Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/7/6)
未来を予測する
2003年。『スポーツ・イラストレイテッド』誌は、NBA史上最低のドラフト指名をランキング形式で紹介した。そのトップに名を連ねたのは、ラルー・マーティン/LaRue Martinとサム・ブーイ/Sam Bowieの2人。彼らを指名したのは、ポートランド・トレイルブレイザーズのスチュ・インマン/Stu Inmanであった。
スチュ・インマン(Wikipediaより引用)
1972年のドラフトでトレイルブレイザーズは全体1位の指名権を獲得すると、未来に殿堂入りとなるボブ・マカドゥー/Bob McAdooやジュリアス”Dr.J”アービング/Julius “Dr. J” Ervingを差し置いてラルー・マーティンを指名した。
だが、マーティンのキャリアは完全なる失敗に終わることになった。キャリア全体を通じての得点数は、ルーキーシーズンのマカドゥーの得点数よりも低かったほどだ。他方、ジュリアス・アービングはオールスターに16度も選出され、プロバスケットボール界の歴史に名を残すスコアラーとなった。
サム・ブーイを全体2位で指名した1984年のドラフトはさらに悲惨だったと言えるだろう。ブーイは怪我ばかりでキャリアを棒に振り、ポートランドのセンターとしてポテンシャルを発揮することは一度として叶わなかった。
しかし、バスケットボールファンの方なら、この年のドラフトに指名された選手を何人かご存知だろう。殿堂入りしたチャールズ・バークレー/Charles Barkleyやジョン・ストックトン/John Stocktonらだ。そして、たとえあなたがバスケットボールに疎いとしても、ブーイの直後に指名された選手の名なら聞いたことがあるはずだ。その名はマイケル・ジョーダン/Michael Jordan。
さて、ここでひとつ質問だ。
これらの指名がもたらした結末は、不運が原因だろうか?それとも意思決定を誤ったのだろうか?
ここで問題となるのは、若手アスリートの行く末を占うのは極めて難しいということだ。経済学者のベリ/Berriとシモンズ/Simmonsは大学からNFLに指名入りしたクォーターバックたちを調査したところ、ドラフトの指名順位の高さとプロレベルでの活躍の程度には何の関係もないことを発見した。アメリカンフットボール史で最高のクォーターバックと言っていいほどのトム・ブレイディ/Tom Bradyは、ドラフト199位で指名を受けている。
タレントのスカウトにしろ、マジックにしろ、「意思決定とその結果には1対1の相関関係がない」というのはひとつ厄介な問題だ。ゲームに勝ったからといって、それ即ち適切なプレイができたとは限らない。敗北した場合でも何らかのミスを犯したとも言い切れないのだ。意思決定の良し悪しを結果だけで判断してしまうのは、往々にして危険である。個々の事例を分析してみると、誤った意思決定による結果と不運によるそれは区別がつかないことは少なくない。優れた意思決定と幸運の場合も同様である。
さて、今度はこれをマジックのマナスクリューで考えてみよう。敗北した個々のゲームを見てみると、不運が絶対になかったと断言することはできない。あなたがどれだけ上手いプレイヤーであろうと、土地と呪文の比率がいかに理想的であろうとも、ときとして土地が詰まり苦しむことはある。結果そのものは多くを語らないのだ。
しかし、成否の頻度は多くを語る。
失敗に終わった指名を2度したにもかかわらず、スチュ・インマンはスカウトマンとして高く評価されていた。ダラス・マーベリックスというバスケットボールチームの設立者の一人、ノーム・ソンジュ/Norm Sonjuによれば、スチュは「天才」と評され、「リーグ内で最高の人格者」であると見なす人も多かったという。
マジックのプロプレイヤーが、評価の低いカードを使って完成度の高いデッキを組み上げる光景を目にしたことはないだろうか。スチュ・インマンはバスケットボール界でこれと同じことをした。チームMTG Mint Cardが卓を一巡した《這い寄る刃》を駆使した超アグロデッキで『アモンケット』ドラフト環境を席巻したのと同じく、インマンが1977年にチームをNBAファイナル優勝に導いたとき、チーム内のトップスコアラーの半数はドラフトの2~3順目に指名された選手だった。
1984年のドラフトでトレイルブレイザーズがマイケル・ジョーダンを指名しなかった理由のひとつ。それは、前年のドラフトで彼と非常に似たスキルを持つ驚異的な選手の獲得にすでに成功していたことだ。1983年のドラフトの全体14番目に、インマンは”クライド・ザ・グライド”の愛称で親しまれたクライド・ドレクスラー/Clyde Drexlerを指名していた。
ほかのチームにはシュートが打てないシューティングガードだと思われていたが、インマンはドレクスラーの練習に取り組む姿勢やポテンシャルに目を付けていた。結局、シュートが打てないと思われていたシューティングガードは殿堂入りの選手となった。通算の得点数は22000点を超え、リバウンドとアシストの数も6000を上回った。
インマンのスカウトマンとしての評価は、たったひとつの指名で決まったりはしない。その指名が成功しても、失敗してもだ。彼の評判を決めるのは、過小評価されている選手を見つけ、彼らが成長していく手助けをできた頻度だ。
マジックでも同じようなことが言える。適切な意思決定をし続ければ、不運による敗北の頻度は減らせる。良質な判断をしても結果が変わらないこともあるだろうが、頻度は変えられるだろう。ひとつひとつのマナスクリューの経験はいつだって辛いものだ。だが、マナスクリューになる機会がごまんとあるのなら、その回数は自らの努力で変えられる。
この記事では、数学的計算を用いてできるだけ高い頻度で不運に打ち勝てる方法について解説する。それぞれの数値の成り立ちがわかれば、取るべきリスクを取りやすくなるだろう。
最適パフォーマンスゾーン
不運の典型例はマナスクリュー/マナフラッドだろう。では、こう問われたらどう答えるだろうか。
マナスクリューと言える具体的な土地の枚数は?同様にマナフラッドは?
ゲームレンジがどんなものであれ、グラフにまとめるとこのようなものになる。
では、このグラフを以下のようなものに変えられるとしたら?
私がいう「不運に打ち勝つ」とは、まさにこういうものを指している。こういったことを考え始めると、自分のデッキが図2に近づくようにできることは実はたくさんあることがわかる。私の経験からいえば、大多数のプレイヤーは図で示したようなマナフラッド/マナスクリューの範囲を十分に考え切れていない。仮に考えたことがあるプレイヤーだったとしてもだ。
近年で人気を博した多くのデッキは、図3のようなグラフを示す。ボロス天使を例にとろう。
5 《山》
4 《聖なる鋳造所》
4 《断崖の避難所》
3 《ボロスのギルド門》
-土地 (25)- 4 《アダントの先兵》
4 《トカートリの儀仗兵》
4 《輝かしい天使》
4 《再燃するフェニックス》
3 《正義の模範、オレリア》
3 《黎明をもたらす者ライラ》
-クリーチャー (22)-
このようなデッキは機能すれば見事な回りを見せる。ターンに比例してより強力な脅威をマナカーブ通りに展開する。しかし、最適パフォーマンスゾーンは非常に狭い。ボロス天使にありがちなマッチは、1ゲームは土地詰まりで敗北し、もう1ゲームはマナカーブ通りに動いて勝利し、最後のゲームはマナフラッドで負けるというものだ。土地が詰まっている余裕などなく、かといってマナフラッド受けが潤沢にあるわけではない。
これをティムール再生という成功を収めたデッキと比較してみよう。『基本セット2021』の発売前にスタンダードを席巻したデッキだ。さて、ティムール再生は限られた土地の枚数では機能しづらいデッキであることは確かだが、28~29枚という膨大な土地を採用することでこの問題に解決を図っている。これだけ枚数を増やすと逆の問題が起きかねないため、一般的なデッキでは採りづらい方法であるが、ティムール再生はマナフラッドの軽減に長けているデッキだ。
2 《森》
1 《山》
3 《寓話の小道》
4 《ケトリアのトライオーム》
4 《繁殖池》
4 《蒸気孔》
3 《踏み鳴らされる地》
1 《神秘の神殿》
3 《ヴァントレス城》
2 《爆発域》
-土地 (29)- 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
1 《厚かましい借り手》
3 《夜群れの伏兵》
-クリーチャー (7)-
3 《焦熱の竜火》
2 《砕骨の巨人》
2 《ナーセットの逆転》
1 《否認》
1 《厚かましい借り手》
1 《薬術師の眼識》
1 《終局の始まり》
1 《サメ台風》
-サイドボード (15)-
ティムール再生のマナベースを見てみると、その1/3は呪文に準ずる働きをするものになっている。多くのリストでは《ヴァントレス城》が3枚、《ケトリアのトライオーム》が4枚、《爆発域》が2枚採用されており、必要とあらば一応のアクション数としてカウントできる。デッキ内に土地と呪文の分割カードが9枚も入っていれば、土地と呪文の比率が適切な手札をキープしやすい。
軽量のドロー呪文を採用すれば同様の効果を期待できる。レガシーにおける《渦まく知識》や《思案》の重要な役割のひとつは、手札のバランスを整えることにある。こういったキャントリップ呪文があるからこそ、ボロス天使が夢にまで見た安定感がレガシーの青のデッキにもたらされている。《思案》や《定業》がモダンで禁止されている理由だ。
どんなフォーマットであれ、ベストデッキと呼ばれるものが”相性の悪い”マッチアップでさえも勝ちやすいように感じやすい理由もここにある。ほかのデッキよりも安定しているのだ。
たとえば、2019年春に存在したモダンのイゼットフェニックス。このデッキを相手にテストをし始めてみると、自分が思い描いていたよりも勝てなかった。お互いに適切なドローをした場合、こちらのカードは相手のカードに対して有利に戦えると感じることが多かったのに、だ。しかし、イゼットフェニックスは環境のほぼすべてのデッキよりも最適パフォーマンスゾーンが広かった。
カードアドバンテージ
不運に打ち勝つ最善の方法のひとつ。それはカードアドバンテージ源を採用することだ。マナフラッド受けになるだけでなく、マリガンにも強くなる。特にリミテッドでは重要な考え方だ。カードは1:1交換されることが一般的であるため、純粋なカードの量が構築戦よりも物を言う。
たとえば、こちらは土地7枚と呪文3枚を引き、相手は土地5枚と呪文5枚を引いたとしよう。すべての呪文が1:1交換した場合に不利になるのはこちらだが、自分の呪文が2:1交換するものばかりだったとしたら、呪文が少なくても相手と渡り合っていくことができる。リソースが少なく、助けが必要なときにこそ真価を発揮するのがカードアドバンテージなのだ。
カードアドバンテージが有効という主張は決して衝撃的なものではないが、その重要性をまだ過小評価しているプレイヤーは多い。特に低速のシールド環境に当てはまる。『テーロス還魂記』がいい例だろう。私はこの環境への理解を深めていくと、消耗戦になる傾向が強いことに気づいた。すると、カードパワーが低かろうとカードアドバンテージ源になるものを採用したい気持ちが強くなり、一般的な環境よりもそういったカードを積極的にタッチするようになっていった。
なかでも価値が高いのは、アドバンテージを継続的に生み出すエンジンだ。《瞬き翼のキマイラ》による《海の神のお告げ》の使い回しや、プレインズウォーカーなどがこれに当たる。「これは相手のリソース何枚と交換できるか?」と考えたとき、こういったアドバンテージエンジンにとってはその枚数に上限がない。
前回のミシックインビテーショナルでのことだが、私が2ターン目の《成長のらせん》から3ターン目の《夜群れの伏兵》とつないだだけで投了されたことがあった。相手は継続的に生成される狼トークンに勝てないと悟ったのだろう。こういった効果は“マナフラッドで勝てない”範囲を劇的に狭める。
伸縮性
伸縮性は、最適パフォーマンスゾーンやカードアドバンテージと密接にかかわる概念だ。使用できるマナの総量がゲームごとにバラつきがあるなかで、個々のカードがどれだけやりくりできるか、つまりどれだけ伸縮できるかを表す用語である。
まずは基本的なレベルの伸縮性から見てみよう。以下に掲げたシールドデッキは、私が今年Magic Onlineの大会でトップ8に入賞した際に使用していたものである。
8 《島》
-土地 (17)- 1 《記憶を飲み込むもの》
1 《死の夜番のランパード》
1 《死より選ばれしティマレット》
1 《水底のクラーケン》
1 《死体あさりのハーピー》
1 《鬱陶しいカモメ》
1 《瞬き翼のキマイラ》
1 《怒り傷の狂戦士》
1 《明日の目撃者》
-クリーチャー (9)-
1 《ファリカの献杯》
1 《記憶流出》
4 《ぬかるみの捕縛》
1 《死者の神のお告げ》
1 《海の神のお告げ》
2 《エルズペスの悪夢》
2 《魚態形成》
1 《悪夢の詩神、アショク》
-呪文 (14)-
『テーロス還魂記』環境のシールドにおいて、このデッキが個人的にもっとも完成度が高いものであると自負する理由。それは、たった数枚の土地だけでも上手く機能することにある。何ターンも土地が詰まり、たいていのデッキならば負けていたであろう試合で何度も勝利した。
基本的なレベルの伸縮性を用いるうえで重要なのは、よりマナコストの重い呪文とトレードできる軽量の呪文を採用することだ。具体的には《ぬかるみの捕縛》やフォーマットは違うが《剣を鍬に》などが該当する。《激浪の亀》でも構わない。シールドプールを確認する際は、マナスクリューしたときでも延命できるカードを探そう。
上記のデッキをグラフに表すとこのようなものになる。
次に着目したいのが、高水準の伸縮性だ。《キヅタの精霊》というカード見てみると、どれだけマナを注ぎ込もうともマナレシオはいささか優れない。しかし、伸縮性という点で見ると優秀だ(『イコリア:巨獣の棲処』環境では「変容」カードと相性がよいというちょっとした強みもある)。マジックの歴史のなかには伸縮性をもたらすメカニズムは数多く存在している。「キッカー」「出来事」「双呪」「フラッシュバック」などだ。
ティムール再生が『基本セット2021』導入前のスタンダードであれほど支配力を持てたのは、伸縮性が大きな理由になっていると考えられる。《荒野の再生》と《発展/発破》のコンボは、ほかの環境デッキよりも強いフィニッシュ手段だった。
この2枚が揃わなくとも、この2枚は上手く伸縮する。4マナで詰まれば、《荒野の再生》は大幅なマナブーストをもたらし、《発展》は《霊気の疾風》や《焦熱の竜火》をコピーすることで除去として機能する。反対にマナフラッドした場合、《荒野の再生》は《ヴァントレス城》でデッキを掘り進めたりサメトークンのサイズをあげたりする。《発破》は膨大なマナを生む《荒野の再生》がなくとも大量のドローを実現するため、単体でも強いカードだ。
ボロスカラーのミッドレンジを大会で使おうと思ったことは近年のなかで1度だけあった。『ラヴニカのギルド』発売後のことだ。当時の最大勢力はゴルガリミッドレンジであり、私が構築したデッキはその状況を逆手にとり、《アダントの先兵》《ベナリア史》《再燃するフェニックス》といった一筋縄では除去されない脅威を使ったものだった。このデッキのポイントのひとつは、メインデッキに4枚フル投入された《苦悩火》である。この手のデッキが不足しがちな伸縮性を補うものとして採用した。
ゴルガリミッドレンジとの試合は長引くことがあり、そのボロスデッキはとどめを刺す手段を必要としていた。《苦悩火》はこういった役割を得意とするだけでなく、それよりも前の段階では比較的マナコストの軽いクリーチャーを除去する呪文としても使える。
ボロスデッキで伸縮性のあるカードを運用するという発想はとある対戦相手には突飛すぎたようで、彼は私のデッキリストを確認するためにジャッジを呼んでいた。まさかメインデッキに《苦悩火》が何枚も入っているなんて信じられなかったのだろう。
《苦悩火》を採用するという構築判断を下すプレイヤーはほとんどいなかったと思うが、このデッキにとっては欠かせないパーツだった。《苦悩火》が特別強いカードだというつもりはない。最悪の相性であったコントロール戦を筆頭に、この赤の呪文はデッキ内で重要な役割を果たしていたのだ。
ただ、素直にゴルガリミッドレンジを選択したほうが良かっただろうと思う。あのボロスミッドレンジはゴルガリミッドレンジに有利だと考えていたが、ミラーマッチを意識したゴルガリミッドレンジを使えば同様の利点を得られていただけでなく、フィールドのそのほかのデッキとも戦いやすかったはずだ。あのデッキの大きな特徴のひとつは、《マーフォークの枝渡り》と《翡翠光のレインジャー》によって序盤に土地が詰まりづらく、中盤以降は強力な呪文を求めてライブラリー掘り進められる点だった。つまり、環境のほかのデッキよりも最適パフォーマンスゾーンが広かったのである。
安定性
さて、またもや2つの質問を投げかけてみたい。
みなさんのデッキには事故を起こす要素がいくつあるだろうか?事故を起こしたとき、それはどれほど致命的だろうか?
これを考えるために、2つのマナベースを例にとってみよう。
サンプル1
サンプル2
マナベースとして健全なのはどちらだろうか?ある意味、両者は似ている。各色の色マナ源が14ずつあるのだ。だが、「事故を起こす要素がいくつあるか」という観点で考えた場合、サンプル1のほうが優れていることがわかる。
まず、色を足すということは事故を起こす要素を増やす行為である。仮に特定の色の土地を引けない確率をXとおこう。各色のその確率は同じであるが、我々プレイヤーが関心を寄せるのはその数値ではないはずだ。大切なのは、全色が揃う確率だろう。大まかな確率を計算してみると、2色デッキならば(1-X)^2、3色デッキならば(1-X)^3になる。
上記のサンプルを使い、各色の色マナ源が1つ以上かつ土地が5枚以下の初手の確率を計算すると、サンプル1は73%、サンプル2は65%となる。これは重大な差であり、2色が優位であることがわかる。
次に、3色のマナベースのほうが噛み合わない土地の組み合わせになる可能性が高い。3枚の土地の内訳が《森》2枚と《神聖なる泉》1枚だった場合、一応各色の色マナ源はあるが、あらゆる呪文を唱えられる土地構成だとは限らない。たとえば、この組み合わせだと《時を解す者、テフェリー》は唱えられない。もうひとつの事故要素は、《氷河の城砦》や《内陸の湾港》といったチェックランドだけを引いてしまうことである。タップインばかりの土地では、遅れを取り戻すのに一苦労するだろう。
「事故を起こす要素がいくつあるだろうか?」という問題は何もマナベースに限ったことではない。「ランプ呪文と高マナ域の呪文をバランスよく引けなかったらどうなるか?」「デッキ内の引きたくない部分を引いたらどうなるか?」といった側面も考慮せねばならない。
認めるのは辛いが、ドレッジは事故要素が多いデッキの典型例だ(特に初手)。一般論ではあるが、初手に土地2枚、手札を捨てる手段、「発掘」呪文がないとデッキが動きださない。どれか1つでも欠ければ、その手札はおそらく弱いものだろう。それだけにとどまらず、ドレッジは手札に来て困るカードが多く含まれている。たとえば、《ナルコメーバ》が3枚ある初手は、ほかの必要なパーツが揃っていたとしても使い物にならない。
さらに、初手に必要な要素が不足なくあったとしても、「発掘」によって墓地に落ちるカードに命運を委ねることになる。「発掘」が連鎖していくにはさらなる「発掘」呪文を落とす必要があり、さらには脅威もヒットさせなくてはならない。しかもただ脅威がめくれればいいというわけでもない。《秘蔵の縫合体》しか落とせなければ動きに伸びしろがないし、《恐血鬼》は土地がなければ墓地から戻らずに無益なカードだ。《ナルコメーバ》だけでもクロックが遅すぎるだろう。
ここで「事故を起こしたとき、それはどれほど致命的だろうか?」という視点に移ってみよう。ドレッジにとって救いなのは、マリガンが大した痛手でないことだ。事実、一度目のマリガンはライブラリーに眠っていて欲しいカードを戻せるため有益であることが多い。ドレッジは必要となるカードを求めて初手4枚、ときには3枚までマリガンし、それでも勝つことがある。手札の枚数よりも、必要なパーツを持っていることのほうがはるかに重要なのだ。
他方、《軍団のまとめ役、ウィノータ》デッキのように、デッキ名を冠するカードなしにはほぼ勝ち得ない、1枚のカードに依存したデッキもある。こと《軍団のまとめ役、ウィノータ》デッキに関しては、不運を嘆くことは許されないと思う。このデッキは成すことすべてが確率にかけているのだ。
《冒険の衝動》や《シラナの道探し》で《軍団のまとめ役、ウィノータ》がめくれなかったのは不運ではない。《軍団のまとめ役、ウィノータ》の効果を3度誘発させても《裏切りの工作員》がヒットせず、返しのターンに《空の粉砕》で全滅したのも不運ではない。《裁きの一撃》や《無情な行動》といった単体除去で完全にデッキが崩壊してしまうのも不運ではないのだ。
特定のカードを引き込み、それを十分にサポートし、そのキーカードが盤面に残ったうえで、通常ドローしなかったものをヒットさせないと勝てないような構築をしているとすれば、勝率はどこかで頭打ちするだろう。この過程のうちの1つ以上がうまくいかないゲームは必ずやってくる。これはもはやデッキ構築段階での意思決定の問題なのだ。《軍団のまとめ役、ウィノータ》デッキは回れば確かに強力であるが、あまりにも脆すぎる。
安定性は、ティムール再生が強固なデッキになったもうひとつの重要な要素だ。1枚のカードに依存することなく、ゲームに勝てる脅威を複数備えている。それらの脅威は効率的に対処されづらく、単体で機能しながらもあらゆる敵に対して有効なものが多い。デッキの弱い部分を引いたり、かみ合わせが悪いカードを引いたりといったことが中々ないのだ。
まとめ
ドラフトをするとき、シールドデッキを構築するとき、構築環境を打開しようとするとき。以下に掲げたチェックリストを使い、自分のデッキを不運に強くするようにしよう。
ひとつ指摘しておくと、カードプールが小さいフォーマットを筆頭として、上記のような条件をすべて満たせる方法が必ずしもあるわけではない。ときには、ティムール再生のようなデッキがボロス天使などのデッキよりもこういった条件を比較的満たしやすいと受け入れることが解決策になることもある。そういうときは、そのよりよいデッキを選択すればいい。ここに掲げたものは、実際に優れているデッキを見極めるためにひとつのいい指標になると私は思う。
マッティ・クイスマ (Twitter)