藤江×Ryuzo
先日、来期のライバルズ・リーグへ招待されている藤江 竜三がHareruya Prosへ加入することが発表された。熾烈な獲得ミシック・ポイント・レースを勝ち抜いた彼だけに、リーグ戦でもきっと活躍してくれるに違いない。
だが、オンラインを主戦場としているためか、我々はあまりにRyuzoというプレイヤーを知らない。我々の目の前にあるのはRyuzoが結果を残したデッキリストと、スターダムを駆け上がりライバルズ・リーグ招待を決めた、という事実のみだ。
果たして藤江 竜三はどのようなプレイヤーなのか。Hareruya Prosへの加入が決まり、齋藤からユニフォームを手渡された直後の藤江に、話を伺った。
藤江×晴れる屋
――本日はよろしくお願いします。藤江さんは珍しく、本名でMTGアリーナをプレイされているのですね。
藤江「実は訳がありまして。アカウント作成中にアリーナ名を記入する箇所をクレジットカードの氏名欄と勘違いしてしまったんです。意図せず本名で登録することになってしまいまして(笑)」
――まさかの登録間違いにより、“Ryuzo”が生まれたんですね。いきなりですが、ライバルズ・リーグ入りが決まったときのお気持ちはいかがでしたか。
【お知らせ】2020年移行シーズンのミシック・ポイント・ランキングが確定し、上位8名が2020-2021シーズンのマジック ・ライバルズ・リーグに招待されています。
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) June 27, 2020
日本からは熊谷陸選手(@seminiki)、藤江竜三選手(@fujie_ryuzo、@mtg07643192)がご招待!おめでとうございます!#mtgjp https://t.co/Fc2WJETNya
藤江「正式に発表があるまでドキドキしていたので、このツイートを見てホッとしました。これまでのポイントの積み重ねでゴールが見えていましたが、6月の成績が芳しくなかったので。計算上は足りているはず…それでも公式からの発表を待つ間は、正直生きた心地がしませんでした」
藤江「だからこそライバルズ・リーグ入りが決まった瞬間は嬉しかったですね。世界に挑戦できることが決まって」
――その後、晴れる屋からのスポンサードを受けてHareruya Prosとして活動していくことになりましたね。
藤江「以前動画に出演した際に、齋藤社長と話して考え方や人柄に魅力を感じました」
藤江「また、自分はオンライン中心でマジックをプレイしていたため、マジック業界についてあまりよく知りません。最大手である晴れる屋ならば、自分が知りたい情報も手に入り、ライバルズ・リーグで成功する確率がもっとも高くなると思いHareruya Prosへの加入を決めました」
――藤江さんといえばMTGアリーナを中心に活動し、オンラインから競技シーンへと参入しましたよね?
藤江「そうなんです。実はデッキをしっかり作ったのはこの動画が最初だったんです。小学生のときに作ったデッキや、年1回集まっているドラフト以外、なかなか実物のカードに触れる機会もありませんでした」
――今後はテーブルトップへの大会参加もありえそうですが。
藤江「いきなりハイレベルなテーブルトップの大会は敷居が高いと思っています。なので、大会前に10回くらいは店舗大会など参加する必要がありそうですね。段々と慣れていきたいと思っています」
アグロに対して勝率8割
――藤江さんについて知らない部分も多いので、いろいろ教えてください。まずは、ご自身ではどんなプレイヤーであり、またどういったところが強みだと思いますか?
藤江「自分はデータ分析をするほうだと思っています。カードの選択による勝率の変化までは細分化できていませんが、例えばマッチアップにおける先手後手の勝率変化は重要だと思います。対戦では盲目的に先手をとりがちですが、統計上マッチアップによっては後手のほうが勝率が高いこともありますから」
――確かに!“負け先”という言葉もあるくらいですし、対戦中は盲目的に先手を選びがちですものね。
藤江「先入観にとらわれ過ぎないことは大事にしています」
――藤江さんといえば、デッキ構築もかなり先鋭的ですよね?5月に開催されたミシック予選で使用された《火の予言》入りジェスカイルーカは記憶に残っています。
藤江「プレイヤーとしては0からデッキを作りたいと思っていますが、時間も限られているのでなかなかうまくはいきません。実際にスタンダードはサイクルが早いため、結果をだしたデッキをコピーすることは効率がよい方法だと思っています。自分は大会で結果を残したデッキを片っ端から使い、手に馴染むものを選択しています」
藤江「このときはボロスサイクリングの《繁栄の狐》を後手で対処できるカードを探していて、《火の予言》入りジェスカイルーカを見つけました。2ターン目にタフネス3を除去する必要があり、《火の予言》は除去とルーティングを一挙動で行えるテンポ面に優れたカードでした」
――アグロデッキに対して8割以上勝てるように調整していると伺いましたが、どうしてでしょうか。
藤江「速攻デッキに対して高い勝率を求めるのは、ミシック予選などで使用者が多いためです。上記のジェスカイルーカでは取りこぼさないようにメインボードに《火の予言》のほかに《轟音のクラリオン》と《空の粉砕》を計6枚、相手によって無駄になる《エルズペス、死に打ち勝つ》はサイドボードへと移してありました」
――アグロデッキをかなりメタっていますね。デッキ自体は手を加えることなく完全コピーでしょうか?
藤江「チューンすることも多いです。もっとも元のデッキを使いこんでみての判断になりますが、やはり自分で選んだカードが勝利に直結したり、相手をびっくりさせられたら嬉しいですから」
藤江「まだあまり知られてないときに《創案の火》から《願いのフェイ》をキャストしたときは、相当相手を驚かせたと思います。過去にMOでは《ハイドラの血》を使って、かなりレーティングを稼いだこともあります。相手の意表を突くカードを発見できると嬉しいですね」
見据える競技シーン
――藤江さんが考える競技シーンの魅力は何でしょうか。
藤江「強いプレイヤーと戦えることです。正直、相手のミスで勝つと申し訳ない気持ちがありますね。お互い死力を尽くし、ベストなゲームで戦って決着をつけたいと思っています。なので勝つこと自体は嬉しいのですが、相手のミスが分かってしまうと残念です。ランク戦をプレイしていると、ミシック帯で順位がついているプレイヤーでもミスはありますね」
藤江「その反面、ライバルズ・リーグは本当にうまいプレイヤーしかいないはず。だから対戦できること自体が嬉しいんです。最後に僕が勝つのが何よりなんですけどね(笑)」
――正々堂々としていますね。では、招待されたライバルズ・リーグや上位層に当たるマジック・プロリーグ(以下MPL)のメンバーで、一番気になる選手はどなたでしょうか?
藤江「八十岡 翔太選手ですね。過去に八十岡選手のMOレーティングを確認したことがあるのですが、2000を越えてたんですよ!」
――2000!?
藤江「先日お会いする機会があり、どうしたらそんなにMOレーティングが上がるのかと聞いたところ、『K値の高い大会で勝てばすぐにあがるから』と一言もらいました。自分ではちょっと考えられない数字だったので、圧倒されました。なので八十岡選手には注目してしまいます」
――ほかに注目している選手はいますか?
藤江「リーグ所属の選手ではないのですが、crokeyzですね。デッキの着想がよく、注目しています。彼がTwitterにあげるデッキは自分もコピーして使っています。彼のデッキに限らず、自分はいいと思ったデッキは片っ端から使っていきますので、デッキを作れるプレイヤーには自然と目が行きますね」
――なるほど。では、ライバルズ、そしてHareruya Prosとなった今、視聴者へ何を見せていきたいですか?
藤江「自分が勝つ姿を見せたいと1番に思っていますが、対戦相手は強いプレイヤーばかりなので勝てるかはわかりません。なのでハイレベルな対戦を届けられたらと思っています。何よりも自分自身が楽しみにしていますので」
家族の協力を得て
――お子さんが寝静まった後や朝活MTGで練習時間を確保されていると伺いましたが、ミシックインビテーショナルに向けて変化はありましたか?
藤江「今回は世界大会であることを伝えて、家族からの許しをもらい、練習時間を増やしています。早めに帰宅できる日もあるので、そうした際は練習に時間を費やしてますね。ただ、やりすぎて目が痛いです(笑)」
藤江「今はアリーナ以外は極力目を休めて集中できるように、必要以外で携帯も開かないようにしてます。また、筋トレで体力作りや体調も整えてますね」
――まさにアスリートですね。時間以外にも工夫はあるのでしょうか。
藤江「長時間プレイすることを考えれば、環境を整えることが何よりだと思っています。まず大きなモニターは必須です。さらにライバルズリーグの招待が決まってからすぐにゲーミングチェアを選定しています。最初はノートパソコンでプレイしていましたが背中を痛めてしまった経験があるため、長時間やるならば環境は何よりも大切だと思っています」
藤江「ミシックインビテーショナル当日は深夜から始まるので、長丁場の戦いとなります。一旦寝て休んでから、参加する予定です」
――ご家族の反応はどうでしょうか?
藤江「1日のイベントでもあり昼夜逆転することも説明し、了承してもらいました。そんなに長いんだと驚いていましたね。自分自身初参加のため、パフォーマンスを保てるかはわかりません」
藤江「ただし、テーブルトップだった場合、家庭や職務の関係上参加すること自体が難しかったかもしれません。そのため、オンライン大会には助かっています」
デジタルとアナログの共存
――オンライン大会のほうが参加しやすいとのことですが、ほかに利点はありますか?
藤江「これはMOと比べてになりますが、MTGアリーナは何よりも1ターンの持ち時間が決まっているのがいいですね。サクサク進みますし。始めたころはすぐに制限時間がきてしまい、プレイが間に合わないこともありましたが、今はよほど複雑な場面でもない限りは余裕をもってプレイできています」
藤江「ただし、アリーナだと制限時間の音を聞いてしまうとダメなんですよ。焦ってミスしてしまうこともあります」
――わかります!!目の前を導火線が過ぎるだけでも嫌!
藤江「便利な機能のはずなのに、逆に焦ってミスが誘発してしまう…はっきり言います、自分と同じく音を聞くことで集中できない方、音を切ることをオススメします」
――ほかにはプレイするうえでの工夫はありますか?
藤江「あとはモニターにふせんを貼っています」
――ふせん?
藤江「例えば相手の場に《覆いを割く者、ナーセット》が出たり、《墓掘りの檻》と『脱出』のように効果を打ち消してしまうカードがかち合いそうなときです。そうした際はふせんを貼るようにしてます」
藤江「早くプレイしようとするあまり、《覆いを割く者、ナーセット》や《夢を引き裂く者、アショク》の常在型能力を忘れて大惨事になることもありました。やはり目視確認できるようにしたほうがいいと思います」
藤江「今が旬のヒストリックだと《墓掘りの檻》は要注意ってふせんを貼りますね。ケアレスミスはもったいないですから」
藤江×マジック
――藤江さんにとってマジックとはどういった存在なのでしょうか?
藤江「趣味ですね、思いっきり楽しめる趣味です…そのうえで」
藤江「大人になって久しく忘れてしまった、本気の戦いができる場所、です」
――本気の戦いですか?
藤江「どうしても大人の世界って、遠慮みたいなものがあるじゃないですか。マジックにはそれがない分気持ちいいですよね。先ほども言いましたが、お互いベストを尽くし、ミスなくいい試合をして、そのうえで自分が勝つ。しかも対戦相手も超一流ばかりとなれば最高の気分です」
――最後になりますが、ミシックインビテーショナルへの意気込みをお願いいたします。
藤江「初めて世界大会へ参加するので、手動でのマッチングも初めてとなります。有名プレイヤーとの対戦も非常に楽しみにしています。参加するからには1位を目指して戦いたいです」
――おお!強気な発言ですね!私たちも藤江さんの優勝を祈っています。
藤江「統計上、厳しいことはわかっています。ラダーの対戦とミシックインビテーショナルへの参加者との対戦では、デッキ相性自体が覆りかねません。上手いプレイヤーはトコトン上手いと思っています」
藤江「でもだからこそ、1位を目指す意味もあると思っています。応援よろしくお願いします」
――自身初の世界大会である2020ミシックインビテーショナルへ、スゥルタイミッドレンジと挑んだ藤江。
1勝4敗で一日目敗退😣#MythicInvitational
— Ryuzo Fujie (@mtg07643192) September 10, 2020
現実は厳しく、初日敗退となってしまった。
しかし、これは藤江にとって競技シーン挑戦へのスタートに過ぎない。『ゼンディカーの夜明け』チャンピオンシップや『リーグ・ウィークエンド』など、世界中の強豪たちとの対戦はこれからも続いていくのだ。
是非ともHareruya Pros、藤江の活躍に注目していただきたい。