ゴンサロ分析官のプレイヤーズツアー解析術

Goncalo Pinto

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2020/02/25)

データに見る3つのプレイヤーズツアー

各地域で開催され、その幕を閉じた第一次プレイヤーズツアー。パイオニアとしては初のプレミアイベントと位置付けられる大会でした。

プレイヤーズツアーの練習は実に面白いものでした。多彩なことができるカードプールの広さがありながらモダンと違い、対戦相手とのデッキ相性が試合結果にもっとも影響する要素ではないのです。

囁く情報屋

とはいえ、マジックプレイヤーとして強くなりたいのであれば、使える情報は把握しておくべきでしょう。そこで得た知識を活かして、今後の大会で優勝する確率を高めるのです。

3つのプレイヤーズツアーを通じ、総勢928名に上る世界のトッププレイヤーたちによるデッキリスト/対戦結果が集まったことになります。これだけのサンプル数があれば、今のパイオニア環境を理解する助けとなるでしょう。

プレイヤーズツアーに関連する情報をすべてこちらにまとめました(編集者注:リンク先は英語。以下では日本語訳した表を記す)。みなさんなりに操作して、考えを導き出してみるのも良いでしょう。ここではこのエクササイズを実践し、私なりの考えをご説明しようと思います。ぜひお付き合いくださいね!

全世界視点の分析

まずは3地域を統合した結果を手短に概観し、その後に個々の地域のプレイヤーズツアーを少しだけ深堀りしていきます。ブリュッセル名古屋の1週間後に開催されたフェニックスの参加者たちが前週の結果にどう適応したのかが特に注目です。

初日のメタゲーム

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全プレイヤーズツアーを統合した初日メタゲーム

真実を覆すもの漆黒軍の騎士

3大会の初日に参加したのは合計928名でしたが、特に人気が高かったアーキタイプはディミーア《真実を覆すもの》(以下、ディミーアインバーター)と黒単アグロでした。使用者が100名を超えたアーキタイプはこの2つしかありません。

2日目のメタゲーム

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全プレイヤーズツアーを統合した2日目メタゲーム

2日目のデータを見てみますと、ディミーアインバーターと黒単のいずれもメタゲーム占有率が上昇し、2日目も使用率の1位と2位の座を維持していることがわかります。これはあまり面白い発見ではないですね。

死の国からの脱出ドミナリアの英雄、テフェリーニヴ=ミゼット再誕

他方、初日6%だったロータスブリーチは2日目に9%まで数字を伸ばしています。それとは反対に、アゾリウスコントロールと5色《ニヴ=ミゼット再誕》(以下、5色ニヴ)は7%から4%に落ち込みました。

トップ8メタゲーム

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全プレイヤーズツアーを統合したトップ8メタゲーム

トップ8に目を移してみると、ディミーアインバーターが全地域のトップ8で圧倒的な存在感を見せつけていますが、24名が10個の異なるデッキを使用しているのは中々良いことではないでしょうか。黒単アグロでトップ8に届いたのがたったの1人しかいないというのは、私としては一番の驚きでした。

ただし、プレイヤーズツアーのような混合フォーマットの大会における2日目進出率/トップ8入賞率を分析する際には、ひとつ留意しなければならないことがあります。進退に大きく影響するドラフトの存在です。たとえばドラフト部門で0-3の大惨事にあった場合、パイオニア部門で80%の勝率(4-1)を達成しても2日目進出は叶いません。

そこで、構築部門における各アーキタイプの勝率を確認することにしましょう。

アーキタイプ別の勝率

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アーキタイプ別の勝率

睡蓮の原野墓後家蜘蛛、イシュカナ

ここで目を引くのは、ロータスブリーチとスゥルタイ昂揚です。どちらも勝率59%という突出した数値を叩き出しています。これらのアーキタイプを選択し、2日目に進出した多くのプレイヤーにとって、その構築部門での躍進が2日目進出への大きな要因となったと言えるでしょう。

対して、黒単アグロと5色ニヴは明確な負け組となりました。初日の使用率が2番手/4番手でありながら、非常に低い勝率だったのです。それぞれトップ8に輩出した人数が1名だったことが、その大きな証拠となっています。

ここまでは全世界の概要を見てきました。続いては各地域別に少々詳しく見ていくことにしましょう。

地域視点の分析

初日メタゲーム

Goncalo Pinto_Pioneer Metagame Goncalo Pinto_Pioneer Metagame

ブリュッセル(左) / 名古屋(右)の初日メタゲーム
(拡大するにはクリックしてください)

両イベントの初日のメタゲームは非常に似ていますね。各地域で人気上位5つのデッキは同じとなっています。当時は世に出たばかりのデッキであったディミーアインバーターはアジアのプレイヤーたちのほうが好んで選択していたようです。その他のデッキに関しては、両地域でとても近しいメタゲーム占有率になっています。

続いてはフェニックスのメタゲームを見てみましょう。アメリカのプレイヤーたちは前週の結果を受けて、どのような反応を示したのでしょうか。

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フェニックスの初日メタゲーム

ブリュッセル・名古屋からフェニックスまでのメタゲーム発展の分析は、事例問題として適しています。前イベントの結果から予測すべきこと、来るイベントに向けて調整するに当たって注目すべき事項。そういったものをお手本のように示す事例が多く備わっているのです。

データを見てのとおり、ブリュッセルと名古屋の上位5つのデッキのなかで、変わらず上位に食い込んだのはディミーアインバーターだけとなっています。しかも今回は20%という非常に高い占有率です。しかし、これはある種当然の結果と言えるかもしれません。

というのも、人気プレイヤーであるピオトル・グロゴゥスキ/Piotr Glogowskiがたったの5ドルでサイドボードガイドを公開しながらもスイスラウンドの成績を9-1として決勝まで進出、しかも……名古屋ではトップ8にディミーアインバーターが5人も(!)存在していたからです(そのなかには八十岡 翔太リー・シー・ティエン/Lee Shi Tianという2人のMPLプレイヤーがいました)。

そして何よりも、前週のプレイヤーズツアーで無敗を記録した3名はすべてディミーアインバーターの使用者だったのです(石村 信太朗のデッキリストは一風変わっており、青単信心にインバーターコンボを内蔵させていました)。

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ブリュッセル・名古屋の無敗3名

バントスピリット・赤単アグロ・ロータスブリーチはたった1週間のうちに使用者を急速に伸ばしています。

なぜこれらのアーキタイプは増加したのでしょうか?その理由を探ってみましょう。

ブリュッセルと名古屋の勝率

まずはブリュッセルと名古屋を合算した勝率をアーキタイプ別に観測してみましょう。ドラフトの影響を取り除きながら、パフォーマンスが高かったアーキタイプをより深く理解できるようになるはずです。

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ブリュッセルと名古屋の勝率

バントスピリット

原根 健太が名古屋を制しただけでなく、両イベントを通してトップ8に2名以上を輩出したアーキタイプはディミーアインバーターを除いてバントスピリットしかありません。勝率で見ても、2番手につけていることがわかります

赤単アグロ

さて、ここでひとつ念頭に置いておくべき重大な事実があります。一種の定石のようなものですが、直前の大会でもっともパフォーマンスが高かったアグロデッキは次のイベントで代表的な存在になります。ただし、黒単アグロを使おうと思っていたプレイヤーの多くが突如としてスゥルタイ昂揚に乗り換えることはないでしょう。全体のメタゲーム占有率をよく見てみるとわかりますが、3大会を通じて赤単アグロと黒単アグロの合計占有率はほぼ同じです。

ロータスブリーチ

このデッキは単純に勝率が50%を超えているだけではありません。ブレント・ヴォス/Brent Vosパスカル・フィーレン/Pascal Vierenの独自のデッキ構成が示唆しているのは、ポテンシャルの高いデッキがあったとしても、誰一人としてその最適な構成がわからないケースが存在するということ。2人のベルギー人プレイヤーはその答えにたどり着き、人並外れたパフォーマンスを見せました

過去の事例を挙げるならば、旧スタンダードのサヒーリコンボや、現スタンダードで最新の構成が誕生したジェスカイファイアーズでしょうか。こういった事情を踏まえると、今注目すべきアーキタイプのひとつは、モダンやパイオニアにおける《太陽冠のヘリオッド》《歩行バリスタ》のコンボデッキでしょう。大きな大会で”異様な”デッキリストが好成績を出したとすれば、今後数週間に渡ってそのデッキが人気を博すと考えるべきです。

スゥルタイ昂揚

ヨエル・ラーション/Joel Larssonをブリュッセル優勝に導き、さらには71%という圧倒的な勝率を誇っています。ブリュッセルで登場したこのデッキはコントロールとミッドレンジの性質を兼ね備え、明確にベストデッキであったにもかかわらず、この手のデッキを使用しなかったプレイヤー層も見受けられました。

デッキの扱いやすさが使用率に影響していると考えた場合、次のイベントでスゥルタイ昂揚を選択するプレイヤーの割合は一層高まるはずです。今後は気に留めておきましょう。

フェニックスの勝率

最後にフェニックスの勝率をチェックしましょう。次の大会に向けて焦点となる事項をより鮮明にできるはずです。

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フェニックスの勝率

ディミーアインバーター、ロータスブリーチ、スゥルタイ昂揚といったデッキ群は依然として堅実な選択肢となっています。次のイベントでも主要な存在になると考えた方が良いでしょう。

アゾリウスコントロールはトップ8に入賞し、総じてパフォーマンスが高かったことから、《神聖なる泉》にスリーブをかけるプレイヤーはさらに増えそうです。アゾリウススピリットはバントスピリットから環境のスピリットデッキの座を奪い返している印象を受けます。個人的にはコーレイ・バークハート/Corey Burkhartのデッキリストが気になりますね😊

ボーナスコンテンツ:Self Mill Phoenix

ご存知の方もいるかもしれませんが、私がブリュッセルで使用したのはディミーアインバーターでした。比較的新しいデッキでしたが、本番で使用に値するほどのデッキだと思ったのです。

デッキを確定させる以前は、自作した最新のイゼットフェニックスを延々と回していました。全勝のデッキリストとして掲載されないようにドロップしていましたが、Magic Onlineのリーグでは4-0を何度も達成し、確かな結果を残していました。

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1回戦:相手のトップデッキが強すぎた。
2回戦:相手の運が良すぎた。
3回戦:メインデッキの《安らかなる眠り》はどうしようもない。
4回戦:ダブルマリガンは無理。
5回戦:マナスクリューとフラッドも無理。

5-0

冗談はさておき。この画像の結果は、デッキ構築としてあるべきアプローチを見事に示しています。アイディアを最初に具現化した構成は、既存の確立されたデッキには歯が立たないのが普通です。結果だけに目を奪われるのではなく、うまく機能したことに目を向けましょう

新しいことを試したら、負けが重なり、「あぁ、このアイディアは没だ」と考えてしまうのはよく陥りがちな罠ですが、このようなアプローチではまず良いデッキは完成しないでしょう。新たなデッキの初期構成は99%の確率でうまくいきません。

宝船の巡航弧光のフェニックス秘本掃きマーフォークの秘守り

一度目のリーグは見事に全敗してしまいましたが、手ごたえを感じた部分もありました。ライブラリーを削るカード、《宝船の巡航》《弧光のフェニックス》のシナジーが実に強力だったのです。

《秘本掃き》《マーフォークの秘守り》はカードアドバンテージを失いますが、パイオニアで最強のカード、《宝船の巡航》を連鎖させることができればプラスになって返ってきます。しかも同時に《弧光のフェニックス》という持久性に富んだ勝利条件まで墓地に落とせる可能性があるのです。

自然の怒りのタイタン、ウーロ

しかしながら、ディミーアインバーターをプレイし始めると、イゼットフェニックスには見向きもしなくなってしまいました。ですが、改良の余地は大いにあると感じています(緑を足して《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を採用する?)。

最後に使用していたデッキリストはこちらです。

宝船の巡航

これほど《宝船の巡航》をうまく使えるデッキはありませんでした。1ゲーム目は相性がとても良いことが多いのですが、2ゲーム目以降は非常に難しい戦いを強いられます。

試してみたいという方のために、いくつかポイントを挙げておきましょう。

氷の中の存在若き紅蓮術士

メタゲームに合わせて2マナ域の入れ替えを検討しましょう(《氷の中の存在》《若き紅蓮術士》)。クリーチャーデッキを意識するなら《氷の中の存在》が明確に優位で、コントロールやコンボを意識するなら《若き紅蓮術士》が有効です。

マーフォークの秘守り

4枚搭載された《マーフォークの秘守り》はアグロと戦う際に驚くほど頼りになります。

1マナの呪文は3ターン目まで温存しましょう。その結果クリーチャーから余計なダメージをもらうことになっても、です。自軍のクリーチャーをもバウンスする《氷の中の存在》が戦場にいるときは、それを変身させる過程において《マーフォークの秘守り》をクリーチャーとして展開し、ライブラリーをさらに削れるようにその再利用を図ることがあります

アゴナスの雄牛急進思想

どうしても何らかのアクションを起こす必要があるときは、ライブラリーを削る呪文が2枚しかなくとも”始動”して構いません。そのために《アゴナスの雄牛》《急進思想》を採用しています。

稲妻の斧航路の作成

サイドボードとの入れ替えをする際、《稲妻の斧》が有効な相手なら《航路の作成》をサイドアウトしても良いでしょう。逆に《稲妻の斧》をサイドアウトするときは《航路の作成》の枚数は変えてはなりません!

安らかなる眠り

相手が《安らかなる眠り》を持っている場合はライブラリーを削る呪文や《宝船の巡航》をほとんど抜いて問題ありません。ですが、たいていは2ターン目に設置されないことを祈るしかありません。

特製のイゼットフェニックス、ぜひお試しください。

おわりに

何か気になることがありましたら、私のTwitterのダイレクトメッセージをご利用ください。いつでも歓迎いたします。Twitterアカウントは下記のとおりです。

ではまたお会いしましょう!

ゴンサロ・ピント (Twitter)

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Goncalo Pinto ポルトガル出身の古豪。同郷のマルシオ・カルヴァリョをはじめHareruya Latinの面々と親交が深く、彼らと共に日々研鑽を積んでいる。 プロツアー『ドミナリア』ではマルシオと共にトップ8へと勝ち進み、準決勝にて同郷対決を制して準優勝を記録。見事にゴールドレベルを確定させてHareruya Prosへと加入した。 Goncalo Pintoの記事はこちら