『基本セット2021』でオルゾフスタックスをアップデートしよう!

Joe Soh

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2020/07/01)

筋書き通りのプレイヤーズツアー

プレイヤーズツアー・オンラインが幕を閉じましたが、その結果は大方の予想通りでした。《裏切りの工作員》《創案の火》の禁止、そして「相棒」のルール変更を受けてティムール再生が隆盛したのです。プレイヤーたちがこぞってこのデッキを選択したのはそれなりの理由があるように思います。ティムール再生というデッキはあまりにも安定したパワフルなデッキなのですから。

自然の怒りのタイタン、ウーロ荒野の再生発展+発破

ビッグサプライズ

メタゲームが成熟していることから、ティムール再生に対抗を試みる新デッキが出てくるとは思っていなかった私は、プレイヤーズツアーのカバレージを観にいったときに大きな衝撃を受けました。最近になって私の愛用カードとなった《ヤロクの沼潜み》がベン・スターク/Ben Starkのオルゾフスタックス(ヨーリオン)で採用されており、然るべき評価と認知がされていたのです。ベン・スタークとその調整仲間たちは《ヤロクの沼潜み》にとどまらず《泥棒ネズミ》さえも搭載していました!

ヤロクの沼潜み泥棒ネズミ予言された壊滅
貪欲なるネズミ

私はすぐにこのデッキに惚れ込みました!私は『ウルザズ・デスティニー』時代にアドバンテージクリーチャーである《貪欲なるネズミ》を地元のカードショップでよく使っていた経験があり、”ネズミ”と呼ばれる2マナの手札破壊クリーチャーに目がないのです。《予言された壊滅》デッキがここ最近のお気に入りであることはみなさんもご存知のとおりです。

“ネズミ”が真価を発揮するのは、タフネスが1の貧弱なクリーチャーやブロッカーを用意できないデッキが環境に多いときです。ブロックして相撃ちをしたり、除去を使わせたりすることで2:1交換を期待できます。さらにこのベン・スタークのデッキでは、《魅力的な王子》《空を放浪するもの、ヨーリオン》で「明滅」させたり、《予言された壊滅》で生け贄に捧げるエサになったりと、”ネズミ”はさらなる利便性を備えています。

エルズペス、死に打ち勝つ屈辱

《ヤロクの沼潜み》に加えて《泥棒ネズミ》を採用することで、《エルズペス、死に打ち勝つ》の価値を高める工夫が施されています。クリーチャーの枚数が少ない構成ですと、戦場に戻すクリーチャーが墓地に存在せず、そのIII章が無駄になってしまうことがときおりあったのです。《残忍な騎士》ではなく《屈辱》を選択している点も素晴らしいと感じます。2/3のクリーチャーがおまけで付いてくるよりも、《荒野の再生》を破壊できるほうがはるかに大切であると十分に理解していたのでしょう。

新環境におすすめの構成

このデッキは決して一発屋ではありません。ベン・スタークとその仲間たちがプレイヤーズツアー・オンラインで好成績をあげただけでなく、ごくわずかな調整を加えただけの同デッキが直後のRed Bull Untapped予選を優勝したのです!

『基本セット2021』の発売が間近に迫っている状況ですが、すぐにでも試したくて仕方ない構成をご紹介しましょう。

『基本セット2021』からの新戦力

《真面目な身代わり》

真面目な身代わり

オルゾフスタックスは特にマナを必要とするデッキです。手札破壊クリーチャーを介したカードアドバンテージは得られるものの、ドローを進める手段は多くないため、土地を伸ばせるかどうかが非常に重要でした。かといって、手札破壊呪文はゲームが長引くにつれて価値を下げていくため、土地を引きすぎる状況も避けたいという問題を抱えていました。

幸いにも、我らが愛する”悲しげなロボット”《真面目な身代わり》が再録されました。運命を分かつ5枚目の土地への架け橋として最適なものであり、死亡時のドローによって後続を確保してくれます。4ターン目の強いアクションが《予言された壊滅》しかなかったこのデッキにとっては、まさにマナカーブを理想的な形で埋める新カードでしょう。

《真面目な身代わり》が戦場に残ろうが墓地に送られようがオルゾフスタックスはそれを利用することに長けているため、このクリーチャーは相手に悩ましい状況を突きつけます。《真面目な身代わり》に向かって攻撃や除去をする?オッケーです、《エルズペス、死に打ち勝つ》で大型アタッカーを追放して、《真面目な身代わり》を復活させますね。じゃあ盤面に残しておくって?オッケーです、《魅力的な王子》《空を放浪するもの、ヨーリオン》で「明滅」させて土地を伸ばしますね。

《死者を目覚めさせる者、リリアナ》

死者を目覚めさせる者、リリアナ

《死者を目覚めさせる者、リリアナ》はオルゾフスタックスでぜひとも使いたい戦力です。モダンのジャンドで定番となっている《ヴェールのリリアナ》と同じく手札破壊戦略に噛み合っているだけでなく、3点のライフ損失によってフィニッシャーを兼ねることもできます。5ターン目までに相手の手札を空にできることも珍しくないため、このデッキはさながらジャンドのようなゲームを展開可能です。そのような展開にれば《死者を目覚めさせる者、リリアナ》はあらゆるミッドレンジやコントロールに対して単体で勝つカードとなるでしょう。着地から3ターン後には奥義ができるんですからね!

炎の心、チャンドラ

オルゾフスタックスはクリーチャーデッキに対して地上のブロッカーや妨害を序盤から駆使していきます。墓地を急速に肥やせる手段が多くなく、[-3]能力は弱い部類の除去になってしまいますが、《空を放浪するもの、ヨーリオン》で「明滅」すれば再利用可能な除去となります。《死者を目覚めさせる者、リリアナ》のポテンシャルは非常に高く、スタンダードに新たなジャンドを誕生させるのではないかと思ってしまうほどです(4ターン目に《死者を目覚めさせる者、リリアナ》、5ターン目に《炎の心、チャンドラ》という動きはとても綺麗ですよね!)。

《精神迷わせの秘本》

精神迷わせの秘本

最高のカードは最後にとっておきました。オルゾフスタックスをTier1へと押し上げる推進力になると考えているカード。それが《精神迷わせの秘本》です。オルゾフスタックスの大きな弱点のひとつは、手札を整える呪文がないことから序盤の安定性に難があったことでした。土地を探す目的で《裏切る恵み》を早々に設置してしまうと、《予言された壊滅》を直後に置けない限りは多大なダメージを受けるため、そのプランには頼れることは多くありません。序盤の安定性を高めるために《海の神のお告げ》を足してエスパースタックスにしようかと何度も考えたほどです。《予言された壊滅》のエサになる軽量のパーマネントを増加できますしね。

宝物の地図

そこで登場したのが《精神迷わせの秘本》です。私はこのカードを見て《宝物の地図》を真っ先に連想し、あのカードが当時に起こした大きな変化を思い出しました。《精神迷わせの秘本》はこのデッキにとって痒いところに手が届く理想的なカードです。2ターン目に着地して土地を探し、土地が伸びればドローをし、《予言された壊滅》のエサになり、アグロに対して喉から手が出るほど欲しいライフを4点も回復させてくれます。ゲームが安定すれば、《空を放浪するもの、ヨーリオン》でカウンターをリセットしてさらなるドローへとつなげることも可能です!

空を放浪するもの、ヨーリオン

「相棒」は新しいルールによって大打撃を受けたことは間違いありませんが、《精神迷わせの秘本》《空を放浪するもの、ヨーリオン》を復活させるカードとなるかもしれません。《空を放浪するもの、ヨーリオン》デッキに対するよくある批判は、ライブラリーを20枚増やすことでゲームプランが円滑に進まなくなり、安定性が損なわれるだろうというものでした。しかし、《精神迷わせの秘本》を1枚でも引き込めれば占術/ドローを3度できるだけでなく、《空を放浪するもの、ヨーリオン》を引くたびにカウンターをリセットして同じ動きを連鎖できます。こうなれば、ゲームが終わるまでリソースが尽きることはありえないでしょう!

《空を放浪するもの、ヨーリオン》によるループがなくとも、序盤に占術を3度も行えばゲームを円滑にすることは容易であり、ゆくゆくは1ドローしつつ4点回復できます。分割払いできる4マナにしては、非常に割がいいでしょう。《熟読》がスタンダードで使えたころは広く採用されていましたが、《精神迷わせの秘本》はそれよりもはるかに優秀であるうえに色拘束がありません!このアーティファクトが対策を要するほどのミッドレンジ/コントロール用のカードになるかはまだわかりませんが、メインにアーティファクト対策を積んでいないと《精神迷わせの秘本》の手札の質を高める力の前に屈してしまう環境になっても私は驚きません

そのほかに採用候補となる新カード

《不気味な教示者》

不気味な教示者

3ターン目の《不気味な教示者》は、4ターン目の《予言された壊滅》《真面目な身代わり》《死者を目覚めさせる者、リリアナ》につなげることができ、デッキのエンジンを動かせる利点があります。また、構築方法を変えて《暁の騎兵》《ケイヤの怒り》《精霊龍、ウギン》といった「パワフルだけど状況を選ぶカード」をピン挿しすることもできるでしょう。3マナと3点ライフというコストは安くありませんが、その効果は検討に値するだけの強さがあります。

《精霊龍、ウギン》

精霊龍、ウギン

《精霊龍、ウギン》はマナコストが非常に重いので、少し欲張りすぎなカードかもしれません。ですが、戦場に出れば単体で勝てるだけのカードパワーが備わっています。また、このデッキには事が理想的に運んだときにできる面白い動きがいくつかあります。たとえば、《裏切る恵み》で手札が上限枚数を超えたり、《死者を目覚めさせる者、リリアナ》の[+1]能力を起動したりして《精霊龍、ウギン》を捨てられれば、《エルズペス、死に打ち勝つ》で墓地から吊り上げられます。あるいは《精霊龍、ウギン》の奥義が決まれば、その能力で展開した《空を放浪するもの、ヨーリオン》で「明滅」できたりするのです。

《銀打ちのグール》

銀打ちのグール

カードプレビュー全体を通して特に興味を惹かれたのは《銀打ちのグール》《グリフィンの高楼》でした。ただ、このカードを本格的に使うのはローテーションや次のセットが出てからになりそうですね。《銀打ちのグール》はしっかりとゲームに貢献できるサイズでありながら、誘発条件が緩いために墓地に留めておくのがほぼ不可能なクリーチャーです。さらには追放効果から身を守る起動型能力を持ちながら、カードアドバンテージ源となってくれます!

《ケイヤの誓い》《精神迷わせの秘本》《魅力的な王子》を引くたびに墓地から戻ってきては、ドローをしたり3/1というサイズで相手を攻め続けたりします。すでにモダンのドレッジで使われているようですが、下のフォーマットでも使われそうです。カードアドバンテージを内蔵しつつ、リアニメイトしやすい。この2つの能力が組み合わさっているのは凄まじいですね。これからも絶対に存在を忘れてはいけないカードです!

おわりに

発売直後は『基本セット2021』のドラフトを多少遊ぶと思いますが、本セットからの新戦力も試したい気持ちが強いです。安定性が強化されたオルゾフスタックスは環境の敵となるのでしょうか?《死者を目覚めさせる者、リリアナ》は彼女を軸としたジャンドを築き上げるだけのカードパワーがあるのでしょうか?そして、《精神迷わせの秘本》はあらゆるミッドレンジに入るような必須のカードアドバンテージ源となるのでしょうか?

それからクリーチャー除去をたくさん入れることもお忘れなく。これからは私が歴代のカードでもっとも愛している《悪斬の天使》に苦しめられることになりますよ。

ジョー・ソー (Twitter)

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Joe Soh ジョー・ソーはマレーシア出身のベテランプレイヤー。グランプリトップ8が4回、マレーシア選手権優勝が2回など数多くの実績を持つ。ここ数年で構築の才能が開花し、グランプリ・神戸2017では独自のオルゾフエルドラージで見事にグランプリ初栄冠。さらにはミシックチャンピオンシップ・クリーブランドでも個性的なマルドゥ吸血鬼を使用して9位に入賞している。 Joe Sohの記事はこちら