Translated by Nobukazu Kato&Kohei Kido
(掲載日 2020/08/18)
はじめに
みなさんこんにちは。アレン・ウー/Allen Wuです。
正直にいって、プレイヤーズツアー・ファイナル(以下PTF)のためにそこまで練習を重ねるつもりではありませんでした。私が最後に寄稿した記事が20チケット統率者に関するものだったのも、それくらいしかMTGをやっていなかったからです。
しかし練習のエンジンをかけると不可抗力的に吸い寄せられてしまいました。ひどいメタゲーム環境や荒れ狂う組織化プレイの現況にあっても、友人とともにメタゲームを解き明かすことよりも楽しい体験はないからです。
とはいったものの、今回はメタゲームについて解き明かす必要はあまりありませんでした。ティムール再生は《創案の火》禁止後の正当な環境の後継者であり、泰平の時代を築いていたのです。どんなにミラーマッチに特化させても、そしてどんなにそのほかのデッキを《荒野の再生》デッキに強い構成に歪めたとしても、結局《再生》デッキが勝ってしまうのです。
練習の最中に、ラクドスサクリファイスを使っているナサニエル・ノックス/Nathaniel Knoxが3、4、5ターン目に連続して《朽ちゆくレギサウルス》を繰り出してきたことがありました。私のメインボードには除去がなく、10枚の打ち消し呪文こそありましたが、《成長のらせん》から入って《再生》を置き、《発展/発破》をキャストするだけでナサニエルの動きを上回ってしまったのです。最初の1週間にフォーマット全体を探索したあとは、白単に少し浮気した以外、完全に《荒野の再生》へすべての力を注ぎ込みました。
PTFは私にとってはプレイヤーズツアー・オンライン(以下PTO)の反省を活かしたものでした。PTOでは、ミラーマッチの理解不足から《再生》をあまり使いたくなかったため、実際とは異なるメタゲームに狙いを定めたバントカラーのデッキを選択してしまったのです。
そこで、今回のPTFに関しては労を惜しまないことにしました。調整チームとして毎日何時間もミラーマッチをこなし、使えそうなティムールカラーのカードはすべて試しました。私たちのデッキリストとゲームプランが整った結果、私はトップ8に、そしてオースティン・バーサヴィッチ/Austin Bursavichはベスト16へと入賞し、努力は結実したのです。転んでもタダでは起きません。
トップ8によるプレイオフが終わったあとの火曜日にこの記事を書いているため、《荒野の再生》と《成長のらせん》は当然ながらすでに断頭台の露と消えています。Wizards of the Coastがあまりに急に変えたので、大会のラウンドの間で自らのデッキが禁止された人もいました。
PTFで使用したデッキとスタンダードというフォーマットは暴力的に袂を分かたれてしまったので、未来の大会にも役立つ教訓に焦点を当てたいと思います。記事に書きたかった内容は初めから教訓的なことだったので、大義名分が得られて私としてはうれしいですね。
旅の準備
PTOの前の晩、大会が朝9時から始まるにもかかわらず、私は眠れずに朝5時まで起きていました。8時50分に頭はぼやけていて空腹な状態で目覚め、息つく間もなく1回戦のために机に向かいました。対戦の合間に軽食は摂りましたが、気持ちが昂っているせいで実際に必要なだけのカロリーを摂取できませんでした。
PTOでの結果がいまひとつだった原因はいくつもありましたが、食事と睡眠の欠如は大きな要素でした。大会前日に眠るため、移動による疲労にどれだけ依存しているのかを考えたことはありませんでした。この疲労がないと、サイドボードプランや試合の流れ、過去の試合について考えることを止められないのです。
よく眠るためにPTFの3日前から、毎日自転車を22.5kmこぎ、終わったらベーグルとサーモン、卵の買い出しに行きました。眠りにつくのにはそれでも少し苦労しましたが、今回の就寝時間は5時ではなく1時に改善。そして1時間早く起きて朝食を作り、食後には瞑想したり、各ラウンド間では少し散歩をしました。PTOよりも落ち着いて集中でき、それは10試合の《荒野の再生》ミラーを戦い抜くには必要なことでした。
友人グループのなかで、私は「練習量より過大評価されているものは睡眠だけだ」と冗談をいうことで知られています。知見とパターン認識は90%のゲーム展開をカバーします。マナを使わないのはやめてマナを全部使うようにしましょう、といった具合です。しかし、《再生》ミラーのような試合には、我慢と注意力が必要です。疲れていると手なりで反射的にプレイしてしまい、間違いを回避するどころか認識することすらできません。
私にとって、食事と睡眠はMTGの大会に挑むにあたって欠如している大きな要素です。以前から大会前・大会中・大会後に疲労と不快感を覚えていました。それにもかかわらず、これまで食事と睡眠について何か改善しようと思ったことはありませんでした。今回の初めての試みが上手くいったことに興奮を覚えていて、これからもルーチンを続け、そして進化させていこうと思っています。
ブルースター・エアライン
εグリーディ法による探索では、強化学習のエージェントはすでに知られているゲーム中の行動を主に行いますが、たまにランダムに行動します。この戦略に基づいて行動すると、エージェントは決定木のなかでもっとも信頼できる部分を探索して大半を過ごしますが、定期的なランダムな横道の探索によって、どこかにより大きな報酬がある可能性を追求せずに、すでに知られている良い決定木の枝に留まってしまうことを防いでいます。このやり方は見かけによらず強力であり、AlphaZeroですらεグリーディ法による探索の一種で訓練されたのです。
MTGプレイヤーが犯すもっともありふれた間違いは、ほかのプレイングを試しもせずに実際には最善ではない最善手に囚われてしまうことです。確かに《荒野の再生》のミラーマッチでのドロー・ゴーは正しいことが多いですが、もし突然、呪文を叩きつけたらどうなるでしょう?
マティア・リッツィ/Mattia Rizzi、トファー・バビアン/Topher Babian、オースティン・バーサヴィッチ/Austin Bursavichとミラーマッチの練習を始めたころ、私はとにかく勝てませんでした。フルタップでターンを渡すと《再生》を置かれて負け、そうしなければサメを出されて負け、《再生》をめぐる攻防ではどうやっても勝てません。私が出そうとする《夜群れの伏兵》は虚空へと《疾風》に流されていくのに、相手の《伏兵》は大群となって押し寄せます。
あるときに、私が直感的にしたいと思うプレイがあれば、それではない別の選択をすることにしました。打ち消し呪文を準備しながら《伏兵》 を唱えられる状況になるのを待つ代わりに、4ターン目に叩きつけることにしました。また、《伏兵》 をサイドから入れて瞬速を巡る攻防をする代わりに、《再生》や《発展/発破》をデッキに多く残してみました。
多くの試みは失敗し決定木の枝は折れましたが、一部は大きな進歩を生みました。そうやってしばらくして、有用な戦略を取捨選択することで私は勝ち始めたのです。
『The Bones of What You Believe』(信じるものの骨子)
旅の途中で《荒野の再生》デッキからドローソースをすべて抜いたことがありました。《終局の始まり》に《ナーセットの逆転》を打たれるのには飽きましたし、《幽体の船乗り》は9マナの《予言》で、《薬術師の眼識》は《神秘の論争》にも《発展》にも脆弱なカードでした。
しかしこうした過程を辿ったことで、私はカードアドバンテージを生む呪文こそが鍵ということを発見しました。お互いの《発破》を打ち消し合ったあとで、試合をリードする手段を持っていれば勝負を決定づけることが多いとわかったのです。
代替手段を渇望しているとき、私はScryfallでスタンダードに存在するテキストに「引く/Draw」と書かれたあらゆるカードを調べました。私たちのDiscordサーバーに気になるカードリストを投稿したとき、マーク・ジェイコブソン/Marc Jacobsonは即座に《精神迷わせの秘本》が足りないことを指摘しました。それはもう、一目惚れでしたね。
《精神迷わせの秘本》はマナ効率もよくなければ強くもありません。それでもほかの候補よりはよかったのです。
《秘本》はドロー効果のみで使い切ると10マナかかって3枚分のアドバンテージを得られますが、《幽体の船乗り》から同じ効果を引き出すには17マナが必要です。《終局の始まり》は6マナで2枚分のアドバンテージになるもっとも効率のいいカードですが、《ナーセットの逆転》に対してゲームを破綻させるほどの脆弱性を抱えています。《秘本》は土地が上手く伸びないときに占術することもできますし、4回起動したら得られる《聖なる蜜》もサメの攻撃を耐えるのに役立ちます。
コミュニティ全体による《秘本》に関する判断は《荒野の再生》が禁止されたことで行われなくなりましたが、私は今でも革新的一歩だったと思っています。ミラーマッチについて試行錯誤してその根底にある構造にまで理解を深めることで、私たちは相対的に一番腐っていないリンゴを見つけだした唯一のチームになれたのです。
ダーウィンフィンチ
PTOに向けた私たちのチームの準備で最大の問題は内輪メタでした。PTFと同じ環境で、私たちはやはり《荒野の再生》が最善のデッキだと判断していたのです。
ついでにいっておくと、私たちは《再生》デッキが《時を解す者、テフェリー》に対して打ち消し呪文や《爆発域》、《サメ台風》によってそれなりの信頼度で対処できることを理解していて、バントはメインデッキに打ち消し呪文を入れて防衛的に《サメ台風》を使うことでしか優位になれないことも知っていました。
そういった構成のバントは確かに《再生》には勝てるのですが、《再生》以外のすべてのデッキとの相性を犠牲にします。大会では50%より多くのプレイヤーが《再生》を使うだろうと判断して、それを基にデッキを調整しました。
PTOの1週目は私たちの予想通りでしたが、2週目はそれとは激しく違いました。多くの人が《再生》を倒すために《再生》を持ち込むのではなく、メインフェイズに行動するバントやアグロを持ち込んだのです。それらのデッキを相手にしても《再生》のほうが有利なのにも関わらず。
PTFでは《再生》はさらに支配的になると予想し、デッキを先鋭化させました。予想通り《成長のらせん》は70%ほどのデッキで使われ、私たちのメインボードには不要なカードは入っていませんでした。議論の余地はありますが、オースティンのようにデッキ構成をもう一歩進めて、メインボードの《夜群れの伏兵》を《終局の始まり》に変更するべきだったのかもしれません。
PTOについて、私たちは大会のメタゲームが多様なものになることを予想できませんでした。参加者のなかには権利をリミテッドやパイオニア、モダンを通して獲得した人もいました。レガシーで獲得した人もおそらくいたでしょう。多くの人が十分な時間を確保できず、効率的な練習もできていなかったと想像します。大会の参加者全体が私たちと同じ結論にいたると想定するべきではなかったのです。
一方で、PTFの対戦相手が私たちと同じ練習量で同じ判断にいたると想定することは、正しい予想でした。MTGはカードとメタゲームだけではなく、人がいることで成り立っていると忘れやすいものです。
失敗は早くしたほうがいい
大会のスイスラウンド中に、私は大きな失敗を3つしました。おそらくもっと間違えたのでしょうが、気づいたのは3つです。
1つ目の失敗
1つ目の間違いは、緑単を駆るアンドリュー・クネオ/Andrew Cuneoと対戦した4回戦で起こりました。サイドボード後、後手で土地4枚、《発展/発破》、《サメ台風》、《夜群れの伏兵》の手札をキープ。2マナで相手に干渉できる呪文を引けばいいマナカーブを描ける手札だと判断しましたが、2つの大きな問題点がありました。
1つ目の問題点はマナカーブを埋める呪文があったとしても、手札の呪文がよくなかったことです。1/1のサメは何もないのと大して変わらないですし、《伏兵》はこの対戦で強いカードではありましたが後手では先手よりも弱く、特に《成長のらせん》がないと厳しいものでした。
2つ目の問題点は自分のデッキの強いカードを持っていなかったことです。《荒野の再生》と《成長のらせん》がこのマッチアップの最良のカードでしたが、手札にはどちらもありませんでした。
2つ目の失敗
2つ目の間違いはクリストフ・プリンツ/Kristof Prinzと対戦した7回戦で起こりました。2ゲーム目に先手で私の手札は《精神迷わせの秘本》、《成長のらせん》、《否認》2枚、《繁殖池》、《島》、《森》、場には《ケトリアのトライオーム》があり、相手にはタップ状態の《ラウグリンのトライオーム》がありました。
次のターンに《秘本》をキャストして起動型能力と《否認》を構えられるという理由で、《秘本》ではなく《成長のらせん》をプレイしました。3ターン目に《秘本》をめぐる攻防に勝利しながら《荒野の再生》の脅威も受けないので、完全なミラーマッチでは正しいプレイングだったでしょう。 しかし、クリストフは《秘本》のために《ドビンの拒否権》を持っていて、そうなると私には代わりとなるゲームプランがなかったのです。
3つ目の失敗
3つ目の間違いはパスカル・フィーレン/Pascal Vierenと対戦した9回戦で起こりました。2ゲーム目に長い緊張感のある中盤戦のあとに、私には《荒野の再生》と2/2のサメと6枚の土地があり、相手は《自然の怒りのタイタン、ウーロ》と3/3のサメ、5枚のアンタップ状態の土地、そして《薬術師の眼識》で得た2枚の新しいカードがありました。手札には《発展/発破》2枚と《ウーロ》であり、ライフは私が5で相手は20よりいくらか多かったはずです。
私はエンドステップまで進めてX=6で《発破》をパスカルの《ウーロ》に向けてキャストして、2マナを《発展》のために残していました。パスカルは《発破》を対象に《神秘の論争》を唱えたため、私は負けました。
最後の展開は《ウーロ》を対象にとった《発破》が解決すれば大きく有利になったので、最初の2つほど明確な誤りではなかったはずです。彼のクリーチャーを除去しつつ自分の手札を補充できて、パスカルの手札は完全にランダムな2枚のカードでした。彼が《神秘の論争》以外の打ち消し呪文しかなければ、私が競り合いに勝ったはずです。
それでも、私のプレイングは明らかな間違いであったと信じています。代わりにサメをX=5で《発破》していれば、パスカルがどんな呪文を唱えようとも1枚であれば《発破》は解決できていました。こうすれば引き込んだカードに加え、《ウーロ》と場の《再生》、そして2枚目の《発展/発破》があり、たとえパスカルの《ウーロ》がもう1回能力を誘発させようとも、圧倒的にこちらが有利だったはずです。
私がどうしてこれらの間違いを犯したのか、原因を追究するのは難しいことです。状況をしっかりと考えなかったのは確かでしょう。でもどうしてほかの場面ではなくこの場面で起きたのでしょうか?
1つ目と2つ目のミスは《荒野の再生》ミラーを心地よくやりすぎて、直感を適切に再点検しなかったせいでしょう。
最後の間違いはもっと不安になるものです。どれほどの大きさで《発破》を唱えるべきか2分考えた末、それでも誤った結論に達したのですから。確率よりもリスクとメリットの大きさにもっと注目すべきだったのかもしれません。
シャークネード:サメ「発破」
マイケル・ジェイコブ/Michael Jacobと対戦した2試合目の1ゲーム目で、1ターンは耐えられるものの2ターン攻撃されると敗北する場面に立っていました。私には《荒野の再生》と1/1のサメ、4枚の土地と土地を置く権利があって、手札には《爆発域》、《踏み鳴らされる地》、《霊気の疾風》、《自然の怒りのタイタン、ウーロ》、2枚目の《再生》、《サメ台風》がありました。ゲーム状況はここにあるカバレージから見ることができます。
《荒野の再生》を置いて《サメ台風》をサイクリングしなければいけないのは確かです。私が勝つには《再生》が2つ場に出た状態で《発展/発破》を引くしかないのですから。問題は《サメ台風》をどれくらいの大きさにするのか判断しなければならないということです。
このターン私には《踏み鳴らされる地》と《爆発域》のどちらをプレイするか次第ですが、10か11マナあります。次のターンの攻撃を生き残るには《踏み鳴らされる地》をタップインしなければなりません。次の私のターン、6枚の土地と2つの《再生》があるので、このターンに置いた土地によって変わりますが、私には17か18マナあります。つまり2ターン合わせて28マナとなります。それを《サメ台風》と《発展/発破》のXマナに割り振れば、私は22ダメージを与えることができます。
実際に私は《踏み鳴らされる地》をタップインして6/6のサメを場に出し、《霊気の疾風》を構えました。このプレイの場合、《軍団のまとめ役、ウィノータ》や《災いの歌姫、ジュディス》を唱えられても生き残れますが、「サイクリング」かドローステップのドローで《発展/発破》を引く必要があります。
代わりに《爆発域》を出して9/9のサメを場に出すことも可能でした。その場合赤いアンセムを出されると敗北するものの、サメのサイズを3マナ分上げておくことで、7枚目の土地を引いたときに《ウーロ》を使って《発展/発破》を引くチャンスを1ドロー分増やせます。
赤いアンセムが手札にあれば、前のターンに2枚目の《敬慕されるロクソドン》の代わりにプレイしたと考えられることから、マイケルがアンセムを持っているとは思っていませんでした。彼の側からみると《神秘の論争》は《悲哀の徘徊者》から《ロクソドン》につなぐ動きも止められたし、アンセムが《霊気の疾風》を突破すれば1ターン決着が早くなったはずだからです。
マイケルがアンセムを持っていないと予想したとしても、14.29%の確率で引きます。直感的には7枚目の土地を引いてくることを前提とした1枚のドローが、デッキトップから引かれたアンセム、もしくは単に前のターンに使わなかったアンセムを回避するよりも大事だとは思えませんでした。
ですが、実際の確率はどうでしょうか?シンプルなシミュレーションのコードを書くと、6/6のサメを作ると17.04%で勝てて、9/9のサメを作ると19.36%で勝てる計算です。勝率はマイケルが25%の確率でアンセムを持っているときに均等になります。つまり、マイケルがなんらかの理由でもともと手札にアンセムを持っていた確率が12.50%ほどはないと、6/6のサメを出すほうがいいプレイングにはなりません。
マイケルがしっかり考えずにアンセムを唱えなかった可能性もないわけではありませんが、確実に8回に1回もそんなことはしないでしょう。上記を踏まえた結果、計算上は6/6のサメを作るのは誤ったプレイングだったのです。
ちなみにデッキの上から3枚は《夜群れの伏兵》、《再生》、《寓話の小道》でしたから、何をやっても負けている結果ではありました。
八岐の園
友人のジェイコブ・ナグロ/Jacob Nagroが、「MTGプレイヤーが大会で成功したら自分のデッキがいかに強かったかとか、どんなに上手くプレイしたかといったことについてしか語らないのが嫌いだ」と最近ツイートしていました。ある程度は私も同意できます。でも、そうだったとしてほかに何について語ればいいのでしょうか?
マイケルとの試合に話を戻すと、彼が《悲哀の徘徊者》、《敬慕されるロクソドン》2枚、土地3枚の手札をキープしていたことはここに書くに値します。彼のデッキには3ターン目《敬慕されるロクソドン》を可能にする《急報》4枚と《ラゾテプの肉裂き》3枚が入っているので、2枚ドローする間に引く確率は25.34%です。もしマイケルが引けなければ、私が大きなサメを2体出す時間を得て勝利します。
私がゲームに勝利できた並行宇宙が存在した確率も似たようなものです。マイケルが彼のコインフリップに負けるか、私が《発展/発破》を引いてコインフリップに勝てば、私が敗者側ブラケットの決勝まで進出していたのです。
MTGの大会では、こういったとても小さな可能性の連続の中で勝者が「ふるい」にかけられていきます。この特定の場面では運は私に微笑みませんでしたが、ほかの数えられないくらい多くの場面では私に微笑んでいたのです。大会全体を通して5回ほどしかマリガンしていないはずです。
でもそういった話は面白くないでしょう。この大会では私は運が良かったし、ほかの大会で運が悪かったこともあります。私にとっては17%のプレイングの代わりに、19%のプレイングをできた並行宇宙のために時間を使いたいですね。
鏡よ鏡
人々がMTGの実力について語るとき、プレイングやサイドボーディング、デッキ選択、メタゲーム予想などといった要素をあまり区別していません。彼らは実力を最高のプレイヤーなら持ち合わせている抽象的で実体のない不可分な一枚岩のようにとらえています。この論調は単に還元的であるだけでなく、明確に非生産的です。
MTGにおいて、優れた能力のほとんどは、プレイング技術を低下させてしまいます。たとえばメタゲームを完全に予想してそこで使うべき最高のデッキを判断できるなら、成功するためにプレイングが上手い必要はありません。当たる相手がほとんど有利なデッキになるはずですからね。相手の実力と比べることもやめてしまいがちです。
私にとってこの大会でもっとも幸運だったのは、引きがどれだけ良かったかとか何回サイコロに勝って先手を取れたかではなく、答えの出ているフォーマットで複雑なプレイングを要求する最善のデッキを使えたからです。
私の長所といえる能力は、ゲーム中の操舵とサイドボーディングです。逆に弱点は大差でデッキ選びですね。私の長所を活かして弱点を避けられるのは75枚すべて同じカードのミラーマッチしかない大会であるため、PTFはそれに近いものでした。
あなたが私に勝っても、それでも私が1番だ
サリー・ルーニー/Sally Rooneyの競技ディベートに関するエッセイ「Even if you beat me」を読むまで、どうして自分がまだMTGを続けているのかよくわかっていませんでした。まだまだMTGをやるのは楽しいですが、今は本を読んだり自転車に乗ったりほかのゲームをしていたほうが好きです。そして最終的に集計してみても、私がMTGで達成した成果はそれほどのものにはならないでしょう。
それと同時に、意味というのは自分で作るものです。私はやめるには上手すぎるし、時間とフットワークの軽さと機会があるうちはそれを証明し続けたいのです。PTFでひどい成績だったら、少なくともパンデミックが終わるまではMTGを休止していたでしょう。でも最難関の大会を制する機会が2つも得られたのです。
今は私が1番でないなら、1番になる。
いつも読んでくれてありがとう。そして覚えておいて欲しいのは、会う人すべてが厳しい戦いの中にいるから全員にやさしくして欲しいということです。
アレン・ウー (Twitter)