Translated by Nobukazu Kato
(掲載日 2020/09/24)
はじめに
2020ミシックインビテーショナルの調整を行うため、俺はセバスティアン・ポッツォ/Sebastian Pozzoとマティアス・レヴェラット/Matias Leverattoとともに、何名かのプレイヤーを合同調整に誘い、デッキ/カードについての意見交換や情報共有するDiscordのサーバーをたてることにした。
そして、最終的にこのメンバーが集まった。
調整は各々がお気に入りのデッキを回す形で始まった。調整過程での発見をDiscordで共有し、他のメンバーと意見を交わしたり、彼らのアイディアを試したりすることが主たるチームの活動だ。
こうしてチームとして試したデッキは以下の通りになった。
俺自身が最初に使用したのはラクドス《戦慄衆の秘儀術師》(以下、ラクドスアルカニスト)。デッキパワーは非常に高いが、プレイング/サイドボーディングに慣れが必要だという印象だった。このデッキに関してひとつ心配なのは、大会参加者がどれだけ墓地対策を採用してくるのかだ。
調整の合間を縫ってスゥルタイもランクマッチで回していた。相手のデッキリストを知らずして、ラクドスアルカニストのサイド戦を戦うのは困難だからだ。
この2つのデッキに加えてゴブリンも試したが、あまり好きになれず、結局ラクドスアルカニストを選択することにした。参加者たちの意識がゴブリンや《集合した中隊》デッキに向くことを期待しての選択だ(これらのデッキに意識が向いていれば《虚空の力線》よりも《墓掘りの檻》の採用率が高くなることが予想され、後者であればラクドスアルカニストにとって断然戦いやすくなる)。
ラクドスアルカニストが強いワケ
《思考囲い》と《戦慄衆の秘儀術師》のコンビは極めて強力だ。《思考囲い》で手札を破壊できるため、相手からすれば後続の《戦慄衆の秘儀術師》に対して除去を2枚持っていなければならないし、仮に2枚持っていたとしても、プランを変更して相手の脅威を手札から捨てさせればいい。
デッキ内の呪文は1マナのものが多いため、1ターンの間にインパクトのある動きを複数回行いやすい。また、相手の手札から除去をすべて吐き出させられるデッキであるため、《夢の巣のルールス》が生き残りやすく、非常に有効に使える。
他のフォーマットに存在するドレッジと同じく、このデッキは墓地から唱えられるインスタント/ソーサリーや、《立身/出世》や《夢の巣のルールス》で墓地から戦場に戻せるクリーチャーを”ドロー”することができる。《死の飢えのタイタン、クロクサ》はたった1体の《縫い師への供給者》で「脱出」条件を満たせる。チーム内では《縫い師への供給者》のことを“足の生えた《Ancestral Recall》“なんて呼んでいたね。
デッキの調整
調整が始まったばかりのころ(8月25日)、マティアスは上記の構成のラクドスアルカニストで抜群の成績を出し始め、俺は興味を引かれた。
確かに彼はこの手のデッキを握らせたら強いプレイヤーであるのは承知していたが、時間が十分にあれば練習して上手く回せるようになる自信はあった。
6 《山》
4 《血の墓所》
4 《竜髑髏の山頂》
1 《ロークスワイン城》
1 《ファイレクシアの塔》
-土地 (22)- 4 《魔王の器》
4 《縫い師への供給者》
4 《戦慄衆の秘儀術師》
4 《死の飢えのタイタン、クロクサ》
-クリーチャー (16)-
3 《削剥》
2 《群れネズミ》
2 《塵へのしがみつき》
1 《無垢の血》
1 《リリアナの敗北》
1 《軍団の最期》
1 《アングラスの暴力》
1 《夢の巣のルールス》
-サイドボード (15)-
上記のデッキリストのように、《若き紅蓮術士》を一切採用せず、《魔王の器》をフル投入したリストをいくつか試してみたが、1ゲーム目は強くても墓地対策に脆いデッキになってしまっていた。
「1ゲーム目は弱くなってしまうかもしれないが、対策が投入されてくる2ゲーム目以降でも戦いやすい構成にすべきだ」というセバスティアンのアドバイスに従い、《魔王の器》は1枚だけに抑えることにした。1枚だけ採用したのは、運よく《縫い師への供給者》で墓地に送れたときに、3マナと1枚のカード消費だけで空から速攻で7点ダメージを与えられる可能性を残すためだ。
《無垢の血》は長らく採用していて、その強さは確かなものだと感じていた。同様の役割を期待できる《巻き添え被害》に挑戦したこともあったが、《灯の収穫》を試したときに「これが正解だ」という確信が得られた。この呪文枠に求める役割は「指定した脅威の除去」であることがほとんどだからだ。
その除去をたった1マナで実現できたり、除去することで《戦慄衆の秘儀術師》の攻撃を可能にすることには大きな意味がある。
議論を呼ぶ箇所はいくつかある。それはマナベースであったり、《ウーロ》対策の《塵へのしがみつき》であったり、《安らかなる眠り》《虚空の力線》の裏をかくサイドカードとして《熱烈の神ハゾレト》の代わりになる《群れネズミ》であったり。
しかし、最終的に《ウーロ》に対しては専用のカードを用意せず、「脱出」された分だけ除去することにした。結果的にこの狙いは上手くいったね。
3 《山》
3 《寓話の小道》
4 《血の墓所》
4 《竜髑髏の山頂》
1 《ロークスワイン城》
-土地 (23)- 4 《縫い師への供給者》
1 《魔王の器》
4 《戦慄衆の秘儀術師》
4 《死の飢えのタイタン、クロクサ》
4 《若き紅蓮術士》
1 《忘れられた神々の僧侶》
-クリーチャー (18)-
3 《強迫》
3 《魔女の復讐》
2 《削剥》
1 《マグマのしぶき》
1 《レッドキャップの乱闘》
1 《アングラスの暴力》
1 《夢の巣のルールス》
-サイドボード (15)-
大会レポート
ではここからは大会当日について振り返っていこう。
ラウンド数 | プレイヤー名(使用デッキ) | 対戦結果 |
---|---|---|
1回戦 | ジャン・フェルフュールドンク (ジャンドサクリファイス) |
2-1 |
2回戦 | ヴィクトル・ギエム・ロレ (緑単アグロ) |
2-1 |
3回戦 | ロナルド・ミュラー (赤単ゴブリン) |
2-0 |
4回戦 | アイザック・クルト (ラクドスゴブリン) |
2-0 |
5回戦 | ブラッド・ネルソン (スゥルタイミッドレンジ) |
2-1 |
6回戦 | ノア・ウォーカー (赤単ゴブリン) |
2-0 |
7回戦 | イヴァン・フロック (ジャンドサクリファイス) |
1-2 |
8回戦 | イーミヌ・ジー (ラクドスアルカニスト) |
2-1 |
9回戦 | グジェゴジュ・コヴァルスキ (ジャンド城塞) |
2-0 |
10回戦 | クリス・カヴァルテク (ラクドスゴブリン) |
2-0 |
11回戦 | デイヴィッド・スタインバーグ (ジャンドサクリファイス) |
2-0 |
12回戦 | クリストファー・レオナルド (緑単プレインズウォーカー) |
2-0 |
13回戦 | セス・マンフィールド (スゥルタイミッドレンジ) |
2-0 |
14回戦 | ガブリエル・ナシフ (ジャンドサクリファイス) |
ID |
スイスラウンド (Day1~2)
この大会の全デッキリストはここから見られる。
各ラウンドの対戦相手が採用していた墓地対策の枚数をまとめてみた。
ラウンド数 | 墓地対策 |
---|---|
1回戦 | 《虚空の力線》 3枚 |
2回戦 | 《墓掘りの檻》 3枚 |
3回戦 | 《虚空の力線》 4枚 |
4回戦 | – |
5回戦 | 《墓掘りの檻》 2枚 |
6回戦 | 《ひっかき爪》 2枚 |
7回戦 | 《漁る軟泥》 2枚 |
8回戦 | 《塵へのしがみつき》 3枚 |
9回戦 | 《漁る軟泥》 3枚 《運命の神、クローティス》 1枚 |
10回戦 | – |
11回戦 | 《漁る軟泥》 1枚 《魂標ランタン》 1枚 |
12回戦 | 《漁る軟泥》 1枚 《墓掘りの檻》 1枚 《トーモッドの墓所》 1枚 |
13回戦 | 《墓掘りの檻》 1枚 |
14回戦 | 《漁る軟泥》 1枚 《虚空の力線》 2枚 |
スイスラウンド全体を通して敗北したのはたった6ゲームだった。これは素晴らしい結果で、2位のプレイヤーと勝ち点差6をつけてスイスラウンドを終えた。デッキは最高の働きを見せてくれたが、《虚空の力線》を採用した相手と3度しか対戦せず、しかも初手にそれがあったゲームは1度もなかった事実は認めなければならない。このデッキが機能不全に陥ることはなかったんだ。
順位 | プレイヤー名 | 勝ち点 |
---|---|---|
1位 | ルイス・サルヴァット | 37点 |
2位 | ガブリエル・ナシフ | 31点 |
3位 | デイヴィッド・スタインバーグ | 31点 |
4位 | グジェゴジュ・コヴァルスキ | 31点 |
5位 | 行弘 賢 | 31点 |
6位 | マシュー・ナス | 31点 |
7位 | ルイス・スコット=ヴァーガス | 30点 |
8位 | セス・マンフィールド | 30点 |
最終的なスタンディングは上記のようになった。1位で通過したため、トップ8の各マッチを先行で始められる権利を獲得した。ヒストリックのように高速の環境ではとても重要なことだ。
配信に映ることはなかったが、ノア・ウォーカー/Noah Walkerとグジェゴジュ・コヴァルスキ/Grzegorz Kowalskiとのマッチでは、観かえしたいほどの素晴らしいゲームが2つあった。
ノア戦の1ゲーム目、こちらの戦場にはクリーチャーがおらず、手札に《若き紅蓮術士》が1枚のみ、ライフも1点しかない状況だった。対して、相手の戦場には《ゴブリンの戦長》と3体の1/1ゴブリントークン。ここで俺は《立身/出世》をトップデッキし、墓地の《戦慄衆の秘儀術師》を戦場に戻し、速攻を付与して《魔性》を墓地からキャスト。この過程でエレメンタルトークンが3体並び、その数ターン後に勝利をものにした。
グジェゴジュ戦の2ゲーム目では、すでに機能し始めていた《運命の神、クローティス》によってライフは風前の灯火になっていた。しかし、《若き紅蓮術士》が相手の攻撃をいなしてくれていたため、最終ターンに全軍を突撃させ、相手のライフを9点まで落すことに成功。
そして《死の飢えのタイタン、クロクサ》を手札から2回、《夢の巣のルールス》の効果で墓地から1回、合計3回唱えてちょうど9点のダメージで勝利した(相手の場には《悲哀の徘徊者》がいたため戦闘を介した絆魂による回復はできず、《運命の神、クローティス》に対してライフが2の状態だった)。
トップ8 (Day3~4)
3日目の土曜日もかなりエキサイティングな日になった。平凡な手札を欲張ってキープした1ゲーム目は落したものの、2~3ゲーム目を取り返してセス・マンフィールド/Seth Manfieldに勝利し、希望をつないだ(動画のリンク)。
1ゲーム目はこの初手をキープした
グジェゴジュとの1ゲーム目は大接戦だった。彼の《集合した中隊》がハズレと言っていいほどのものであったため、逆転できるという感情が生まれてしまい、返しのターンにトップデッキされるものを一切想定せずに全クリーチャーで攻撃してしまった(このシーンをよく覚えてないという人はぜひこのゲームを観て欲しい)。
万が一のために備えて、《縫い師への供給者》をブロッカーに回すのが正解だっただろう。幸い、この後の2ゲームに勝利して駒を進めることができたが、実に手ごわい相手だった。
勝利者側ブラケットの最終戦の相手はガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassif(動画のリンク)。違う選択をしてれば勝っていたであろう選択肢はいくつもあった。小さなミスによって彼に2ゲーム目を献上してしまったのはフラストレーションがたまることだった。彼は持ち時間を大きく消費していたため、2ゲーム目を落していれば3ゲーム目を勝ち切るだけの時間はなかっただろう。
とはいえ、Twitterで言ったように、あのマッチでよりいいプレイをしていたのは彼のほうであったし、普通なら3ゲーム目の時間を確保するために投了していたであろう状況を乗り越えて勝利をつかんだんだ。
そして最後はセスとの再戦だ(動画のリンク)。4日目は運が自分に味方しなかった。彼はサイドボードに《墓掘りの檻》を1枚しか採っておらず、相性は非常に良かったはずだ(しかも《墓掘りの檻》は彼自身の《ウーロ》の「脱出」を止めてしまう。事実トップ8の初戦ではそれが原因で1ゲーム落としている)。しかし彼のプレイングは素晴らしかったし、実力が確かなプレイヤーに適切なドローをされてしまったら、彼らを止める術はない。
こうして決勝に進出した2人に敗北し、3位に終わった。しかし、グランドファイナルの出場権利を獲得できたし、次期シーズンへの大きなモチベーションになった。これだけハイレベルな大会で戦える機会に恵まれたことに本当に感謝しているし、グランドファイナルで勝つために全力を尽くしたい。期待を胸に新シーズンを始めるさ!
おわりに
ここまで読んでくれてありがとう。サポートしてくれている晴れる屋には感謝したい。人々の思いやりが深まり、世の中のすべてがいい方向に向かいますように。
今後の配信では、英語で会話する日を設ける予定だから楽しみにしていてくれ!