『ゼンディカーの夜明け』リミテッドの有効な戦略

Matti Kuisma

Translated by Nobukazu Kato

原文はこちら
(掲載日 2020/09/30)

はじめに

読者のみなさん、こんにちは。

私はリミテッドをやり込むことが多いが、正直なところ『基本セット2021』にはまったく興味を惹かれなかった。そのため、夏の間は主に構築戦に終始していた。

しかし、とうとう『ゼンディカーの夜明け』が発売された今、私はほとんどリミテッドしかしていない。今回のリミテッド環境はかなりいい出来であるように思う(もっとも、空腹のときこそ食べ物が美味しく感じるのと同じ理屈かもしれないが)。

また、スタンダードがおそらく《自然の怒りのタイタン、ウーロ》の禁止では大した変化はないであろうことを踏まえると、リミテッドは一層魅力的に感じられる。もし『ゼンディカーの夜明け』リミテッドをプレイしたことがないという人がいたら、遊んでみることを強く推奨したい

この記事では、環境を定義し他の環境との差別化となっている特徴的なメカニズムやカード同士の関わり合いを取り上げ、それらがカード評価やドラフト時の青写真にどう影響してくるのかを解説する。

スペルランドとキッカー

オンドゥの転置髑髏砕きの一撃

『ゼンディカーの夜明け』のメカニズムのなかでも、もっとも特徴的なのは《オンドゥの転置》《髑髏砕きの一撃》などのスペルランドだ。これらのカードの正式名称は「モードを持つ両面カード」とかなんとかだった気がするが、個人的には「スペルランド」のほうがはるかに語呂がいいのではないかと思う。

このスペルランドはリミテッドにおいて史上最高のデザインのひとつだ。私がこの環境に惚れ込んでいる最大の理由でもある。

以前の記事において、このようなカードが強力である理由を詳細に解説している。スペルランドが間もなく印刷されることを知らない状態で私は土地と呪文の分割カードについて言及していたことになるね!

常々考えてきたことであるが、リミテッドの最大の問題点は、マナベースがあまりにも不安定であり、マナスクリューやマナフラッドで勝敗が決してしまう試合が多いことだ。この2つの問題に対してスペルランドは大いに役立つ

リミテッドにおいて昔からありがちなマナベースは、片方の色の基本土地を9枚、もう一色の土地を8枚にした17枚構成だ。これらの数字は安定してデッキを回すには心もとない。ここでスペルランドを採用すると、各色の色マナ数をたとえば10ずつ用意できる。しかも、終盤戦で役割のない基本土地の数を抑えられるため、マナフラッドへの耐性も高まっているのだ。

タジームの乱動魔道士

マナフラッド問題に対して有効なメカニズムは環境にもうひとつある。「キッカー」だ。《タジームの乱動魔道士》は2ターン目に出しても悪くなく、12ターン目においても最高のドローのひとつになる。私が大いに愛しているカードだ。

この2つのメカニズムが組み合わさると、私のリミテッド史上で最高にマナフラッド/スクリューに耐性があると言っていいほどのデッキができあがる。だからこそ、プレイしていて楽しい。先述の記事から言葉を借りるとすれば、『ゼンディカーの夜明け』リミテッドは最適パフォーマンスゾーンがかつてなく広い環境だ。

私の経験上、スペルランドの理想的な採用枚数は6枚ほどで、そこに基本土地を14~15枚加える。たまたま強力なスペルランドが異常な枚数手に入った場合は、採用枚数をさらに増やすだろうが、そんなことはめったに起きないだろう。

たいていは基本土地が15~16枚の構成になってしまうが、スペルランドがいかに多く手に入ろうとも、基本土地の枚数を14未満にしたいとは思えない。この環境ではテンポが非常に大切であり、すべての土地がタップインあるいはアンタップインに3点のライフが必要なようではアグロに確実に咎められてしまう。また、スペルランドの呪文は通常の呪文に比べてやや割に合わなかったり、状況を選んだりする。そのため、あまりにも多くのスペルランドを入れてしまうと、今度はデッキ全体のパワーが低下し始めてしまうのだ。

ゾフの消耗歌狂いの裏切り

理想を言えば、スペルランドは呪文側が終盤に有効で、土地側が序盤に有効であるものが望ましい。これまでの経験から言うと、《ゾフの消耗》《歌狂いの裏切り》は本来よりも遅めの順手まで流れてくる。これは理解できなくもない。呪文側はマナコストが重く、土地としてプレイできる選択肢がなければ決して入れたくないものだろう。だが、ゲームのほぼあらゆる時点でいずれかの側が有効であるため、この2枚は思う以上に機能する。

Jwari Disruptionスカイクレイブの僧侶

反対に、《ジュワー島の撹乱》《スカイクレイブの僧侶》といったスペルランドの評価は世間一般よりもやや低い。語弊のないように言っておくが、これらのカードも序盤の呪文と土地の比率を整えるものとしては喜んで採用する。ただ、どちらの側も序盤に有効で終盤に弱くなるスペルランドよりは、いずれかの側が序盤に有効でもう一方の側が終盤に有効であるもののほうが圧倒的に好ましい

上記の2枚については、ほぼ土地として換算し、たまに初手のバランスを整えてくれるメリット付きのものとして捉えている。これは逆もまた然りだ。《ハグラの噛み殺し》などは呪文として換算し、ときおりマナ基盤を整えてくれるメリット付きのものとして捉える。そして、大半のスペルランドはこれらの中間に位置している。

火砕のヘリオンカザンドゥの踏みつけ

ここでひとつ付け加えておくと、終盤で真価を発揮するスペルランドを採用している場合、《火砕のヘリオン》《カザンドゥの踏みつけ》などの価値が大幅に上昇する。序盤はスペルランドを土地としてプレイしておき、終盤にそれを手札に戻して呪文として唱えられるのはただただ素晴らしい。最初は《火砕のヘリオン》はデッキの隙間を埋めるようなカードだろうと思っていたが、今となっては赤のデッキを組むときに喜んで1~2枚を入れることがほとんどだ。

ただ、そのスペルランドにもひとつデメリットがある。サイドボーディングへの影響だ。たとえばスペルランド6枚と基本土地14枚の構成になったとすると、ドラフトでピックした/シールドのカードプールにあったカードの内26枚をデッキに含めることになる。これはつまり、サイドボードに置いておく枚数が減るということであり、おそらくサイドボードに残ったものは比較的弱いものになるだろう。ここまでサイドボードを使わなかった環境は過去になかったのではないかと思う。

これは特にシールドに当てはまる。事実、各ラウンドで最大でも1~2枚しかサイドインしないようなカードプールに何度か巡り合った。そして、毎回サイドインするようなカードはそもそもメインデッキに入れるべきものだったのだ。

溶鉄破壊れた翼

この環境に存在するほとんどのカードは、特定のマッチアップだけで有効なものではなく、広く一般に使いやすいものになっている。そのため、相手の脅威の対処に適したカードを使うために色替えしたいというような状況にはいまだに巡り合ったことがない。『イコリア:巨獣の棲処』や『テーロス還魂記』のリミテッド環境ではもっと頻繁に色替えを行っていた。

ただ、赤や緑をドラフトすることになった場合は、《秘宝の薬瓶》《秘宝の護符》などを破壊するサイドボードとして《溶鉄破》《壊れた翼》の点数を上げてピックするようにしている。

アタック vs ブロック

このセットには『ゼンディカー』からの再録メカニズムである「上陸」が存在している。スペルランドが最愛のメカニズムであるのに対し、「上陸するたびにクリーチャーが+X/+X修正を受ける」というメカニズムは個人的にもっとも好きになれないもののひとつであると言わざるを得ない。

梢のベイロス

《梢のベイロス》のように攻撃に向いているがブロックは得意ではないクリーチャーが多い場合、ゲームはダメージレースになることが増え、相互干渉は減る傾向にある。また、「上陸」は土地詰まりをいつも以上に罪深いものにしてしまう(今回のセットでは土地の平均枚数が多いため、この問題は軽減されているが)。

グロータグの虫捕り異常な怒り

攻め手に回ることを肯定しているのは、なにも上陸クリーチャーだけではない。攻撃しているときは素晴らしいが、守りに入ったときには一気に頼りなくなってしまうのは《グロータグの虫捕り》も同様である。トランプルを持っているため《異常な怒り》などのコンバットトリックと非常に相性がいい。《グロータグの虫捕り》をブロックしてそれに強化呪文を使われようものなら、たいていは4点近いダメージをもらうことになる。

《天使心の守護者》《カビーラの先導》《戦慄ワーム》《縄張り持ちの大鎌猫》《隠然たる襲撃》《大群への給餌》《猛炎の連射》など、攻め手に回っているときに効力が大きく増すカードはほかにもある。

乱動の噴火同期した魔術

今となっては今環境の最強カラーが青であるのは広く知られていると思うが、赤は遜色ないと思う。赤のアグロはライフレースを完走できる傾向にあり、《乱動の噴火》《同期した魔術》《マラキールの血僧侶》《火砕のヘリオン》といったとどめの一撃も多く揃っている。そのため、身構えてロングゲームを目指そうとするのは、いつも以上に難しくリスクが高い。

マラキールの血僧侶略奪する破戒僧

白黒もテンポよく押していき、盤面がこう着したら《マラキールの血僧侶》《略奪する破戒僧》で残りの数点をドレインすることができる。

質 vs 量

上陸・スペルランド・キッカーを話題にしてきたところで、たいていこの環境ではカードの質よりも量のほうが大切であることを伝えておきたい。

精神流出

量のほうが重要であるため、2枚ハンデスである《精神流出》はそのほかの環境よりも強くなる。ほかの環境であれば手札にあまった土地を捨てることは大した痛手ではないが、この環境では訳が違う。スペルランドの存在によってそもそも手札に余分なカードがある状況は減るし、土地は「上陸」というわかりやすい使い道がある。マナを存分に伸ばしておけば「キッカー」を持つ呪文がすべて「キッカー」で唱えられるようになる。

こと《精神流出》は環境内でのシナジーを有している。「切削」効果は《ニマーナの忍び歩く者》などのならず者に必要なものであるし、ライフ回復効果は《略奪する破戒僧》などのクレリックの効果を誘発させる。

占術を持つカードは、これと逆のことが言える。占術の主な使い方は、余分な土地をライブラリーの底に送ったり、マナスクリューから脱出する手段を掘り当てたりすることだが、この環境ではこれらの必要性が低くなっている。

優秀なカード間では、終盤になってもカードパワーに大きな差が生まれないことがほとんどだ《タジームの乱動魔道士》のように有用な能力を持っているものもあるため、10ターン目に2マナ域を引きたいと思うことはよくある。ボムレアも対処可能なものがほとんどであり、単体で勝てるカードを探してライブラリーを掘り起こしたいということもめったにない。

それとは対照的に、『テーロス還魂記』リミテッドで《夢さらい》《キオーラ、海神を打ち倒す》がデッキに眠っている場合は、必至にそれらを探して占術していくことだろう。

部族 vs パーティー

スカイクレイブの秘儀司祭、オラー訓練された戦術

そして『ゼンディカーの夜明け』の主要なメカニズムのなかで最後に取り上げるのは、部族とパーティーのシナジーだ。本セットには主な部族が4つある。クレリック、ローグ、戦士、ウィザードだ。そしてこれらの部族が組み合わさることで、《訓練された戦術》のようなカードに必要なパーティーシナジーが形成される。

この環境における究極のデッキは、全体としてまとまったときの部族デッキだろう。適切なシナジーと部族でまとめる意味となるカードを備えていれば、その見返りは青天井だからだ。とはいえ、部族デッキは過大評価されていると思うし、実際にドラフトできることはほとんどない

探検隊の勇者ゴーマ・ファーダの先兵

部族デッキの弱点は、シナジーを持つカードが大量に求められ、そしてそれらが卓に多く回らないという点だ。たとえば戦士族デッキを目指したものの、十分な戦士がピックできなかった場合、《探検隊の勇者》《ゴーマ・ファーダの先兵》はそのテキストがかすみ始める。リターンは大きいが、リスクもまた高いのだ。完成度の高い部族デッキを組み上げるには、ドラフトで強運に恵まれなければならない。おそらくシールドにおける幸運よりもはるかに大きな幸運だろう。

エメリアの隊長

また、デッキ内のクリーチャーの半数が共通のクリーチャー・タイプを持っていると、パーティー関連のカードが弱体化してしまう《エメリアの隊長》《グロータグの虫捕り》を非力な2/2よりも大きなサイズにするのは困難だろう。

こういった理由から、まずは各種のパーティーシナジーを目指し、部族が明確に空いていない限りは純粋な部族カードをあまり気に留めないほうがはるかに簡単かつ安全だろうと思う。部族をサブテーマに据えて、単体でも使いやすい/サポートを多く必要としない部族カードだけを使うことはよくある手法だが、部族に特化したデッキを組もうとするとなかなか上手くいかない。

探検隊の占者献身的な電術師

私が評価している部族カードの代表例は《探検隊の占者》だ。単体でも無理なく使うことができ、ときおり上乗せでボーナスを得られることがある。もうひとつ例をあげるとすれば《献身的な電術師》であり、赤アグロのキーパーツでもある。2ターン目にクリーチャーを出しておき、3ターン目に《献身的な電術師》から2マナ域を追加する動きは王道の勝ち筋だ。

ある程度バランスよくパーティー部族を散らして採用できていれば、戦場に異なる2つの部族を並べることは容易であり、その時点でパーティー関連のカードは十分なパワーを引き出せる。たとえば《グロータグの虫捕り》は3/2となって攻撃できるし、《エメリアの隊長》は3/3として戦場に出る。これだけでも十分強い。それなりの頻度で3つの異なる部族が並ぶことはあるし、そうなればパーティーカードの強さは疑いの余地がなくなる。運よくフルパーティが揃えば、カードパワーは桁外れだ。

人生と同じで、多少大きな見返りを期待して必至に働くぐらいなら、私は少ない労力でまともな給料をもらいたいね。

恐れなき雛石造りの荷役獣

パーティ部族に属さないクリーチャーを使うなら、そのほかの点では非常に効率的であるものを選ぼう。関連するクリーチャー・タイプを持っていないものを入れれば、そのほかのカードの使い勝手が悪くなるからだ。それとは反対に、《石造りの荷役獣》はデッキ内の多くのカードを強化するものであり、色の組み合わせによっては特定のパーティ部族にアクセスしづらいため、このアーティファクトクリーチャーは予想以上に優秀なカードである。

パワー vs タフネス

最後にもうひとつ今環境を定義する特徴に言及しておこう。それは、タフネスよりもパワーの数値が高いクリーチャーで溢れる環境だということ。この特徴からいくつかのことが導かれる。

崖崩れの魔術師乱動の噴火

まず、タフネスを参照する除去はいつも以上に機能する。具体的には《隠然たる襲撃》の-1/-1修正や、《崖崩れの魔術師》の1点ダメージなどだ。ほかの環境と同じく3点火力の《乱動の噴火》は今回も最高のコモンだが、この環境では「キッカー」せずとも日常的に4マナ域を対処している!

弱者成敗

他方、《弱者成敗》は思い描くよりも強くない。《英雄たちの世話人》を除去できるのは利点だが、2~3マナ域しか対応していないことが多く、大きくテンポを得ることはできない。それに見せかけのインスタントでもある。相手ターンに《弱者成敗》を使おうとするのは悲劇の始まりだ。その動きをひどく咎めるカードは各色の低マナ域のコモンに存在している。

毅然たる一撃甲羅の盾隠然たる襲撃
異常な怒りムラーサの力

高パワーかつ低タフネスということは、クリーチャーは自身よりも高いマナコストのクリーチャーとトレードしやすいということになる。そのため、《スカイクレイブのイカ》《焦がし乗り》よりもはるかに効率的であると言える。つまり、有用な能力を持った軽量クリーチャーを使えるのであれば、低めのマナカーブにしたほうが賢明であるということだ。

タフネスの数値でもっとも大きな違いを生むのは3と4だ。ほとんどの2~3マナ域は2~3のパワーを持っており、《乱動の噴火》のダメージは3点であるため、タフネスが4であることで生存確率は大幅にアップする。ただ、タフネス4を持つ4マナのクリーチャーはほとんど存在せず、タフネスが4あるものもそのほかの点では特別強いわけではない。

ニマーナの忍び歩く者火吐きラガーク

タフネス4以上かつ優秀なクリーチャーは5マナ以降から現れ始めるが、マナコストの重いカードは確定除去や《狡猾な泉魔道士》などのバウンスに本質的に弱い。

まとめ

総じてみれば、『ゼンディカーの夜明け』リミテッドは非常に楽しめるものになっており、特にスペルランドは考えがいのある判断を多く求めてくる。スペルランドをどれほど高く評価するべきかは確かではないが、多くのプレイヤーがもっと高く評価すべきであるのは間違いない

タジームの乱動魔道士洞察の碑文

ここでまとめておくと、私がドラフトで推奨するのは、大量のスペルランド・「キッカー」などの能力を持った2マナ域・タフネス参照の除去・パーティーシナジーを備えたアグロデッキだ。もう気づかれていると思うが、私は《タジームの乱動魔道士》が好きで仕方がない。この環境で有効なカードのひとつであり、使い過ぎたといっても過言ではないだろう。その能力で《洞察の碑文》を手札に回収したことがないなんて、人生を損している。

環境の全体像を俯瞰してきたが、みなさんのお役に立てれば幸いだ。これを読んでぜひ遊んでいただけたらと思う。『ゼンディカーの夜明け』リミテッドに関して何か疑問があれば、気兼ねなくTwitterで尋ねて欲しい。

マッティ(Twitter)

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Matti Kuisma ワールド・マジック・カップ2016でチームの一員としてトップ8に輝いた、フィンランドのプレイヤー。 プロツアー『霊気紛争』で28位入賞を果たしたものの、2016-17シーズンはゴールドレベルに惜しくも1点届かなかった。 2017-18シーズンにHareruya Hopesに加入。2017年は国のキャプテンとしてワールド・マジック・カップに挑む。 Matti Kuismaの記事はこちら