スタンダードの多様性

Immanuel Gerschenson

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2020/6/25)

多様性があって多様性がない

やぁみんな、また会えたね。今日はスタンダードについて話そうと思う。特定のデッキについてではなく、「何かが正しい方向に少しずれていたら環境がどうなっていたか」についてだ。スタンダードには多様性がある。だけど、「多様性がある」という表現は必ずしも適切ではない。その理由について解説しよう。

え?何を言っているかわからないって?ご心配なく。記事1本を使って解説していくよ。

多様性に富んだスタンダード

まずは、スタンダードには多様性が実際にあったことを示そう。

Rock LobsterScissors LizardPaper Tiger

個人的な考えでは、健全で多様性のあるフォーマットとはグー・チョキ・パーの関係性に収まるものだと思っている。わかりやすくたとえるなら、グーはミッドレンジを、チョキはアグロを、パーはコントロールを表していると考えてみてほしい。この3種の戦略にはそれぞれ複数のデッキが含まれており、どんなデッキを選ぼうが「AはBに勝てるが、Cに負ける」という循環のなかに組み込まれる。グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つといった具合に。

さて、では今現在のスタンダードはアグロ・ミッドレンジ・コントロールという3つの枠に「複数」のデッキがあるのだろうか?個人的な見解としては、「複数」どころではなく「たくさん」だ。

この環境で対戦した経験があるデッキを示してみよう。

アグロ戦略

ミッドレンジ戦略

コントロール戦略

ご覧のとおり、選択肢となるデッキは「たくさん」ある。こうして見てみると、スタンダードは多様性に溢れたフォーマットになる可能性があったことがわかる。「可能性があった」?

環境の問題と異端児

成長のらせん

私見では、この環境はある大きな問題を抱えていた。《成長のらせん》デッキだ。このカードを使うデッキは、非《成長のらせん》デッキに非常に有利に戦える。これは環境が循環していないことを意味している。

荒野の再生

循環が破壊されていることに加え、環境には見過ごせない異端児がいた。ティムール再生である。誰もがこのデッキに有利に戦えると謳い、ランク戦でそこそこ勝てるようになっていながらも、ティムール再生は驚異的な数字を積み重ねてきていた。

このような状況を招いているひとつの要因として、使い手の実力に比例するデッキであることが挙げられる。ティムール再生は簡単なデッキではないが、その習得に時間を費やしたプレイヤーたちは勝率を大幅に上げている。確かに練習が勝率に結びつくのはどのデッキにも言えることだが、ことティムール再生に当てはまることだろうと思う。これほど伸びしろが大きいスタンダードのデッキはほとんど記憶にない。

サメ台風夜群れの伏兵

ティムール再生がほかのデッキと一線を画す点はほかに何があっただろうか?答えはシンプル。マナのルールを破っている《荒野の再生》が着地したとたん、このデッキは溢れんばかりのマナが発生する。一般的なデッキよりもマナが多いことに加え、ティムール再生は状況に合わせてすんなりと適応できる力がある。ひとつ例を挙げるとすれば、およそ1週間前のことだ。プレイヤーたちは《荒野の再生》(とジャンドサクリファイス)への対策として《萎れ》を採用し始めた。するとどうなったか?ティムール再生は《サメ台風》の枚数を増やし、《夜群れの伏兵》を採用することで息を吹き返したのだ。

創案の火

数週間前、《創案の火》禁止された。マナのルールを破り、環境への影響力が強すぎたためだ。この禁止により多少の多様性が生まれたが、マナの踏み倒しがいまだにトレンドになっている以上は、さらなる措置が必要であることを意味している。

昨今のセットではカードパワーが大きく上昇しているため、《荒野の再生》だけを禁止にしたところでおそらく、そして残念なことにスタンダード環境は改善されないだろう。複数のカードを禁止にすれば状況はよくなるかもしれないが、個人的に禁止そのものが好きではないし、長い目で見たときに大胆な禁止措置は害のほうが大きいだろうと思う。もしも一挙に禁止することで解決を図るのであれば、5枚を超える禁止が必要だろうが、もう少し様子を見てみるべきだ。

いつぞやにウィザーズがスタンダードのローテーションを早める措置をとったことがあった。あの考え方がスタンダードをより面白く、健全なものにするんじゃないかと睨んでいる。

新セットへの期待

できることなら、今後活躍が期待できるデッキを概観する記事にしたかった。だが、今のところアドバイスできるのは「《成長のらせん》デッキを使おう」ということだ。『基本セット2021』が環境を少しでも動かしてくれることを期待しよう。このセットには新しいペットやクールな再録が含まれている。 

群れを導くもの猫の君主精霊龍、ウギン

犬や猫を使った部族デッキがスタンダードに居場所を見つけるのだろうか?俺はというと、《精霊龍、ウギン》を使ったデッキを構築しようと心に決めている。このカードには強い思い入れがあるんだ。《成長のらせん》はまだローテーション落ちしないから、おそらく最初はシミックカラーで試してみるだろう。最終的にはランプ/コントロール戦略のデッキになっていくだろうね。

スタンダードが楽しめないという人でも、マジックにはほかにも素晴らしいフォーマットがたくさんある。個人的には友人と『Jumpstart』で遊ぶのが楽しみで仕方ない。

ここまで読んでくれてありがとう。健康にはお気をつけて!

ちょっとした告知: 個別のカードについて解説する記事をこれまで何度か書いてきたけど、その続編をそろそろ書こうと思っている。お楽しみに!

イマニュエル・ゲルシェンソン (Twitter)

この記事内で掲載されたカード

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Immanuel Gerschenson イマニュエルは構築戦を得意とするプレイヤーで、グランプリ・マドリード2014 (モダン)、そしてグランプリ・セビリア2015 (スタンダード) という2つの大会で頂点をつかみ取った、オーストリア屈指の実力派。 プロツアー『イクサランの相克』ではサイドに《遅延》を採用した独特のトラバース・シャドウを手に、構築ラウンドを9勝1敗で駆け抜け14位に入賞。さらにオーストリア選手権2018では準優勝に輝き、オーストリア代表の座を手にするとともに、ゴールドレベルを手中におさめた。 Immanuel Gerschensonの記事はこちら