Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/2/19)
狙うは世界の頂点
2020年はプレイヤーとして多忙の身になりそうだ。少なくとも「移行シーズン」期間はそうだろう。今年の8月以降もマジック・プロリーグ(MPL)に残留できるかはこのシーズンでの結果に懸かっている。その口火を切ったのは数週間前に開催されたプレイヤーズツアー・ブリュッセル(パイオニア)であったが、その2週間後にはハワイで開かれる世界選手権2019が待ち構えていた。賞金総額においては史上最大の大会だ。ブリュッセルはMPLレースに必要なミシック・ポイントを獲得できるが、世界選手権は期待値が桁違いだった。
私はそれぞれに優先度をつけ、パイオニアよりもスタンダードを重点的に調整することにした。人生の転機となり得る大会に最大限の努力を傾けたいと思ったのだ。
世界選手権のデッキ登録締め切りは、ブリュッセルの3日後となっていた。プレイヤーズツアーの使用デッキは、Magic Onlineで唯一数ゲーム勝てたという理由だけで選んだアゾリウススピリット。正直なところ初日の好調ぶりには驚いたが(7-1)、2日目の凋落ぶりは散々なものだった(1-7)。とはいえ、ミシック・ポイントを多少は稼げたため、徒労に終わったわけではなかった。最小限の準備しかしなかったのだから、そこまで落胆する結果ではないと感じている。
世界選手権のライバルたちがパイオニアを練習するなか、私はスタンダードのデッキを模索していた。私を記事の見出しに掲げてくれるデッキを。「優勝賞金30万ドルを獲得したのは、○○デッキを持ち込んだラファエル・レヴィ!」
再燃する火
ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifとチームを組んで調整に取りかかったのは、『テーロス還魂記』発売してすぐのことだった。
私が最初に組み上げたデッキは、《裏切りの工作員》と《模写》に比重を置いたシミックランプだ。環境初期では感触が良かったものの、次第に相性が実に悪いマッチアップが判明していった。アゾリウスコントロール、ティムール再生、赤単、ジェスカイファイアーズである。この4つこそが打倒すべきデッキであると我々はすぐに察知した。こうしてシミックランプは諦め、これら4種を全て試すこととした。赤単は納得がいくデッキリストが全く見つからず、ティムール再生やアゾリウスコントロールもまた同様の結果を辿った。しかし、残るジェスカイファイアーズは以前からずっと使い続けてきた経験があり、私はかつて手放したデッキに再び手を伸ばすことにした。
こうして多彩なオリジナルデッキやその他諸々のデッキを試していくなかで、ジェスカイファイアーズの調整を始める前の段階からミシックランクの94%に位置づけていた。そしてジェスカイファイアーズを使い始めた数時間後には、シーズンを締めくくりとして20位に食い込んだ。新シーズンが始まった翌日でも、その当日中にミシックに到達。最初にマッチの敗北を喫したのは、実に27戦目のことであった。ラダーを走るプレイヤーたちのレベルをとやかく言うことはできるが、26連勝するのは至難の業であろう。この時点でジェスカイファイアーズを選択するだろうと確信した。あとは予想されるメタゲームに向けてデッキに調整を施すだけだ。
デッキリストとその特徴
赤単との戦いには自信があったため、ガブリエルと私は他3つのマッチアップに焦点を当てた調整を行った。どれも互角の相性であったが、我々は十分に勝てる相手だろうと考え、世界選手権で使用するデッキリストを固めることとした。
2 《山》
2 《平地》
4 《蒸気孔》
3 《神聖なる泉》
3 《聖なる鋳造所》
4 《寓話の小道》
4 《凱旋の神殿》
2 《天啓の神殿》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (28)- 4 《砕骨の巨人》
3 《厚かましい借り手》
4 《予見のスフィンクス》
4 《炎の騎兵》
3 《帰還した王、ケンリス》
-クリーチャー (18)-
3 《神秘の論争》
2 《チャンドラの螺旋炎》
1 《巨人落とし》
1 《敬虔な命令》
1 《解呪》
1 《ドビンの拒否権》
1 《焦熱の竜火》
1 《エルズペス、死に打ち勝つ》
-サイドボード (15)-
一般的なデッキリストとの違い
《風の騎兵》の排除
このデッキリストは『テーロス還魂記』以前から私が使用していたものと非常に近しい。一般的なものとの大きな違いは、クリーチャーの選択にある。多くのジェスカイファイアーズのデッキリストには《風の騎兵》を含めて5マナ域が10~12枚採用されているのだ。
私の構成が意図しているのは、《創案の火》が引けなかった/打ち消された場合でもゲームを展開できるようにすることだ。《創案の火》がないときに5マナ域を引きすぎると、結果として何もできずに敗れてしまう。《厚かましい借り手》は序盤の妨害となりつつ、相手にプレッシャーをかけ、《創案の火》を探す間のつなぎ役となってくれる。《炎の騎兵》の能力が起動できる状況においても、その飛行能力で最後の一押しになる。
《風の騎兵》に関してもうひとつ受け入れられない点は、通常通りマナコストを支払って唱えるのが難しいことにある。確かに0マナで唱えられるなら青マナは要らないかもしれない。だが、ここで話題にしているのは赤のエンチャントが戦場に出ているような単純なゲーム展開ではないのだ。
このデッキは《炎の騎兵》の起動型能力を何度も使用するために赤マナを多く必要とするが、《風の騎兵》を採用していると《寓話の小道》でサーチするのは《山》なのか《島》なのかを選ぶのは少々難しくなる。基本的には《山》が欲しいのだが、結果的に青の「騎兵」を引いて《島》にしておけばよかったと思いかねない。《風の騎兵》を完全に排することで、そこまで悩む必要のない選択肢を避けて通れるようになる。
実際のところ、大型クリーチャーは7枚で事足りる。5マナ域に求めるのは、速攻を持ったパワー5以上のクリーチャーとして早期決着をつけることだ。だからこそ我々は《帰還した王、ケンリス》3枚、《炎の騎兵》4枚に落ち着いた。
《可能性の揺らぎ》よりも《海の神のお告げ》
この構成にはさらにひねりを加えてある。《可能性の揺らぎ》の代わりに《海の神のお告げ》を選んでいるのだ。ライブラリーを掘る枚数としては《可能性の揺らぎ》に軍配が上がるが、《海の神のお告げ》はインスタントタイミングで唱えられる点で圧倒的な優位にある。このデッキには2マナのインスタントタイミングの動きが他に7つあるため(3枚の《厚かましい借り手》と4枚の《砕骨の巨人》)、2ターン目は2マナ構えたままターンを渡したい。
《風の騎兵》の項の繰り返しになるが、デッキはできるだけ扱いやすくすべきだ。ごく僅かに優れたドロー呪文を採用した結果、プレイの選択に対して直観的に明確な答えが出せなくなってはならない。そもそも《海の神のお告げ》は《時を解す者、テフェリー》の格好のバウンス対象であるため、《可能性の揺らぎ》の方が質が高いかと言われると怪しいのではないだろうか。
サイドボードの《義賊》
一般的なデッキリストと大きく異なるもうひとつの点は、サイドボードに《義賊》を搭載していることだろう。ガブリエルがラダーを走っているときに発見したテクノロジーで、私がその有効性を検証した。コントロールやティムール再生の対策として《徴税人》があるが、このクリーチャーには一切手ごたえを感じなかった。悠長で、プレッシャーとしても心許なく、《メレティス誕生》の0/4の壁に阻まれる。打ち消し呪文や《荒野の再生》のマナを活かしての呪文は結局相手のターンに使われてしまうため、マナへの課税もあまり意味がない。
《軍勢の戦親分》は悪くないカードだが、着地までに時間がかかりすぎる。3マナでは後手のときに《吸収》や《神秘の論争》に引っかかってしまうのだ。
要するに攻撃的な2マナ域のクリーチャーに求めるべきは、打ち消し呪文をすり抜けながら十分にプレッシャーをかけ、同時にその後の展開/終盤戦を戦う準備を整えることだ。その意味で《義賊》はまさに適役であった。それから《厚かましい借り手》とのシナジーも見逃せない。念のために言っておくが、《義賊》の効果で追放されたカードは、《義賊》が戦場を離れた後にならず者が攻撃しても、そのターン内であれば唱えることができる。図らずも《厚かましい借り手》はならず者だ。頻繁にお目にかかれるシナジーではないが、狙えることも確かであり、相手の虚を突きやすい。このシナジーを知っている相手でもそれは同様である(その証拠としてナシフとオータム・バーチェット/Autumn Burchettのトップ8の試合をご覧いただきたい)。
環境トップ4との戦い方
世界選手権の全デッキリストに目を通したとき、我々のチームは優勝を狙えると予感した。まさに思い描いていた通りのメタゲームであり、サプライズ要素は一切ない。(ジェスカイファイアーズにとって最悪の相性である)バントランプもいなかった。アゾリウスコントロールのデッキリストは多少の苦戦を思わせたが、勝てない相手ではなかった。
赤単アグロ
対 赤単アグロ
赤単と何度も対戦してきた経験からすると、確かに油断できない相手だが有利であると感じている。前評判が良いデッキではなかったので、世界選手権にどれほどの使用者がいるのかは不透明であったが、我々は赤単を蔑ろにすることなく、サイドボードに対策を豊富に詰め込むこととした。
基本的に投入すべきものは序盤に使用する軽量の除去だ。《焦熱の竜火》《敬虔な命令》《チャンドラの螺旋炎》といったカード群がその役割を担う。《朱地洞の族長、トーブラン》を除去したいのであれば、《レッドキャップの乱闘》を検討してみても面白いかもしれない。
ティムール再生
対 ティムール再生
ティムール再生との相性はほぼ互角だ。その相性差は相手の構成やサイドボーディングに大きく左右される。2戦目以降は序盤のプレッシャーと妨害があると戦いやすくなる。打ち消し呪文の枚数は相手の方が多いため、《創案の火》と大型クリーチャーに頼っただけの戦い方では通用しないだろう。《義賊》は事前に期待した働きをここで見事に果たす。そこに《神秘の論争》や《ドビンの拒否権》が加われば、十分に勝てる見込みがあるマッチアップとなるはずだ。
アゾリウスコントロール
対 アゾリウスコントロール(プランA)
対 アゾリウスコントロール(プランB)
アゾリウスコントロール戦は、非常に多様なゲーム展開が考えられる。早々に《時を解す者、テフェリー》を着地させることができれば、その能力を遺憾なく発揮して《創案の火》から速攻クリーチャーを展開して勝つという本来のプランを推し進めることができる。しかし通常はそんな簡単にはいかない。《時を解す者、テフェリー》やその後続に対して打ち消しを構えていることが一般的だからだ。
サイドボーディング後は異なる2つの戦い方が考えられる。
(どちらも有効なプランではあるが)どちらが優れているのかに明確な答えは出ていない。後者のクリーチャープランであれば、《軍勢の戦親分》を2枚足すことがプラスに働き、一種のジェスカイミッドレンジのようなデッキに変貌させられるかもしれない。
ジェスカイファイアーズ
対 ジェスカイファイアーズ
打ち消し呪文を回避するように《創案の火》の設置を目指そう。相手も同じことを考えていると思うがね!《巨人落とし》は優秀なサイドボードで、主にグルールのクリーチャーを意識したものであるが、このマッチアップでも機能する。《時を解す者、テフェリー》でバウンスしても良しのクリーチャーだ。
束の間の休息
本番は願ったような結果を出すことができなかったが(11位)、ガブリエルが見事にトップ4に入賞してくれた。スタンダード部門で私が敗北したのは、ミラーマッチ(ガブリエル)、赤単(セバスティアン・ポッツォ/Sebastian Pozzo。このマッチは間違いなく勝てていた試合だった)、2度のティムール再生(オータム・バーチェット)だったが、ジャンドサクリファイス(ピオトル・グロゴゥスキ/Piotr Glogowski)に勝つことができた。ガブリエルが正反対とも言える成績で帳尻を合わせてくれたね!
我々は総じてデッキリストに満足できていたし、選択を後悔していない。世界選手権は素晴らしい経験であり、また来年も参加できるように精進したいと思う。開催地がハワイだったというのもその魅力に輪をかけていたね。
ようやく数週間の小休止に入れる。家でリラックスして、大切な人たちを気遣う時間に充てようと思う。今シーズンの第2部への準備はそれからで良いだろう。きっとまた忙しい日々が待っているのだから。
サポートしてくれたみなさん、ありがとう。
ではまた。