Translated by Kohei Kido
(掲載日 2020/12/4)
モダンの今
モダンは興味深いフォーマットです。まあ…この一年の状況を思えば全てのフォーマットが興味深い時期だと言うこともできるでしょう。ただここでは新型コロナウイルス流行による移動制限やマジックの競技シーンがすべてオンライン上のものとなったことでモダンがどのような影響を受けたのかについて話させてください。
すべての競技レベルの大会がオンラインゲームのMTGアリーナに移ったので、モダンは表舞台から遠ざかり、Magic Online上でしか遊べません。テーブルトップのグランプリが近日中に再開するような見込みもなく、もっともレベルの高いモダンの競技イベントはMagic Online Champions Showcase(MOCS)と定期的にあるPTQです。モダンは、フォーマット誕生以来もっとも環境が真剣に精査されていない状態にあると言ってしまっても問題ないでしょう。
多くのプレイヤーの意見は4色オムナスコントロールが現在のモダンで最強のデッキだという点では一致しています。でも4色オムナスコントロールが極めて強力なデッキなのにも関わらず、モダンをMagic OnlineのModern LeagueやModern Challengeでプレイしている人はこのデッキに期待するほどには遭遇しないはずです。
その理由のひとつはデッキの価格が極めて高いことだと考えています。現在はMagic Onlineでプレイを続けている人々の多くがカードレンタルサービスを利用している時代で、モダンの競技シーンも影を潜めています。他のモダンのtier1デッキが3つも組めるような高額デッキである4色オムナスコントロールの使用率が頭打ちになるのも道理でしょう。
ディミーアナーセット
モダンは今でもマジックを娯楽としてプレイするお気に入りのフォーマットです。最強のデッキがとんでもないデッキ価格のせいであまり使用されていないという歪みはありますが、それでも新しいデッキの可能性を探索できる空間ではあるのです。私が最近それなりに時間を使って研究していたのはディミーアナーセットコントロールです。
元となったデッキリストは私の良き友人TSPJendrekが作ったリストです。彼はモダンの新しいデッキを毎日のように組んでいるんですよ。彼が練り上げたデッキには失敗作や平凡な作品も多かったかもしれませんが、このデッキは琴線に触れるものがあったので、他のデッキを使った配信よりも長い期間かけてデッキ研究や実戦を行いました。
デッキリスト
ディミーアナーセットコントロールの最新版デッキリストは以下のようなものです。
1 《沼》
2 《湿った墓》
1 《窪み渓谷》
2 《神秘の聖域》
4 《汚染された三角州》
2 《溢れかえる岸辺》
1 《霧深い雨林》
1 《沸騰する小湖》
2 《涙の川》
2 《沈んだ廃墟》
2 《廃墟の地》
1 《ガイアー岬の療養所》
-土地 (24)- 2 《瞬唱の魔道士》
-クリーチャー (2)-
2 《塵へのしがみつき》
2 《コジレックの審問》
2 《思考囲い》
1 《血の長の渇き》
2 《取り除き》
2 《マナ漏出》
1 《差し戻し》
4 《大魔導師の魔除け》
3 《否定の力》
3 《謎めいた命令》
1 《海門修復》
4 《覆いを割く者、ナーセット》
3 《精神を刻む者、ジェイス》
-呪文 (34)-
今まで《覆いを割く者、ナーセット》はデッキの中心となるカードというよりはただの強いカードとして扱われることが多かったと思いますが、このデッキにとってはデッキ名に入れるのがふさわしいほど重要なキーカードです。《自然の怒りのタイタン、ウーロ》が誕生してから《ナーセット》の居場所はモダンからなくなってしまいました。モダンのコントロールデッキで定番のカードアドバンテージ源としての地位を《ウーロ》が《ナーセット》から奪ってしまったからです。
そうは言ったものの《ナーセット》にも優れているところがあります。《ナーセット》は《ウーロ》のドローを阻止するのを得意としていて、同じく定番のカードアドバンテージ源となった《創造の座、オムナス》が誕生して以降は《ナーセット》が持つ相手のドローを阻止する常在型能力はかなり有用なものになったと言えるでしょう。
コントロール以外のデッキに対しても《ナーセット》はカードアドバンテージを増やすカードとして使えます。《稲妻》を使うデッキに代表されるようなアグロデッキに対して最適なカードではないですが、クリーチャーの攻撃から守ることさえできればそこまで悪いカードというほどでもありません。忠誠度能力で使いやすいマナ・コストのカードを探し当ててくれている限り、という条件付きではありますが。
ナーセットを最大限に活かす
そういった但し書きについて認識を共有した上で、《ナーセット》を最大限強く使うにはどうすればいいでしょうか?
手札破壊
デッキには4枚のハンデス呪文が入っています。打ち消し呪文と併用できないときのハンデス呪文はそこまで強くないという問題も存在しているので、使いづらいタイミングもありますが、ハンデス呪文の主な役割は序盤に《ナーセット》を出すための露払いです。4色オムナスコントロールに対して《ナーセット》の強さが際立つのは最速で戦場に着地したときで、《コジレックの審問》で《否定の力》をハンデスして強引に3ターン目に《ナーセット》を着地させれば、積極的なプレイングがいろいろと可能になります。
《夏の帳》という難敵も存在していますが、《夏の帳》の採用枚数が少なければ自分が使おうとしている軽いマナ・コストの妨害カードを《夏の帳》をケアしながらうまく使うことは可能です。もしデッキに2~3マナの打ち消し呪文しか入っていなければ、《夏の帳》を真正面から受けてしまうでしょう。ハンデス呪文なら使うタイミングに気をつけて相手がフルタップになった隙を狙うことは可能です。また残念ながらそうしなければいけません。
《否定の力》の4枚採用
軽いマナ・コストの呪文で相手を妨害するデッキです。ハンデス呪文と黒の除去呪文はそれを可能にするカードです。サイドボードに4枚目の《否定の力》が入っている理由も同様の理由です。3ターン目に着地した《ナーセット》の忠誠度能力で《否定の力》を手札に加えると相手は身動きを取りづらくなります。
《精神を刻む者、ジェイス》
《精神を刻む者、ジェイス》は《ナーセット》で手札に加えられる格好の勝利条件です。《ナーセット》の忠誠度能力を2回起動できれば8枚もカードが見られますし、4ターン目に《ジェイス》を出すために探しているなら見つかる可能性は高いです。
《ジェイス》がモダンで黒の呪文を使って相手を妨害するようなデッキで採用されたことは多くなかったですが、かくも強力なドロー能力を持ったプレインズウォーカーともなれば、ときとして持て余すこともある《流刑への道》のような白の呪文よりも黒の軽いマナ・コストで積極的に妨害しにいく呪文と組み合わせた方が実力を発揮できます。
ドローロックコンボ
《ナーセット》をここまで重視したデッキなら、《ナーセット》と組み合わせるとコンボになるカードも採用圏内に入ります。《ガイアー岬の療養所》を相手のアップキープに起動すれば相手はカードを1枚捨てることになり、相手の手札が0枚になったあとはドロー・ステップのドローすらないロック状態になります。
サイドボードの《テフェリーの細工箱》もコンボデッキを使う相手に対して使えば実質的にドロー・ステップのドローが消滅しているような状態になります。サイドボードに1枚入っているだけの《テフェリーの細工箱》とのコンボは成立させるのが難しいと感じるかもしれませんが、《ナーセット》はデッキを8枚見られるので、それなりの頻度で成立します。
4色オムナスコントロールとの相性
こうして青写真を描き出してみるとクリーチャー主体のデッキに対してはコントロールデッキとして振る舞うデッキでありながら、このデッキよりも重コントロールに近い《ウーロ》を中心として組まれたコントロールデッキに対してはデルバーのように動きの身軽さを利用して立ち回るようなそんなデッキに思えてきます。さてこのデッキは本当にそれを達成できたのでしょうか?
経験上、このデッキは警戒していない相手の隙を突くことがとても得意だという印象です。《ナーセット》を3ターン目に着地させて定着させることができれば、《否定の力》が解答になるクリーチャーではない呪文のほとんどについて心配は不要になります。《死者の原野》もキャントリップの数々でドローできなくなればそこまで強く使えないので、対処できます。でも忘れないで欲しいのはコントロールデッキに対してはこちら側が速いゲーム速度のデッキ、言わばビートダウンするデッキとして振る舞う必要がある側だということです。
残念ながら4色オムナスコントロールデッキを環境の覇者の地位から引きずり下ろすことはできません。4色オムナスコントロール側はディミーアナーセットに対する相性を改善するためにできることがいくらでもあります。《流刑への道》を減らして《稲妻》を増やすというようなメインデッキに加えたり、《夏の帳》と《神秘の論争》をサイドボードに増やしたりできるのです。だからディミーアナーセット側は勝率に限度があります。
マナベース問題
このデッキを使っていてぶつかった障壁は他にもあります。マナ基盤です。2色を出すだけならまったく問題はありません。重いマナ・コストの呪文が必要としている多くの青マナ、デッキの中の《神秘の聖域》の存在、1ターン目に黒マナを出す必要性、《死者の原野》とトロンが環境に存在しているだけで《廃墟の地》を採用しなければならない負担。これらが積み重なっていくとマナ基盤が問題となって表れます。
ウーロ系のコントロールデッキはそもそも土地の枚数が多いのでマナ基盤の問題の一部をごまかせます。でもこのデッキにそれはできないのです。こういうデッキは引いた土地の枚数を調節するために有用なキャントリップ呪文を重宝するものです。4枚目の土地を必要なタイミングで引けていないと敗北につながりますからね。でも《選択》や《血清の幻視》を採用したとしてそこまで改善されるとも思えないので、難題です。
なぜウーロを使わないのか
これは鋭い疑問ですね。スゥルタイカラーのウーロデッキはモダンで手堅い選択肢です。でもこのデッキで《ウーロ》を活用できるようにデッキを組んでいくと、それはもはや別のデッキとなってしまって《ナーセット》を強く使うことはできません。
《ウーロ》だけをデッキに追加しても、まずはクリーチャーである《ウーロ》がデッキに入ってしまい、3色目を支えるために土地の枚数も増やす必要が生まれます。《ウーロ》だけを足そうと思ってできあがったデッキは元のデッキとはかなり異なるデッキになってしまうのです。デッキの中心的な要素を削らずに《ウーロ》を追加しようとしたこともありますが、サイドボーディングで《ウーロ》を全てサイドアウトしていました。ゲームプランを本来のものに絞った方が勝利につながるからです。
サイドボードガイド
1:1交換を駆使する線の細いコントロールデッキを使う感覚を追体験しながら、現在の環境で有利な試合も存在しているデッキを使いたいとお考えであれば、このデッキはおすすめできます。現在のモダンでもっとも流行っている2つのデッキに対するサイドボードガイドはこの通りです。
4色オムナスコントロール
対 4色オムナスコントロール
採るべき戦略の大部分はこれまで記事で説明してきた通りです。《血の長の渇き》は使い勝手が悪いマッチアップだと思っています。《取り除き》なら《レンと六番》だけでなく《時を解す者、テフェリー》も除去することができて、《血の長の渇き》を「キッカー」するためにフルタップになってしまうのは避けた方がいいことです。
ラクドスシャドウ
対 ラクドスシャドウ
《霊気の疾風》は相手が《沸騰》か《血染めの月》を入れていなければあまり活躍しません。《ゲトの裏切り者、カリタス》か《大祖始の遺産》をサイドインしてもいいかもしれません。その場合は《差し戻し》か、後手であれば《廃墟の地》をサイドアウトしてもいいです。
実のところラクドスシャドウとの対戦は4色オムナスコントロールよりもディミーアナーセットの方がやりやすい印象です。こちらがカードアドバンテージ源となるカードを戦場に出して試合の主導権を握るまでの制限時間の間に、相手が除去の嵐を突破するのは難しいからです。
また次の記事でお会いしましょう。