0. はじまり
突然個人的な話になりますが、2019年、自分は競技マジックからほとんど引退状態でした。2019年2月のミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019を最後に、4回にわたって継続参戦できていたプロツアー/ミシックチャンピオンシップへの参加権利が途切れ、また同時期のプロ制度の大幅な変革も相まってモチベーションの低下が著しかったのです。
ところが2020年1月、Wizards of the Coast社から一通のメールが届きます。
「前シーズンのシルバーレベルにより、2020プレイヤーズツアー#1の権利を付与します」
!!!
プレイヤーズツアー(PT)予選に参加することすらやめていた自分にとって、再びマジックに打ち込む転機でした。PT名古屋の日程はどうしても外せない予定と被っていたので、一週遅いPTフェニックスに遠征することを決めました。
構築は新フォーマットのパイオニアで、チーム調整の優位が強く出ることが予想されますが、一週遅いタイミングであれば、名古屋 / ブリュッセルの結果を受け取れますので、チームの優位性は薄まります。そこで、今回の構築戦は個人で調整することにしました。
1. リミテッド(『テーロス還魂記』ドラフト)
ドラフトの練習は、「ドラキチ合宿」などでリアルドラフトを10回、MOのシングルエリミネーションドラフトに10回ほど取り組みました。幸いかなり勝率が良く、Magic Online(MO)のレーティングは1900を優に超え手ごたえを感じます。
環境の印象としては、レアが強いということ。色の強弱はそれほど感じませんでした。そこで取ることにした戦略は、2-1のレアを受けられるよう受けの広いピックをすることです。1パック目で色を決め過ぎず、《旅行者の護符》、《万神殿の祭壇》をできれば1枚拾っておくことを意識します(《未知の岸》は重いボムをタッチするのに向かないので優先はしない)。
ファーストドラフト
初手が弱めで《夢忍びのマンティコア》、1-2が強力な黒のアンコモンである《エルズペスの悪夢》、1-3が《悪戯なキマイラ》でした。青赤が本線で黒もやれるかという状態で1パック目を終えます。そして2-1。
迷わずピックし、青赤はすっぱり諦めます。青赤から青黒タッチ緑への無理な色替えなので、プレイアブルの確保を意識してドラフト。ギリギリ23枚を確保できました。デッキが強力で、危なげなく3-0。
6 《沼》
3 《森》
2 《欺瞞の神殿》
-土地 (17)- 1 《記憶を飲み込むもの》
1 《不協和音の笛吹き》
1 《ぬかるみのトリトン》
1 《激浪の亀》
1 《挽歌の歌い手》
2 《鬱陶しいカモメ》
2 《毒の秘義司祭》
1 《半真実の神託者、アトリス》
1 《苦悶の侍祭》
1 《鎖を解かれしもの、ポルクラノス》
1 《怒り傷の狂戦士》
-クリーチャー (13)-
セカンドドラフト
初手は《ティマレット、死者を呼び出す》。その後白の流れが良く、白黒路線でドラフトします。カギとなる2-1のレアは《嵐の伝令》で、パッとしません。そのまま白黒路線を続けますが、黒の流れが正直悪く、あとから考えるとどこかで赤白に切り込むべきでした。
3-1で《アクロス戦争》。マナサポートは取れていませんでしたが、現状のデッキでは勝てなさそうでしたので、無理やりにでも勝ち筋を作るべくピックします。かなり不安のある白黒タッチ赤のデッキが完成しました。しかし卓全体で住み分けがうまくいっていなかったようで、対戦相手のデッキも3色以上が多く、運よく3-0することができました。
6 《沼》
3 《山》
-土地 (17)- 1 《命の恵みのアルセイド》
1 《障害の幻霊》
1 《失われた群れのレオニン》
1 《ヘリオッドの巡礼者》
1 《陽光たてがみのペガサス》
1 《毒の秘義司祭》
2 《蠱惑的なユニコーン》
2 《夜明けのキマイラ》
1 《夢固めのシャーマン》
-クリーチャー (11)-
1 《運命のちらつき》
1 《存在の破棄》
1 《モーギスの好意》
1 《歩哨の目》
2 《メレティス誕生》
1 《ぬかるみの捕縛》
1 《避け難い最期》
1 《ティマレット、死者を呼び出す》
1 《アクロス戦争》
-呪文 (12)-
2. 構築(パイオニア)
PT名古屋・PTブリュッセルは、青黒インバーターがパイオニア環境のベストデッキであることを知らしめる結果に終わりました。PTフェニックスでは当然全ての参加者が青黒インバーターを攻略できるデッキを持ち込んでくるはずです。この状態で素直に青黒インバーターを選択するのには抵抗があったので、軸をずらしたデッキがないかと思っていたところに、このようなリストが飛び込んできます。
Got a 5-0 vs some top tier decks 2nd try with this Uro Inverter mashup, feels pretty nuts actually. A few T4 kills thanks to Caryatid, and Uro makes the opponent spew resources or tap out to answer it leaving you an easy window to combo. pic.twitter.com/JVsepOwtR8
— WhiteFaces (@WhiteFacesmtg) February 3, 2020
ブリュッセル優勝のスゥルタイ昂揚と準優勝の青黒インバーターを合体させたような、大胆な発想のデッキ。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》がビートダウン相手の耐性を担保していますし、インバーター同系は八十岡(翔太)プロがPT名古屋で見せたように、コンボ以外の勝ち筋を用意するのがカギに感じたので、とても理にかなっているように思えました。対戦相手がこのデッキ相手の練習を積んでいないだろうことも加点要素です。
この時点でデッキリストの提出期限約20時間前でしたが、急遽使用を決定。
マナベース警察再び
こういう粗削りなデッキのマナベースを整えるのが、マナベース警察の本領です。以前のマナベース記事が好評でしたので、ざっくりですがマナベースの思考過程を以下に残しておきます。
(1) 色マナカウントは、《森の女人像》や《サテュロスの道探し》でごまかせることを考慮し、最低限の緑16青16黒15を必要数に定める(《神秘を操る者、ジェイス》にはカウントが足りませんが妥協)。
ここまで
・残り採用土地枚数:23
・残り必要色マナカウント:緑16青16黒15:計47
(2) 墓地肥やし兼《致命的な一押し》の「紛争」達成のために《寓話の小道》を最低3枚は採用したい。その場合フェッチ先がなくならないよう、基本土地は4枚必要。
(3) 2枚採用する基本土地は、《神秘を操る者、ジェイス》の都合で《島》に決定。
ここまで
・残り採用土地枚数:16
・残り必要色マナカウント:緑12青11黒11:計34
(4) 残り16枚の土地で34の色マナカウントが必要なので、3色ランドである《華やかな宮殿》2枚の採用が決定(34-16×2=2)。
ここまで
・残り採用土地枚数:14
・残り必要色マナカウント:緑10青9黒9:計28
(5) 2色土地は青緑5枚、緑黒5枚、青黒4枚を採用することが決定。
(6) マナ拘束がきついデッキなので、ダメージランドは実質《マナの合流点》に近くなる。不採用。
(7) 《真実を覆すもの》+《タッサの神託者》や《サテュロスの道探し》+《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の6マナでのビッグアクションを取るため、6マナ目であってもタップインを許容しづらく、ファストランドの枚数はなるべく抑えたい。
(8) 黒マナは最序盤にアンタップインして欲しい。
(9) 青マナは最序盤には必要ない。
(10) (5)~(9)により、ショックランド以外に採用する2色土地は、《花盛りの湿地》、《内陸の湾港》の2種に決定。
(11) 《内陸の湾港》を安定してアンタップインするために、参照先が15枚以上欲しい(《寓話の小道》は0.5枚換算)。
(12) 上記条件を満たすのは、《花盛りの湿地》2枚+《内陸の湾港》1枚、または《花盛りの湿地》1枚+《内陸の湾港》2枚の2パターンのみ。
(13) 最後は感覚で、《花盛りの湿地》2枚+《内陸の湾港》1枚に決定。
デッキリスト
使用したリストはこちら。デッキ自体の反省はありますが、マナベースに関してはベストだったと思います。
サイドボーディングは柔軟に
前述のとおり直前に使用デッキを決めたため、サイドプランを検証する時間がありませんでした。脳内で各デッキ相手のインアウトを想定しデッキリストを提出しましたが、想定と実際は違うもの。
今大会では10回のパイオニアラウンドでかなり当たりが偏り、バントスピリットに3回、ロータスブリーチと4回対戦し、当初のプランとは異なるサイドボーディング・ゲームプランを取ったため、その過程をご紹介したいと思います。
対バントスピリット
デッキリスト提出後、トランジット待ち時間にロサンゼルスの空港でMOのリーグをこなしていました。結果は、バントスピリットに2回負けて3-2。このマッチアップは元々不利という認識で、《鎖巣網のアラクニル》という専用サイドまで取っていましたが、思った以上の相性差を感じて絶望します。
その際のサイドインアウトはだいたい以下のようなもの。
対 バントスピリット version.1
相手がコンボを警戒してくることを想定し、《神秘の論争》や《霊廟の放浪者》でカウンターされやすい《時を越えた探索》をはじめとしたコンボパーツを減らして、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の早期着地によるダメージレースを狙うプランです。
しかし現実にはウーロが出る4~5ターン目はちょうど《呪文捕らえ》を構えられるターンで、仮に出せたとしても《ネベルガストの伝令》に封殺されます。このプランは全く成立していないことがわかりました。
もう提出したデッキリストは変更できませんので、75枚の中で最適解を出すシールド戦に似た何かが始まります。練り直した結果がこちら。
対 バントスピリット version.2
ウーロは諦め、基本はコンボで勝つことを狙います。《不屈の追跡者》はウーロよりも着地が1~2ターン早く、サイドインした軽い妨害と合わせて単体でダメージレースが可能です。このプランを実際に検証する時間はなく、ぶっつけ本番となりました。
果たして結果は!?
Round | 対戦相手のデッキ | 結果 |
---|---|---|
Round 5 | バントスピリット | ×〇〇 |
Round 14 | バントスピリット | ×× |
Round 15 | バントスピリット | 〇〇 |
2勝1敗と、まずまずの結果を残すことができました。特に5回戦では2本目、3本目ともに3ターン目に着地した《不屈の追跡者》が殴り切ってくれ、大きな手ごたえを感じました。
対ロータスブリーチ
ChannelFireball所属のトッププロたちがこぞって持ち込み、今大会の台風の目となったのがロータスブリーチです。正直名古屋・ブリュッセルでは存在感がなく、青黒インバーターに取って代わられた過去のデッキという認識でした。サイドプランとしても、《虚空の力線》を引ければ勝てるのではないかくらいの認識でいました。
チャネルのリストには革命的な点がいくつもあるのですが、なかでも白眉なのがサイドボードに《秘本掃き》を採用している点です。青黒インバーター、ロータスブリーチともに5ターンキルが現実的なデッキであり、それだけ見ると先手を取った方が勝つような印象を受けますが、《秘本掃き》の採用によりこの状況は一変します。インバーター側が4ターン目に《真実を覆すもの》を出すと、返すターンに《願いのフェイ》からの《秘本掃き》でライブラリーアウト負けするのです。インバーター側は6ターン目の《真実を覆すもの》+《タッサの神託者》のような展開を目指さざるを得ず、これにより生まれたターン差がコンボ対決でクリティカルなのは言うまでもありません。
さてスゥルタイインバーターのサイドプランに話を戻すと、初戦のエリック・フローリッヒ/Eric Froehlich戦では以下のような入れ替えを行いました。
対 ロータスブリーチ version.1
最低限の妨害を挟みつつコンボ、またはウーロで速やかに殴りきるプランです。前述の《秘本掃き》に加え、《失われた遺産》というコンボ対策もある以上、信頼がおけるのはウーロだと考えていました。
ところがウーロというカードはあまりにも遅いのです。そもそもの強みが除去耐性にあるようなカードですから、速度が必要なマッチアップで頼るカードではありませんでした。
Round | 対戦相手のデッキ | 結果 |
---|---|---|
Round 4 | ロータスブリーチ (エリック・フローリッヒ) |
×× |
ここで、同じウーロデッキであるスゥルタイ昂揚はロータスブリーチに一定の勝率を確保していることを知ります。
リンク先にあるプレイヤーツアーフェニックスの勝率マトリクス。
— はまさん@はま屋 (@ziguyan) February 8, 2020
ロータスコンボ勝ちすぎワロタ。
黒単相手に100パーセントw https://t.co/fx6RX0YaxE pic.twitter.com/dbHs4c7QsU
その要因を考えてみると、徹底的な妨害によりひたすらコンボを阻害することが効果的なのではないかと思われました。そこで、次のマット・ナス/Matt Nass戦で取ったサイドプランがこちら。
対 ロータスブリーチ version.2
2ゲーム目では、《失われた遺産》で《真実を覆すもの》が抜かれたあと、目論見通り盤面に《不屈の追跡者》、《虚空の力線》×2、《神秘を操る者、ジェイス》と並べ、手札には《神秘の論争》、《突然の衰微》という状況に持ち込みます。
ところが相手は《爆発域》で《不屈の追跡者》を除去して時間的余裕を作ると、長期戦で大量に並んだ《睡蓮の原野》《演劇の舞台》から貯めこんだ《見えざる糸》を紡いで15マナを捻出。《神秘の論争》をケアした《願いのフェイ》からの《精霊龍、ウギン》。こちらになすすべはありませんでした。
この負け方は必然です。なぜならスゥルタイインバーターには引き延ばした先のゴールがないのですから。これがスゥルタイ昂揚だったら、ここまでくれば《約束された終末、エムラクール》が着地して勝利していたはずです。スゥルタイ昂揚がロータス相手に勝率を出している要因を見誤ったことによる、手痛い失敗でした。
さらに次のラウンドでも、無謀にも似たようなサイドプランで挑み連敗。
Round | 対戦相手のデッキ | 結果 |
---|---|---|
Round 12 | ロータスブリーチ (マット・ナス) |
〇×× |
Round 13 | ロータスブリーチ | ×× |
そして迎えた運命の最終ラウンド。再びロータスブリーチが立ちはだかりました。取ったサイドプランはこちら。
対 ロータスブリーチ version.3
結局このマッチアップは、最速でコンボを決めるのが一番勝てるという結論に。《サテュロスの道探し》は高速で《時を越えた探索》をキャストするのに繋がります。ウーロは土地を伸ばし、コンボのために墓地を掃除するのに使えます。殴ることには期待しません。
ここまでくるとサイドプランというよりは、マリガン基準を重視しました。《虚空の力線》を求めてマリガンする必要はありません。最速の手札を求めます。
問題の《秘本掃き》については、《願いのフェイ》は4枚しか入っていないうえにこちらには《思考囲い》もあるので、無視して突っ込むという方針に。
祈りが通じたのか、3本目は以下のようなオープニングハンドでした。
《思考囲い》《森の女人像》《タッサの神託者》《忌まわしい回収》、土地3枚。そして2ターン目のドローが《真実を覆すもの》。
練習から通して、このデッキを使って初めての4ターンキル。ついにロータスブリーチ相手にマッチを勝利することができました。
Round | 対戦相手のデッキ | 結果 |
---|---|---|
Round 16 | ロータスブリーチ | 〇×〇 |
3. おわりに
今回は準備が十分とは言えず、デッキリスト提出後に足掻くことになりました。最終的に11勝5敗の成績となり、次回PTの権利と賞金1500ドルを得ることができたのは、かなり上出来といえます。
しかしあと1勝すればPTファイナルの権利が得られていたので、欲も出てきます。引退なんて言ってないで、もうひと頑張りしてみようかと思います。
浦瀬 亮佑 (Twitter)