ジェスカイヨーリオンで臨んだリーグウィークエンド

Raphael Levy

Translated by Kohei Kido

原文はこちら
(掲載日 2020/10/29)

はじめに

大変な一週間だった……。

ガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifと共にデッキ調整をし、2人ともトップ4に入ったグランドファイナルの直後に、来たるシーズンと特に初開催となる『ゼンディカーの夜明け』リーグ・ウィークエンドのために協力体制を継続しないかと彼に提案した。彼はまず所属チームのメンバーと話してみないとわからないと答えた。

数日後、彼からあった返答はチームの人数を絞っているから人を増やすのは厳しいというものだった。これは理解できる話だ。代替案はフランス出身のほかのマジック・プロリーグとマジック・ライバルズ・リーグの選手たち(ジャン=エマニュエル・ドゥプラ/Jean-Emmanuel Depraz、ルイ=サミュエル・デルトゥール/Louis-Samuel Deltour、テオ・ムーティエ/Théo Moutier)と調整するというものだ。しかし、彼らからの返答もすでに調整を始めていて、これ以上メンバーが必要だと思っていないというものだった。これも理解できる話だ。最悪の事態だが、この大会は1人で準備しなければいけない。

いつも通り、MTGアリーナのランク戦で環境の主要デッキを使ってみて何が強くて何が弱いのかを探った。気に入らないデッキや十分に強くないデッキを候補から削っていく工程が、デッキを絞り込む主なプロセスだ。結局のところ気に入ったデッキはアゾリウスヨーリオンだけだった。

空を放浪するもの、ヨーリオン

なぜ赤をタッチしたのか

深海住まいのタッサ

デッキのコンセプトは好きだったが、巷にあるデッキリストのどれもいまひとつしっくりこなかった。クリーチャーが多すぎて《深海住まいのタッサ》に依存しすぎているデッキリストもあれば、コントロールデッキとして振る舞うために「寄せすぎていて」打ち消しや全体除去が多すぎるものもあったね。これらのデッキリストに対して抱いていた懸念は、ゲームが長引けば強いものの、アグロデッキが速いゲーム展開を押しつけてきたときに厳しい試合になりそうだということだった。

ガラスの棺メレティス誕生

アゾリウスカラーのデッキリストで、2ターン目に使える相手への妨害は《ガラスの棺》くらいだ。《メレティス誕生》も多くの場合入っていたが、遅すぎるカードで《空を放浪するもの、ヨーリオン》とも相性が悪く、ゲーム後半で引いても特にアドバンテージは得られない。2マナかかる《平地》だと言ってしまってもいいくらいだ。

精神迷わせの秘本

2マナ域に《精神迷わせの秘本》を採用しているデッキリストも多かった。アゾリウスヨーリオンでの《精神迷わせの秘本》の是非について長い議論を交わしたことがあるが、強くないと主張しているごく一部の選手の一人が私だった。使った感想として、バリューを引き出すには時間がかかるから遅いターン引いてきてもうれしくない。

一方で序盤も相手を妨害できるカードを使いたいので特に引きたいわけでもない。デッキに《本質の散乱》が入っているのにも関わらず2ターン目に土地をフルタップしてしまうと、相手から手痛く罰せられる隙を作ってしまう。パーマネントなら《空を放浪するもの、ヨーリオン》と相性がいいものを使いたいが、《精神迷わせの秘本》に乗っているカウンターをリセットするというだけでは物足りない。

青と白に序盤の攻勢に対する解答が存在しなかったのでほかの色について考えるしかなかった。

ラウグリンのトライオーム針縁の小道河川滑りの小道寓話の小道

すると、赤を足すことが容易だということに気付いた。《ラウグリンのトライオーム》は4枚使えるし、《針縁の小道》《河川滑りの小道》も合計8枚使える。《山》を1枚入れて《寓話の小道》も4枚使えば、赤マナを出せる土地は17枚相当になって、80枚デッキでも十分な枚数だった。

鍛冶の神のお告げ

赤さえ追加すれば私が今まで話してきた懸念を解消してくれる《鍛冶の神のお告げ》が使える。2マナの軽い除去呪文でありながら《空を放浪するもの、ヨーリオン》で使いまわせる。ほかのアゾリウスのデッキに対しても《スカイクレイブの亡霊》への解答となるから使いやすいカードだ。

アゾリウスカラーのヨーリオンデッキは、小型クリーチャーを除去できないとロングゲームになったときにクリーチャー主体のデッキに負けることがあると感じた。《ガラスの棺》《スカイクレイブの亡霊》はあるが、十分ではないし破壊されることもある。

黄金の卵

もう1種類追加したカードとして《黄金の卵》がある。赤マナが出ない状況が起こるのではないかという危惧があったのだ(結果的にはこれは杞憂だった)。またロングゲームになったときに《空を放浪するもの、ヨーリオン》を活かす手段が不足していた。戦場に《海の神のお告げ》が出ていないときに伝説の鳥・海蛇を出すと……あまり助けにならないこともある。ブリンクしたときにカードを引けるパーマネントがほかにも欲しかったのだ。ライフゲインできる能力も持ち合わせているから、《黄金の卵》は完璧だったね。

ランク戦を誰よりも長くプレイする日々が続き、最終日になって10連敗した。自信がなくなって、デッキ登録の前日の火曜日午後10時、私はパニックに陥った。

アイデアを求めてTwitchを覗くと、アブザンヨーリオンを使っているKrowzのチャンネルに行きついた。彼とは会ったこともなかったがチャットで会話をすることに。彼のリストも回してみたけど求めているものではなかったね。彼の配信が終わったあと、彼は私とクリスティアン・カルカノに合流して問題を解決しようとしてくれた。朝4時30分までやって、それでも手がかりは見つからなかったさ。今まで調整していたジェスカイのデッキに戻ることにしていくつか変化を加えて、結局寝たのは朝5時だ。

朝8時30分になってモニカ/Monica(妻だ)に家を出る準備をする時間だと言われた。家を出て病院に行って第2子の誕生を迎える時間だったのだ。10時に病院に着くとアイラ/Aylaは11時30分に生まれた。あっという間の早業だ!

妻が赤ちゃんを産むためにがんばっている間、デッキの最後の数枚についてKrowzと私の生徒であるオザン/Ozanの助けも借りて考えていた。午後3時に病院を発って、午後5時のデッキリスト登録締め切りになんとか間に合わせた。

ジェスカイヨーリオン

これが私の使ったデッキだ。

採用しなかったカード

アゾリウスカラーのデッキを使っているプレイヤーが必ずデッキに入ると思っているカードで、私がその価値はないと思ったカードはほかにもある。

《エメリアの呼び声》

エメリアの呼び声

神話レアのモードを持つ両面カードサイクルはとても人気だけど、私はあまり好きではない。先日投稿した黒単スーサイドの記事《アガディームの覚醒》を使いたくない理由について語った。今日主張したいことも似たようなことだ。

アゾリウスカラーのデッキリストのほとんどに《エメリアの呼び声》が4枚入っているのを確認できるが、ヨーリオンデッキを100回以上使った経験からいうと、天使トークンが2つ出せるモードは試合の勝敗に影響を及ぼすことがなかった。1回もね。

ただ、アンタップ状態で土地を置くために失ったライフは累計すると膨大だ。4枚入っていたけど0枚にした。今までの競技人生でここまでデッキから抜くのが自明なカードはなかった。《エメリアの呼び声》を使うと基本土地の枚数も減らすことになるから、《アーデンベイル城》(これもあまり好きなカードではない)がタップインする回数が増えてしまう。

《夢さらい》

夢さらい

これは興味深い議題だ。多くのデッキリストには1、2枚の《夢さらい》が入っていて、このデッキだと対処するのに苦労する。対抗するなら《本質の散乱》で打ち消すか(メインデッキに入れている数少ない打ち消しが《本質の散乱》なのもこれが主な理由だ)、《サメ台風》から出したサメトークンでブロックすることだ。

どうして使わないことにしたのかって?簡単に言えば、環境に合っていないからだ。たまに解答を全くと言っていいほど持っていないデッキと当たって、一度唱えてしまえばあとは悠々自適にクルーズ船でバカンスに行くような試合になることは確かにある。

でも多くの場合、(ミラーマッチと相手がローグの場合は)唱えても解決しないか、もしくは遅すぎるかだ。確かに《夢さらい》は自身を守る能力を持っている。でもフルタップで唱えることになる場合が多く(そのため唱える際に打ち消し呪文を構えられず)、勝利するためにはこのカードに大きく懸けることになってしまう。すでにロングゲームを戦えるデッキなのにどうして《夢さらい》を使う必要があるんだ?

崇高な天啓

確かにミラーマッチでは強いかもしれない。でもほかのデッキにはよくないカードだと考えている。《崇高な天啓》も同様だ。強力な効果を持っている重い呪文だけど、とにかく遅すぎるうえに(相手が打ち消しを持っているときの)ミラーマッチとローグ相手にはあまりよくないカードだ。

追加で言っておくと自分が《夢さらい》を使っても相手の《夢さらい》に対処してくれるわけでもない。

《空の粉砕》

空の粉砕

全体除去が何枚欲しいかはデッキの戦略とメタゲーム次第だ。このデッキはクリーチャー(《スカイクレイブの亡霊》《空を放浪するもの、ヨーリオン》)を出して、除去をブリンクできるようになるまで相手の脅威に対して1:1交換で対処する作戦だ。《空の粉砕》は序盤で上手く立ち回れなかったのを埋め合わせしたいというカードに感じる。

空飛ぶ思考盗み探索する獣解き放たれた者、ガラク

クリーチャーが瞬速(ローグ)、速攻(《探索する獣》《山火事の精霊》)を持っていて、全体除去を生き残るプレインズウォーカー(《解き放たれた者、ガラク》《怪物の代言者、ビビアン》)に反撃される可能性のある環境で、自分のデッキに死亡したときに相手にクリーチャーを与えるカード(《スカイクレイブの亡霊》)が入っているんだから、私は《空の粉砕》を使いたくない。状況を選びすぎるカードだし、自分のデッキがやろうとしていることに反するカードだ。

焦熱の竜火

赤をデッキに追加したから《焦熱の竜火》をサイドボードに入れる選択肢が生まれた。《鍛冶の神のお告げ》の裏目は《空飛ぶ思考盗み》に対処できないことだ。相手が《アガディームの覚醒》《死住まいの呼び声》を使っている可能性があるなら追放できることも重要になる。

サイドボードガイド

大会に出場する際に当たりたくない相手がいないのはいいことだ。デッキがどのデッキにも勝てる可能性があるし、どんなデッキと当たっても取るべき戦略がわかっていれば、サイドボードはその期待に対応できるものになっている。

ディミーアローグ

vs. ディミーアローグ

Out

エルズペス、死に打ち勝つ エルズペス、死に打ち勝つ エルズペス、死に打ち勝つ エルズペス、死に打ち勝つ
本質の散乱 本質の散乱 本質の散乱
鍛冶の神のお告げ
黄金の卵

In

神秘の論争 神秘の論争 神秘の論争 神秘の論争
垣間見た自由 垣間見た自由
否認 否認
魂標ランタン

注:《鍛冶の神のお告げ》《マーフォークの風泥棒》が入っていない相手に対してサイドアウトする。

物語への没入盗賊ギルドの処罰者マーフォークの風泥棒

古典的なアゾリウスヨーリオンだとローグに対処するのは大変だ。相手のクリーチャーに対処できるカードのほとんどがソーサリータイミングだからね。1:1交換を繰り返して《物語への没入》が唱えられるようになると、アゾリウス側は後れをとりはじめる。自分のターンの終わりに相手は行動するから打ち消しも役に立たず、返しの相手のターンに隙が生まれて脅威となる呪文を解決させてしまう。

その点、ジェスカイヨーリオンは《マーフォークの風泥棒》《盗賊ギルドの処罰者》にインスタントタイミングで対処でき、かなり相性が改善している(サイドボード後は《空飛ぶ思考盗み》にも対処できるようになる)。

しっかりとクロックを用意しながら、相手の脅威をことごとく対処していこう。そのプランには《魅力的な王子》《スカイクレイブの亡霊》が役立つ。《魅了された者、アリリオス》は相手にプレッシャーをかけるいい手段だ。相手はいつかはイリュージョンを死亡させなければならないからね。

グルール

vs. グルール

Out

サメ台風 サメ台風 サメ台風
垣間見た自由 垣間見た自由

In

焦熱の竜火 焦熱の竜火 焦熱の竜火
巨人落とし 巨人落とし
エンバレスの宝剣怪物の代言者、ビビアングレートヘンジ

グルールが試合に勝つパターンは限られている。序盤から猛攻をしかけて、対処できないうちに《エンバレスの宝剣》で致命傷を与えるパターンが1つ目(相手が先手なら上手くいくことがある。後手ではあまり機能しない)。そして、クリーチャーを出し続けて対処できなくなるパターンが2つ目だ(相手が《エッジウォールの亭主》を出して早期に対処できないときにこれが起こる)。最後のパターンは相手が《怪物の代言者、ビビアン》《グレートヘンジ》を唱えて解決を許してしまい試合がめちゃくちゃになってしまうときだね。

デッキにはどのパターンになりそうになっても防ぐ手段が入っている。油断を許さない相手だけど有利だと信じているよ。

アゾリウスヨーリオン

vs. アゾリウスヨーリオン

Out

垣間見た自由 垣間見た自由 ガラスの棺 ガラスの棺
太陽の神のお告げ 鍛冶の神のお告げ
黄金の卵 魅力的な王子

In

神秘の論争 神秘の論争 神秘の論争 神秘の論争
否認 否認
巨人落とし 巨人落とし
夢さらい

このマッチアップではこちらが能動的に動く必要がある。サイドボードに追加の打ち消しが入っているから、戦場を有利なものにして相手が脅威を戦場に出すのを防げる。懸念事項は《夢さらい》だけど《神秘の論争》《本質の散乱》で対処可能だ。

トーナメントレポート

大会の試合結果はこんな感じだった。

1日目

ラウンド 対戦相手 対戦結果(トータルスコア)
ラウンド1 Jean-Emmanuel Depraz
(アゾリウスブリンク)
2-0(1-0)
ラウンド2 Marcio Carvalho
(ディミーアローグ)
1-2(1-1)
ラウンド3 Piotr Glogowski
(アゾリウスブリンク)
2-0(2-1)
ラウンド4 Lee Shi Tian
(ディミーアローグ)
2-0(3-1)
ラウンド5 Ondrej Strasky
(グルール)
1-2(3-2)
ラウンド6 Martin Juza
(グルール)
2-1(4-2)

2日目

ラウンド 対戦相手 対戦結果(トータルスコア)
ラウンド7 William Jensen
(ディミーアローグ)
2-1(5-2)
ラウンド8 Rei Sato
(グルール)
0-2(5-3)
ラウンド9 Gabriel Nassif
(ディミーアローグ)
0-2(5-4)
ラウンド10 Brad Nelson
(グルール)
2-1(6-4)
ラウンド11 Paulo Vitor Damo da Rosa
(ラクドスミッドレンジ)
1-2(6-5)
ラウンド12 Javier Dominguez
(アゾリウスブリンク)
2-1(7-5)

総合成績は7-5。7位だった。

マッチアップごとの成績

アーキタイプ スコア
vs. アゾリウスブリンク 3-0
vs. ディミーアローグ 2-2
vs. グルール 2-2
vs. ラクドスミッドレンジ 0-1

デッキは強かったよ。《鍛冶の神のお告げ》が本当に必要だったのか疑う人もいるかもしれないが、大会でそれなりに上手くいったカギとなったのはこのカードだったと思う。

おわりに

厚かましい借り手トーモッドの墓所魅了された者、アリリオス

今後はメインデッキに2枚ほど《厚かましい借り手》を入れて、サイドボードには3枚目を忍ばせたい。サイドボードに1枚入っている《魂標ランタン》《トーモッドの墓所》にして、《垣間見た自由》4枚と合わせて自分の墓地を減らす5枚目のカードにしたいね。《魅了された者、アリリオス》はどのデッキ(アゾリウス、ローグ、グルール)と当たっても大活躍だったからもっと増やしてもいいと思う。

本戦で行った全試合が録画されているからここで観れるよ。

全てのカードについてより詳しい説明が欲しければ、Youtubeで大会の振り返り動画を観ることも可能だ。

数日間マジックは休もうと思う。娘を可愛がってやりたいし、家族と過ごしたい。すぐまた来週末にリーグ・ウィークエンドがあるけどそれまではね。

みんなありがとう!

ラファエル・レヴィ (Twitter / Twitch / Youtube)

この記事内で掲載されたカード

鍛冶の神のお告げ

焦熱の竜火

空を放浪するもの、ヨーリオン

ラウグリンのトライオーム

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Raphael Levy ラファエル・レヴィはフランスの古豪。初のプロツアー参戦は1997年で、そこから2017年のプロツアー『イクサラン』まで、91回連続でプロツアーに出場し続けたという驚異の経歴の持ち主だ。そして、2019年のミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019にて、歴史上で初めて100回のプロツアーに参戦したプレイヤーとなった。これまでに築き上げてきた実績は数知れず、2019年2月の時点でプロツアートップ8が3回、グランプリトップ8が23回(優勝6回)、その他にもワールド・マジック・カップ2013ではキャプテンとしてチームを優勝に導くなど、数々の輝かしい成績を残している。生涯獲得プロポイントは750点を超えており、2006年にはプロツアー殿堂にも選出されている。 Raphael Levyの記事はこちら