Translated by Kohei Kido
(掲載日 2020/7/22)
はじめに
私がマジックを遊ぶお気に入りのフォーマットはレガシーや統率者戦、バトルボックス(Battle Box)のようなカジュアルフォーマットです。今の発言は競技マジックプレイヤーのものとしては奇妙に聞こえるかもしれませんが、私がマジックをやる真の理由は難しい問題を解きたいからです。私にとってカジュアルフォーマットは、すでに多くの人に研究されているスタンダードやモダンよりも、私のゲームへの理解力を純粋に試せる場なのです。
私が思うに、多くの競技プレイヤーは大会に使われるフォーマットだけをプレイすることで自らを苦しめています。特定のデッキや組み合わせの対戦についてのみ習熟するばかりで、マジック全体について習熟できていないのです。
異なるフォーマットを遊び、それらの体験の重なる部分を知ることでマジックの根底にある仕組みが露わになります。たとえばレガシーで《目くらまし》を回避する立ち回り方を理解することは、私がスタンダードで《神秘の論争》を回避する立ち回りの土台になっています。
こういった理由で、最近何人かの友人を20チケット統率者戦の世界に招きました(訳注:チケットはMagic Onlineの通貨単位。1チケット=1ドル)。このフォーマットは選択肢が少なく、一握りのカードパワーの割に値段が安いカードと統率者が支配する世界だろうと思っていましたが、予想よりもはるかに豊かで注目に値する世界だったのです。
私自身もこのフォーマットに参入し、4日連続でデッキを作り調整することになりました。初めから厳しい統率者戦のデッキ構築の制約に予算の制限をつけたことで、解いていて気持ちのいい複雑なパズルが発生しました。
Magic Online(以下、MO)では5-8チケットの範囲に《太陽の指輪》や《悪魔の教示者》、《ガイアの揺籃の地》のような強力な統率者カードが多く存在していて、これらのカードをデッキに使うには相当な理由が必要です。
《統率の塔》や《師範の占い独楽》、ほとんどの2色土地はもっと経済的で1-2チケットの範囲に存在していますが、20チケットの予算ではそれでも15枚ほどしか使用できません。1.49チケットで《師範の占い独楽》という強力なカードが使えるのは破格で、初めはすべてのデッキに入れるだろうと思っていましたが、結論としては1.49チケットは採用するには高すぎる価格でした。
この記事では私が作った4デッキを紹介してお見せし、デッキ製作過程を概観しながら、それぞれのデッキがどういうものか解説します。続く次の記事では、デッキの製作とプレイングを通して学んだことと将来の大会のための練習にどう活かそうと思っているかについて語る予定です。
20チケット統率者戦で遊ぼう!
《オラーズカの暴君、クメーナ》
-統率者 (1)- 7 《島》
4 《森》
1 《古代の聖塔》
1 《統率の塔》
1 《反射池》
1 《手付かずの領土》
1 《溢れかえる果樹園》
1 《内陸の湾港》
1 《伐採地の滝》
1 《シミックの成長室》
1 《シミックのギルド門》
1 《スカイシュラウドの森》
1 《神秘の神殿》
1 《茨森の滝》
1 《森林地の小川》
1 《ヤヴィマヤの沿岸》
1 《ガイアの揺籃の地》
1 《ハシェプのオアシス》
1 《孤立した砂州》
1 《水辺の学舎、水面院》
1 《苔汁の橋》
1 《先祖の院、翁神社》
1 《平穏な茂み》
1 《鮮烈な小川》
1 《鮮烈な林》
1 《オラーズカの拱門》
1 《眷者の居留地》
1 《廃墟の地》
1 《地盤の際》
-土地 (38)- 1 《水底の生術師》
1 《コーシのペテン師》
1 《呪い捕らえ》
1 《ダクラの神秘家》
1 《飛び地の暗号術士》
1 《翡翠をまとう者》
1 《ジャングルの探査者》
1 《クメーナの語り部》
1 《霧の呼び手》
1 《浅瀬のシャーマン》
1 《砂州のマーフォーク》
1 《高潮の戦士》
1 《潮刻みの神秘家》
1 《珊瑚兜の司令官》
1 《深根の精鋭》
1 《キオーラの追随者》
1 《アトランティスの王》
1 《真珠三叉矛の達人》
1 《マーフォークの枝渡り》
1 《マーフォークの物あさり》
1 《マーフォークの霧縛り》
1 《マーフォークのペテン師》
1 《超越者》
1 《海の占術師》
1 《銀エラの達人》
1 《石ころ川の旗騎士》
1 《波止場の用心棒》
1 《冷淡なセルキー》
1 《翡翠光のレインジャー》
1 《ジャングル生まれの開拓者》
1 《凪魔道士の導師》
1 《マーフォークの君主》
1 《メロウの騎兵》
1 《海の歌姫》
1 《俊敏な番人》
1 《奪い取り屋、サーダ・アデール》
1 《休賢者》
1 《海底の神託者》
1 《高潮測り》
1 《暗悪鬼のしもべ》
1 《種子生まれの詩神》
-クリーチャー (41)-
1 《自然の要求》
1 《猿術》
1 《急速混成》
1 《頑固な否認》
1 《白鳥の歌》
1 《対抗呪文》
1 《サイクロンの裂け目》
1 《マナ吸収》
1 《森の占術》
1 《収穫期》
1 《謎の石の儀式》
1 《復活の探索》
1 《広がりゆく海》
1 《森の知恵》
1 《深根の水域》
1 《侵入警報》
1 《守護者計画》
1 《対立》
1 《勝者の戦旗》
-呪文 (20)-
私が初めに作ったデッキは《クメーナ》でした。デッキの趣旨としては適当なマーフォークをたくさん入れて予算内で《ガイアの揺籃の地》を使うことでした。《クメーナ》はマーフォークにさらにマーフォークを引いてくる機能を持たせ、《ガイアの揺籃の地》でそれを唱えます。《クメーナ》がデッキから多くのカードを引かせてくれたあとは、《対立》や《侵入警報》、打ち消し呪文に援護された攻撃によってゲームを終わらせます。
デッキはテキストに何が書いてあるかは極力無視してマナコストの軽いマーフォークを可能な限り多く入れることで、3ターン目に《クメーナ》でカードを引くチャンスを最大化し、次のマーフォークをできるだけ効率的に配備できるようにします。
このデッキに入っているマーフォークは、《守護者計画》と《勝者の戦旗》を誘発すること以外ほぼ”トークン”です。《ガイアの揺籃の地》との兼ね合いで緑のマーフォークを優先していますが、《奪い取り屋、サーダ・アデール》や《高潮測り》のような効果を持ったカードを採用する余裕はあります。
このデッキの最初に組んだ状態ではさらに《クメーナ》を活かす方向性で組まれていて、ほかのカードアドバンテージ源はなく、《メロウの交易》のようなアンタップする効果のカードが入っていました。しかし《ドラニスの判事》相手に対戦したあと、《クメーナ》に完全に依存することの危険性を認識しました。
すべてのマーフォークは《クメーナ》が見たら平等ですが、《浅瀬のシャーマン》や《砂州のマーフォーク》は単独ではプレイアブルではありません。《海底の神託者》や《守護者計画》、《勝者の戦旗》をデッキに足すことで、《クメーナ》が出せなくてもゲームに勝つ希望が残るようにし、《自然の要求》や《猿術》のような干渉手段を入れました。《鼓舞する呼び声》は《クメーナ》さえいれば柔軟で強力ではあるものの、いなければ意味がないため抜きました。
デッキにはまだ《海の歌姫》や《収穫期》《超越者》のような遊び心のあるカードも入っています。これらのカードを試してはいますが、追加の1マナのマーフォークであるべきなのだろうという気もします。《トリトンの岸忍び》と《霧まといの川守り》が優先順位的には次に入れるべき1マナのマーフォークです。
ひとつ面白い相互作用を挙げると、《浅瀬のシャーマン》と《高潮の戦士》は土地タイプを増やすのではなく置き換えるので、ちょっとした《リシャーダの港》のような印象があります。実際の試合でそういう状況に巡り合ったことがあり、本来ならば《浅瀬のシャーマン》を使って友人のジェイクが赤マナ3つを出せないようにして《ミジウムの迫撃砲》を使えないようにすべきだったのですが、そのカードを使われることを想定していなかったのでそうできませんでしたね。
このデッキはまだ構築上の問題を抱えています。ほかの勝利手段を追加したものの、《クメーナ》が場にいないとこのデッキは苦しくなります。全体除去から立て直すのは骨が折れるのに、デッキが勝利の旋律を奏でるには9-10体のマーフォークが場に必要です。勝利条件は多くの対策カードの標的となるエンチャントであることが多くなります。打ち消し呪文は多少の防御手段になりますが、対戦相手が3人いるのに1:1交換で対処するのには大幅なリードが必要です。
マナ基盤もひどいものです。緑の1マナのカードと青ダブルシンボルの2マナのカードを低予算デッキで使うということは大量のタップインランドを入れるということを意味していて、それでも色マナの基盤は不安定な上にそれだけタップインランドを使うとマーフォークを2体置いて3ターン目に《クメーナ》に繋げるのが安定しなくなります。
このデッキはいくつかクールなシナジーを搭載していますが、そのパワーレベルはデッキの脆さと不安定さを完全に正当化できていません。それでも作ったデッキの中で2番目のお気に入りです。《ジャングルの探査者》のあらゆる要素を使えることにはちょっとした満足感があります。
《不屈の巡礼者、ゴロス》
1 《平地》
1 《島》
1 《山》
1 《インダサのトライオーム》
1 《ケトリアのトライオーム》
1 《秘儀の聖域》
1 《崩れゆく死滅都市》
1 《ジャングルの祭殿》
1 《神秘の僧院》
1 《遊牧民の前哨地》
1 《華やかな宮殿》
1 《野蛮な地》
1 《海辺の城塞》
1 《アゾリウスの大法官庁》
1 《ボロスの駐屯地》
1 《ボロスのギルド門》
1 《ディミーアの水路》
1 《ディミーアのギルド門》
1 《溢れかえる果樹園》
1 《ゴルガリの腐敗農場》
1 《グルールの芝地》
1 《イゼットの煮沸場》
1 《伐採地の滝》
1 《オルゾフの聖堂》
1 《ラクドスの肉儀場》
1 《セレズニアの聖域》
1 《シミックの成長室》
1 《ヤヴィマヤの沿岸》
1 《奔放の神殿》
1 《欺瞞の神殿》
1 《啓蒙の神殿》
1 《天啓の神殿》
1 《疾病の神殿》
1 《悪意の神殿》
1 《神秘の神殿》
1 《豊潤の神殿》
1 《静寂の神殿》
1 《凱旋の神殿》
1 《オラーズカの拱門》
1 《廃墟の地》
1 《ハンウィアーの要塞》
1 《ケッシグの狼の地》
1 《地盤の際》
1 《邪神の寺院》
-土地 (49)- 1 《極楽鳥》
1 《深き闇のエルフ》
1 《武道家の庭師》
1 《迷える探求者、梓》
1 《むら気な長剣歯》
1 《ウッド・エルフ》
1 《ムル・ダヤの巫女》
1 《水底のドルイド、タトヨヴァ》
1 《スカラベの神》
1 《蝗の神》
1 《ルーン傷の悪魔》
1 《虚空の選別者》
1 《大いなる歪み、コジレック》
-クリーチャー (13)-
1 《白鳥の歌》
1 《剣を鍬に》
1 《サイクロンの裂け目》
1 《灯の燼滅》
1 《ドビンの拒否権》
1 《探検》
1 《遥か見》
1 《成長のらせん》
1 《自然の知識》
1 《マナ吸収》
1 《不屈の自然》
1 《花盛りの夏》
1 《三顧の礼》
1 《耕作》
1 《過大な贈り物》
1 《砕土》
1 《木霊の手の内》
1 《迂回路》
1 《審判の日》
1 《移動経路》
1 《アクローマの復讐》
1 《輝く根本原理》
1 《残酷な根本原理》
1 《出現の根本原理》
1 《見事な根本原理》
1 《破滅の根本原理》
1 《暴力的な根本原理》
1 《忌むべき者の軍団》
1 《明日の標》
1 《衝合》
1 《ガラクの目覚め》
1 《時間の伸長》
1 《森の知恵》
1 《創案の火》
1 《シミックの印鑑》
1 《精霊龍、ウギン》
-呪文 (37)-
友人のマイクは最初の試合に《不屈の巡礼者、ゴロス》デッキを持ってきて、そのデッキに私は興味と関心をひかれました。マイクのデッキはアーティファクトシナジーを中心に組まれていて、《ゴロス》は副次的な要素でした。彼が《ゴロス》を起動することで《マイアの戦闘球》や《精霊龍、ウギン》のようなカードを引き当てることは可能でしたが、マナ源や潤滑剤を引き当てることの方が多かったのです。そこで私は《ゴロス》の能力を起動することで、ある程度信頼性をもってゲームを終わらせられるデッキを作りたくなりました。
《ゴロス》が予算の多くを消費してしまうため、健全なマナベースを構築するのに苦労しました。《自然の知識》と《インダサのトライオーム》、《ケトリアのトライオーム》の組み合わせで3チケットしか消費せずに5色にアクセスできることに気づいたのが突破口でしたね。ショックランドを使って低予算でマナ基盤を整えようとして詰まっていました。3チケットする《繁殖池》はありえないくらい高価です。
それに気づいてからマナ基盤を神殿サイクルや残っているトライランド、バウンスランドで整えるのは一瞬でした。バウンスランドはマナ基盤を整えてくれるうえに《迷える探求者、梓》と《花盛りの夏》を効果的なものにしてくれます。《オラーズカの拱門》や《廃墟の地》、《地盤の際》、《ケッシグの狼の地》は《ゴロス》のETB能力から出せる弾丸ではありますが、たいていの場合は結局《ゴロス》から《邪神の寺院》かバウンスランドを持ってきます。
デッキの残りの部分は一本筋です。ランプ呪文と試合のフィニッシャー、そして相手への軽いマナ帯の干渉手段。フィニッシャーを選ぶときに最優先したのは値段です。《ゴロス》の当たり枠としては《絶え間ない飢餓、ウラモグ》のほうが《忌むべき者の軍団》より強いですが、《忌むべき者の軍団》で十分仕事は果たせます。
ひとつのデッキにこんなに多くの根本原理サイクルを入れるのは変な間抜けな感じがしますが、これだけマナ基盤を整えると驚くくらい唱えやすいです。2枚入っている贅沢なカードは《大いなる歪み、コジレック》と《スカラベの神》で、ダメージを与える手段があまりに少ないことを懸念し、ゲームが長引いたときに不可避的に勝利をもたらす手段が欲しかったため採用しました。
ランプテーマのこのデッキはアーティファクトよりも信頼できるため土地に重点を置いています。しかしそれによって《冬の宝珠》や《ハルマゲドン》のようなカードに対して脆くなっています。《不屈の自然》や《砕土》のような弱めのランプ呪文は《連合の秘宝》のようなアーティファクトであるべき可能性はあります。
このデッキは私が作ったデッキのなかではおそらく一番強いです。このデッキのゲームプランは単純明快です。《ゴロス》に向かってランプして《ゴロス》が定着するまで《ゴロス》をプレイし続けて、定着したらフィニッシャーを唱えるか残りのゲームの間毎ターン《ゴロス》の能力を起動します。
《ゴロス》が脅威となる起動型能力を持ちながら統率者税をランプで乗り越えるという事実には困惑させられます。MOのカジュアルな対戦部屋で私の統率者を見るだけで投了してしまうプレイヤーはたくさんいます。完全な状態の《織り手のティムナ》+《トリトンの英雄、トラシオス》のデッキから勝利を掠め取ったこともあったくらいです。ただこのときは《創案の火》が試合を形作っていました。
《冒涜されたもの、ヤロク》
2 《島》
2 《沼》
1 《ゼイゴスのトライオーム》
1 《湿原の大河》
1 《統率の塔》
1 《華やかな宮殿》
1 《ディミーアの水路》
1 《陰鬱な僻地》
1 《水没した地下墓地》
1 《溢れかえる果樹園》
1 《ゴルガリの腐敗農場》
1 《内陸の湾港》
1 《風切る泥沼》
1 《ジャングルのうろ穴》
1 《ラノワールの荒原》
1 《伐採地の滝》
1 《草むした墓》
1 《シミックの成長室》
1 《沈んだ廃墟》
1 《茨森の滝》
1 《黄昏のぬかるみ》
1 《湿った墓》
1 《森林の墓地》
1 《ヤヴィマヤの沿岸》
1 《欺瞞の神殿》
1 《疾病の神殿》
1 《神秘の神殿》
1 《やせた原野》
1 《孤立した砂州》
1 《平穏な茂み》
1 《オラーズカの拱門》
1 《廃墟の地》
1 《地盤の際》
1 《邪神の寺院》
-土地 (43)- 1 《極楽鳥》
1 《深き闇のエルフ》
1 《エルフの神秘家》
1 《Fyndhorn Elves》
1 《ラノワールのエルフ》
1 《とぐろ巻きの巫女》
1 《運命を紡ぐ者》
1 《迷い子、フブルスプ》
1 《森の女人像》
1 《花の壁》
1 《トレイリアの大魔導師、バリン》
1 《永遠の証人》
1 《ラノワールの幻想家》
1 《巨森の予見者、ニッサ》
1 《再利用の賢者》
1 《発現する浅瀬》
1 《春花のドルイド》
1 《ウッド・エルフ》
1 《半真実の神託者、アトリス》
1 《人質取り》
1 《神秘の蛇》
1 《概念泥棒》
1 《ファイレクシアの変形者》
1 《貪欲なチュパカブラ》
1 《真面目な身代わり》
1 《造物の学者、ヴェンセール》
1 《酸のスライム》
1 《熟考漂い》
1 《叫び大口》
1 《水底のドルイド、タトヨヴァ》
1 《狙い澄ましの航海士》
1 《虐殺のワーム》
1 《害悪の機械巨人》
1 《森林の怒声吠え》
1 《裏切りの工作員》
1 《ルーン傷の悪魔》
1 《テラストドン》
-クリーチャー (37)-
1 《思案》
1 《白鳥の歌》
1 《対抗呪文》
1 《サイクロンの裂け目》
1 《探検》
1 《成長のらせん》
1 《自然の知識》
1 《否認》
1 《三顧の礼》
1 《耕作》
1 《英雄の破滅》
1 《木霊の手の内》
1 《出現の根本原理》
1 《豊かな成長》
1 《適者生存》
1 《森の知恵》
1 《出産の殻》
1 《パンハモニコン》
-呪文 (19)-
《冒涜されたもの、ヤロク》に関しては、私は《出産の殻》と《適者生存》が両方安いということに気づいてこれらを中心にデッキを組みたいと考えました。私の狙いは《ゴロス》よりも躍動感があり相手に干渉手段を持ち、増大していくアドバンテージを通して勝利するデッキを組むことでした。
結論からいえば、このデッキが一番組んでいて簡単でした。《ヤロク》は3.79チケットで大きな出費でしたが、スゥルタイの色は統率者戦の世界で強くてカードの選択肢があり、残りのデッキを予算内で賄うのは簡単でした。《英雄の破滅》や《熟考漂い》、《出現の根本原理》、《人質取り》のような強力なカードも0.1チケット未満ですからね。
ここで一番難しいのはマナ基盤でした。《ヤロク》で最初に組んだデッキにはミラージュフェッチランド(《湿原の大河》、《草原》等々)がすべて入っていて、《自然の知識》系の効果のカードも全部いれて、さらに3枚のショックランドが入っていました。色マナはこれで完璧でしたが、タップインランドの多さと《繁殖池》の値段には不満がありました。
しばらくすると《不屈の巡礼者、ゴロス》のデッキのときと同様の解決策にたどり着き、《ゼイゴスのトライオーム》が《繁殖池》に求めていることをほとんどやってくれるうえに費用が半分で済むということに気づきました。
アンタップインする青マナの出る土地をフェッチできないことはストレスにはなります。《自然の知識》と《ウッド・エルフ》のカードパワーの大部分は払ったマナがその場で戻ってくることだからです。それでも大幅なチケットの節約はその短所を正当化します。
色の合わないミラージュフェッチランドはすべて基本土地に場所を譲り、タップインランド問題の解決に役立ちましたが、《草むした墓》と《湿った墓》はそれぞれコストパフォーマンスがいいので残しました。
もともとは《ヤヴィマヤのドライアド》や《彼方地のエルフ》のような土地を探してくる3マナのクリーチャーを《耕作》と《木霊の手の内》の代わりにより多く入れていました。そういったクリーチャーは《ヤロク》や《出産の殻》、《適者生存》との相性がランプ呪文より良かったのですが、ランプ呪文のほうが単独で強力でした。3マナのクリーチャーたちが《ヤロク》と両立して初めてできる働きに近い働きを、ランプ呪文は《ヤロク》と関係なくやり遂げます。
同様に《出産の殻》を用いたデッキでマナクリーチャーの代わりにこんなにも多くの2マナのランプ呪文を採用するのはあまり一般的ではありませんが、ランプ呪文の方がはるかに安い値段で信頼できるマナ基盤調整を可能にしてくれます。《水蓮のコブラ》や《花を手入れする者》のような最良の2マナのマナクリーチャーは0.5チケットほどします。採用することは可能ですが、《自然の知識》が0.01チケットだということを考えると贅沢です。
このデッキのバウンスランドは《ヤロク》と負のシナジーを持ち、デメリットの誘発能力を2回誘発させてしまいますが、使わないでおくのには強力すぎるカードです。20チケットの予算では土地は本当に危機的で、バウンスランドは0.04チケットで強力な土地基盤の調整とカードアドバンテージをもたらします。
呪文は0.25から1チケットの範囲でそこそこな散財になるものが含まれています。価格に見合った働きをしているのかは自信が持てませんが、《永遠の証人》や《ファイレクシアの変形者》、《虐殺のワーム》は《ヤロク》と《出産の殻》との組み合わせで唯一無二の働きをするので無視できませんでした。
こういったカードを採用することで《師範の占い独楽》や《ムル・ダヤの巫女》、《深海住まいのタッサ》のような強力で便利なカードは予算の関係でデッキから押し出されてしまっています。《戦争の犠牲》は何かの代わりに使いたかったのですが、使うとクライアントを落とすMOのバグのために不採用です。
《森林の怒声吠え》は初めてプロツアーで上位に食い込めた2016年のプロツアー・シドニーでキーカードだったのでお気に入りのカードです。《ウルヴェンワルド横断》で持ってくるキーカードで《森の代言者》や《不屈の追跡者》をサーチしてくれました。《森林の怒声吠え》はこのデッキではより強く、最高というレベルに近いという評価も正当です。
《ヤロク》と組み合わせると2体のクリーチャーをサーチしてきて、それぞれがさらに2回誘発能力を誘発させ、1枚で7枚分の働きをします。《森林の怒声吠え》はなんらかの理由で0.29チケットもして少し高かったですが、それに値するだけの働きをしています。
ゲームプラン通りにいけばこのデッキは純粋なミッドレンジデッキです。相手を圧倒する土地、手札そして盤面を形成することを目指し、その後相手をじりじりと灰燼に帰していきます。相手の脅威は手札さえあれば解答できる手段が用意されていますが、複雑な判断の連続のなかで正しい勝ち筋を見つけるのはちょっとした挑戦でもあります。
しかしながらこのデッキは相手に対応していくばかりのデッキだとは言えません。《ヤロク》か《適者生存》、《出産の殻》、《狙い澄ましの航海士》のどれかが定着すればゲームを早期に決着してくれます。《出産の殻》はお気に入りのカードです。モダンで使えなかったなら、ここで使って楽しみましょう。《出産の殻》さえ出ていれば間違いなく勝てる状況です。どうやって勝つのかを導き出すには少しがんばる必要があるかもしれませんが。
このデッキを使う楽しみを損なっているのは、このデッキが自明に強いことです。デッキにはシナジーがありますが、それらのシナジーはもともと単独で強いカードをさらに強くしています。《浅瀬のシャーマン》どころか《花盛りの湿地》もこのデッキにはありません。さらに言えば、1/1のバニラでもBUGの統率者であれば、色の組み合わせの強さから十分な統率者になると考えていて、《ヤロク》はそれより露骨に強い統率者です。そうは言ったものの、ミッドレンジは好きですしこのデッキはそのアーキタイプの模範です。
《風の憤怒、カイカ》
2 《平地》
2 《山》
1 《統率の塔》
1 《神秘の僧院》
1 《アダーカー荒原》
1 《アゾリウスの大法官庁》
1 《戦場の鍛冶場》
1 《ボロスの駐屯地》
1 《断崖の避難所》
1 《氷河の城砦》
1 《イゼットの煮沸場》
1 《秘教の門》
1 《鋭い突端》
1 《岩だらけの大草原》
1 《雲海》
1 《硫黄の滝》
1 《急流の崖》
1 《平穏な入り江》
1 《さまよう噴気孔》
1 《風に削られた岩山》
1 《啓蒙の神殿》
1 《天啓の神殿》
1 《凱旋の神殿》
1 《永岩城》
1 《血に染まりし城砦、真火》
1 《風立ての高地》
1 《僻地の灯台》
1 《ハンウィアーの要塞》
1 《カー砦》
1 《処刑者の要塞》
1 《邪神の寺院》
-土地 (38)- 1 《炎渦の部隊》
1 《隠れしウラブラスク》
1 《聖別されたスフィンクス》
1 《老いざるメドマイ》
1 《パルン、ニヴ=ミゼット》
1 《蝗の神》
1 《裏切りの工作員》
1 《炎の大口、ドラクセス》
1 《大修道士、エリシュ・ノーン》
1 《黄金夜の刃、ギセラ》
1 《原初の潮流、ネザール》
1 《ウスーンのスフィンクス》
1 《希望の天使アヴァシン》
-クリーチャー (13)-
1 《突破》
1 《信仰無き物あさり》
1 《ギタクシア派の調査》
1 《留意》
1 《強迫的な捜索》
1 《選択》
1 《流刑への道》
1 《思案》
1 《定業》
1 《手練》
1 《白鳥の歌》
1 《剣を鍬に》
1 《思考掃き》
1 《航路の作成》
1 《対抗呪文》
1 《サイクロンの裂け目》
1 《ドビンの拒否権》
1 《イゼットの魔除け》
1 《マナ吸収》
1 《任務説明》
1 《胸躍る可能性》
1 《強迫的な研究》
1 《大あわての捜索》
1 《過大な贈り物》
1 《知識の渇望》
1 《不屈の独創力》
1 《生命の息吹》
1 《嘘か真か》
1 《まやかしの敗北》
1 《変身》
1 《現実混ぜ》
1 《異形化》
1 《質素な命令》
1 《集団変身》
1 《時を越えた探索》
1 《宝船の巡航》
1 《アズカンタの探索》
1 《メレティス誕生》
1 《アゾリウスの印鑑》
1 《ボロスの印鑑》
1 《イゼットの印鑑》
1 《確信のタリスマン》
1 《独創のタリスマン》
1 《発展のタリスマン》
1 《変幻の杖》
1 《覆いを割く者、ナーセット》
1 《崇高な工匠、サヒーリ》
-呪文 (48)-
ついに最後のデッキになりました。《風の憤怒、カイカ》は作った4つのデッキのなかでは最後に作りましたが、ダントツで一番好きなデッキです。このデッキは交響曲です。原点の趣旨は《カイカ》をトークン生成器として用いた《変身》デッキだったのですが、あるとき白いリアニメイト呪文(《生命の息吹》と《まやかしの敗北》)を組み合わせることで”太陽拳デッキ”の要素を足せることに気づきました。《カイカ》がマナ源でもあり《変身》系の効果で脅威を出すためにランプしてくれることに気づいたとき、これは運命づけられたデッキだろうと信じました。
このデッキが回りだすと続々と脅威を展開して、テーブルを支配します。メインのゲームプランが《ドラニスの判事》や《墓掘りの檻》、《カイカ》に対する除去で阻害されても、代わりの勝利手段があるだけでなく、ライブラリーを掘り進めてそれらを探せる呪文も多いため、妨害をはねのける力があります。
《変身》のためのトークンを《崇高な工匠、サヒーリ》と《蝗の神》で出したり、《カイカ》で大群を生成したり、除去と手札補充、7マナ帯カードによって十分なコントロールゲームプランを取ることもできます。予算の制限さえなければトークン戦略により傾斜して《エンバレス城》と《頭蓋骨絞め》を使ったと思いますが、今回はほかのゲームプランを優先しました。
フィニッシャーの構成は対応力と力強さそしてマナコストとの慎重なバランスの上に成り立っています。ほとんどのクリーチャーは即時的な影響力を持つか除去で解答しづらいものです。含まれているカードのなかでは《老いざるメドマイ》は採用根拠が弱いですが、0.02チケットなら破格です。逆に《希望の天使アヴァシン》は大盤振る舞いの1.65チケットです(どうして彼女はMOでこんなに値が張るのでしょう?)。でも《変身》で出した大型クリーチャーに全体除去耐性を与えてくれるところが気に入りました。
フィニッシャーに除去耐性があるので《稲妻のすね当て》は採用せず、クリーチャーに速攻を持たせる役割は土地だけに担わせることにしましたが、《稲妻のすね当て》はあまりに強力でそれでも入れたほうがよかった可能性はあります。
Xの値が小さい《不屈の独創力》にはリスクがあることは言及しておく必要があります。クリーチャーに加えてアーティファクトも出す対象であるためで、このデッキにはマナアーティファクトと《変幻の杖》が入っています。それでも、相手のアーティファクトを除去したり、自分のマナアーティファクトを《変身》させたりするメリットがあるため、採用が肯定されるカードです。強く使いたいならX=3以上で唱えますね。
《不屈の独創力》はもともとは《模造運命》だったのですが、《模造運命》にはMOでバグがあって何体追放しようと1体しかクリーチャーが出ないのです。(《集団変身》もいいのですが、《模造運命》と同様の挙動なのだろうと感じることでしょう)
私にとってはこのデッキの強さとシナジーは良いバランスです。シナジーたちはそれぞれ相互作用して《ウスーンのスフィンクス》や《生命の息吹》のような二流のカードをフィニッシャーにします。《カイカ》の誘発からトークン、マナ能力まですべてを利用できつつ、《カイカ》に依存していません。
そしてもっとも重要なこととして、《変身》したら何が出るのか楽しみです。このデッキを作って遊ぶのはとても楽しかったので、コロナ問題が落ち着いたあとに、私が祈り信じているように紙のマジックがまだ生きていれば、紙で全力のこのデッキを組もうと思っています。
おわりに
このフォーマットでデッキを作って遊んで山ほど楽しめたので、読者の方にも試してみることをお勧めします。マジックの中核には自己表現や創造力そして熟達があって、競技シーンからはしばらくそれらの要素が抜け落ちています。20チケット統率者戦は私がなぜマジックを好きになったのかという原点を思い出させてくれました。
次の記事ではこれらのデッキを作って対戦することを通して何を学んだかということと、ほかのフォーマットにどう活かすのかということについて掘り下げていきます。厳しい時期ではありますが、みなさんができるだけ元気にやれていることを祈っています。いつもお伝えしていますが、質問やコメントがあれば私のTwitterアカウント(@nalkpas)までどうぞ。
アレン・ウー(Twitter)