Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/6/29)
プレイヤーズツアー調整 ~打倒ティムール再生~
数週間前、私はプレイヤーズツアー・オンライン2に参加し、7-7した後にドロップしました。本大会へのモチベーションはいくらかあったものの、プロツアー・ミシックチャンピオンシップ・地域別プレイヤーズツアーほど本腰を入れていませんでした。しかし幸いにも、積極的な約25名のプレイヤーとそうではない数名のプレイヤーから成る大型の調整チームに私は所属しており、自分が望めばふんだんにマッチアップ別の調整ができる環境にありました。
私は早々から心に決めていたことがありました。それは、ティムール再生を使って《時を解す者、テフェリー》と対峙することだけは避けたい、ということです。そのため、ティムール再生に対して有利に戦えると思えるデッキを見つけることに焦点を絞りました。
その条件に合うものとして、まず手を付けるべきはバントランプだと考えました。ティムール再生戦においてこのうえなく価値が高まる《時を解す者、テフェリー》、そして使わないのが惜しいほど強力な《成長のらせん》と《自然の怒りのタイタン、ウーロ》が使えるからです。私はアレン・ウー/Allen Wuが調整していたリストからテストを始めることにしましたが、ミッドレンジを使っていると必ず抱いてしまう印象が今回も訪れました。「どうすれば適正なデッキの太さがわかるんだろう?」
この疑問に駆られると、ミッドレンジを使いたくなくなることがよくあります。想定されるメタゲームを正確に読めないならば、フィールドの大半に対して不利なデッキを持ち込むことになりかねないと考えてしまうのです。また、私はミッドレンジを使うとき、アグロを意識して構成を歪めてしまう癖があります。プレイヤーズツアーほどのレベルの大会であれば極めて高いスキルのプレイヤーと対戦することは承知していますが、それでも自分は多くのプレイヤーと比べてスキルで差をつけられると考え、一般的なミッドレンジミラーにおいて多少弱い構成になったとしても問題ないだろうと考えてしまうのです。
「デッキの太さ」への疑問が拭えなかったため、別のデッキを摸索することに。そのなかで特に興味を惹かれたのは、チームメイトであるザック・ダン/Zach Dunnが構想した《悪魔の職工》と《忘れられた神々の僧侶》を搭載したジャンドサクリファイスでした。《フェイに呪われた王、コルヴォルド》は1~2枚、《ボーラスの城塞》は0枚という構成であり、一般的なものよりマナカーブが低い点が非常に好印象でした。《悪魔の職工》という魅力的なマナフラッド受けもありました。
そのジャンドサクリファイスは1つだけ不利なマッチアップがあり、それ以外のデッキにはめっぽう強いという評価でした。しかし問題だったのは、その不利なマッチアップがティムール再生であることです。手札破壊、《燃えがら蔦》、《朽ちゆくレギサウルス》は確かにティムール再生に有効であるとはいえ、ほぼすべてのサイドボードの枠をティムール再生に割いても有利になるとは決して思えないマッチアップだったのです。
こうなってしまう理由は、ティムール再生側が非常に柔軟にサイドボーディングし、多彩な角度から攻めることができるからでしょう。また、初週のプレイヤーズツアーがあった週末に向け、サメ・トークンに対して効果的な解答である《厚かましい借り手》の採用率が高まっている印象があり、ティムール再生が副次的に《朽ちゆくレギサウルス》を触りやすくなっている状況があったのです。
ケンリスに目を向けて
ティムール再生に負け続けた私は(それでもティムール再生を使う気になることはなく)、バント再生というアイディアに目を向けるようになりました。《ケンリス》、《サメ台風》、打ち消し呪文などで《荒野の再生》を強力に使えるようにしつつ、多様なマッチアップで切り札となる《時を解す者、テフェリー》や《空の粉砕》にもアクセスできるデッキです。
また、打ち消し呪文の主体を《タッサの介入》や《中和》にしていれば、《荒野の再生》によるマナを駆使するカードたちは、相手の《時を解す者、テフェリー》がいる状況でも役割がなくならないカードたちばかり。最初の試作品は以下のような構成でした。
2 《島》
2 《森》
4 《寓話の小道》
4 《繁殖池》
4 《神聖なる泉》
4 《寺院の庭》
3 《ラウグリンのトライオーム》
2 《ケトリアのトライオーム》
1 《インダサのトライオーム》
1 《ヴァントレス城》
-土地 (29)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
3 《帰還した王、ケンリス》
-クリーチャー (6)-
チームメイトや地元アルバカーキの友人であるアレックス・ミタス/Alex Mitasと少し調整をした結果、ティムール再生よりもバント再生を使いたい気持ちは変わりませんでした。そしてなによりも、《ケンリス》が目覚ましい活躍をしたのです。ティムール再生側の妨害呪文は高タフネス・白・クリーチャーに対してガードが甘く、素直に《ケンリス》を唱えても妨害されずに通ってしまうことに気づきました。特に《神秘の論争》に支払う3マナを確保した段階で唱えれば、その傾向は強まります。
また、アグロは《ケンリス》を退ける除去を持っていないことがほとんどであり、あらゆるアグロ戦略に対して明確な切り札になっているように感じられました。図らずして、私がミッドレンジを使うときに陥りがちな疑問への解答を手に入れました。アグロ戦で安定をもたらすだけでなく、妨害が多いデッキに対しても効果的な脅威となるカードを私は見つけたのですから。
チームメイトのなかにはバント再生というアイディアに興味を持ったメンバーがおり、彼らもさまざまな変更を加えながら調整をするようになっていました。そして我々が達した結論は似たようなものでした。「《荒野の再生》は何枚も採用することが肯定されるほど強くなく、《ケンリス》はこのエンチャントによるバックアップがなくとも驚異的な強さである」と。
私自身は《荒野の再生》を採用することにこだわりはありませんでしたが、ジャンドサクリファイスと戦ううえではもっとも頼りになるツールだろうと考えていました。《荒野の再生》は《ケンリス》と組み合わせたり、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を「脱出」させたうえで打ち消し呪文を構えたりすることで、ジャンドサクリファイスの動きに遅れを取らないようにしてくれます。最終的にチームメイトのなかでこのアーキタイプの調整を続けたのはブライアン・コーバル/Brian Covalだけのようでしたが、2人で意見をすり合わせ、《荒野の再生》を1枚に抑えることにしました。
2 《島》
2 《森》
4 《寓話の小道》
4 《繁殖池》
4 《神聖なる泉》
4 《寺院の庭》
3 《ケトリアのトライオーム》
3 《ラウグリンのトライオーム》
1 《インダサのトライオーム》
-土地 (29)- 4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
1 《秋の騎士》
3 《帰還した王、ケンリス》
-クリーチャー (8)-
2 《霊気の疾風》
2 《中和》
1 《神秘の論争》
2 《空の粉砕》
1 《荒野の再生》
2 《エルズペス、死に打ち勝つ》
4 《サメ台風》
4 《時を解す者、テフェリー》
1 《伝承の収集者、タミヨウ》
-呪文 (23)-
これがプレイヤーズツアーに登録したリストです。赤のカードを白のカードに入れ替えた再生デッキではなく、《ケンリス》を入れたバントランプに落ち着きました。アレンが使用していた一般的なバントに近しいものを選択したわけですが、《ケンリス》を採用するために変更を施しています。
ブライアン・コーバルは独自の構成のケンリスバントを、マーク・ジェイコブソン/Mark Jacobsonと私は同じ75枚を使用しましたが、3名とも突出した成績を収めることはできませんでした。おかしなことに、全員がパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor damo da Rosa(PV)のティムール再生に負けていましたね。
ティムール再生に対する戦績は3-3。敗北したのは、PV、マット・ナス/Matt Nass、ノア・ウォーカー/Noah Walkerの3名でした。少し振り返ってみて気づきましたが、チームメイトとの1対1の調整段階では《終局の始まり》か《厚かましい借り手》を入れた構成を使用しており、ティムール再生とのマッチアップにおけるこれらのカードの影響力の大きさを考慮せずに最終的なリストでの採用を見送ってしまっていました。敗北したティムール再生との3戦はほぼすべてのゲームが大接戦だったので、あと少しでもティムール再生への意識を強めていれば……といまさら思います。
とはいえ、《ケンリス》という存在を発掘できたことは誇らしく思います。《時を解す者、テフェリー》や《エルズペス、死に打ち勝つ》といった《ケンリス》を重く咎めるカードがあるバントミラーを含め、このクリーチャーの大会を通じてのパフォーマンスには満足しています。
バントミラーでは《ハイドロイド混成体》のほうが便利でしょうが、マナの量に比例してどんどん強くなる《ケンリス》はロングゲームになったときに多彩かつ独特なプレッシャーをかけられます。たとえば、《ドビンの拒否権》で《エルズペス、死に打ち勝つ》から身を守った返しのターン、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》やサメ・トークンに速攻を与えることもあります。
また、バントカラーであれば《ケンリス》の緑マナの能力を使えます。この能力は調整の早々から見た目よりもはるかに強いと気づました。着地した次のターンには上の2つの能力を駆使することでゲームに幕を引けることは珍しくないですし、その能力の起動を匂わせることで戦闘を悪夢のようなものにします。みなさんも《ケンリス》を使おうという場合は、ドロー能力ではなくクリーチャーに+1/+1カウンターを2つ置いた場合のクロックを必ず考えるようにしましょう。カウンター能力を起動したほうが正しいことは多々あります。
すべて使うという選択肢
ミッドレンジやコントロールに偏重したメタゲームになると、相手よりも強い動きができるように4~5色のアーキタイプが顔を出し始めるのは昔からよくあることです。ティムール再生を使うプレイヤーのなかには《時を解す者、テフェリー》を自分も使おうと白を足す人が出てきています。アグロが多くない環境であれば、非常に合理的な変更だと思います。トライオーム、ショックランド、《寓話の小道》をもってすれば、色事故を抑えながら4色デッキを運用できます。主な弱点があるとすれば、タップイン土地が増え、その結果ショックインする機会が増えることだけです。
これはティアゴ・ロドリゲス/Thiago Rodriguesから教えてもらったのですが、彼の友人であるヨハン・デュドニョン/Yohan Dudognonはプレイヤーズツアー・オンライン4で以下の4色再生を使用し、8-7で大会を終えていました。
1 《島》
1 《山》
1 《森》
3 《寓話の小道》
4 《繁殖池》
4 《神聖なる泉》
4 《寺院の庭》
4 《ラウグリンのトライオーム》
2 《ケトリアのトライオーム》
1 《豊潤の神殿》
2 《ヴァントレス城》
1 《爆発域》
-土地 (29)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
1 《厚かましい借り手》
1 《帰還した王、ケンリス》
-クリーチャー (5)-
2 《霊気の疾風》
2 《ドビンの拒否権》
1 《タッサの介入》
3 《神秘の論争》
2 《空の粉砕》
4 《発展/発破》
4 《荒野の再生》
2 《サメ台風》
2 《時を解す者、テフェリー》
-呪文 (26)-
2 《帰還した王、ケンリス》
2 《霊気の疾風》
2 《空の粉砕》
2 《サメ台風》
1 《本質の散乱》
1 《ドビンの拒否権》
1 《炎の一掃》
1 《終局の始まり》
1 《時を解す者、テフェリー》
-サイドボード (15)-
できることなら私もプレイヤーズツアーでこのようなデッキを使いたかったのですが、調整時間が限られていたことやアグロデッキの隆盛を懸念していたことからティムール再生に1色を足すことは検討しようとしませんでした。
プレイヤーズツアー・オンラインの第2週の裏では、tangramsとして知られるデイヴィッド・イングリス/David Inglisが独自の4色再生でミシック予選を10-1で突破していました。
1 《平地》
1 《山》
1 《森》
4 《寓話の小道》
4 《寺院の庭》
2 《繁殖池》
2 《神聖なる泉》
2 《踏み鳴らされる地》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《ラウグリンのトライオーム》
2 《ヴァントレス城》
-土地 (29)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
2 《厚かましい借り手》
-クリーチャー (5)-
《ケンリス》デッキのなかで現時点でもっとも評価しているリストです。メインデッキは1ゲーム目におけるティムール再生との相性をほぼ最大限によくしつつ、サイドボード後はティムール再生に対して一般的に投入される妨害をすべて回避できる《ケンリス》を使えます。同時に《ケンリス》はアグロ対策の役割を担うことができ、赤系のデッキは速攻でゲームを終わらせないとライフ回復や+1/+1カウンターに圧倒される状況に追い込まれます。
このデッキのもうひとつの魅力は《荒野の再生》の強さに疑いがないことです。《発展/発破》と《サメ台風》を4枚ずつ採用しているだけでなく、《ケンリス》の起動型能力があるため、ジャンドサクリファイスをしのぐ動きをとることができます。
今後このデッキはメタゲーム次第では重要な存在となっていくと予想しています。『イクサラン』期のスタンダードでは、ティムールエネルギーを使うプレイヤーがいるなかで、《スカラベの神》《秘宝探究者、ヴラスカ》のために黒をタッチするプレイヤーが出てきましたが、それと似たようなイメージです。環境がミッドレンジやコントロールで埋め尽くされるのであれば、序盤の数ターンに呪文を唱えずともさほど問題ない4色デッキに乗り換えてしまっていいでしょう。
ケンリスの未来を占う
《ケンリス》の功績は《創案の火》や《荒野の再生》ありきのものが多かったようにも思えますが、ローテーション後も彼の存在は忘れてはならないと思います。
マナを踏み倒せなくても、《ケンリス》は即刻の対応を余儀なくさせる《悪斬の天使》のような役割がありながらも、ゲーム全体を通して土地を伸ばしたり多少のマナ加速したりするデッキで最強のトップデッキになります。10マナ以上まで伸びるデッキがいつの時代にも構築できるわけではありませんが、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》がいる現スタンダードではそういったロングゲームが今後も続いていくでしょう。そのようなゲームにおいて、《ケンリス》は速攻を持つ5/5のクリーチャーとして着地しつつ、ドローし、回復し、+1/+1カウンターでダメージを上乗せし、ターンを迎えるたびにその恐ろしさを増していくのです。
トライオームと《寓話の小道》はスタンダードで使用できる期間が一致しているため、ローテーションが来たとしても緑を含む4色の《ケンリス》デッキはメタゲームによって立ち位置をよくするものとしてこれからも残っていくでしょう。当面の間は、4色再生がプレイヤーズツアーファイナルで幅を利かせるのか楽しみにしようと思います。『基本セット2021』による変化にも期待ですね。
今回もお付き合いいただきありがとうございました。何かあればお気兼ねなくTwitter(@jacobnagro)でコンタクトをとってくださいね。