Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/09/17)
はじめに
みなさん、こんにちは。ファブリツィオ・アンテリ/Fabrizio Anteriです。
ローテーションの時期がやってきましたね!今こそリセットボタンを押し、実践の前に理論構築するところから再スタートするときです。今回は、私がどのような過程を踏んで新スタンダードの環境を予測したのかをお伝えしようと思います。
ここ1~2年、スタンダード用のセットはカードパワーが極めて高く、近年ではもっとも禁止カードが輩出された時期になったほどでした。そして今回の『ゼンディカーの夜明け』はこのカードパワーの上昇にリセットボタンを押すものとなっています。大きく興味をひかれるものは多いものの、セット全体のパワーは下がっています。
環境を去るカード
まずはローテーション落ちする重要なカードを見ていくことにしましょう。
白
ここ最近、白はもっとも冴えない色でした。そして、近年の数少ないウィニー戦略を肯定してきた《敬慕されるロクソドン》を失うことになります。それだけでなく、《追われる証人》《癒し手の鷹》《急報》《徴税人》までもが環境を去ります。
青
青が失うキーカードは《霊気の疾風》と《覆いを割く者、ナーセット》。《プテラマンダー》《幽体の船乗り》《紺碧のドレイク》《塩水生まれの殺し屋》《軽蔑的な一撃》《悪意ある妨害》《火消し》といった軽量のクリーチャーや優良な打ち消しが使えなくなります。
黒
黒は大きく痛手を負う色です。《どぶ骨》《漆黒軍の騎士》《忘れられた神々の僧侶》《真夜中の死神》《朽ちゆくレギサウルス》《ボーラスの城塞》《騒乱の落とし子》《見栄え損ない》《害悪な掌握》《肉儀場の叫び》《ドリルビット》など挙げればキリがありません。
赤
赤が失うなかで特に重要なのはおそらく《遁走する蒸気族》でしょう。そのほかにも、《軍勢の戦親分》《実験の狂乱》《ブリキ通りの身かわし》などの攻撃的なクリーチャーや、《焦がし吐き》《批判家刺殺》《舞台照らし》《主無き者、サルカン》《炎の一掃》がローテーション落ちします。
緑
緑からは多様なアーキタイプを定義していたカードが環境からいなくなります。具体的には《生皮収集家》《世界を揺るがす者、ニッサ》《夜群れの伏兵》《樹上の草食獣》《変容するケラトプス》《終末の祟りの先陣》《大食のハイドラ》《茨の騎兵》《アーク弓のレインジャー、ビビアン》《楽園のドルイド》《樹皮革のトロール》《枝葉族のドルイド》《クロールの銛撃ち》です。
多色
多色カードのなかで特筆すべきは《ハイドロイド混成体》と《波乱の悪魔》でしょう。しかし、ローテーション落ちする多色カードはこれらだけではありません。
白青
白黒
白赤
白緑
青黒
青赤
青緑
黒赤
黒緑
赤黒
3色
無色
最後に無色からは《墓掘りの檻》《人知を超えるもの、ウギン》《大いなる創造者、カーン》《不屈の巡礼者、ゴロス》がいなくなりますが、何よりも重要なのは《血の墓所》などの10枚のショックランドです。
ローテーション落ちのリストを作り始めたときは、まさかこんなに長くなると思っていませんでしたし、これでも私が見落としている重要なカードもいくつかあることでしょう。それだけ今回のローテーションが環境に大きな影響を与える証拠だとも言えますね。
環境に残るカード
スタンダードに残るセットには、これまで数多の活躍をしてきたカードがあります。
白
青
黒
赤
緑
多色 / 無色
これまで日の目を見なかった強力なカードはほかにもまだまだたくさんあるはずです。
ここ数か月のスタンダードで姿を見せてきた大半のデッキはもはや使えなくなりました。禁止告知によるところが大きいですが、キーカードのローテーション落ちもひとつの要因です。例外的に環境に生き残れるのはボロスサイクリング系とティムールアドベンチャーではないでしょうか。
マナベースの安定したカラーリング
デッキの軸になる、あるいは既存のアーキタイプに加わる強力な新カードをチェックする前に、新環境のマナベースがどうなるのかを見てみましょう。安定する色の組み合わせが見えてくるはずです。
ローテーション落ちしない多色土地としては、10種の神殿と5種のトライオームがあります。『ゼンディカーの夜明け』から新登場するのは両面土地ですが、10種すべてが収録されているわけではなく、6種しかありません。さて、これは何を意味するのでしょうか?
3色のカラーリングでもっともマナベースが安定しているのは、ティムール・ジェスカイ・アブザン・マルドゥでしょう。これらはトライオーム、2種の両面土地、3種の神殿を擁しています。《寓話の小道》や基本土地を使わずとも、使いやすい多色土地を24枚まで増やせるのです。
トライオームを有しているもうひとつのカラーリングはスゥルタイですが、両面土地が1種類しかありません。とはいえ、このカラーリングのマナベースは優秀だと言えるでしょう。
ナヤはトライオームこそありませんが、両面土地が3種類揃っています。アンタップイン土地を最大限に利用したいアグロ戦略にとっては特にありがたいマナベースになるはずです。
グリクシスとエスパーは両面土地が2種ありますので比較的安定していると思われます。神殿を追加すればさらに強固になるでしょうが、タップイン土地の枚数を増やせば安定性は向上する反面、当然テンポロスしやすくなります。
残るジャンドとバントは最弱のマナベースになります。トライオームもなければ、両面土地も1種しかありません。確かにマナベースを安定させる手立ては多色土地だけではありませんが、呪文を見る前からこれらのカラーリングは一歩遅れていると思います。
2色のカラーリングについてですが、今回の土地を使える6種のカラーリングは当然ながら安定性の面で有利になります。残る4種のカラーリングに関しては、狙ったタイミングで呪文を唱えづらくなりますから、特にアグロは苦しむことになるでしょう。ラクドス教団のみなさんにとっては悲報ですね。
しかしこう考えた人もいるのではないのでしょうか。呪文と土地の両面カードを使えばマナベースが安定するのではないかと。これらのカードには大きな可能性を感じますし、試してみたい気持ちは強くあります。ただ、マナベースの脆さを根本的に解消するようなものではないだろうと思います(改善するとは思いますが)。
デッキ構築にあたって呪文と土地の両面カードを土地として計算した場合、おそらく本来よりもタップイン土地の枚数を大幅に増やすことになるはずですし(神話レアの土地はライフを3点支払えばアンタップインしますが、そう安いコストではありません)、これらの土地はあくまで単色の土地です。反対に呪文として考えて採用してみても、デッキのパワーを低下させることになるでしょう。これらのカードの呪文のモードはあまり強くない、あるいは状況を極端に選ぶものだからです(いざという時に土地として使える柔軟性の代償ですね)。
新セットのメカニズムを使った2つのデッキ
さて、新セットの呪文に目を通してみると、そこには《王冠泥棒、オーコ》も《むかしむかし》も《時を解す者、テフェリー》も《自然の怒りのタイタン、ウーロ》もいません。このセットはバランスがとれていて、デッキの中心になる明確なパワーカードがないのです。その代わり、「パーティー」や「上陸」といった面白いメカニズムが収録されています。
赤単アグロ
パーティーデッキの理想形を探すのには一定の時間を要することでしょう。色やクリーチャータイプを増やす/減らすことにはそれぞれリスクとリターンがあります。1~2種のパーティークリーチャーがいれば十分な見返りをもたらすものもあれば、4種すべてのパーティークリーチャーを強く要求するようなものもあります。
個人的には、クリーチャータイプと引き換えにカードパワーの低いクリーチャーを採用したパーティー特化のデッキよりは、パーティークリーチャーからある程度のボーナスが得られる強固なデッキを構築のほうが好みですね。ひとつ例を示しましょう。
唯一《密行する案内人》は積極的に採用したクリーチャーではありません。単体では非常に残念なものですよね。ただ、1マナ域を増やしたかったのと、これ以上《むら気な猛導獣》を増やしたくなかったという事情があります。
少し話は逸れますが、《むら気な猛導獣》は1ターン目に展開して攻撃しないという選択肢が常にあることを覚えておきましょう。必要ならばブロッカーに回せますし、マナカーブ通りにクリーチャーを展開していって、《エンバレスの宝剣》を唱えたいターンに攻撃させることもできます。その効果で《髑髏砕きの一撃》を手札にバウンスできれば、素晴らしいシナジーになりますね。
《秘宝の斧》は面白い装備品です。戦士クリーチャーのサイズを大きく強化するだけではなく、《熱烈な勇者》ならばマナコストなしで装備できます。さらには《火刃の突撃者》は速攻を得て、死亡したときに3点のダメージを与えられますから、ゲームが長引いても脅威になるのです。
そのほかのカードについては、環境に残った屈指の強カード《エンバレスの宝剣》を意識した採用になっています。《献身的な電術師》は『ゼンディカーの夜明け』のなかでも特に注目の1枚で、《炎樹族の使者》に似た働きをします。理想的な動きをすれば3ターン目に16点を盤面に追加できますし(後手で7枚をキープし、《献身的な電術師》を4連続で唱えてから《砕骨の巨人》を展開した場合)、《踏みつけ》や2マナ域を後続として唱えるだけでも十分に強いでしょう。
グルール上陸
続いてご紹介したいコンセプトは、グルール上陸です。先ほどと同様、「上陸」を最大限に押し出す必要はないと思います。
4 《森》
4 《寓話の小道》
4 《岩山被りの小道》
2 《奔放の神殿》
2 《エンバレス城》
-土地 (20)- 4 《アクームのヘルハウンド》
4 《僻森の追跡者》
2 《むら気な猛導獣》
4 《山火事の精霊》
4 《終わりなき踊りのガリア》
4 《水蓮のコブラ》
4 《カザンドゥのマンモス》
3 《ケルドの心胆、ラーダ》
4 《探索する獣》
-クリーチャー (33)-
《むかしむかし》が禁止されてから、グルールアグロはマナベースの問題にずっと苦しんできました。緑も赤もダブルシンボルを要求され、たいていはアンタップイン土地が求められ、かといって土地を引きすぎることも望ましくなかったのです。だからこそ、今回の両面カードと「上陸」クリーチャーがこのアーキタイプで輝きます。
土地としてプレイできるものは最大で28枚あり、ライブラリートップから土地をプレイできる《ケルドの心胆、ラーダ》や追加のドローをできる《終わりなき踊りのガリア》もいます(土地だろうと呪文だろうと受け入れ態勢ができるわけですね)。
《生皮収集家》が抜けた穴は大きいものの、《僻森の追跡者》は人間でないクリーチャーが33体いるデッキならばそれに近しい働きをすることでしょう。そしてマナ域の最後には脅威的な《探索する獣》と《エンバレスの宝剣》が待ち構えます。
《ショック》や《砕骨の巨人》といった除去がもう少しあったほうがいい可能性はありますが、環境が始まって数日のうちは攻めに特化させたいですね。
おわりに
ポテンシャルを秘めたアーキタイプ、メカニズム、カードはほかにもあることでしょう。変容、サクリファイス、キッカー、脱出、装備品、ならず者、クレリック、《創造の座、オムナス》、《影さす太枝のニッサ》、《忘却の虚僧》、 《フェリダーの撤退》、《アガディームの覚醒》、《スカイクレイブの亡霊》などなど。
《自然の怒りのタイタン、ウーロ》が再び環境を支配するかもしれませんが、この数週間のスタンダードがどう発展していくのか楽しみに見守りたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ファブリツィオ・アンテリ (Twitter)