はじめに
みなさんこんにちは。
各地区のプレイヤーズツアーやSCGO Indianapolis(パイオニア)が終了し、パイオニアは一段落付きました。ローテーションの存在しない新構築フォーマットということで人気が高く、モダンと並んでSCG Tourのメインフォーマットとして採用されています。
今回の連載では、上記イベントの入賞デッキを見ていきたいと思います。
プレイヤーズツアー・名古屋2020
タレント揃いのプレイオフ、Bant SpiritsがDimir Inverterの海を渡り切る
2020年2月1-2日
- 1位 Bant Spirits
- 2位 Orzhov Auras
- 3位 Dimir Inverter
- 4位 Dimir Inverter
- 5位 Dimir Inverter
- 6位 Dimir Inverter
- 7位 Dimir Inverter
- 8位 Mono Black Aggro
原根 健太
トップ8のデッキリストはこちら
今大会直前に、マジック・オンライン(以下:MO)のイベントで結果を残し世に知れ渡った、Dimir Inverterが今大会では最大勢力となりました。
コントロールデッキとして振舞いつつコンボによって勝利を目指す動きが、かつてモダン環境を支配していたSplinter Twinを彷彿とさせます。対戦難易度が高く、プロが好むスタイルのデッキだったことも人気の理由の一つです。
プレイヤーズツアー・名古屋2020 デッキ紹介
Bant Spirits
今大会見事に優勝を収めたBant Spiritsは、同じ週に開催されたプレイヤーズツアー・ブリュッセル2020でもプレイオフに進出者を出すなど、今週末活躍したデッキの一つでした。このデッキが苦手とするMono Redが、Dimir Inverterとの相性の悪さから淘汰されていたのも、このデッキの勝因の一つだと言えます。
《霊廟の放浪者》や《鎖鳴らし》など軽い優秀なスピリットクリーチャーを、《至高の幻影》などのロードで強化して攻めていき、《呪文捕らえ》や各種打ち消し呪文でバックアップしていくデッキです。5C Niv MizzetやLotus Comboに強かったこともあって、今大会直前にもMOを中心にコンスタントに結果を残していました。MOで活躍していたバージョンは青白の2色バージョンで、マナ基盤に《変わり谷》を含める余裕がありましたが、相手のターンに打ち消しや《呪文捕らえ》を構える戦略と相性が良いとは言えませんでした。
《集合した中隊》を使えるBantバージョンにしたことにより、Mono Black Aggroとの相性が改善され、Azorius Controlや5C Nivなど除去を多用するデッキに対してもより強くなりました。
☆注目ポイント
《ネベルガストの伝令》は、クリーチャーデッキとのマッチアップで相手のクリーチャーの攻撃を妨害することでダメージレースを有利にしてくれます。スピリットに瞬速を付与する《鎖鳴らし》とのシナジーは言うまでもなく、Dimir Inverterとのマッチアップでも《真実を覆すもの》をタップすることでコンボが決まる前にゲームを決めやすくなります。
スピリットではないものの、バウンスと瞬速を持ち飛行クロックとして機能する《厚かましい借り手》は、除去の少ないこのデッキでは貴重な戦力となります。
サイドのスペースは、《残骸の漂着》などアグロデッキに効果的なカードが採用されています。《蔓延するもの》は、アタッカーの多くが2/1であるMono Black Aggroとのマッチアップで壁役となり、相手がこのクリーチャーに除去を費やしてくれれば、ロードなどほかのクリーチャーが生き残りやすくなります。
プレイヤーズツアー・ブリュッセル2020
環境のフェアミッドレンジがヨーロッパのプレイヤーズツアーを制する
2020年1月31日-2月2日
- 1位 Sultai Delirium
- 2位 Dimir Inverter
- 3位 Lotus Combo
- 4位 5C Niv Mizzet
- 5位 Bant Spirits
- 6位 Mono Red Aggro
- 7位 Mono Black Aggro
- 8位 Bant Spirits
Joel Larsson
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ブリュッセルにおいても、名古屋ほどではありませんがDimir InverterがMono Black Aggroに次いで最大勢力でした。Dimir Inverterを使用しプレイオフに進出したのは、Piotr ‘kanister’ Glogowski選手のみで、惜しくも優勝こそ逃しましたが準優勝という好成績を残しています。
今大会で大ブレイクを果たしたのは、優勝したJoel Larsson選手が使用していたSultai Deliriumでした。《思考囲い》や《突然の衰微》、《致命的な一押し》といった環境の優秀な低マナスペルを多用するフェアミッドレンジの復権です。
プレイヤーズツアー・ブリュッセル2020 デッキ紹介
Sultai Delirium
1 《沼》
1 《森》
4 《繁殖池》
4 《草むした墓》
1 《湿った墓》
3 《寓話の小道》
4 《花盛りの湿地》
1 《植物の聖域》
1 《華やかな宮殿》
1 《ギャレンブリグ城》
-土地 (23)- 1 《歩行バリスタ》
4 《サテュロスの道探し》
3 《ヴリンの神童、ジェイス》
1 《漁る軟泥》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《クルフィックスの狩猟者》
1 《不屈の追跡者》
1 《残忍な騎士》
1 《墓後家蜘蛛、イシュカナ》
1 《約束された終末、エムラクール》
-クリーチャー (19)-
今大会において高い勝率を出したデッキで、軽い優秀なスペルを多く採用しているためアグロデッキ全般に強く、トップメタのDimir Inverterとの相性も悪くありません。Lotus Comboを除いて明確に不利なマッチアップが存在しないのも、このデッキの勝因です。
《サテュロスの道探し》や《忌まわしい回収》などで墓地を肥やし、《ウルヴェンワルド横断》の「昂揚」を達成することで、《墓後家蜘蛛、イシュカナ》《約束された終末、エムラクール》《歩行バリスタ》《残忍な騎士》など、デッキ内のクリーチャーを状況に応じてサーチしてくるツールボックス的な要素もあります。
☆注目ポイント
『テーロス還魂記』から登場した《自然の怒りのタイタン、ウーロ》によって、このデッキの弱点の一つであったリソース切れが緩和され、コントロールデッキとの相性が改善されています。また、このカードは信頼性の高いフィニッシャーとして機能すると同時にアドバンテージ源となり、土地を伸ばすことができるので獲得したアドバンテージを活かしやすくなります。
《サテュロスの道探し》や《忌まわしい回収》、《ヴリンの神童、ジェイス》など墓地を肥やす手段が豊富なので「脱出」もしやすく、「昂揚」の条件を達成するのも容易です。単体除去やハンデスによる1対1交換が主で、以前は安定してカードアドバンテージを稼ぐ手段が《不屈の追跡者》ぐらいだったので大きな収穫です。
タフネス1のクリーチャーが多いSpiritsに劇的に刺さる《最後の望み、リリアナ》や、到達持ちのトークンをばらまく《墓後家蜘蛛、イシュカナ》がメインから採用されているため、Bant Spiritsを含めたアグロデッキに強い構成となっています。サイドには苦手なLotus Combo対策に追加のハンデスや打ち消し、墓地対策である《虚空の力線》などが見られます。
プレイヤーズツアー・フェニックス2020
やはり最強はDimir Inverterか
2020年2月7-9日
- 1位 Dimir Inverter
- 2位 Lotus Combo
- 3位 Sultai Delirium
- 4位 Mono Red Aggro
- 5位 Lotus Combo
- 6位 Azorius Control
- 7位 Dimir Inverter
- 8位 Bant Spirits
Corey Burkhart
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Dimir InverterとBant Spiritsが高い使用率を誇り、前週に開催されたプレイヤーズツアー・ブリュッセルと名古屋の影響を大きく受けていることが分かります。
Dimir Inverterは、デッキが知れ渡りマークが厳しかったにも関わらず今大会で優勝。各マッチアップでも高い勝率を出しているなど安定した成績を残しており、間違いなく現環境のベストデッキです。
Dimir InverterやLotus Comboに強いとされていた、Bant SpiritsやMono Black Aggroといった妨害要素を搭載したアグロデッキは、今大会では思ったほど振るいませんでした。ブリュッセルで優勝したSultai Deliriumは、Lotus Comboとの相性は悪いものの環境のそのほかのデッキ、特にアグロデッキ全般に強いため、プレイオフにまで勝ち残っていました。しかし、今大会に向けて環境に合わせた調整を施したDimir Inverterとのマッチアップは決して楽なものではなかったようです。
プレイヤーズツアー・フェニックス2020 デッキ紹介
Lotus Combo
このデッキも『テーロス還魂記』からの新カードにより強化されたデッキです。デッキの大まかな動きとしては、《睡蓮の原野》を《演劇の舞台》でコピーし、《見えざる糸》など土地をアンタップするスペルで大量のマナを捻出、最終的に《願いのフェイ》から《神秘を操る者、ジェイス》をサーチしてきてゲームを決めるコンボデッキです。
このデッキ相手にはクリーチャー除去は役に立たず、サーチやドローが豊富なのでハンデスにも耐性があります。ブリュッセルを制したSultai Deliriumに対して強いデッキではありますが、Dimir Inverterと異なり《減衰球》など明確な対策カードが存在するため、今後はマークが厳しくなることが予想されます。
☆注目ポイント
『テーロス還魂記』から登場した《死の国からの脱出》によって、《巧みな軍略》など墓地を肥やすスペルを「脱出」でキャストし続けることが可能になりました。コンボは決めやすくなりましたが、同時に墓地に依存しやすくなったのでサイド後は《虚空の力線》など墓地対策がより刺さるようになっています。
サイドの《霊気のほころび》は、《虚空の力線》と《減衰球》といった環境の主なコンボ妨害手段である置物対策になります。対策が進むサイド後のゲームに備えて、コンボ以外の追加の勝ち手段として《目覚めた猛火、チャンドラ》や《パルン、ニヴ=ミゼット》を採用したリストも見られます。特に《パルン、ニヴ=ミゼット》は墓地の状態に依存せず、インスタントかソーサリーを多用するこのデッキと相性が良いのでお勧めです。
SCGO Indianapolis
Dimir Inverter死角なし
2020年2月22-23日
- 1位 Dimir Inverter
- 2位 Dimir Inverter
- 3位 Azorius Control
- 4位 Dimir Inverter
- 5位 Mono White Devotion
- 6位 Golgari Aggro
- 7位 Mono White Devotion
- 8位 Dimir Inverter
Peter Ingram
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デッキ分布によれば、プレイヤーズツアーでも猛威を振るったDimir Inverterは全体の23パーセント以上で、決勝戦はDimir Inverterのミラーマッチ、プレイオフの半数も同デッキが占め今大会でも勝ち組だったことは明らかです。
次点で多かったのがSultai Deliriumです。苦手なLotus Comboが上位に少なかったのもあり、悪くないポジションにありましたがプレイオフには残らず、トップ16-32に多数見られることからDimir Inverterに勝ちきれなかったことが推測されます。
また、今大会では2日目進出を果たした人数は6名と少数でしたが、Mono White Devotionはプレイオフに2名入賞、トップ16にも入賞者を出しているなど勝率が高く注目に値するデッキです。
SCGO Indianapolis デッキ紹介
「Dimir Inverter」「Mono White Devotion」
Dimir Inverter
3 《沼》
4 《湿った墓》
1 《異臭の池》
4 《寓話の小道》
4 《水没した地下墓地》
3 《詰まった河口》
-土地 (25)- 3 《タッサの神託者》
4 《真実を覆すもの》
-クリーチャー (7)-
4 《思考囲い》
4 《選択》
3 《思考消去》
2 《神秘の論争》
1 《英雄の破滅》
4 《時を越えた探索》
2 《覆いを割く者、ナーセット》
4 《神秘を操る者、ジェイス》
-呪文 (28)-
2 《軍団の最期》
2 《英雄の破滅》
2 《減衰球》
1 《タッサの神託者》
1 《ゲトの裏切り者、カリタス》
1 《喪心》
1 《破滅の刃》
1 《神秘の論争》
1 《覆いを割く者、ナーセット》
-サイドボード (15)-
プレイヤーズツアーで猛威を振るい、相当意識されていたであろう今大会でも多数の入賞者を出しながら優勝という強さを見せつけたDimir Inverter。コンボデッキというよりはコントロールにコンボによる勝ち手段を搭載したデッキです。
ハンデス、除去、カウンターと揃っており《真実を覆すもの》+ 《タッサの神託者》(《神秘を操る者、ジェイス》)の2枚でコンボが成立し、コンボ自体も打ち消し以外では対策が困難です。青黒というデッキの性質上メタに合わせたチューニングも容易で、明確に相性の悪いマッチアップも現状は存在しません。
☆注目ポイント
様々な構築フォーマットで禁止カードに指定されている《時を越えた探索》。パイオニアで存在することが許されている理由の一つに、フェッチランドが禁止カードに指定されているため「探査」のために効率よく墓地を肥やす手段が限られていること挙げられます。しかし、軽いハンデスや除去を多数搭載したこのデッキでは自然に墓地も肥えていくので、ほかのフォーマットと同等の強さを発揮します。また、コンボパーツを探し出すと同時に墓地のカードを減らす役割も果たし、コンボが決まりやすくなるのです。
《タッサの神託者》は単体でも序盤のブロッカーとして機能し、墓地に落ちても《真実を覆すもの》によって回収可能なのでコンボが決まりやすくなります。《真実を覆すもの》も4マナ6/6飛行というスペックなので、ブロッカー兼フィニッシャーとしても十分な性能です。
同型を意識してか、《思考消去》や《神秘の論争》がメインから採用されており、相手の追加のドローを妨害しつつコンボパーツを探せる《覆いを割く者、ナーセット》も採用されています。サイドには追加の勝ち手段として《群れネズミ》が採用されているリストも多く見られましたが、追加のアドバンテージ源+墓地を肥やす手段としてサイドインされる《ヴリンの神童、ジェイス》対策にもなる《軍団の最期》がサイドインされることも多くなったため、Peter Ingram選手は《群れネズミ》の採用を見送っています。
Mono White Devotion
3 《のどかな農場》
2 《アーデンベイル城》
3 《ニクスの祭殿、ニクソス》
-土地 (26)- 4 《歩行バリスタ》
4 《スレイベンの検査官》
3 《白蘭の騎士》
2 《族樹の精霊、アナフェンザ》
2 《太陽に祝福されしダクソス》
1 《高名な弁護士、トミク》
4 《太陽冠のヘリオッド》
3 《ベナリアの軍司令》
2 《秘儀術師のフクロウ》
-クリーチャー (25)-
3 《減衰球》
2 《異端の輝き》
2 《不可解な終焉》
2 《停滞の罠》
2 《エルズペス、死に打ち勝つ》
1 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》
-サイドボード (15)-
《太陽冠のヘリオッド》+《歩行バリスタ》のコンボを搭載したデッキで、クロックによってプレッシャーをかけつつ《試練に臨むギデオン》によってDimir Inverterのコンボを妨害することが可能です。今大会では使用人数は少数ながら、プレイオフに2名送り込んでいました。
《太陽に祝福されしダクソス》のライフゲインと《太陽冠のヘリオッド》の絆魂付与とクリーチャー強化によって、アグロデッキに強い構成となっています。Dimir Inverterに対しては、初日の全勝同士の対決やプレイオフでマッチを落としており、特別に相性が良いデッキではなさそうです。
☆注目ポイント
Mono Green Devotionほどの展開力ではないものの、信心の濃いパーマネントを多数展開することによって《ニクスの祭殿、ニクソス》でマナ加速することが可能で、《歩行バリスタ》の強化や《太陽冠のヘリオッド》の能力の起動などがしやすくなります。
《秘儀術師のフクロウ》は、信心に貢献しつつこのデッキのコンボパーツである《歩行バリスタ》と《太陽冠のヘリオッド》の両方を探すことができます。
《試練に臨むギデオン》は、現環境のベストデッキであるDimir Inverterとのマッチアップで切り札となるプレインズウォーカーです。奥義することでコンボから身を守りつつ、自身も攻撃に回ることができます。《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》も採用されているのでHeliod コンボをケアしつつ、2種類のギデオンを対策することは困難です。
アグロとしてプレッシャーをかけ、最速4ターン目にコンボを決めることができるMono White Devotion。Dimir InverterやSultai Deliriumといった、トップメタとはまた違ったデッキをトライしてみたいという方にもお勧めできるデッキです。
総括
《変わり谷》を活用できる単色のアグロデッキやコントロール、5C Nivといった比較的フェアな環境から、Dimir Inverter、Lotus Combo、Heliod Comboといったコンボデッキが幅を利かせる環境にシフトしていきました。
クリーチャーデッキ全般に強いことでSultai Deliriumが安定した成績を残しており、環境の代表的なミッドレンジとして定着しています。今パイオニアをプレイするなら間違いなくDimir Inverterですが、Azorius Controlや5C Nivのようなコントロール、ミッドレンジが好きな方にはSultai Deliriumもお勧めです。アグロデッキでは軽い妨害スペルとクロック、アドバンテージ獲得手段も搭載されているMono Black Aggroがよさそうです。
USA Pioneer Express vol.2は以上です。
それでは次回の連載でまた会いましょう。楽しいパイオニアライフを!