(編集者注:この記事は3月4週目の段階で書かれたものです。)
Translated by Kohei Kido
(掲載日 2020/03/27)
赤単アグロはまだ通用するのか?
今週はスタンダードのマジック・フェストが初めてMTGアリーナにやってくるタイミングだったので、多くの赤単使いが最良のデッキリストを求めていました。さらに言えば、多くのプレイヤーが『そもそも赤単アグロはいい選択肢なのかどうか』についても考えていたでしょうね。
この記事では私が使ったうえでおススメする2つのデッキリストをお見せしてからその疑問にお答えしましょう。さっそくデッキリストを見ていきましょう。
デッキ#1 (アンドレア・メングッチ)
4 《エンバレス城》
-土地 (22)- 4 《熱烈な勇者》
4 《焦がし吐き》
4 《リムロックの騎士》
4 《義賊》
4 《遁走する蒸気族》
4 《鍛冶で鍛えられしアナックス》
2 《砕骨の巨人》
3 《朱地洞の族長、トーブラン》
-クリーチャー (29)-
アンドレア・メングッチ/Andrea Mengucciは前回のアリーナ予選に先駆けて、友人が配信で成功を収めているという報告を添えたうえで、この赤単アグロのデッキリストをツイートしました。
デッキ#2 (ブランドン・バートン)
一方そのころ、ブランドン・バートン/Brandon Burton(MTGアリーナ登録名:sandydogmtg)も彼自身の手による赤単アグロで成功していました。アリーナのランキングを8位まで登ったあと、イベントが近づくにつれ次第に落ちていき最終的に30位台半ばに落ち着きました。
4 《エンバレス城》
-土地 (21)- 4 《熱烈な勇者》
4 《焦がし吐き》
4 《ブリキ通りの身かわし》
4 《義賊》
4 《遁走する蒸気族》
4 《鍛冶で鍛えられしアナックス》
4 《砕骨の巨人》
2 《朱地洞の族長、トーブラン》
-クリーチャー (30)-
バートンの過去のプレイ動画はここで見られますよ。
2人のデッキリストはそれほど大きな差があるわけではなく、同じ戦略をとっていることに気づくでしょう。序盤から脅威を展開し、対戦相手のライフを削り、相手が試合をコントロールしようかというころに《エンバレスの宝剣》か《朱地洞の族長、トーブラン》を使ってとどめを刺します。このプランが上手くいかなければ、《舞台照らし》で弾を再装填してもう一発放ちます。
大ざっぱに言えば、2つのデッキはこの戦略を共有していますが、デッキリストには指摘しておきたい重要な違いもあります。
2つのデッキリストの重要な違い
#1:《リムロックの騎士》 vs. 《ブリキ通りの身かわし》
あらかじめお断りしておきますが、いずれも強いクリーチャーではありません。《焦がし吐き》よりも劣ります(こちらもそこまで強くない)。サイズが優れているわけでもなければ能力も弱い。シナジーありきで初めてぎりぎり使ってもいいレベルのカードたちです。でも悲しいことに、現在のカードプールでは赤単アグロにとってこれらが最善のカードなのです。
《リムロックの騎士》の問題点は、「出来事」側を使いたい場面が序盤にはあまり存在しないことです。先述したように、できるだけマナカーブ通りに動くことを狙いとしているため、2点のダメージを刻むためだけに盤面の展開を遅らせたくないのです。赤マナひとつで+2/+0修整をかけることは現環境ではあまり重要ではありません(コンバットが大事ではないからです)。
ご存知の通り《リムロックの騎士》はブロックできませんが、赤単アグロにおいてはブロックすることがさほど重要ではありません(繰り返しますが、現環境ではコンバットは勝敗に大きく関係するものではなく、ミラーマッチでもない限りブロックしている時点で負けるでしょう)。とはいえ、守備に回ることがあるのも事実です。
《リムロックの騎士》のひとつの大きな利点は《ブリキ通りの身かわし》よりも打点が高く、ゲーム後半で《エンバレスの宝剣》を装備したときのダメージが上がることでしょう。
《ブリキ通りの身かわし》の問題はきわめてマナレシオが低いことです。ただし、序盤の《舞台照らし》を可能にし、マナコストも安いため《エンバレスの宝剣》を早く着地させるという点で戦略と一貫性があります。
クリーチャー・タイプに「ならず者」を持っているため、《義賊》が除去されたあとも追放されていた呪文を唱えることを可能にしますね。たまに盤面がこう着した際に、(特に《エンバレスの宝剣》が装備されていると)《ブリキ通りの身かわし》の能力が勝敗に影響することもあります。そういう場面では回避能力持ちの《ブリキ通りの身かわし》の方が《リムロックの騎士》よりも頼りになるでしょう。
どちらを使うべきかという問題はデッキ内の《エンバレスの宝剣》の枚数に関係します。4枚採用するなら《リムロックの騎士》よりも《ブリキ通りの身かわし》を優先したほうがいいと思います。
また、この問題は目標とするデッキの速さ(キルターン数)にもよります。2人のデッキリストを比較すると、バートンのほうが多少速いです。速度を上げるとジェスカイファイアーズやアゾリウスコントロールに対して相性が良くなり、ミラーマッチやラクドスサクリファイス相手は悪くなります。
現時点では「《エンバレスの宝剣》を4枚採用したい」「3ターン目にプレイできる確率を上げたい」という2点の理由から、やや《ブリキ通りの身かわし》のほうが優勢だと思います。そうは言ったものの《リムロックの騎士》を使っていたとしても責められません。どちらも最良ではなく、最善のカードなのですから。
雑感:MTGの開発チームには、スタンダードにおいてすべての色に今より強く勝敗に影響する低マナ域のクリーチャーを刷るか、エンチャントとプレインズウォーカーのデザインを見直してほしいと思っています。低マナ域にプレイアブルなクリーチャーを増やせば、プレイヤーは対戦相手と相手のプレインズウォーカーにきちんと圧力をかけて干渉できるようになります。さもなければ現在のように、一部の強力すぎて干渉しにくいカードタイプを中心にゲームが展開するようになってしまうのです。
デッキ構築やメタゲームが一部のカードを中心に展開することの良し悪しについて議論の余地がありますが、個人的にはマジックを遊ぶ上では地味な方向性だと思います。これらのパーマネントに対抗してクリーチャーの質を上げれば、試合は1枚の特定カードを引くかどうかよりも、駆け引きをしっかりできるかどうかにより影響されるようになるでしょう。個別のカードは必然的にメタゲーム上で際立つ存在になるでしょうし、それは問題ないと思うのですが、現状ほど極端ではなくていいはずです。
ここで問題なのは、メタゲーム上で通用するデッキの種類ではなく、実際のゲームがこれらの個別のカードによって生み出されているという点です。カードの種類とカードタイプの中でバランスをとることで、より良いゲーム体験、ひいてはゲーム自体も楽しくするでしょう。そのためにはクリーチャーをどうにかして少しだけ強くすることが現状のスタンダードにとっていい方法に思えますが、きっとほかにも方法はあるはずです。
話が横道にそれましたね、2つのデッキの違いの話に戻りましょう!
#2:メインデッキの《無頼な扇動者、ティボルト》
2つ目の大きな違いはメングッチのメインデッキに入っている2枚の《無頼な扇動者、ティボルト》です。このカードは、使えば使うほどかなり印象がよくなったカードです。シミックとスゥルタイから多くの《自然の怒りのタイタン、ウーロ》や《ハイドロイド混成体》、《永遠神の投入》が飛んでくる環境では、特に役に立ちます。
ジェスカイファイアーズの《轟音のクラリオン》にも耐性がありますし、アゾリウスコントロールがリーサルから逃れるために《太陽の恵みの執政官》でライフを得ようとするのにも対応できます。《大釜の使い魔》と《魔女のかまど》にすら意味を持ちます。
メインデッキに入れるかどうかはさておき、私なら75枚の中に2枚未満の赤単アグロをデッキ登録しないでしょうし、シミックとスゥルタイが数を増やせば3枚目すらも確実に検討するでしょう。
#3:サイドボードにとる除去の量
見ての通り、メングッチのサイドボードにはバートンよりも多くの除去が採用されています。メインデッキに《無頼な扇動者、ティボルト》を採用しているため枠が空いたのは理由のひとつでしょうが、ラクドスサクリファイスやミラーマッチを意識しているようにも思えます。
一方、バートンは刺激的な《初子さらい》を使っています。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》や《ハイドロイド混成体》、《鍛冶で鍛えられしアナックス》に対して使えば、突然勝利をかすめとるだけのポテンシャルがあります。
さらにバートンがサイドボードに《解き放たれた狂戦士》を最大枚数確保しているのも好みです。ジェスカイファイアーズが流行っている今、引ける確率を最大化したいカードだからです。ファイアーズと《荒野の再生》デッキが環境に多い現状では、サイドボードに除去を入れすぎるのは好みではありません。総じていえば、バートンのほうが今のメタゲームに合っていて、赤単アグロにおいて私が重要だと考える柔軟性も持ち合わせているように思います。
#4:《砕骨の巨人》の枚数
《砕骨の巨人》は素晴らしいカードですが、現状のスタンダードには標的となるクリーチャーが欠けているため4枚必須というわけではありません。除去対象を見つけられずに対戦相手に《ショック》としてプレイすることがよくありますが、それは及第点の動きでしかありません。《厚かましい借り手》や《エッジウォールの亭主》、《忘れられた神々の僧侶》のように除去できるとうれしいクリーチャーもいますがよくサイドアウトされるカードなため、メインデッキに4枚必要だという確信はもてないのです。
能力によって《紺碧のドレイク》といったカードを無効化することもできますが、めったに見かけません。ファイアーズや《荒野の再生》、アゾリウスコントロール、そしてスゥルタイにすら弱いため、今はメングッチのように2枚が合っていると思います。本当に欲しいのはミラーマッチだけです。サイド後に《砕骨の巨人》と《遁走する蒸気族》を抜くことは頻繁にありますよ。
両デッキリストの長所と短所を確認した今、どちらがいいと思いますか?両方とも上手くできていますが、《荒野の再生》デッキとファイアーズが成績を残し続けるならバートンのデッキを使うことをおススメしますし、そうでなければメングッチのほうが良いでしょう。
メタゲーム上の立ち位置と各マッチアップ
そもそも現状で赤単アグロはいい選択肢なのでしょうか?これを知るには直近のスタンダードのプレミアイベント(MTGアリーナ・ミシックインビテーショナル予選)を確認するのが役立つでしょう。これが10勝したアーキタイプの一覧です。
MTGアリーナMIQの結果
アーキタイプ | 10勝したプレイヤー数 |
---|---|
ジェスカイファイアーズ | 7 |
ティムール再生 | 5 |
バントランプ | 2 |
スゥルタイランプ | 2 |
赤単アグロ | 2 |
ラクドスサクリファイス | 1 |
アゾリウスコントロール | 1 |
この結果は赤単アグロにとって良くもあり、悪くもあります。赤単アグロがファイアーズに不利だという意味では悪く、《荒野の再生》に有利だという意味では良いのです。これが赤単アグロの相性についての私のざっくりとした印象です。
マッチアップ
アーキタイプ | 相性 |
---|---|
ジェスカイファイアーズ | 不利 |
ティムール再生 | 有利 |
バントランプ | 有利 |
スゥルタイランプ | 有利 |
ラクドスサクリファイス | やや不利 |
アゾリウスコントロール | 互角 |
ティムールアドベンチャー | 不利 |
デッキごとの相性にばらつきがあるため、赤単アグロはファイアーズや《荒野の再生》、スゥルタイとは違い、毎週のようにデッキ登録してもいいと思えるデッキではありません。それでも立ち位置が良いときは使えるように、レパートリーへ加えておくだけの価値があるデッキです。現時点では赤単アグロはメタ次第で使えるデッキであり、そう認識すべきです。
能動的な戦略をとる強いデッキ(もちろん勝てるデッキ!)ではありますが、注意深くことを進めて使うべきタイミングにだけデッキ登録すべきです。ティムール再生やスゥルタイ、バントがメタゲーム上で増加している場合や、赤単アグロに対するガードが下がっていることに気がついたときに使えば順当な成果を上げられるはずです。そうでなければ使うことは勧めません。
簡易サイドボードガイド
今日は2つの異なるバージョンの赤単アグロについて説明したので完全なサイドボードガイドを書きませんが、私が頻繁にサイドボードで抜くカードとデッキから削るカードのリストを紹介しておきます。
4枚ともサイドアウトする機会の多いカード
頻繁に枚数を調整するカード
まとめ
この記事がみなさんの役に立つとうれしいですね。
いつも読んでくれてありがとう!幸運を!