優勝者インタビュー:日比野 泰隆
晴れる屋メディアチーム
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By Tsutomu Date
東海中のリミテッド巧者が集う”リミテッド東海王決定戦”。今期の第11期リミテッド東海王決定戦は、『ゼンディカーの夜明け』発売1週間後の10月4日に行われた。
リミテッドといえば、大きく2つの環境に分かれる。ボムレアの数を始めとしたカードプールの内容で強さが決まる環境と、それに左右されない技術介入の余地が大きい環境だ。
本環境は「アーキタイプ環境」と評され、後者といえるだろう。クリーチャー・タイプを参照する「戦士」「ならず者」「クレリック」「ウィザード」をフィーチャーしたデッキや、その種類をいかに揃えるかの「パーティー」、+1/+1カウンターや「上陸」「キッカー」の復活したキーワード能力もアーキタイプに影響を与えている。参加しているリミテッド巧者たちも腕の見せどころと奮起しているように見えた。
今期の参加者は43名を数え、シールド戦での6回戦とブースタードラフトによる3回戦が行われた。長い1日の戦いの末、決勝戦のカードは大野 瑛介の”青緑キッカー”と日比野 泰隆の”黒緑カウンター”。そしてその対戦を制したのは、東海のリミテッド強者である日比野 泰隆だった。
日比野のマジック歴は長く、東海地方でも多くのコミュニティで信頼の厚い人物だ。もちろん実力についても折り紙つきで、人望と実力を兼ね備える稀なプレイヤーといえる。『ラヴニカへの回帰』『ギルド門侵犯』リミテッドで開催されたグランプリ・横浜 2013のトップ8をはじめ、リミテッドRPTQでの優勝も経験しており、プレミアイベントでの入賞は数知れない。
東海で最強のリミテッド巧者は誰か?と聞けば日比野の名を挙げる者は多いことだろう。リミテッド東海王決定戦においては幾度となくスイスラウンドを突破しており、その実力から「今度こそはyasuさん(日比野の愛称)かな」と囁かれるものの、惜しくも優勝には及んでいなかった。
しかしついに、日比野は『第11期リミテッド東海王』の座に就いた。
その日比野に『ゼンディカーの夜明け』のリミテッドについて、インタビューをお願いした。
――優勝おめでとうございます。まずは本大会にあたり、どのような準備をされたのでしょうか?
日比野「ドラフトはMTGアリーナで30回ぐらいやりました」
――30回!?この短期間で相当やりこみましたね。
日比野「今期はまだ走っている最中ですが、前期はミシックの100位ぐらいまで入りました。『ゼンディカーの夜明け』ドラフトは自分に合っていると思います」
――では、シールド戦、スイスラウンドではどのようなデッキを構築したのか教えてください。
日比野「青赤タッチ黒のテンポで殴りきるようなデッキですね。結果は5-1です。この環境はマナサポートに乏しいのでタッチはほぼできないのですが、《石造りの荷役獣》《清水の小道》《浄化の野火》があったので無理なくタッチできました」
――《浄化の野火》は構築向けカードの印象がありましたが、色マナサポートにも使えるとは。タッチでボムレアである《トリックスター、ザレス・サン》を入れられたのは大きいですね。
――本環境のドラフトについてはどのように感じていますか?
日比野「アーキタイプ環境なので、人によって構築の好みが反映されたり、組み方次第でデッキを強くできるのが面白いですね」
――では『ゼンディカーの夜明け』ではどのようなアーキタイプがあると考えていますか?
日比野「青黒ならず者、青赤ウィザード、白黒クレリック、白赤戦士、このあたりが強いアーキタイプだと思っています。あとは黒赤、これは赤のコモン3点セットがいれば黒赤に限らず強いですね」
――赤のコモン3点セットとはどのカードのことでしょう?
日比野「《密行する案内人》《グロータグの虫捕り》《献身的な電術師》です。1~3ターンでこの動きができればほぼ殴りきって勝てますね。中でも《グロータグの虫捕り》は『ゼンディカーの夜明け』の最強コモンだと思っています」
――赤のコモンのみで軸になるデッキが構築できるのですね。
日比野「あとはちょっと落ちますが、黒緑の+1/+1カウンターデッキですね。《苔穴の骸骨》が強くて、ほかの組み合わせよりも《ハグラの締めつけ蛇》が強く使えます」
――なるほど、カード単体の点数的な評価ではなくて、アーキタイプによってカードの評価が変わってくるのですね。挙げられたほかに着目しているアーキタイプはありますか?例えば決勝戦で戦った大野さんは青緑の「キッカー」をフィーチャーしたデッキを構築していましたが。
日比野「決勝戦では相手が先手で《蔦ヤモリ》《目覚めし激浪》《凪魔道士の使い魔》のような動きをされたので負けるかと思いましたが、その後に《乱動への突入》や《ナーリッドの群棲》などのキッカー呪文が続かなかったので助かりましたね」
日比野「青緑でキッカーといえば《ドレイクの休息地》や《目覚めし激浪》ですが、あまりやりたくない色です。キーカードがアンコモンなので狙って組むのは難しいですし、除去が格闘やバウンス系になってしまいます。また、この環境はテンポ環境でもあるので、序盤から意味のある動きができることが重要です。キッカーは中盤以降の能力なので」
――確かにキッカーで強力なカードは《蔦ヤモリ》《ドレイクの休息地》が筆頭に挙げられます。いずれもアンコモンですし、序盤とそれ以降の両立が難しいということですね。おっしゃる通り、アーキタイプは想像以上に数がある印象ですが、どのタイミングで判断していくのでしょうか?序盤のピックが重要ですか?それとも遅めのタイミングでも間に合うものでしょうか?
日比野「いろいろなアーキタイプがあるので、流れを見れば必ずどれかをやれます。重要なのは立ち位置に合わせてどれを選ぶか、アーキタイプに合わせたカードの選択基準など、多くの引き出しを持つことだと思っています」
――先ほどテンポ環境なので序盤が重要、とおっしゃいました。環境の速度について考えていることを聞かせてください。
日比野「とても速い環境だと思っています。2マナにバリューのあるクリーチャーが多く、デッキの完成度はそれをいかに有効に使えるかにかかっています。具体的には、コモンに5枚ある2マナクリーチャーとのシナジーがあるととても有利な盤面を作ることができます」
日比野「例えば、《探検隊の潜伏者》は《隠然たる襲撃》や《ズーラポートの決闘者》で一方的に討ち取りに行くことができます。白黒デッキではただの熊ですけどね」
――速度の中にもシナジーが必要なのですね。
では決勝ドラフトについて聞かせてください。
日比野「個人的な好みとしては前述したコモンの3点セットが好きなので赤をやりたかったのですが、今回は流れに逆らわなかったので黒緑になりました」
1-1は《最後の血の長、ドラーナ》、1-2で《確実な潜入者》、1-3の《弱者成敗》で青黒を目指していましたが、1-4で《苔穴の骸骨》が流れてきたので、上流が黒緑をやっていないことがわかりました。青黒は強力なのですが、流れを重視してそのまま黒緑に舵を切りましたね」
――4手目でおおむね黒緑に決まったのですね。各プレイヤーとも住み分けを強く意識していたのか、綺麗に分かれている印象でした。上家の古川さんは白青、その上の金綱さんは赤緑でしたので、卓内はほとんど被っていませんでした。
席順による構築したデッキのカラーリング:石上(白黒緑)→大野(青緑)→高橋(黒赤)→一見(白赤)→金綱(赤緑)→古川(白青)→日比野(黒緑)
日比野「結果的にそれ以降《梢のベイロス》が安く取れたので穴埋めとしてもうまく働いてくれました」
――以降はどのようなピックでしたか?
日比野「2-1で《硬鎧の大群》が取れて、2パック目が終わるころにはだいたい完成していました。若干除去が薄かったので3パック目はそちらを補強することを意識していました。結果的に《血の長の渇き》と《弱者成敗》の2枚目が取れて、あと3-3で2枚目の《苔穴の骸骨》が取れましたね」
――《ハグラの締めつけ蛇》も2枚取っていますね。
日比野「ほかの色の組み合わせではそれほど強くないですが、黒緑では強いカードです。ただプレイするだけで《苔穴の骸骨》が戻ってきます」
――決勝戦でもそのシナジーが発揮されていましたね。《ハグラの締めつけ蛇》を引かない場面でも、2体の《苔穴の骸骨》が墓地と戦場を往復していましたが。
――では本環境でこれからドラフトをするプレイヤーにアドバイスがありましたら教えてください。
日比野「事前に持っている知識によって大きく差が出る環境だと思います。ドラフトをする前にアーキタイプについて予習しておくといいですね。先ほども言いましたが、同じカードでも評価は大きく変わってきます。また、ピックの際は2マナ域の強力なカードを意識してピックしていくといいと思います」
――ありがとうございます。では最後に『第11期リミテッド東海王』となられたお気持ちを聞かせてください。
日比野「リミテッドが大好きで今までも何度もトップ8には入っていましたが、ついにリミテッド東海王になることができて嬉しいです。新型コロナウイルスの影響でテーブルトップの大会は縮小傾向ですが、一方のオンラインはというと構築戦が多くてリミテッドは少ない。このような状況で『東海王決定戦』のようなイベントがあるのはとても嬉しいです。みんな、リミテッドをやろう!」
――本日はありがとうございました。
日比野は普段の仕事も多忙でかつ家庭を大事にするマジックプレイヤーだ。ドラフトのための時間を作ることは困難であったことだろう。それでも日比野はリミテッド熱を絶やすことなく研究を進め、本大会までにここまで仕上げてくれた。
インタビューの言葉も力強く、王者の風格に満ちている。「ついに優勝できた」とコメントしているが、日比野の実力からすれば今期の優勝に留まらず『第12期リミテッド東海王決定戦』での連覇も不可能ではないだろう。3か月後の日比野がまたどのような研究を見せてくれるのか、楽しみでならない。
おめでとう!『第11期リミテッド東海王』は日比野 泰隆!