Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/2/26)
王者として挑んだ世界選手権
やぁみんな!
世界選手権2019がホノルルで開催され、自分を含む16名のプレイヤーたちが2019年世界王者の称号を懸けて争った。その戦いの果てに(ネタばれ注意!)トロフィーを持ち帰ったのはパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa(PV)であり、彼は歴史上のほぼ全てのマジックのトロフィーを掲げたことになる。
自分の結果はどうだったのかって?ダメだったね!大会で思うように事が運ばないときっていうのは、たいていは不運や自分の至らない部分が重なった結果なんだ。
今回も例外じゃなかった。いつもに比べて痛手だったけどね。自分はまだまだだなと思うし、最後のラウンドなんかはもっと上手くプレイできたはずだけど、思うようにいかない日はあるものさ。
でも今回話題にしたいのはそのことじゃない。大会に至るまでの調整過程だ!
世界選手権までの道のり
今回の調整をともにしたのはマルシオ・カルヴァリョ/Marcio Carvalhoだった。惜しくもPVに敗れてしまったけど、(再び!)決勝まで進出した男だ。
リミテッド
リミテッドに関しては、『テーロス還魂記』ドラフトをやり込む以外に特別なことはしなかった。類まれなる選手しかいない世界選手権のような大会のドラフト卓を再現して練習するのは簡単なことじゃない。それは参加者全員に言えることであり、そこまで心配はしていなかった。
卓のプレイヤーレベルという問題こそあるものの、ドラフトはドラフトであり、できるだけ数をこなすことだけを考えた。リミテッドを中心とした練習を数日行ったのち、スタンダードに時間を充てたほうが実りが大きいだろうと結論づけ、フォーマットを切りかえた後はスタンダードに重点を置いて研鑽に励んだ。
スタンダード
地域別プレイヤーズツアーのフォーマットがパイオニアであったため、あまり注目されていなかったスタンダード。『テーロス還魂記』発売後、ハイレベルな大会でスタンダードが採用されることは少なく、新環境は深く研究されていない印象だった。
優れたデッキ構築力を有する世界選手権の参加者が、その膠着状態を打破する可能性は十分にあると考えたが、それが自分たちではないこともわかっていた。そこで環境のあらゆるTier 1デッキを学び、メタゲーム上の立ち位置が優れたものを把握することとした。
真っ先に試したかったのは、新カードを基盤にしたアーキタイプの研究だ。ジェスカイファイアーズなどの既存のデッキは大幅に変更される可能性が低いだろうし、すでに理解していると思っていたからね。
まず注目したデッキは黒単だ。
黒単
まずは「信心」を活用した構成から始めたところ、黒単における《ボーラスの城塞》が非常に強いことが早々に判明した。《アスフォデルの灰色商人》などが絡めば、盤面が空の状況でも《ボーラスの城塞》が着地したターンに勝てることがあり、強いと感じざるを得なかった。
対戦数を重ねていくと、「信心」構成には枠を埋めるているだけのカードがあまりにも多いと感じるようになったため、その一部を取り除いて《大釜の使い魔》と《魔女のかまど》のパッケージを入れる工夫を施した。
さまざまな構成を試したけど、《悪夢の番人》はどんな構成でもベストカードだったんじゃないかと思う。シナジーを生むカードが本当に多く、《ロークスワインの元首、アヤーラ》をゲームを支配するカードに変え得る。たとえば、トップデッキ勝負になったとき、相手のドローフェイズに《ヤロクの沼潜み》を生け贄に捧げれば、相手はそのドローしたカードをインスタントタイミングで唱えられない限り追放するハメになるんだ。
《悪夢の番人》は《アスフォデルの灰色商人》とのシナジーもすさまじく、豊富な「信心」とサクリ台が揃っていれば、一挙に20点ダメージを与えることさえある。こうして考えてみると、今後このデーモンがときおり見かけるカードになる確率はかなり高いと思うよ。
最も感触が良かった構成は《泥棒ネズミ》を入れた形だった。《ヤロクの沼潜み》が2ターン目の動きとして最高であるマッチアップは多く、《泥棒ネズミ》はその5枚目以降のような存在だったんだ。
しかしどんな工夫を凝らしてみても、黒単は1戦目の弱さを抱えたままだった。サイドボーディングをすれば、デッキの構成を調整することでクリーチャーや(手札破壊を介しての)クリーチャー以外の呪文への対策ができる。
けれども、アグロとの相性を改善するカードはどれもそのほかのマッチアップで使い物にならなかった。「信心」という絶えずパーマネントの展開を要求するシステムを使うデッキでは、そういった無駄カードを引くことが許されない。だから1戦目に弱いという問題は解決のしようがなかったんだ。それに、ジェスカイファイアーズとの相性がサイドボーディングをしても改善しない点も黒単の評価を下げていた。
ティムール再生
ティムール再生は実に早い段階から強力なデッキである様相を呈していた。『テーロス還魂記』の新戦力でデッキパワーが大幅に強化されていたからだ。ソーシャルメディアではティムール再生がベストデッキであるという投稿が飛び交っていて、数日はベストデッキの地位を維持することは明らかだった。
実際にデッキを手に取ってみると、ティムール再生がこれほど強力である理由は、《世界を揺るがす者、ニッサ》デッキやジャンドサクリファイスなどのミッドレンジを圧倒することにあまりにも長けているからだと感じた。個人的には全く好きになれないデッキだったが、欠点が少なく思えるデッキであることも確かだった。
相手を上回るアクションをとれるだけでなく、対策が増えるサイドボーディング後も《自然の怒りのタイタン、ウーロ》というパワーカードの存在によってしっかりと戦うことができる、ひたすら強力なアーキタイプなんだ。ティムール再生における《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の重要性は軽く見られがちだ。異なる角度からの攻めを実現してくれる反面、大量のマナを用意したいデッキにおいて(1)(緑)(青)の3マナで唱える《自然の怒りのタイタン、ウーロ》は地味に見えてしまうからね。
ティムール再生がベストデッキのひとつであることは2人の総意だったが、初めて意見が食い違う点が出てきた。前環境の経験とランク戦での感触からティムール再生はジェスカイファイアーズに有利だと感じていたのだが、マルシオはジェスカイファイアーズが不利ではないどころか、やや有利であると考えていたんだ。
この意見の食い違いを正すべく、試行回数を増やしてみることになった。結果、自分でも驚いたことにジェスカイファイアーズが有利と思うようになり、マルシオが正しいことが判明した。クリーチャーによるプレッシャーと《時を解す者、テフェリー》の組み合わせはあまりにも強く、サイドボーディング後も戦いやすくはならなかった。先手後手が大きく影響するものの、有利にゲーム展開が進むマッチアップではないように思えた。
2 《島》
1 《山》
4 《繁殖池》
4 《蒸気孔》
4 《踏み鳴らされる地》
2 《寓話の小道》
3 《天啓の神殿》
2 《神秘の神殿》
1 《奔放の神殿》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (27)- 2 《ハイドロイド混成体》
4 《厚かましい借り手》
3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
-クリーチャー (9)-
赤単
ティムール再生はジェスカイファイアーズに特別有利に戦えるわけでもなければ、得意とするミッドレンジもティムール再生との相性の悪さから数を減らしていた。そこで立ち位置が良さそうに思えたのが赤単だ。
赤単とティムール再生が戦った場合、当初は赤単側がかなり有利であると想定していたが、豊富なテストプレイに裏打ちされた知識ではなかった。それでも赤単の方がわずかながらに有利だろうと考えていた。それはその他の多くのマッチアップでも言えることであり、赤単はかなりいい線をいっているのではないかというのが2人の印象だった。《ショック》は至極当然のように抜けていき、最終的には《舞台照らし》すら入れない構成に手ごたえを感じていた。
4 《血の墓所》
4 《エンバレス城》
-土地 (23)- 4 《熱烈な勇者》
4 《焦がし吐き》
1 《ブリキ通りの身かわし》
4 《リムロックの騎士》
4 《リックス・マーディの歓楽者》
4 《鍛冶で鍛えられしアナックス》
4 《砕骨の巨人》
3 《灰のフェニックス》
3 《朱地洞の族長、トーブラン》
-クリーチャー (31)-
3 《焦熱の竜火》
2 《無頼な扇動者、ティボルト》
1 《灰のフェニックス》
1 《溶岩コイル》
1 《レッドキャップの乱闘》
1 《丸焼き》
1 《実験の狂乱》
1 《炎の職工、チャンドラ》
-サイドボード (15)-
自分の認識では、赤単がこのフォーマットにおいてベストデッキである可能性が高いと考えられた。どのデッキに対しても手数で圧倒できるし、《鍛冶で鍛えられしアナックス》や《朱地洞の族長、トーブラン》、《エンバレスの宝剣》のようなゲームを決めるほどの強力なカードを使えるからだ。
このデッキに弱点はほとんどなかった……ただ一つ、ファイアーズを除いては。数日間、世界選手権で赤単をプレイする可能性は非常に高かった。《リックス・マーディの歓楽者》を搭載した赤単を。
アゾリウスコントロール
残り時間がわずか数日となったころ、アゾリウスコントロールが一躍トップに躍りでた。コーリー・バウマイスター/Corey Baumeisterが完成度の高い構成を世に示し、突如として……アゾリウスコントロールが環境に溢れかえった!
アゾリウスコントロールの実力は認めながらも、世界選手権では使いたくないデッキだと我々は考えた。能動的なデッキが良いと思っていたし、ミラーマッチに強い構成を他のプレイヤーが持ち込む可能性があるからだ。コントロールミラーに弱い構成を持ち込んでしまうと大会での立ち位置があまりにも悪いため、できることなら避けたい。
アゾリウスコントロールの仕上がりの高さを考慮したとしても、デッキを乗り換えるのではなく、手元にあるデッキ(ジェスカイファイアーズと赤単)に多少の手を加え、アゾリウスコントロール戦にやや強くした構成にする方が良いだろうと判断した。
ジェスカイファイアーズ!
ジェスカイファイアーズに腰を据えたのはデッキ登録の2日前で、そこからはそのチューニングに時間を捧ぐことができた。最大の決め手は、赤単に最も強いデッキであること。赤単は確かなデッキパワーを備えながらも、予想されるメタゲームで極端に苦手とするマッチアップがないデッキだ。
ジェスカイファイアーズについてはアゾリウスコントロールとの相性に不安が残るが、赤単の方が数が多いと予想して方向性を固めることにした。それに、ジェスカイファイアーズは他の参加者の目の敵にされないだろうという見立てもあった。世界選手権のような大会では重要なことだ。警戒されないのはいつだって喜ばしいことだけどね!
世界選手権2019でマルシオと一緒に使ったデッキリストがこれだ。
デッキの動きやサイドボーディングの方法が知りたい人は、Hareruya Prosであり殿堂プレイヤーであるラファエル・レヴィ/Raphael Levyの素晴らしい記事を参照して欲しい。
彼の構成は《厚かましい借り手》で妨害がしやすくなっているのに対し、こちらの構成はより重いものになっている。《夢さらい》は使わないともったいないほど強力なカードだと結論づけたからだ。でも広い目で見れば核は同じであるし、細かな違いはデッキの使い方に大きな影響を与えないだろう。
ジェスカイファイアーズは《夢さらい》を運用するに足るだけの土地を採用しているし、相手が《創案の火》に介入してくる状況下で欲しいカードだった。このスフィンクスは単体でゲームを支配する力があるからね。
レヴィとガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifが採用したテクノロジーのなかで我々が見落としていたのは《義賊》だった。
《義賊》を好きになったことはないが、世界選手権においては非常に賢い選択だったと思う。《徴税人》が本番であまり活躍しなかったからね。《義賊》を使った経験は多くないけど、2ターン目の《義賊》から3ターン目の《時を解す者、テフェリー》という無理のない動きは、ジェスカイファイアーズがアゾリウスコントロール戦でできる最強の動きなんじゃないだろうか。
後手のときでも《神秘の論争》などの打ち消し呪文を回避できるのはあまりにも大きい。《義賊》と《軍勢の戦親分》の優劣は状況次第であるため、両者の枚数を散らして採用するのもアリかもしれない。
求められる柔軟な姿勢
マジックは常に変化するゲームだ。柔軟な姿勢を保ち、必要とあらばあらゆるマッチアップ/カードの評価を改めることが欠かせない。特定のカードやデッキが優れているのはその大会だけに限られることだってある。特定の戦略やカードを使うべきタイミングを見極めることが大きなアドバンテージになり得るんだ。
ここまで読んでくれてありがとう!またな!