Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/4/27)
「相棒」でパイオニアに起きた変化とは?
新セットが必ずしも全フォーマットに多大な影響を与えるわけではありません。カードプールが広いフォーマットに甚大な影響をもたらすパワーカードは、ひとつのセットに数えるほどしかないのが普通なのです。ただし、『イコリア:巨獣の棲処』はその限りではありません。「相棒」はマジックの在り方を変えました。条件さえ満たせば、実質的に初手にもう一枚のカードが加わった状況でゲームを始められるのです。サイドボードの枠が1つ削られますが、初手が1枚増えることに比べればどうってことはありません。マジックとは基本的にリソースのやり取りであり、ゲーム開始時のリソースが増えることは莫大なアドバンテージなのです。翻って言えば、「相棒」がない状況でゲームを始めることが、ひとつのディスアドバンテージなのです。
従来から「相棒」の条件を満たしている構成であったことから、「相棒」をデッキに加えられるデッキもあります。その一方で、条件を満たすためにわずかに変更を加えねばらないデッキもあります。しかし、最強の「相棒」デッキとは、すでに強力だったデッキに「相棒」をひとつの強化として迎え入れられるデッキです。
この記事では、話題をパイオニアに絞って解説していきます。どのデッキが「相棒」を加えられるのでしょうか?新たな友人を手にして強化されるデッキは?「相棒」が登場したことで新たに生まれるデッキとは?以前は強力だったものの、「相棒」を使えないことで立場が悪くなる可能性があるデッキとは果たして?
「相棒」は3つのカテゴリに分かれる
構築戦をするに当たっては、全ての「相棒」を知っておくことが欠かせません。全ての「相棒」が等しい強さを持っているわけではないのです。私が思うに、「相棒」は3つのカテゴリに分類できます。
1) 条件が厳しいが、見返りが大きいもの
《夢の巣のルールス》
《夢の巣のルールス》は「相棒」のなかでも見返りが最も大きく、特に広いカードプールのフォーマットで一番人気のカードでしょう。《夢の巣のルールス》を唱えたうえでマナに余裕があれば、すぐに1枚分のアドバンテージを獲得できるのです。盤面に残るようなことがあれば、カードアドバンテージを継続的に発生させます。
《獲物貫き、オボシュ》
デッキ内の全てのカードが2倍のダメージを与えるのはただ事ではありませんが、2マナ域を採用できないのは簡単な条件ではありません。
《深海の破滅、ジャイルーダ》
《深海の破滅、ジャイルーダ》は単体でコンボを始動させられるため、今後の活躍が見込める「相棒」ですが、専用のコンボデッキ以外では使われないだろうと予想しています。とはいえ、仲間を引き連れてくる8枚目の無料のカードであるため、少なくともポテンシャルが高いクリーチャーだと言えるでしょう。
《巨智、ケルーガ》
「出来事」呪文が《巨智、ケルーガ》の構築条件をすり抜けられるため、この「相棒」はスタンダードにおいて強力なものです。ただ、スタンダードよりもスピードが求められるフォーマットにおいては、《巨智、ケルーガ》はプレイアブルではないと思います。
2) 比較的条件は緩いが、見返りが小さくなるもの
《空を放浪するもの、ヨーリオン》
《空を放浪するもの、ヨーリオン》は不思議な「相棒」です。このカテゴリでは明らかに一番強いカードなのですが、デッキを80枚にするデメリットが実際にどれほどなのかがわかりづらいのです。しかし、パーマネントが多いミッドレンジにおいては、そのデメリットを最小限に抑えつつ、その効果を最大限に引き出すことができます。スタンダード・パイオニア・モダンで長期戦を目指すデッキにとっては、デッキの枚数を80枚にすることが新たな常識となっていくのではないかと睨んでいます。
《湧き出る源、ジェガンサ》
なかには何の変更も加えることなくこの構築条件を達成できるデッキがあります。5マナ5/5というステータスはほとんどの構築フォーマットで平凡なものですが、タダで8枚目のカードが使える価値をあなどってはいけません。その他の全てのカードがリソースの交換に使われるとすれば、その無料の1枚が雲泥の差を生むのです。
《黎明起こし、ザーダ》
《湧き出る源、ジェガンサ》と同じく、いくつかのデッキは《黎明起こし、ザーダ》を自然と採用できます。ただ、この「相棒」を使うデッキはその常在型能力を利用することになるでしょうから、その意味で《湧き出る源、ジェガンサ》よりも優れていると言えるでしょう。一部のフォーマットでは、《黎明起こし、ザーダ》は新たなコンボデッキの一翼を担う力があります。
《孤児護り、カヒーラ》
《孤児護り、カヒーラ》はクリーチャーを含まないデッキに「相棒」として選ばれる可能性があります。テキストに記載された部族のひとつに特化させたデッキができるとすれば、《孤児護り、カヒーラ》は大きな脅威となるでしょう。
3) 見返りに対して条件が厳しすぎるもの
《集めるもの、ウモーリ》
《集めるもの、ウモーリ》が採用されるとすれば、クリーチャーだけで構成されたデッキでしょう。ですが、そのような構成に寄せたとしても《集めるもの、ウモーリ》は「相棒」としてそこまで素晴らしいものではないはずです。
《呪文追い、ルーツリー》
《呪文追い、ルーツリー》はおそらく存在すべきではなかったのではないでしょうか。すでに統率者戦やブロールでは禁止され、リミテッドでは極めてアンフェアな存在でありながら、どの構築フォーマットでも使いづらいものになっています。ただ、ハイランダーデッキを組むことは楽しいですから、少なくともそのモチベーションを与えてくれる良いきっかけにはなるでしょう。
パイオニアへの影響
今現在、ハイレベルなパイオニアの大会はMagic Onlineで多く開催されています。こういった大会に参加することを私としては強くおすすめしたいです。それができなくとも、それらの大会結果は定期的にチェックしておくと良いでしょう。パイオニアの情勢に付いていくには大切なことです。
グルールストンピィ with 《獲物貫き、オボシュ》
2 《山》
4 《踏み鳴らされる地》
4 《根縛りの岩山》
2 《獲物道》
2 《マナの合流点》
-土地 (22)- 4 《エルフの神秘家》
4 《ラノワールのエルフ》
4 《砕骨の巨人》
4 《グルールの呪文砕き》
4 《恋煩いの野獣》
4 《鉄葉のチャンピオン》
3 《殺戮角》
2 《不屈の神ロナス》
2 《ギャレンブリグの領主、ヨルヴォ》
1 《運命の神、クローティス》
-クリーチャー (32)-
2 《自然のままに》
2 《引き裂く流弾》
2 《集団的抵抗》
2 《形成師の聖域》
1 《運命の神、クローティス》
1 《驚天/動地》
1 《影槍》
1 《魂標ランタン》
1 《獲物貫き、オボシュ》
-サイドボード (15)-
このデッキを使う際は、《ラノワールのエルフ》や《エルフの神秘家》を求めてマリガンを行います。ゲームプランは非常にシンプルで、2~3ターン目に大型クリーチャーを並べたら、4ターン目に《獲物貫き、オボシュ》を展開して致死量のダメージを叩き込むのです。このプランが失敗した場合は、《グレートヘンジ》による圧倒的なアドバンテージで戦います。このデッキのポイントは、奇数のマナコストを要求する《獲物貫き、オボシュ》を「相棒」として採用しながらも、《砕骨の巨人》の「出来事」呪文によって2マナ域を埋め合わせている点です。ただし、この「出来事」によるダメージは《獲物貫き、オボシュ》で倍化されないので気を付けましょう。
オルゾフオーラ with 《夢の巣のルールス》
4 《神無き祭殿》
4 《コイロスの洞窟》
4 《秘密の中庭》
-土地 (18)- 4 《命の恵みのアルセイド》
4 《恩寵の重装歩兵》
4 《憎しみの幻霊》
4 《上級建設官、スラム》
2 《騒音のアフィミア》
-クリーチャー (18)-
名手であるMPLメンバーの行弘 賢がプレイヤーズツアー・名古屋2020で準優勝したことで、このデッキがパイオニアで通用することは証明されています。そのオルゾフオーラは一切の変更を加えることなく、《夢の巣のルールス》を「相棒」に採用することが可能です。すでに実力が証明されたデッキが最強の「相棒」を加えたということは、このデッキが瞬く間に恐怖の存在になるということです。このデッキは速さも持久性も備わっています。現時点でパイオニアのベストデッキを選ぶとすれば、私はオルゾフオーラを選ぶでしょう。
アゾリウスヘリオッドコンボ with 《空を放浪するもの、ヨーリオン》
4 《神聖なる泉》
4 《灌漑農地》
4 《氷河の城砦》
4 《啓蒙の神殿》
4 《ニクスの祭殿、ニクソス》
-土地 (34)- 4 《歩行バリスタ》
4 《スレイベンの検査官》
4 《魅力的な王子》
4 《白蘭の騎士》
2 《族樹の精霊、アナフェンザ》
2 《太陽に祝福されしダクソス》
4 《太陽冠のヘリオッド》
4 《反射魔道士》
4 《秘儀術師のフクロウ》
-クリーチャー (32)-
4 《減衰球》
2 《ガラスの棺》
2 《領事の旗艦、スカイソブリン》
1 《第10管区のラヴィニア》
1 《時を解す者、テフェリー》
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン》
-サイドボード (15)-
《空を放浪するもの、ヨーリオン》の姿を最初に見るのがコンボデッキだとは予想していませんでした。デッキの枚数を80枚にすれば、コンボパーツを揃える確率が下がってしまうからです。ところが、このデッキは一般的なミッドレンジとして振舞うことが多々あります。《空を放浪するもの、ヨーリオン》が戦場に出たときの「明滅」効果で大きなアドバンテージが獲得できるように構成されており、特に《魅力的な王子》と組み合わさることでカードアドバンテージを連鎖させることが可能です。このようにアドバンテージを稼ぎながらも、同時に必殺のコンボを狙っているのは、なんとも強力な戦略の組み合わせでしょう。このデッキが環境の覇権争いに加わっているのは間違いなく、《空を放浪するもの、ヨーリオン》がそのデッキパワーをもうひとつ上の次元へと押し上げています。
イゼットエンソウル with 《湧き出る源、ジェガンサ》
2 《蒸気孔》
4 《シヴの浅瀬》
4 《尖塔断の運河》
3 《産業の塔》
1 《イプヌの細流》
4 《ダークスティールの城塞》
2 《変わり谷》
-土地 (21)- 4 《羽ばたき飛行機械》
4 《石とぐろの海蛇》
4 《ボーマットの急使》
4 《ジンジャーブルート》
1 《ギラプールの希望》
4 《鋼の監視者》
4 《技量ある活性師》
-クリーチャー (25)-
2 《乱撃斬》
2 《トーモッドの墓所》
2 《丸焼き》
1 《霊気の疾風》
1 《削剥》
1 《溶岩コイル》
1 《影槍》
1 《霊気圏の収集艇》
1 《湧き出る源、ジェガンサ》
-サイドボード (15)-
イゼットエンソウルは以前からパイオニアで人気のデッキです。このデッキは一切の犠牲を伴わずに《湧き出る源、ジェガンサ》を「相棒」に選択できます。基本的な戦略はわずかなマナ投資から5/5を作り出すことであり、相手としては軽量の妨害を駆使することが最高の対抗策となります。そのようななかで、マナカーブの頂点に無料の5/5を配置できる価値はあなどれません。すでに強力なデッキが「相棒」を取り入れて強化される。これもまたその一例です。
ボロスバーン with 《夢の巣のルールス》
白マナ源が12しかなく、ボロスバーンで《夢の巣のルールス》を唱えることはそう簡単ではありません。メインデッキに《夢の巣のルールス》を入れるべきではないでしょうが、無料で使える8枚目としてならば驚くほど強力です。序盤のクリーチャーが対処され、土地を多く引きすぎてしまうと、バーンデッキというのは往々にして残りの数点を削り切れません。《夢の巣のルールス》はその数点を削る力となります。パイオニアを遊ぼうと思っているならば、このデッキを警戒しておきましょう。
バントミッドレンジ with 《空を放浪するもの、ヨーリオン》
3 《平地》
2 《島》
4 《繁殖池》
4 《神聖なる泉》
4 《寺院の庭》
4 《寓話の小道》
2 《氷河の城砦》
2 《内陸の湾港》
2 《陽花弁の木立ち》
2 《伐採地の滝》
-土地 (32)- 4 《スレイベンの検査官》
4 《サテュロスの道探し》
4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《クルフィックスの狩猟者》
2 《巨森の予見者、ニッサ》
-クリーチャー (16)-
4 《成長のらせん》
4 《至高の評決》
4 《不可解な終焉》
4 《海の神のお告げ》
2 《拘留の宝球》
3 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《時を解す者、テフェリー》
3 《ドミナリアの英雄、テフェリー》
-呪文 (32)-
最後にご紹介するのは、最先端のデッキです。MPLメンバーであるアンドレア・メングッチ/Andrea Mengucciはこのデッキリストで大きな成功を収めました。このバントミッドレンジは《空を放浪するもの、ヨーリオン》で大きなアドバンテージを獲得できるように意識されています。また、相手が何をしかけてこようとも、その上をいく行動をとることが可能です。パイオニアで使える最強のカードたちを結集させたデッキと言えるでしょう。バントミッドレンジは今後も環境に残っていくでしょうし、今現在のパイオニアで優れた選択でもあると思います。アンドレアのサイドボードの選択で興味を惹かれるのは《障壁突破》です。『イコリア:巨獣の棲処』で新たに登場したカードであり、先述のオルゾフオーラと戦う際に頼りになるインスタントでしょう。
「相棒」環境の先に
パイオニアには他にも優れたデッキが多く存在していますが、現状で「相棒」を含まないデッキを選ぶのはためらわれます。ゲーム開始時からディスアドバンテージを背負うことはおすすめできません。ロータスブリーチやディミーアインバーターは依然として使用されていますが、以前ほどの結果は出せていないのが現状です。
それでもパイオニアにはイノベーションの余地が多くあると思いますし、誰しもが「相棒」ありきの環境に適応したときにパイオニアがどうなっていくのかを楽しみにしています。
そして最後にもうひとつ指摘しておきたいことがあります。「相棒」が対戦相手のデッキに課す拘束を認識しましょう。《夢の巣のルールス》を「相棒」として選べば、ボロスバーンを使う対戦相手は《砕骨の巨人》を採用することができず、おそらくマナカーブも極めて低いものになっていることがわかります。《黎明起こし、ザーダ》を「相棒」とするプレイヤーはサイドボードに《減衰球》を搭載することはできても、サイドボード後のゲーム開始時に《黎明起こし、ザーダ》を「相棒」として公開すれば、《減衰球》がサイドインされていないことが読み取れます。
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