Translated by Kouhei Kido
(掲載日 2020/06/11)
はじめに
6月1日の禁止制限告知では通常の禁止と並行して、長く待たれていた「相棒」システムに関する変更が発表されました。
新しい相棒のルール:
各ゲーム中に1度だけ、あなたはソーサリーを唱えられるとき(あなたのメイン・フェイズの間でスタックが空であるとき) に(3)を支払うことでサイドボードからあなたの相棒をあなたの手札に加えることができる。これは特別な処理であり、起動型能力ではない。
スタンダードの禁止に関してはほかのコンテンツクリエイターに議論を任せ、今回はルール変更によるモダンとパイオニアへの影響に焦点を当てたいと思います。
「相棒」が予想していた以上に強かった理由
相棒クリーチャーとそのメカニズムが、これまでデッキ構築の前提とされてきたカードアドバンテージの常識をいかにして破壊しているか、ということについてたくさんの議論がなされてきました。新たなルール変更はその要素を解決していません。
新しいカードやメカニズムがローテーションのないフォーマットにどう影響を与えるかについて考えるとき、私は低く見積もってしまいがちです。ですが、『灯争大戦』以降のスタンダードのセットが出るたびにあらゆるフォーマットがひっくり返っているのですから、私もそろそろ学習すべきでしたね。実際に相棒を使って遊べる前は、これらが既存のデッキにあまり変更を加えずにタダで使えれば大きなインパクトを与えるカードだと思っていました。
実際、《夢の巣のルールス》と《空を放浪するもの、ヨーリオン》は環境で通用するデッキを定義するほどの影響力を持つとともに、単に構築条件を満たす以上にデッキ構築に影響を与えるようになるわけですが、私はこの未来を見通すことができませんでした。
その理由はなんでしょう?『イコリア:巨獣の棲処』がリーガルになって遊べる前に相棒のカードパワーを見たとき、カード単体で見たら十分に強いカードではなく、プレイアブルではあっても最終的な顛末ほど支配的にならないだろうと思っていたのです。
結局のところ《空を放浪するもの、ヨーリオン》がもし相棒でない普通のカードだったら、どの構築フォーマットでも採用レベル未満のカードだったであろうことは多くの人に同意してもらえると思います。これはルールスという例外を除いてそのほかの相棒にも言えることでしょう。ルールスはマナコストが軽く《不屈の追跡者》や《瞬唱の魔道士》と類似した効果を持つためにぎりぎりプレイアブルになっていたかと思います。
当初思ったよりも相棒がはるかに強いなと感じる結果になった理由の一端には、シナジーの強いカードとしてデザインされているということにあるかと思います。モダンのバーンがデッキに変更を加えずに《夢の巣のルールス》を使えたとして、再利用できるのが《ゴブリンの先達》だったらそこまでたいしたことにならなかったのかもしれませんが、《ミシュラのガラクタ》や《炎の印章》などをデッキに足すことでより強くなってしまったのです。これらは普段なら少し採用レベルを下回るようなカードなのですが、相棒とのシナジーで強いカードになっています。
《空を放浪するもの、ヨーリオン》に燃料を補給するために掘り起こされた、”古のキャントリップエンチャント”すべてに関しても同じことが起こりました。毎試合相棒が使えるので《ミシュラのガラクタ》はもはやカードを1枚引くだけにとどまらず、《夢の巣のルールス》を配置したらもう1枚引かせてくれるのです。パイオニアの《野望の試練》も序盤にプレイできれば1回ではなく2回の布告除去に近い働きをしたのです。
なぜシナジーの強いカードであることが大きな影響を起こしたのでしょうか?それは、今まで通りのマジックのカードに近いマナコストだと、相棒のシナジー中心にデッキを組むことがはるかに簡単だったからです。モダンのコントロールデッキに大量の《豊かな成長》を追加で入れることは、現実的な早さで追加のリソースに変換できるなら正当化しやすいのです。そういう意味では、シナジーの強い相棒たちは下方修正によって2倍の打撃を受けたと言えるでしょう。
デッキ構築の中心に私たちが長年据えてきたカードアドバンテージの常識を、相棒とそのメカニズムがいかにして破壊しているのかについても多くが語られてきました。相棒を手札に加えるために3マナの”相棒税”を追加で払わせることは、8枚目の手札問題には変更を加えていません。クリーチャーの入っていないデッキを使っているなら、《孤児護り、カヒーラ》をサイドボードに入れるべきかどうかは議論の余地がありません。
モダンのジャンドはルールスの代わりに《ヴェールのリリアナ》を再び使うべきでしょうか?アグロ相手にコントロールする助けにならなくなっても、すべての青いデッキは80枚にデッキを増やすべきでしょうか?これらの疑問は《孤児護り、カヒーラ》ほど自明ではなく、少なくともそれが自明でないことがこれからの希望となるでしょう。
「相棒」の未来
残念ながらすべての相棒に等しいコストを追加したことは、すべての相棒に等しい影響を与えるわけではありません。メカニズム全体として下方修正を受けた一方で、下の環境で大きな問題を起こしたのは《夢の巣のルールス》と《空を放浪するもの、ヨーリオン》だけだったという議論を繰り広げることも可能でしょう。ほかの相棒はマイナーなデッキタイプや、タダで使える弱いカードとして姿を見せていました。
《空を放浪するもの、ヨーリオン》が一番強い部類の相棒であると同時に、ランプやゲーム後半に勝負を持っていくデッキで使われていたために下方修正による影響が比較的少ないのは少し心配になります。そうは言ったものの、下方修正のやり方があまり美しくないものである一方で、競技マジックで相棒を使うのが当たり前にならないようにするという目的を達成できることを期待しています。
モダンとパイオニアがどれくらい変わるのかを予想するのは難しいです。《夢の巣のルールス》と《空を放浪するもの、ヨーリオン》はどちらかを使えるデッキを強化して、そうではないデッキを環境から押し出しました。
《夢の巣のルールス》
両フォーマットに存在する多くのアグロデッキが以前は十分強いデッキではなかったのに、このカードのカードパワーにおんぶに抱っこされたようなデッキになっていました。《夢の巣のルールス》が「全体除去を撃たれたあとに到来するコストのない第二波の脅威」から、より遅いゲームでのカードアドバンテージの原動力に変わったことで、アグロデッキで使う意味はかなり薄れました。
新しいルールでは相棒を手札に加えるのでハンデスは立ち位置が良くなり、ジャンドと《ヴェールのリリアナ》の競争力は増します。ルールスバーンは両フォーマットで存在し続けるでしょうが、だいぶ弱くなるはずです。
《獲物貫き、オボシュ》
《獲物貫き、オボシュ》に追加の3マナを払う必要があるとなるとかなり弱くなってしまいますが、このカードを相棒として本当に使いこなしていた唯一のデッキがモダンのグルールミッドレンジでした。このデッキは、『イコリア:巨獣の棲処』発売前では一度禁止された実績のある《血編み髪のエルフ》を使っていた割には、デッキ全体を奇数にする代償が妙(「奇」妙?)なくらい小さく、この手のアーキタイプが相棒を放棄するか、またはカードパワーの下がった状態で使い続けるのかは興味深いところです。
《深海の破滅、ジャイルーダ》
パイオニアである程度成功していて、上手いこと作られていたジャイルーダクローンデッキは、2マナのマナ加速から2マナのマナ加速につないでジャイルーダを出す流れの中に相棒税の支払いをはめ込むことが不可能な上に、もともと守りが脆いガラスの大砲だったために、おそらく完全に再起不能になってしまいました。
《湧き出る源、ジェガンサ》/《孤児護り、カヒーラ》
代償なしにこれらを使えていたデッキはこれからも彼らを使い続けるでしょうが、今まで以上にゲームに影響することは少ないでしょう。
《空を放浪するもの、ヨーリオン》
正確にこれからの影響を把握するのが一番難しいのは《空を放浪するもの、ヨーリオン》です。構築フォーマットのデッキに80枚のカードを入れることによる負担は、未だに正確に測ることが難しいのです。デッキの安定性の低下による負担が重いモダンの《風景の変容》やパイオニアのディミーアインバーターのようなコンボデッキは、80枚デッキに足を踏み入れることが減るのではないかと期待しています。
また、スタンダードで禁止されたジェスカイルーカファイアーズは、《創案の火》で相棒税をかわせるのでパイオニアで独特の位置を得ました。
おわりに
総じて、表面的なレベルではこの下方修正を個人的には気に入っているので、メカニズムが妥当なバランスに落ち着くことを期待しています。
読んでくれてありがとう!みなさん体には気を付けて。