優勝者デッキテク ~小森 翔太のスニーク・ショー~
晴れる屋メディアチーム
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By Tsutomu Date
長く環境を支配していた《レンと六番》が禁止となり、2週間が経った。圧倒的だった「ティムールデルバー」は数を減らし、「デス&タックス」を始めとする、抑圧されていたデッキ達が息を吹き返した。
また、『エルドレインの王権』の《王冠泥棒、オーコ》の強さを誰もが認識し、いずれのデッキも緑を足してまで導入を試みている。その筆頭は「奇跡」で、「オーコミラクル」はレガシー界のホットワードだ。
そんなレガシー環境の中、スイスラウンドを6勝1分けの1位抜けの後、そのまま決勝ラウンドを怒涛の勢いで駆け抜け、一度も土を付けられることのないまま第9期レガシー東海王の座に就いたのは、小森 翔太だ。
「スニーク・ショー」を最強と信じ、青赤や青単色が多い構成から、大胆にも青赤に緑をタッチした構成は見るべきものが多い。
その小森に、独自チューンの「スニーク・ショー」についてインタビューをお願いした。
――「第9期レガシー東海王決定戦、優勝おめでとうございます。まずは本大会にあたってこのデッキ、『スニーク・ショー』を選ばれた理由を教えてください」
小森「普段は『グリクシスコントロール』をメインで使っていて、他にも『奇跡』『デス&タックス』『リアニメイト』『石鍛冶』『マーフォーク』……あと『12ポスト』も使うかな。色々使うけど、『スニーク・ショー』を選んだのは、今のレガシーで最強だと思ったからです。2ターンぐらいで勝てるので、疲れないのもいいですね」
――「普段からそこまでたくさんのデッキを使うのですね!『東海王決定戦』のように長丁場となる大会では、疲労を残さないデッキは重要ですよね。小森さんの『スニーク・ショー』は速度を重視しているようにも見えますが、特に注意して調整している箇所はありますか?」
小森「(このデッキは)妨害するよりも叩きつけていった方が強いので、速度を高めて勝ち手段を多くしています。あと、《夏の帳》は異常と言っていいぐらい強いですね」
――「《夏の帳》は複数フォーマットで禁止カードに指定されましたが、レガシーでも緑タッチの理由になるほどなのですね。ちなみに調整はどのように行っていましたか?」
小森「昨日友人に勧められて《秘儀の職工》を買いました。あと今朝サイドに《ヴェンディリオン三人衆》を入れました」
――「昨日と今朝ですか!?」
小森「大会に出るときは、大体前日あたりからデッキをいじりだしますね。デッキは鮮度が大事」
――「デッキは生き物、と聞いたことがありますが、鮮度は初めて聞きましたね。具体的に調整する上で、増やしたカードや減らしたカードはなんでしたか?」
小森「減らしたのは《狡猾な願い》と《呪文貫き》で、《夏の帳》を入れました。《全知》はあまり強くないのですが、《実物提示教育》から《全知》、《引き裂かれし永劫、エムラクール》のルートじゃないと勝てない相手がいるのでメインから入れています。まあ主にミラーマッチですね。《狡猾な願い》もあまり強くなくて、あくまで対処できないと負けるカードに対抗するためのお守り用としての役割が大きいです」
――「具体的にはどのような時に《狡猾な願い》をプレイするのですか?」
小森「例えば『赤単プリズン』の《罠の橋》は出されると本当に負けてしまいます。だからいわゆるディッチャ枠、《削剥》や《自然への回帰》を持ってきます。『ダークデプス』には《残響する真実》、『デス&タックス』や『エルフ』には《コジレックの帰還》ですね。あとはカウンターを持っていそうな相手には《狼狽の嵐》を持ってきたり」
――「コンボパーツを探す使い方はあまりしないのですか?」
小森「余程のことがない限りしないですね。今日9マッチやって1回だけでした。《裂け目の突破》を持ってくる、《直観》を持ってきてメインのコンボパーツを探す、というのは選択肢としてはありますが」
――「なるほど、では他に一般的な『スニーク・ショー』との違いを教えてください
小森「《騙し討ち》3枚のリストを見るのですが、これはいつ引いても強いカードなので、絶対4枚入れるべきです。《実物提示教育》よりも確実で、勝ち筋としても優先されます。《実物提示教育》は相手の対処手段が多いのであまり強くありません。むしろ本命の《騙し討ち》のために、相手のカウンターの囮に使うほどですね。メインは《実物提示教育》で勝つこともありますが、特にサイド後は《騙し討ち》です」
――「メインとサイドに1枚ずつ採用されている《直観》はどうですか?」
小森「『エルドラージ』や『赤単プリズン』のように早めに勝負をつけたい相手に有効です。これは青い《悪魔の教示者》なので」
――「メインの《夏の帳》2枚もなかなか強烈ですね」
小森「苦手な相手には強力に作用するし、『デス&タックス』、『赤単プリズン』、『エルドラージ』のように腐るマッチアップもありますが、そういう相手はそもそも1枚ぐらいのドロー差で負けることはないので問題ないですね」
――「最近の《実物提示教育》デッキは《夏の帳》入りが多いのですか?」
小森「《夏の帳》、というよりは青緑の『オムニテル』が多いですね。《騙し討ち》を使う人が少ない。『オムニテル』は《実物提示教育》が勝ち筋の全てなので私はあまり好きじゃないですね」
――「青白バージョンも見かけますね」
小森「青白は《時を解す者、テフェリー》が強いですね。あとサイドの《僧院の導師》が楽しい」
――「なるほど。ではデッキの一押しカードを教えてください」
小森「(食い気味に)《水蓮の花びら》です!全部これが解決してくれました!」
――「決勝戦でのトップデッキも劇的でしたね。《騙し討ち》が1ターン早く起動できていたのが勝利に繋がっていました。次に、どのようなメタゲームを想定していましたか?」
小森「名古屋メタ的には『ANT』かなと。『ANT』、『奇跡』、『デルバー』……『デルバー』は苦手なので考えたくなかったですが(笑)。メタゲームは考えましたが、それよりも最強のデッキを目指して構築しました」
――「では各デッキとのマッチアップとサイドボーディングのプランを教えてください」
小森「基本的に有利なマッチアップだと思っています。相手にとってマストカウンターが多いですし、こちらの方が《夏の帳》や《呪文貫き》のような妨害手段が多い。サイド後は、《外科的摘出》を入れてくる相手には《直観》を抜きます。《全知》は有効な相手が限られていて、そうでない相手には抜きますね。《狡猾な願い》は特にサイド後に持ってきたいカードがないので抜きます」
小森「不利なマッチアップです」
――「《王冠泥棒、オーコ》は入れないのですか?詰められた後にライフをゲインする手段が有効に思えますが」
小森「入れませんね。これでゲームを伸ばすよりも勝ちに行った方がいい。《削剥》など除去もサイドにありますが、相手のカードを対処するよりも先に脅威を出していった方がいい。そのために2アクションが取れる《花の絨毯》を入れます」
小森「気持ち有利ですね。《実物提示教育》が強く使えるマッチアップです。速度はANTの方が速いですが、こちらは邪魔する手段が多いのでそこまで苦しくないと思います」
小森「明確に不利なマッチアップです。打ち消しが効かない、手札破壊してくる、『マリット・レイジ』が止まらない……と弱点が多いです。こちらも勝ち筋を増やさないとならないです」
小森「とても有利なマッチアップです。相手のカウンターの数が少ないので『奇跡』より有利ですね」
小森「当然ながら五分のマッチアップです。サイド後もそうですね。プレイング次第、細かい差で勝敗が決まります。例えば、《騙し討ち》は全部カウンターしますが、相手の《実物提示教育》は全部通します」
小森「有利なマッチアップです。《騙し討ち》を出せば勝ちです」
――「《全知》をサイドアウトするマッチが多いですね」
小森「《引き裂かれし永劫、エムラクール》を唱えなければ勝てないマッチ以外はアウトしますね」
小森「気持ち有利なマッチアップです。みんな不利って言ってますけどね(笑)。《霊気の薬瓶》さえ消せたらなんとかなるイメージです。《削剥》は《霊気の薬瓶》を対処するために入れていますが、入れなくても構いません」
小森「正直憎いマッチアップです(笑)」
――「といいますと?」
小森「不利~微不利です。《罠の橋》がどうにもならない。《実物提示教育》に合わせて出されると負けるので、撃ちたくないまであります。《王冠泥棒、オーコ》は赤単プリズン専用と言っていいぐらいのサイドボードです」
小森「微不利です。手札破壊で打ち消しが抜かれてリアニが通るのが負けパターンです。相手の妨害手段が多いのがつらいですね。サイド後も不利です。『デルバー』と同じぐらい苦手かもしれません」
小森「何も困ることはないマッチアップです。《時を解す者、テフェリー》だけかな?《秘儀の職工》は相手がサイドインしてくるであろう《封じ込める僧侶》にも有効です」
――「いろいろなマッチとサイドボーディングを見せてもらいましたが、メインから抜けるカードは決まっている感がありますね。人によっては、《水蓮の花びら》などのマナ加速をアウトして対抗手段や妨害手段をインする戦略もありますが、抜けるマッチはないのですか?」
小森「ないですね。押し付けていく方が強いです。自分と相手、どちらが押し付けてどちらが妨害する側なのか、と言ったらこのデッキは常に前者ですから」
――「一貫しているのですね。ではこれからこのデッキを使いたい方にアドバイスをお願いします」
小森「正しいレシピを使った方がいいと思います。まずは《直観》が入っているのに《全知》が2枚だったのは間違っていたかもしれません。《狡猾な願い》は1枚でいいですね。その分《全知》は3枚にした方がいいです。あとは《Taiga》は《山》にした方がいいかな……《霧深い雨林》からサーチできるのは好きだけど、お勧めはしません。普通は《山》でいいと思います」
小森「サイドの《防御の光網》は対『デルバー』用のサイドだったのですが、《花の絨毯》の方がいいですね。1マナで相手の《目くらまし》、《呪文貫き》が無駄になるのが大きい。2マナの《防御の光網》は重いですね。《王冠泥棒、オーコ》はこれがないと勝てないマッチがあるぐらい優秀です。《罠の橋》、《魔術遠眼鏡》を大鹿にできるので、1枚で勝てます。これは外せないですね」
――「ありがとうございます。では最後に一言お願いします」
小森「いろいろなデッキを使いますが、『スニーク・ショー』が一番強いデッキだと思います!これからもこれを握ります!」
自信に満ちた態度とアグレッシブなプレイスタイルからは、王者の風格が感じられた。それは決して蛮勇ではなく、環境のデッキを、またデッキ毎のマッチアップを知り尽くした結果に他ならない。調整を進めるにつれ対処に傾倒しがちなプレイヤーは多い。だが、なおも常に攻めを崩さない小森の姿勢は、多くのプレイヤーが学ぶところが多いのではないだろうか。
新たな東海王、小森 翔太に心からの祝福を送りたい。