Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2019/11/06)
(編注:この記事は2019/11/05の禁止告知の前に執筆されています。この禁止告知により、《守護フェリダー》、《豊穣の力線》、《ニッサの誓い》が禁止となります。)
パイオニアに現れた不死鳥
10月21日。ウィザーズが最新フォーマット、パイオニアを発表しました。『ラヴニカの回帰』以降のセットに収録された強力なカードがあふれるフォーマットです。発表の数日後にはMagic Onlineでプレイできるようになり、27日にはパイオニア チャレンジが開催されました。さらにパイオニアによるプレイヤーズツアー予選(PTQ)が11月1日に行われることになっており、僕も参加するのが本当に楽しみです。
パイオニアがMagic Onlineに実装された初日に、新しいいくつかのデッキを配信で使用しました。手始めにオリジナルデッキ3つを使いましたが、配信の終わりごろになると視聴者であり友人であるナサニエル・ノックス/Nathaniel Knoxが自身のイゼットフェニックスを試してみてはどうかと持ちかけてきたのです。
2 《山》
4 《蒸気孔》
4 《シヴの浅瀬》
4 《尖塔断の運河》
1 《硫黄の滝》
-土地 (19)- 4 《氷の中の存在》
4 《谷の商人》
4 《弧光のフェニックス》
2 《弾けるドレイク》
-クリーチャー (14)-
3 《反逆の先導者、チャンドラ》
2 《呪文貫き》
2 《覆いを割く者、ナーセット》
2 《崇高な工匠、サヒーリ》
1 《丸焼き》
1 《神々の憤怒》
1 《神秘の論争》
-サイドボード (15)-
初めて参加したリーグでは上記のリストで5-0を達成しました。全ての相手がクリーチャー戦術であり、そのうちの2つは4色サヒーリでした。イゼットフェニックスは環境初期の段階で好印象に感じるカードが多かったです。
まず、好印象だったカードに《稲妻の斧》が挙げられます。パイオニアの除去は優秀ではありません。《致命的な一押し》がありますが、フェッチランドがなければ「紛争」の達成に多大な労力が必要です。《流刑への道》のように対象範囲が広い除去はなく、《致命的な一押し》の次に候補に挙がるのは《暗殺者の戦利品》や、《石の宣告》・《拘留の宝球》といったソーサリータイミングの除去になります。ですが、パイオニアの除去は非常に制約が大きいものがほとんどです。
リーグに初めて参戦してわかったことでしたが、イゼットフェニックスは4枚の《稲妻の斧》を想像よりもはるかに上手く運用できていました。確かに《弧光のフェニックス》以外のカードを捨てるのは残念なことですが、《弧光のフェニックス》を墓地から戻したり、《氷の中の存在》を変身させたり、《宝船の巡航》の「探査」コストを確保したりと、1:2交換を繰り返してもこのデッキはディスアドバンテージを埋め合わせできるのです。《稲妻の斧》はパイオニアの大部分のクリーチャーを除去するスペックがあるようですし、1マナのインスタントタイミングで介入できることが他の除去と一線を画す稀有なポジションを作り出しています。
次に好印象だったカードは、《氷の中の存在》です。このフォーマットは除去が少ないという特徴もあるため、《氷の中の存在》は生き残りやすく、あらゆるクリーチャーデッキに対して支配する力があります。変身すればほぼ間違いなく攻勢に転じることができ、相手はすぐさまチャンプブロックせざるを得ない状況に追い込まれます。だからこそ、《氷の中の存在》は火力呪文や《弧光のフェニックス》との相性が抜群なのです。
衝撃を受けたもう1枚のカードは、《宝船の巡航》です。初期構成にはカードアドバンテージを失う呪文が非常に多いのですが、《宝船の巡航》によるドローがなければイゼットフェニックスはデッキになっていなかったと思います。パイオニア設立当初からフェッチランドが禁止となっていたため、《時を越えた探索》や《宝船の巡航》はスタンダードのときよりも弱体化したものになるだろうと予想していました。ですが、今となっては両者とも禁止されるべきだという考えに変わっています。
ことイゼットフェニックスにおいては、《時を越えた探索》よりも《宝船の巡航》の方が強力である理由がいくつかあります。まず、《宝船の巡航》は1マナで唱えることができ、マナコストが軽いことは《氷の中の存在》や《弧光のフェニックス》にとって非常にありがたいことです。また、手札を捨てる効果が多いこのデッキでは、《時を越えた探索》が得意とする「カードの質」よりも、《宝船の巡航》の「カードの枚数」の方がはるかに重要なのです。
デッキのアップデート
《秘本掃き》の不採用
初参加だったリーグでは、毎回《秘本掃き》を4枚サイドアウトし、クリーチャー除去を増やしていました。イゼットフェニックスは攻め急ぐ必要はなく、リソースを交換していればいずれ《宝船の巡航》が有利をもたらします。この法則は全ての試合で言えることでしたし、たとえ《宝船の巡航》を引きすぎたり序盤に1枚引いてしまったとしても、イゼットフェニックスには手札を入れ替える呪文があるため、必要に応じて《宝船の巡航》を捨てることも可能です。多少の調整を施し、《秘本掃き》を完全にカットしたリストをTwitterで公開しました。
サイドボードの枚数が中途半端なのは、当時はまだ仮想敵が明確でなかったからです。初期構成で《癇しゃく》を見落としていたのは大きなミスでしたが、今ではデッキのキーパーツとなっています。《癇しゃく》は手札から捨ててもアドバンテージの損失にならず、《氷の中の存在》や《弧光のフェニックス》の効果を促進する1マナの呪文として機能することも多々あります。《癇しゃく》と《弧光のフェニックス》を採用することで、《稲妻の斧》を4枚にする理由がさらに強固になりました。
《谷の商人》の不採用
10月27日には嬉しい出来事がありました。上記のメインデッキと全く同じイゼットフェニックスが(またもやサニエル・ノックスの手によって完成された)サイドボードとともにパイオニア チャレンジで決勝まで進出したというのです。それだけでなく、他にも2つのイゼットフェニックスがトップ8に入賞しており、僕自身もイゼットフェニックスをさらに試してみたくなりました。
アップデートしたリストで参加した最初のリーグは4-1だったものの、2回目は0-2となり、パイオニア環境は早くも変化したのだと感じました。すでに《氷の中の存在》は十分に対策されており、墓地対策も多く採用されるようになっていたのです。この事態を受け、デッキを多少進化させる必要性を感じました。環境が始まって間もないころは《谷の商人》の枚数が抑えられていることも多かったですが、他の高速デッキと渡り合える速度を保つために《谷の商人》は入れた方が良いだろうと考えていました。現在は相手が介入してくる機会が増え、ゲームが長引くようになったため、《谷の商人》を使い続ける理由は減ったように思います。こういった思考を踏まえて練り上げた現在のリストがこちらです。
これまでの経験から手札を捨てる呪文にやや偏っていると感じていましたので、《胸躍る可能性》などよりも《巧みな軍略》の方が噛み合っていると思います。いずれの呪文も4枚採用なのは違和感があるかもしれませんが、《乱撃斬》と《巧みな軍略》を除き、全てのカードが本当に替えが利きづらいものであり、デッキが機能するうえで極めて重要なのです。
《神々の憤怒》よりも《炎の一掃》の方が良いかは確信が持てません。ただ、激しいダメージレースの状況で《神々の憤怒》で自分の《弧光のフェニックス》を追放してしまう場面も何度か経験しましたし、現環境のクリーチャーデッキの多くは2点ダメージで除去できるクリーチャーを多く採用しているようです。全体火力の枠は容易に入れ替わると思いますし、追放の文言がより重要になることもあるでしょう。ご自身で調整する際には、環境に注意を払って選択されることをおすすめします。
各マッチアップの戦い方
イゼットフェニックスはドロー次第で動きが大きく変化します。また、みなさんもお気づきになると思いますが、対戦相手によっても立ち回り方が変わります。ここでは、対戦する機会が特に多いであろう相手に対する戦い方を一つ一つ見ていくことにしましょう。
イゼットフェニックス
ミラーマッチでは《氷の中の存在》が戦場に残ると早々に決着が着きます。とはいえ、《弧光のフェニックス》を出しやすい手札は、《宝船の巡航》がなく除去が多い手札に対して非常に強いです。できるだけ《氷の中の存在》を着地させることを意識し、その度に相手に解答を要求するようにすると良いでしょう。
対 イゼットフェニックス
《丸焼き》、《反逆の先導者、チャンドラ》、《厚かましい借り手》を投入し、《氷の中の存在》への解答を増やします。《厚かましい借り手》は《目覚めた恐怖》をバウンスできる貴重な存在であり、その他のカードではなかなか対処できません。《反逆の先導者、チャンドラ》も除去が多い手札に対して極めて強いカードです。
試験的に1枚採用した《虚空の力線》は、主にミラーマッチを想定しています。正規のマナコストで唱えられない呪文を過度に入れるのは好ましくないですが、手札を入れ替える手段が多いデッキであることを踏まえれば、1枚なら許容できます。1枚採用のカードは7枚の初手に約11%の確率で来ますが、もし引き込むことができれば相手が《氷の中の存在》を活かす手札でない限り、圧倒的に有利にゲームを展開できるでしょう。
《神秘の論争》は際立った呪文ではないものの、採用する価値はあると思っています。実際に使用するうえでは、ためらわずに《航路の作成》を打ち消しましょう。この呪文は序盤に手札を整える主な手段となるからです。
スゥルタイミッドレンジ
パイオニア チャレンジの決勝でイゼットフェニックスを打ち破ったデッキです。個人的にはそこまで相性が悪くないと思っていますし、有利にすら感じます。《致命的な一押し》や《王冠泥棒、オーコ》など、相手には《氷の中の存在》に対する妨害がありますが、《弧光のフェニックス》は特に1ゲーム目で非常に有効な脅威となります。
対 スゥルタイミッドレンジ
《氷の中の存在》が対処されやすいマッチアップだと言いましたが、それでも一切サイドアウトしないようにしています。リソースの交換は《宝船の巡航》のゲームプランに噛み合っていますし、仮に《氷の中の存在》が1枚でも生き残ればあっという間に勝てます。さらに、墓地対策に偏った手札を咎めるには最高のクリーチャーです。
《反逆の先導者、チャンドラ》や《王家の跡継ぎ》はプレインズウォーカーを守って奥義で勝つというプランを実現し、特に《王家の跡継ぎ》は《虚空の力線》のような墓地対策に直面した際に《宝船の巡航》を捨てて別のカードに入れ替えられるおまけ付きです。墓地対策の前では《イゼットの魔除け》のドロー効果は価値が大きく下がり、一般的にその他の2つのモードも役割が大きくないマッチアップですから、4枚全てサイドアウトします。違和感があるかもしれませんが、このマッチアップでは《弧光のフェニックス》を4マナ支払って唱えましょう。手札の呪文は《弧光のフェニックス》が除去されてから使うことがポイントです。
人間ウィニー
最近のリーグで出てきたデッキであり、予想以上に戦いづらい相手でした。超高速のビートダウンをしかけてきたり、《石の宣告》や《議事会の裁き》で《氷の中の存在》によるゲームプランに穴を開けてきたりします。しかし、イゼットフェニックスはクリーチャー対策が豊富ですから、相性は有利なはずです。ただし、人間ウィニーのデッキパワーは非常に高いですから、決して油断しないようにしましょう。
対 人間ウィニー
クリーチャーデッキと戦う際、《巧みな軍略》は頻繁にサイドアウトします。序盤はクリーチャーを除去することに費やしたいからです。《宝船の巡航》は手札で腐るタイミングもあるかもしれませんが、クリーチャーを一掃してから《氷の中の存在》も《宝船の巡航》もないと有利な状況を作り出しづらくなります。おそらく2戦目以降は《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》が投入されるので、《丸焼き》や《イゼットの魔除け》を使うタイミングは良く考えるようにしましょう。
4色サヒーリ
《時を解す者、テフェリー》と《王冠泥棒、オーコ》が最も厄介なカードとなるでしょう。この2種が主な《氷の中の存在》への解答です。イゼットフェニックスは本来はサヒーリコンボに介入しやすいデッキですが、《時を解す者、テフェリー》によって妨害が許されません。サヒーリコンボの構成は多種多様なので、サイドボーディングする際は対戦で目にしたカードを考慮すると良いでしょう。
対 4色サヒーリ
3マナのプレインズウォーカーを1マナの《呪文貫き》や《神秘の論争》で打ち消す作戦です。プレインズウォーカーを除けば、イゼットフェニックスがコントロールの立場に回るクリーチャーデッキとの対戦だと考えられます。仮にプレインズウォーカーが着地させてきたとしても、大抵は《弧光のフェニックス》がそれを咎めてくれるでしょう。サヒーリコンボがパイオニア界の最強のコンボであることが、イゼットフェニックスの立ち位置をここまで良くしている大きな要因だと思います。
緑信心
現時点で、青や赤をタッチしたものや、緑単でまとめたものがあります。いずれも《ニクスの祭殿、ニクソス》や《豊穣の力線》を使い、高速で大量のマナを生み出すことを狙いとしています。環境で最も爆発力がある初動を実現できますが、必ずしもそうなるわけではなく、イゼットフェニックス側はマナクリーチャーに対する豊富な除去によって渡り合えることも多いでしょう。
このマッチアップのキーカードは《氷の中の存在》です。相手はこのクリーチャーを除去する手段が非常に限られていますし、展開されたマナ加速要員を全て手札に戻してしまえば、一気にゲーム展開に差をつけ、相手が立て直す前に《目覚めた恐怖》でとどめを刺せます。
対 緑信心
緑信心に対しては、《炎の一掃》は《神々の憤怒》に劣るかもしれません。《森の女人像》や《世界を揺るがす者、ニッサ》でクリーチャー化した土地がタフネス3だからです。《炎の一掃》を全くサイドインしないという選択肢は捨てきれず、先手後手で変化させるのもあり得ます。しかし、《炎樹族の使者》を使ってくる相手には《炎の一掃》の価値が大きく上がるでしょう。
パイオニアをプレイしていればこの他にもいろいろなのデッキと対戦するかと思いますが、数あるデッキの詳細を知らない以上は具体的なサイドボーディングのアドバイスを提示することは容易ではありません。ぜひ覚えておいていただきたいのは、《選択》、《航路の作成》、《弧光のフェニックス》、《宝船の巡航》のサイドアウトはおすすめしないということ。墓地対策が多くサイドインされると予想する場合は《宝船の巡航》を減らしても良いですが、唱えたときのインパクトを考えれば減らすとしても1枚だけでしょう。
パイオニアの未来
現在のベストデッキはイゼットフェニックスであると確信しています。《王冠泥棒、オーコ》を使ったミッドレンジがその立場を奪う日は近いかもしれません。ですが、現段階でミッドレンジを使用する問題点は、これだけ多くのアーキタイプが存在する環境初期では受け身のカードが相手のプランに噛み合わない可能性があることです。
対して、イゼットフェニックスは相手によってゲームプランを使い分けることに長けているだけでなく、雑多なコンボデッキに対して高速のゲームを展開する力があります。確かなことは言えませんが、11月1日のPTQに向けてイゼットフェニックスが有力な候補であることは間違いありません。
《宝船の巡航》と《時を越えた探索》はいつか禁止されると予想しています。そうなれば、イゼットフェニックスは今ほどの成功を収められないでしょう。《宝船の巡航》だけが禁止になった場合は、《時を越えた探索》が妥当な埋め合わせになるでしょうが、両者が禁止されれば長期戦で大きく苦しむことになるはずです。
少し気が早いかもしれませんが、《王冠泥棒、オーコ》も近いうちに禁止されることを期待しています。歴代のプレインズウォーカーのなかでも、一番ではないもののトップクラスの強さです。「探査」呪文がフェッチランドの禁止によってやや弱体化していることを鑑みれば、《王冠泥棒、オーコ》がパイオニアでベストカードとなる可能性は十分にあるでしょう。
他の禁止カード候補についてですが、まずは環境がコンボデッキへ適応することを見てみないとコンボデッキの強さを知ることは難しいと思われます。ですから、近々に禁止が望まれるのは上記の3種だけではないでしょうか。ですが、『カラデシュ』がスタンダードにあった時代に禁止されたカードの多くは、パイオニアでもいずれ禁止になると予想しています。
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