Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/4/08)
《安堵の再会》
みなさんこんにちは。私はマッティ・クイスマ/Matti Kuisma。中毒者だ。
さて、私を興奮させてくれるのは「ドレッジ」と「勝利」のどちらだろうか。これらはよく混ざり合っていることが多く、両者の効力を分けるのは難しい。長年愛用してきた者として、両者への耐性は年々増すばかりだ。この飢えを満たすには、どちらの量もますます増やさなくてはならない。
昨年の9月、グランプリ・ヘント(モダン)が終わった後、自分の中毒と向き合うことを決意した。親愛なる《臭い草のインプ》はしばらく脇に置いておくことに。
なんとか数か月は距離を置いていた。しかし、2月になってとうとう再発してしまうことになる。フィンランドの地元で大型のモダンの大会があり、私は《研磨基地》が見つけられずに《死の国からの脱出》デッキを組み上げることができなかったのだ。
事態を悪化させたのは、その大会シリーズのチームメイトであるヨーナス・エオランタ/Joonas Elorantaだった。彼は私の常用癖を思い出させ、今にも始められるようにアップデートさせたドレッジのデッキリストを送ってきたのだ。絶望の最中に私は屈し、《恐血鬼》と《秘蔵の縫合体》をそれぞれの墓から掘り起こした。忠実な家来と再会したとき、私は今にも泣きだしそうだった。人はこの再会をこう呼ぶのかもしれない……《安堵の再会》と。
雄牛に囚われて
ドレッジは新セットから素晴らしい新戦力、《アゴナスの雄牛》を獲得した。私はこの新しいおもちゃに胸を膨らませ、地元大会に向けた練習としてMagic Onlineのリーグに参加した。すると、この雄牛はすぐに結果を示したのだ。全マッチを勝利して5-0。しかも1ゲームたりとも落としていない。たった一度でこの雄牛に味を占めた私はもう後に引き返せなくなっていた。私はたちまち虜になったのだ。
地元の大会、ポロツアーは間もなくやってきた(ポロとはフィンランド語でトナカイの意)。100人以上が参加するその大会で、ヨーナスと私はスイスラウンドをワンツーフィニッシュし、トップ8に入賞した。
その後、「ドレッジ」と「勝利」への歯止めがきかなくなっていった。直近では、《叫び角笛》で雄牛を引き連れ、Magic OnlineのSuper Qualifiersのトップ8に入賞。再び友人とほぼ同じデッキリストでスイスラウンドをワンツーフィニッシュしたのだ。
Dabポーズが好きなプロペラ帽子の彼は同意してくれないようだが、ドレッジは今のモダンでベストデッキのひとつだと確信している。
レイジング・ブル
ドレッジの息の根を止める現実的な禁止があるとすれば、それは《信仰無き物あさり》の禁止だろうと長らく考えていた。ベストな手札には欠かせない1枚であり、中盤戦において「発掘」の連鎖を安定させる重要なツールだったのだ。だからこそ、《信仰無き物あさり》が実際に禁止された去年の夏、この私ですらドレッジを使う意味はもうないのではないかと思うようになっていた。
一応、《忘れられた洞窟》を採用すれば《信仰無き物あさり》が担っていた中盤戦の役割を埋められるので、依然としてプレイアブルなデッキではあったと思う。だが、速度も安定性も物足りなかったはずだ。《忘れられた洞窟》を《壌土からの生命》で使い回す動きは、悠長であるだけでなく、優秀な「発掘」呪文たちが全て手札に溜まってしまい、それを捨てる手段がない状況に陥りがちなのだ。
しかし今、エナジードリンクを過剰に飲んだことで、ドレッジは復活した。カフェイン缶は翼をさずけるかもしれないが、この赤の雄牛(Red Ox)はもっと素晴らしいものを授けてくれる。「勝利」だ。
初手における《信仰無き物あさり》を《谷の商人》で完全に埋め合わせるのは無理があるが、この雄牛は中盤戦において常軌を逸した強さを誇る。まるで「フラッシュバック」の《信仰無き物あさり》にターボエンジンをつけたような存在だ。
ドローの枚数、すなわち「発掘」の機会が《信仰無き物あさり》よりも1回多いのはもちろんだが、中盤戦に入ったばかりの段階ではドローよりも先に手札を捨てることが大きなメリットとなりやすい。基本的に「発掘」の数値が大きい呪文を優先的に「発掘」するため、《臭い草のインプ》が数枚手札にあり、墓地に《壌土からの生命》が数枚ある展開はよく発生する。
ここで《信仰無き物あさり》だった場合、《壌土からの生命》を「発掘」してから、《臭い草のインプ》を手札から捨て、将来に「発掘」枚数を増やそうと試みる。ところが《アゴナスの雄牛》だった場合、まず《臭い草のインプ》を手札から捨てられる。その捨てた《臭い草のインプ》を「発掘」してライブラリーの半数を掘り返せば、「発掘」枚数の多い呪文を墓地に送り、今後数ターンに備えられるはずだ。いや、もっと正確に言おう。次のターンに備えられる。1ターンあればおそらく十分だろうから。
数字で考えてみよう。《信仰無き物あさり》だと典型的な展開はこのようなものになる。
他方、《アゴナスの雄牛》だとこうなる。
このように、墓地に送った合計枚数に大きな違いが出るのだ。
レッドオックス ~キリっと冷やして~
《アゴナスの雄牛》による大幅な墓地肥やしがこれほどにまで魅力的なのは、《恐血鬼》と《這い寄る恐怖》を複数枚墓地に送ってくれるところにある。《恐血鬼》に速攻を付与するにはライフ10以下にする必要があるが、現在はこの勝敗に影響する条件を達成しやすくなっており、以前よりもはるかにデッキの爆発力が高まっているのだ。
また、《ダクムーアの回収場》を「発掘」する機会が非常に一般的になった。《アゴナスの雄牛》による最後の「発掘」で《ダクムーアの回収場》を回収し、全ての《恐血鬼》を墓地から蘇らせるのだ。
さらに、《アゴナスの雄牛》は5/3の”クリーチャー”でもあるため、《秘蔵の縫合体》を墓地から戦場に戻せるうえに、自身がもうひとつの脅威となることで《外科的摘出》への耐性を高めてくれる。
以前は2枚の《外科的摘出》で《恐血鬼》と《ナルコメーバ》を追放されると困難な状況に立たされた。《秘蔵の縫合体》を狙い通りのターンに戦場に引き戻す相棒がいなくなるからだ。ところが現在、眠れる小さなゾンビはお尻を蹴ってたたき起こしてくれる別の友人を手に入れた。相手からすれば、追放すべきゾンビの相棒が2人から3人になったのは非常に厳しいことだろう。
3ターンキルは昔よりも一般的になったが、これはドレッジにとって大きな意味を持つ。相性が最悪のマッチアップというのは、たいてい速度が求められるからだ。
ドレッジの擁する脅威は根本的な対処が困難であるため、フェアデッキとの相性はおおむね良好だ。問題は、相手がこちらよりも速いときだ。ドレッジは早急に対応することが得意ではない。(《死の国からの脱出》デッキに対しては例外。サイドボードのあらゆる軽量の妨害呪文がたまたま有効な相手であるからだ。まぁもっとも、ほぼすべての妨害に弱いからこそ《死の国からの脱出》は強くないわけだが)
アップデートしたデッキリスト
カード選択:メインデッキ
ドレッジは採用するカードがほぼ固定されており、《アゴナスの雄牛》を組み込むには一定の犠牲を払わなければならない。「発掘」呪文はたったの10.5枚しかなく(《ダクムーアの回収場》は0.5枚換算)本当に最低限の枚数しかないが、雄牛があれば「発掘」の連鎖が途絶える心配はさほどいらない。一度途切れるぐらいであれば、その後に「脱出」させられればなんとかなる。元々手札にあった「発掘」呪文を墓地に捨てることで、再び連鎖し始めるからだ。ただ、「発掘」呪文が不足している初手が来る機会が増えているため、初動の安定性はやや低下している。
現在は《秘蔵の縫合体》を3枚に、《燃焼》を1枚に減らしているが、この削減は致命的ではないと感じている。《アゴナスの雄牛》自体が5/3のクリーチャーであり、以前よりも脅威の数自体は多い。
また《燃焼》はゲームを通して1度唱えられれば十分であることが一般的だ。雄牛はデッキを高速で掘り進めるため、《燃焼》が1枚しかなくともたいていは簡単に見つけ出せる。仮に見つけられなかったとしても、従来よりも《這い寄る恐怖》をヒットさせる確率は高まっているのだから、《燃焼》を見つけ出す重要性は相対的に低くなっている。さらに付け加えると、《アゴナスの雄牛》を採用する場合、手札の平均枚数は以前よりもやや少なくなっているため、《燃焼》の効力はそもそも落ちているのだ。
《アゴナスの雄牛》の採用により、マナベースにも変化が生まれた。フェッチランドが以前よりも重要になったのだ。フェッチランドは雄牛の展開を早めるだけでなく、「脱出」コストの一部に充てることによって、墓地から蘇らせたいクリーチャーや「発掘」呪文を追放せずに済む。ドレッジのスペシャリストであり、友人であるSodekMTGはフェッチランドを9枚にまで増やしていたことがあったが、私は《銅線の地溝》を0枚にすることに納得ができなかった。多くの初動、マッチアップにおいて依然として最高の土地だからだ。
土地によるライフ損失の増加は、「発掘」を強化して《這い寄る恐怖》を見つけやすくすることで埋め合わせている。ただし、フェッチランドの増量と「発掘」の強化は、サーチ先となる土地をライブラリーから失くしてしまいやすい、ということも意味している。そのため、昨今は《踏み鳴らされる地》の3枚目を採用したいと考えるようになった。
カード選択:サイドボード
サイドボードに関しては、やや定まっていない。正直なところ、サイドボードの半数は大して重要ではないのだ。《古えの遺恨》《自然の要求》《稲妻の斧》を数枚ずつ、《爆発域》を1枚入れておけば、残りの枠は自分が気に入っているものを好きに入れてしまっておよそ問題ない。
《自然の要求》や《古えの遺恨》でさえ重要性は下がってきている。墓地対策が《虚空の力線》《安らかなる眠り》から《夢を引き裂く者、アショク》に切り替わっているからだ。このプレインズウォーカーは対策カードのなかでは特に対処しやすいものであり、この環境の変化はドレッジにとって非常に都合が良い。たいていは4点回復付きの3マナの《トーモッドの墓所》になるだけで、0マナの《トーモッドの墓所》でさえも決して厄介なものではなかった。《夢を引き裂く者、アショク》は着地が遅く、唱える前に《思考囲い》で捨てさせる猶予もある。
《夢を引き裂く者、アショク》への意識を強めるのであれば、サイドボードに3枚目の《思考囲い》を入れても良いだろう。ただ、私はそこまでする必要があるメタゲームは稀にしか存在しないと思う。ジェイコブ・ナグロ/Jacob Nagroも先日の記事でこのように述べている。
ジェイコブ「《夢を引き裂く者、アショク》はドレッジや《復讐蔦》デッキに対してやや重いため、これらのデッキは復権するだろうと予想しています。《安らかなる眠り》や《虚空の力線》の採用数が減っていますからね」
さらに付け加えると、私はドレッジにおける《思考囲い》は基本的にあまり好きではない。とはいえ、ここまで《夢を引き裂く者、アショク》が多い現状を踏まえれば、それに対して効果的である《思考囲い》を採用したいと思わざるを得ない。
採用を考えているもうひとつのカードは《真髄の針》だ。《夢を引き裂く者、アショク》対策になるのはもちろんのこと、《大祖始の遺産》を封じ、《大いなる創造者、カーン》が《墓掘りの檻》をサーチするのを防げる。このデッキリストには含まれていないが、ほかにも検討に値するカードとして《血染めの月》と《月の大魔術師》がある。これまで多くのイベントで私が採用してきたカードたちだ。しかし、やや効率が悪いという結論になった。
メリットは確かに存在する。メタデッキのなかで最悪の相性であるアミュレットタイタンと戦ううえで有用なのだ。その反面、これらの「月」は使い道が非常に限られている。アミュレットタイタンは《むかしむかし》の禁止を受けて以前ほどの流行を見せていないし、効果的であるはずの相手には遅すぎることさえある(特に後手の場合)。
これらの事実を踏まえ、「月」のサイドボード枠は別のものに使い、アミュレットタイタンとマッチングしないこと、あるいはダイスロールに勝って自分のゲームプランだけを考えて高速キルを達成することに期待した方が良いのではないかと思うようになった。
もちろん、メタゲーム上にアミュレットタイタンが多いと思う場合は、間違いなく「月」を数枚入れるべきだろう。1枚ずつの方が良いかもしれない。散らして採用することで、適切な解答を入れることが難しくなるからだ。つまり、《月の大魔術師》に対して《再利用の賢者》を引き込んでしまったり、《血染めの月》に対して《四肢切断》を引き込んでしまったりする可能性を作るわけだ。
サイドボーディング
各種マッチアップにおける一般的なサイドボーディングを示そう。言い古されたことではあるが、ここでの解説を盲目的に信じないようにして欲しい。
エルドラージトロン
vs. エルドラージトロン
アミュレットタイタン
vs. アミュレットタイタン
バント石鍛冶
vs. バント石鍛冶
ジャンド
vs. ジャンド
《死の影》系デッキ
vs. 《死の影》系デッキ
このマッチアップで覚えておいて欲しいのは、《這い寄る恐怖》の能力が任意であるということだ。ときには能力を使用しない方が良いこともある。具体的には《死の影》の展開や、《死の影》による勝利を困難にさせられる場合だ。
赤単果敢
vs. 赤単果敢
《神聖の力線》には2つの役割がある。《トーモッドの墓所》と火力呪文への耐性をつけることだ。墓地対策カードは《トーモッドの墓所》しか採用されていないことが一般的であるし、「果敢」を誘発させた時点で一定の仕事を終えているため、これのためだけに対策の対策を入れる必要はないだろう。
緑単トロン
vs. 緑単トロン
《大いなる創造者、カーン》が入っていることを確認した場合は、《爆発域》もサイドインする。
ウーロザ
vs. ウーロザ
5色人間
vs. 5色人間(先手)
vs. 5色人間(後手)
ドレッジの時代
ドレッジの使い手にとって素晴らしい時代だ。このデッキが好きな方、好きかもしれないと思う方には、今こそ使ってみることを心からおすすめする。《アゴナスの雄牛》がドレッジに与えた影響は、1年半前の《這い寄る恐怖》に匹敵する。デッキパワーを新たな次元へと押し上げたと言っていいだろう。
《安らかなる眠り》と《虚空の力線》の採用率が著しく低くなっており、最も厄介な対策カードが最も少ない時代だ。さらに、以前までは《墓掘りの檻》が戦場にあったり、《オーリオックのチャンピオン》が複数体並んだりすると厳しかったが、どちらも簡単に対処できる《爆発域》が今はある。
これからドレッジを使い始めようという方には、私が以前に書いたドレッジの記事も参照していただきたい。そのいくつかは少々時代にそぐわないものとなっているが(どれも《信仰無き物あさり》が関わっている)、マリガンの指針など、不朽のアドバイスもふんだんに盛り込まれている。
ドレッジにまつわる書物
- 2017/11/24
- モダンのドレッジをアップデートしよう
- マッティ・クイスマ
- 2018/11/12
- 這い寄る恐怖の光と影と闇
- マッティ・クイスマ
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では、幸せなドレッジライフを!
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