラーの弱点を補ってくれますからね。仮に《拘留代理人》が除去されるとしても、《金のガチョウ》を追放すればテンポがとれますし、《ハイドロイド混成体》を追放すれば実質的に除去になります。
他にミラー用として目をつけているのは《地下牢の霊》です。《意地悪な狼》や《探索する獣》といったクリーチャーを1ターンタップするだけでも、地上のクリーチャーがプレインズウォーカーに攻撃できます。飛行を持っていますし、プレインズウォーカーを巡る争いで強そうだなと思うんですよね。
同じ4マナの《探索する獣》は《意地悪な狼》とにらみ合いになるか一方的に格闘で破壊されるだけなので、サイドボードから《探索する獣》の代わりに《地下牢の霊》を入れるのはどうかなと思って。青のカードなので、サイドボードとして採用率が高い《害悪な掌握》にも引っかかりません。
ただ、シミックフードもバントフードも対策できないわけではありません。たとえば、ゴルガリアドベンチャーはフードに強いですね。《エッジウォールの亭主》は除去が少ないフードに対処されづらく、毎ターンアドバンテージを稼ぎます。1マナのプレインズウォーカーみたいなものですよね。逆に相手のプレインズウォーカーは《残忍な騎士》でさばくことができる。ゴルガリアドベンチャーはアドバンテージをとりながら、相手のアドバンテージ源を除去できるというわけです。
《死者の原野》が禁止されたことで復権が期待されるデッキはありますか?
さきほどのゴルガリアドベンチャーがまさにその一例です。どれだけアドバンテージをとっても、ゾンビトークンの群れが出てきて盤面が対処できなくて負けてしまってたんですよね。
コントロールは環境に存在するプレインズウォーカーに苦しめられると思いますが、活躍する可能性は捨てきれません。使うならグリクシスコントロールあたりが良いのではないかと予想しています。《アングラスの暴力》や《残忍な騎士》がプレインズウォーカーを除去できますからね。
アグロは《意地悪な狼》・《探索する獣》を擁するフードに相性が悪いです。MC Vで行弘 賢さんが使用したマルドゥナイトのように《エンバレスの宝剣》や《栄光の好機》といった必殺技がないと厳しいでしょう。
木原さんが今後使ってみたいデッキはありますか?
僕はコントロールが大好きなので、コントロールを試してみようと思ってます。先ほどのグリクシスなら、《龍神、ニコル・ボーラス》や《目覚めた猛火、チャンドラ》といった強力なフィニッシャーが魅力です。もしかしたら《時を解す者、テフェリー》を使うために4色もありかもしれません。あるいはエスパーでまとめるのも検討に値しますね。
江原 洸太 (第14期スタンダード神、Hareruya Hopes)
江原さんはスタンダード神決定戦においてゴロスランプを使っていらっしゃいましたが、デッキの核である《死者の原野》を失ったゴロスランプは存続可能でしょうか?
正直なところ、ゴロスデッキの存続はかなり厳しいと思っています。ただ、《不屈の巡礼者、ゴロス》のマナ加速能力よりも起動型能力を活かせる形で試していきたいという思いもあります。土地のバリエーションを要求する《死者の原野》がなくなり、アンタップイン土地を増やせるようになったため、《不屈の巡礼者、ゴロス》の能力やマナ加速呪文を安定して運用できるようになるはずです。
ゾンビトークンが出せなくなり、長期戦が少し厳しくなったので、そこをカバーしていくのも大切です。《ハイドロイド混成体》が残ってくれているのが、最大の幸運でしたね。土地を伸ばす理由になってくれます。
《不屈の巡礼者、ゴロス》を使ったデッキには様々な型がありましたが、どの型が一番可能性があると考えていらっしゃいますか?
今の時点で最も可能性があると思うのは、《創案の火》を採用した形かなと思います。エンチャントに触れる手段が少ない現状では、設置さえできればとても心強いです。エンチャントを使用するデッキは他にも出てくると思いますが、そのなかでも《創案の火》を使用したデッキには注目しています。
ゴロスファイヤーズも例外ではなく、形を変えて残っていくと思います。《不屈の巡礼者、ゴロス》のマナ加速能力も噛み合いますし、《帰還した王、ケンリス》も上手く使えるのは大きな利点でしょう。《創案の火》から《迂回路》と動いた次のターンには、《不屈の巡礼者、ゴロス》を唱えて起動型能力へとつなげられるのも魅力ですね。
今は高マナ域の枠に《ハイドロイド混成体》や《裏切りの工作員》、《王国まといの巨人》などが入っていますが、《炎の大口、ドラクセス》みたいなカードも採用されていくかもしれません。
《死者の原野》が禁止されたことで復権が期待されるデッキはありますか?
《死者の原野》が消え、それに対し相性が最悪だったコントロールデッキが復活してくるのかなと思います。青黒コントロールや青白コントロール、エスパータックスなどが復権してくれると楽しそうですね。『エルドレインの王権』には《老いたる者、ガドウィック》や《煌めくドラゴン》などコントロールで活躍するカードはたくさん収録されています。ゴロスランプとのリソース勝負をしなくて良くなりましたので、ゆっくりと相手をコントロールできると思います。ただし、《金のガチョウ》と《王冠泥棒、オーコ》の対策を怠らないようにしましょう。こいつらは異常な強さがあります。
その他には、《荒野の再生》を使用したティムールデッキも復活してくるのではないでしょうか。《発展/発破》の20点火力は今でも強力です。
現時点で使ってみたいデッキはありますか?
禁止後の環境は、シミック/バントフードが環境を支配しそうですが、それらに強いゴルガリアドベンチャーなどが出てくると思います。自分はその2つが合わさったスゥルタイミッドレンジに注目しています。環境の最強の動きである《金のガチョウ》と《王冠泥棒、オーコ》を入れつつ、ミラーでも強い《害悪な掌握》や《残忍な騎士》を使えるのが強みだなと思います。
もうひとつの注目デッキは、ティムールフレンズです。1マナの《樹上の草食獣》と《金のガチョウ》を4枚採用し、2ターン目に安定して3マナプレインズウォーカーを着地させてきます。そして5マナ域に採用された《主無き者、サルカン》によって一斉に殴りかかってきます。隠し玉としてMC Vを沸かせた《エンバレスの宝剣》を採用しても面白そうですね。赤の優秀な除去を採用できるのも素晴らしい点です。
ペトル・ソフーレク (Hareruya Pros)
事前の禁止予想はどうでしたか?また、実際の禁止制限告知にはどのような印象を持ちましたか?
《死者の原野》だけが禁止になると思ってました。あの土地は強すぎたので、禁止の方が良かったですね。《王冠泥棒、オーコ》は新しいカードなので、やっぱり禁止にするのは難しだろうという予想でした。
今回の変更で環境のバランスが崩れてしまったと思います。以前までは赤単がゴロスデッキを倒して、ゴロスデッキはオーコデッキを倒して、オーコデッキは赤単を倒すという構図がありました。でも、《死者の原野》が禁止になってゴロスデッキがいなくなったので、オーコデッキの一強になるんじゃないですかね。
オーコデッキが増える場合、どのようなデッキ選択が良いと考えていますか?
シミックに黒をタッチしたスゥルタイが良いと思います。《害悪な掌握》はミラーにすごく強いですから。黒をタッチするなら《ゴルガリの女王、ヴラスカ》とかも入るはずですが、何よりも《害悪な掌握》が重要です。基本的にはサイドボードから投入する形かと思いますが、もしかしたらメインデッキにも入るかもしれません。もし今大会に出るならスゥルタイにするでしょうね。
白をタッチしたバントカラーもありますが、あれは主に《拘留代理人》のためでした。《拘留代理人》は《死者の原野》のゾンビトークンを一掃するのに有用でしたが、禁止後は白をタッチする価値は薄れると思います。ミラーだと《意地悪な狼》にやられてしまいますしね。
《死者の原野》が禁止されたことで復権が期待されるデッキはありますか?
コントロールの立ち位置は多少良くなるはずです。使うとすればジェスカイファイアーズでしょう。単純にデッキとして強いと思いますし、クリーチャーデッキに耐性がありますからね。ただやはりサイドボード後からオーコデッキは《否認》などを使ってくるので苦戦するのかなと。
今後のメタゲームはどうなっていくと予想していますか?
最初はオーコデッキだらけにならないと思います。一番強いデッキを使いたくない人は一定数いますからね。試行錯誤してくるはずです。特にグランプリの初日はいろいろなデッキと対戦することになるでしょう。ただ、時間の経過とともに《王冠泥棒、オーコ》の支配力は増していくでしょうね。
それぞれの思惑
やはり禁止後の環境のカギを握るのは《王冠泥棒、オーコ》になりそうだ。しかし、プロたちの反応は一様ではなかった。自分が好きなアーキタイプを試そうとする者、ミラーに強いオーコデッキを作ろうとする者。みなさんはどちらの立場を選ぶのだろうか。
冒頭でも述べた通り、今週末の10/26(土)には第15期スタンダード神挑戦者決定戦が行われる。”オーコ包囲網”のなかでプレイヤーたちがどんな創意工夫をしてくるのか楽しみで仕方がない。
晴れる屋では当イベントの模様をカバレージでお伝えしていく。また、10/27(日)の神決定戦では今回の記事で登場いただいた江原 洸太選手が神として出場する。こちらは生配信する予定だ。ぜひプレイヤーたちの”新環境”への解答に注目して欲しい。