Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/1/14)
アイツが帰ってきた!
やぁ、世界中のプレインズウォーカーたち!またこの時期がやってきたね。新しいセット、新しいメカニズム、新しいカード、そして生まれ変わるスタンダード環境!研究しがいのあるものがやってくる。『テーロス還魂記』の発売まであと少しだから、期待の新カードを使いたい気持ちは最高潮になっている。みんなが根っからのアグロプレイヤー、ミッドレンジの専門家、コントロールマスターのどれであろうとも関係ない。これからデッキの軸にしてみたい素晴らしい選択肢が見つかるのは間違いないだろう。
今回は、この新セットに再録されるカードの1つに焦点を絞りたい。このカードは、直近の10年で登場した黒のクリーチャーを代表する1枚なんじゃないかと思う。そう、オールマイティなクリーチャー、《アスフォデルの灰色商人》だ。2013年9月発売の『テーロス』で初めて登場したこの強力な5マナクリーチャーは、活躍の場をスタンダードに限定することなく、さまざまな黒のミッドレンジ戦略の要となってきた。
5マナ2/4のクリーチャーでありながら、戦場に出た際に黒の「信心」に等しいライフをドレインするが、これだけの功績を収められた大きな理由はその柔軟性にあるといえるかもしれない。対戦相手がアグロ戦略の場合はゲームを安定させる役割を担い、低速のデッキには勝利条件として機能するんだ。ときには戦闘を介することなく相手のライフを0にすることだってできる、特に重ね引いたときにはね。
《アスフォデルの灰色商人》の歴史
かつての黒単信心
我らが《アスフォデルの灰色商人》のポテンシャルを引き出した黒単信心が初めて姿を見せたのは、予想通り、発売から間もないころだった。その力は、ダブリンで開かれたプロツアー『テーロス』でトップ8に入賞した山本 賢太郎によって世に示されている。
4 《静寂の神殿》
4 《変わり谷》
1 《ニクスの祭殿、ニクソス》
-土地 (25)- 2 《群れネズミ》
4 《生命散らしのゾンビ》
4 《冒涜の悪魔》
1 《死者の神、エレボス》
4 《アスフォデルの灰色商人》
-クリーチャー (15)-
《アスフォデルの灰色商人》とあわせて採用されたのは、「信心」を2つ供給する《冒涜の悪魔》や《生命散らしのゾンビ》といった優れたクリーチャー、軽量の妨害呪文、マナコストに黒マナを2つ含む《地下世界の人脈》や《エレボスの鞭》などの驚異的なカードアドバンテージ源。こういった黒単信心の登場により、特定の色への「信心」を強めながら、カードの質も担保するという方向性が間違いなく実現可能であると明らかになったんだ。
このデッキのメインのゲームプランは、強力な除去や手札破壊を駆使して相手の速度を低下させ、(対処されなければ勝利に結びつく)こちらのクリーチャーたちへの対応を迫り、「信心」を捧げるパーマネントを展開しながらリソースのやりとりをして、“商人”が着地してライフ差を一気にひっくり返す完璧なシナリオを辿っていくことだ。この効果的な戦略が次期環境でも再現可能なのかどうかは、数多くのマジックプレイヤーやデッキビルダーが試してみることだろう。
パウパーへの進出
《アスフォデルの灰色商人》は『テーロス還魂記』でアンコモンとして再録されているけど、初出のときはコモンとして収録されていた。ポテンシャルが高そうなほかのコモンと同様に、その実力はパウパーでも試されることになった。そして何の驚きでもなく、このクリーチャーはパウパー環境でも効果的であることがわかったんだ。
4 《やせた原野》
-土地 (23)- 4 《クォムバッジの魔女》
4 《騒がしいネズミ》
4 《アスフォデルの灰色商人》
3 《湿原霧のタイタン》
2 《グルマグのアンコウ》
-クリーチャー (17)-
もともとパウパーで黒単コントロールは手堅いデッキであったが、この5マナクリーチャーの登場によって強化され、ひとつ上のレベルへと昇華した。そのほかに採用されているカードには、(以前から採用されているクリーチャーで黒の「信心」が強い)《騒がしいネズミ》《クォムバッジの魔女》などのクリーチャー、強力な除去・手札破壊・ドローがあり、スタンダードのデッキと非常に似た動きができる。ゲームのペースを遅め、カードアドバンテージを獲得し、ゆくゆくは多大な「信心」から生まれるドレインを何度か決めて勝利するんだ。
そして、『テーロス還魂記』スタンダードの黒単信心
黒単信心
これまでにこの5マナクリーチャーがどれほど成功を収めてきたかは、以上のことからわかってくれたと思う。とすれば、手始めに《アスフォデルの灰色商人》を試すなら黒単信心を組むのが素直じゃないだろうか。このデッキを組むなら、《アスフォデルの灰色商人》が戦場に出たときの能力を最大限に引き出すべきだろう。“商人”の効果を最大限発揮するために、黒のパーマネント中心に構築し、「信心」を前面に押し出すんだ。
3 《ロークスワイン城》
-土地 (24)- 4 《大釜の使い魔》
4 《漆黒軍の騎士》
4 《ヤロクの沼潜み》
2 《死より選ばれしティマレット》
4 《残忍な騎士》
3 《ロークスワインの元首、アヤーラ》
4 《悪夢の番人》
1 《荒涼とした心のエレボス》
4 《アスフォデルの灰色商人》
1 《夜の騎兵》
-クリーチャー (31)-
「信心」システムを徹底した場合に、どれだけ機能するのかを確認するデッキとしては悪くないリストだろう。このデッキの狙いは、黒のパーマネントをできるだけ多く並べてフィニッシャーが機能する状況を整えることだけど、一貫してアドバンテージを重視するミッドレンジプランも兼ね備えている。
このリストで特に注目すべきであろうシナジーは、《魔女のかまど》と《悪夢の番人》が戦場に並んでいて《アスフォデルの灰色商人》を唱えたときに発生する。まず4点のライフをドレインし、すぐさま“商人”を生け贄に捧げて《悪夢の番人》の能力を誘発させる。“商人”を追放して1/1のコピートークンを生成すれば再び相手のライフを吸い取ることができるんだ(クリーチャートークンはそのマナコストを維持している。だから「信心」もしっかりと稼げる)。
この一連の動きで少なくとも合計8点のライフ差をつけることができる。実に強力なシナジーであり、このクリーチャー2種が揃ったときにだけ考えれば良いシナリオだ。5~6点のドレインを2回しようものなら、そこから負けるのは至難の業だろうね。
白をタッチしてみる
もうひとつのアプローチは、別のシナジーを利用するために白を足すこと。デッキに色を追加するときに決まって重要になるのは、使えるカードの幅が広がることがデッキパワーの底上げにつながっているかを吟味することだ。このとき、マナ基盤が弱体化するという側面も考慮する必要がある。特に今のご時世はスタンダードのマナベースがそこまで強くないからね。こういったことを念頭に、《戦慄衆の指揮》を採用したアプローチを考えてみた。
5 《平地》
4 《神無き祭殿》
4 《寓話の小道》
4 《静寂の神殿》
1 《ロークスワイン城》
-土地 (25)- 4 《魅力的な王子》
4 《ぬかるみのトリトン》
2 《泥棒ネズミ》
4 《ロークスワインの元首、アヤーラ》
4 《残忍な騎士》
2 《悲哀の徘徊者》
4 《聖堂の鐘憑き》
4 《アスフォデルの灰色商人》
1 《夜の騎兵》
-クリーチャー (29)-
主な狙いは、序盤の序盤から積極的にリソースを交換し、できるだけライフを高水準に保ち、6枚目の土地を置いたときに墓地のカードとライフが十分にあり、《戦慄衆の指揮》から最大限のアドバンテージを稼ぐことだ。
特筆すべき点として、採用されているカードの大半が、盤面に出るとすぐにライフの損失を補填するものになっている。《ぬかるみのトリトン》は序盤で時間を稼いでくれるだけでなく、墓地を肥やす役割も担う。《悲哀の徘徊者》はキーとなるターンに自軍のクリーチャーをすべて生け贄に捧げて《戦慄衆の指揮》を探し出してくれたり、戦場に出たときの能力をすぐに再利用したいクリーチャーを生け贄に捧げてくれたりする。
たとえばこんな動きができたらどうだろう。《ロークスワインの元首、アヤーラ》《魅力的な王子》《アスフォデルの灰色商人》を墓地から一気に蘇らせたとする。これで失うライフは10点だ。しかし、たった3体のクリーチャーが13点ものライフを吸収できる!守備、効率的なリソースの交換、カードアドバンテージに徹しつつ、戦闘を介さずにゲームに幕を引くことができるデッキ。そんなものは軽視できないし、試すべきだろう。
おわりに
みんなは《アスフォデルの灰色商人》の復活についてどんな印象を持っているだろうか?「信心」デッキを使うならどの色が良い?『テーロス還魂記』で最も注目しているカードは何だろう?
マティアス・アルヴィーゴ/Matias Arvigoには感謝したい。《魅力的な王子》と《戦慄衆の指揮》の構成について自身の経験とアドバイスを提供してくれた(彼のTwitchチャンネルはここから)。この構築は最高だと思うし、『テーロス還魂記』が発売されたら絶対に試してみようと思う。
じゃあ、また次の記事で会おう!