Translated by Kouhei Kido
(掲載日 2021/01/07)
はじめに
現代のレベルの高い競技マジックでは、デッキ選択の能力がもっとも重要なスキルです。革新的なデッキ構築でほかのプレイヤーを出し抜くには、あまりに多くの情報が速く出回ってしまっているうえに、残念ながらリミテッドはほとんどの大会から姿を消してしまいました。
デッキ選択の仕方について、すべてを書くことは不可能です。マジックは常に移り変わっていて、2016年6月のモダンと2019年11月のスタンダードではデッキ選択で押さえるべきポイントは異なっています。
それでも、スタンダードに適用できることが多いひとつのパターンには気づきました。F.I.R.E.のカードデザイン理念の現代においてうまくいったやり方と、デッキ調整を利用してデッキの選択を改善していく方法について語ろうと思います。
もちろん、それらは絶対的な真理ではなく、私が自分のデッキを選ぶときに心に留めておくようにしている枠組みにすぎません。うまくいけば、この記事を読んだ人が自分の判断を評価するためのツールを広げることができるようになるでしょう。
環境初期 ~地力の強さ・脅威を押し付けることの重要性~
環境初期のアグロデッキ
古くからの言い伝えでは、能動的に動くデッキが一番強いのは環境初期だと言われています。理屈としてはこうです。受動的に相手の脅威に対処していくデッキは、メタゲームが固まるまで対処すべきものがわかりません。しかし能動的なデッキは、まだ相手が解答を用意できていない難題を押し付けていくだけだからです。
長い間、これは環境初期の数週間は超攻撃的なアグロデッキを使うべきだという意味でした。重いカードや継続的にメリットを生むカードを中心とした能動的なデッキを組むことも可能ですが、十分な練習抜きには調整が難しいことが多いのです。新しく出た強そうなカードを使ってみようとするプレイヤーも多いので、それもクリーチャー主体のアグロデッキの標的になります。
強力なアグロデッキを構築することについては多くのことが語られていますが、私自身はデッキ構築が特別得意なわけではありません(これについて詳しく知りたければフランク・カーステン/Frank Karstenをフォローしましょう)。しかし、攻撃的なクリーチャーの質がいい場合の一般的なガイドラインは以下の通りです。
1マナのクリーチャーが12枚以上
1マナのクリーチャーが8枚以下のアグロデッキを組むことも可能ですが、理想的には14枚以上あって、90%以上の確率で初手にくるようにしたいです。これはとても重要な要素で、最序盤に出せるクリーチャーを十分な数使えるデッキであれば、環境初期の数週間のあとでも環境に残り続ける可能性がとても高くなります。
すべてのクリーチャーが平等に作られているわけではないですし、マナカーブを整えるためだけに弱いクリーチャーを無理して使うべきではありません。一般的に、2点与えられる1マナのクリーチャーがいれば、それはすばらしい選択肢といえるでしょう。
マナフラッドへの耐性
これは必須要件ではありませんが、アグロデッキをさらなる高みへ導いてくれるものです。マナ能力以外の機能を持つ土地もこのジャンルに含まれます。たとえば《鋭い突端》のようなミシュラランドや《エンバレス城》、『ゼンディカーの夜明け』の両面カードのような土地です。これらをプレイすることで、ゲームの後半で余ったマナを使うことができるようになります。
マナフラッドを軽減する別の手段として、マナカーブ自体を低く抑えてデッキに必要な土地の枚数を減らすのも冴えたやり方です。これはロンドン・マリガンやMTGアリーナのBO1でより強力になった戦術です。さらに別の選択肢として、《歩行バリスタ》や「脱出」のように、ゲームの後半に好きなだけマナを消費できる呪文を入れるのも有効です。
多角的な攻撃手段
デッキがクリーチャー中心になるとはいえ、さまざまな除去を回避するために異なるタイプの脅威をデッキに入れておくと役立ちます。プレインズウォーカーを使うのが一番簡単な方法ですが、《エンバレスの宝剣》や《運命の神、クローティス》、《永遠の見守り》のようなエンチャントのように、クリーチャー除去をかわしつつ盤面のプレッシャーを高めることができるものなら何でもいいでしょう。
4~8枚の相手に干渉できるカード
環境初期では、対戦相手がしようとしていることをどこまで意識すべきなのかを計るのは難しい問題です。そして、能動的なデッキを使うメリットはこの問題にあまり触れる必要がないことです。ただ歴史的に見て、ほかのクリーチャー・デッキに対してブロッカーを除去できるようなカードを、4枚から8枚プレイすることが功を奏してきたことに気がつきました。
赤いデッキはこの条件を満たすのが容易で、除去が相手への直接火力にもなっていること多いので、8枚より多くデッキに入れることも可能でしょう。そのほかの色については、相手に干渉するカードを6枚前後にして後悔したことはありません。
以下のようなデッキリストが、環境初期に成功を収めてそのまま定着したデッキの良い見本です。
-土地 (18)- 4 《ドラゴンを狩る者》
4 《探検隊の特使》
4 《スレイベンの検査官》
4 《町のゴシップ屋》
3 《勇者の選定師》
3 《アクロスの英雄、キテオン》
4 《白蘭の騎士》
4 《サリアの副官》
2 《領事補佐官》
-クリーチャー (32)-
1マナクリーチャーの量、土地の少なさ、クリーチャー除去を避けつつ戦場を強化するための《永遠の見守り》や、《グリフの加護》と《石の宣告》でちょうど6枚のブロッカーを退ける手段に注目してみてください。
強力過ぎるカードを利用する
環境初期のクリーチャー主体のアグロデッキは、新カードを使った自分よりも遅いデッキを標的としていると言ったことを覚えていますか?最近ではこれがあまり当てはまりません。2018年からカードデザインの方針が変わったことを受けて、新カードが強すぎると嗅覚で感じ取ったデッキビルダーがそれを利用したデッキを組もうとすると、そのまま正解になることが増えています。
《霊気池の驚異》《運命のきずな》《時を解す者、テフェリー》《王冠泥棒、オーコ》《荒野の再生》《創案の火》《死者の原野》《自然の怒りのタイタン、ウーロ》《大釜の使い魔》+《魔女のかまど》……。これらのカードパワーがあまりに高かったので、クリーチャー主体のアグロデッキ(そしてその他のすべてのデッキ)を圧倒しました。デッキの残りの56枚が最適化されていなかったとしてもそうだったのです。
その2つ目のアプローチで生まれたのが以下のデッキです。
4 《島》
4 《繁殖池》
4 《神秘の神殿》
1 《ギャレンブリグ城》
-土地 (25)- 4 《金のガチョウ》
4 《枝葉族のドルイド》
4 《楽園のドルイド》
3 《ハイドロイド混成体》
2 《大食のハイドラ》
1 《ギャレンブリグの領主、ヨルヴォ》
4 《探索する獣》
4 《意地悪な狼》
-クリーチャー (26)-
デッキの調整で初めて相手が《王冠泥棒、オーコ》を場に出してきたときに、もうこのゲームに勝ち目はないと気づかされました。《王冠泥棒、オーコ》は「食物」とクリーチャーを生みだす能力を持つので、各マナ帯で強そうな「食物」に関連するカードとクリーチャーを入れてみると、上記のデッキリストは粗削りにもかかわらず、とんでもないデッキになりました。
環境が進むとオーコデッキはもっと洗練され、3色目を入れて相手に干渉するカードを増やすようになりました。「食物」とクリーチャーのデッキだけではなく、コントロールデッキに入れても強かったのです。しかし、環境初期の数週間は『エルドレインの王権』でもっとも強力なカードを特定し、それを中心とした能動的な戦略のデッキを組むことができるだけで満足でした。完璧なオーコデッキではなくても、うまく回るオーコデッキでさえあれば十分だったのです。
《王冠泥棒、オーコ》は明らかに行き過ぎたカードだったので、最適な例ではなかったかもしれません。しかし、ほかにも強そうに見えるカードはたくさんありましたが、数週間の結果が出ない限り、誰もそれらのカードが禁止に値するかどうかを確信することはできなかったのです。
自分の直感を信じて、それらのカードを中心にデッキを構築したプレイヤーは報われました。2021年も新セットにとんでもなく強いカードが刷られるのかはわかりませんが、通用しなくなるまではこのやり方をオススメします。
環境後半 ~調整の重要性~
数週間分の大会結果が出ると、環境へのアプローチの仕方は完全に変わります。配信や記事、Twitter、Discordなど利用可能なさまざまな情報源がありますし、あなたの仕事は2つの目標を意識しながらその情報をうまく処理することです。
調整が重要になってくるのはここからです。
真実を知るための調整(デッキ相性に注目する)
調整の最初の目標は、デッキ間の相性を知ることになりやすいです(それ以上が必要なこともあります)。
私の主な調整方法は、信頼できる友人を探して、対局中にメモを取ることです。それが可能でなければ、配信で試合を見て試合結果よりも試合展開にどういうパターンが考えられるのかを観察します。
調整(またはほかの人のプレイテストを見る)の背後にある思考プロセスは次のようなものです:どんなデッキの間にも、さまざまなカードの引きと試合展開の組み合わせが存在しています。目標は、それらのカードの引きの良し悪しを加味した相性を考えて、どちらが有利なのか判別することです。メモをとって友人と情報交換するのは、それをより正確に、より効果的に行うためです。
試合結果のメモを勝率計算のために活用するのはよくないという俗説があります。数十試合で計算した勝率は真実ではありませんが、それでも役立ちます。叩き台としてはいい出発点で、どちらが有利なのかよくわからなくなったときに決め手となることもたまにはあります。
ただ、限界さえしっかり意識していればいいのです。個人や1つのチームでこなした程度の試合数で出した勝率は、統計的に意味のあるものではありません。オンラインで長い間たくさんの試合をこなしても、対戦相手の質や目的意識は理想的なものではないことが多いのが事実です。チームメイトのゴンサロ・ピント/Goncalo Pintoが言うように「アリーナやリーグをやれば不利なデッキはわかるが、有利なデッキはわからない」ということなのです。
何が重要かを学び、自分の直感を信頼する
しかし、数十試合では信用できず、オンライン上の勝率を完全に信用できないなら、どうやって信用できる情報を得ればいいのでしょうか?これは、マッチアップで何が重要なのかを学び、そこから迫っていくために最善を尽くすしかありません。
たった数試合でマッチアップの「感触」をつかむ方法を説明するのは難しいですが、私が注目する大事な要素は勝つことがどれくらい難しいのか、あるいは負けるのにどれだけ不運なことが必要かということです。
たとえば、試合中に相手が数種類のカードのどれかを出すと形勢が不利になってしまうと毎ターン感じているのなら、それはいい兆候ではありません。実際に得られる知見は試合結果ではなく、ゲームに勝とうとしているあなたの心の中にあるものなのです。言い換えれば「楽だと感じるか、苦しいと感じるか」の部分なのです。
試合展開のパターンを知る
デッキ間の相性で必要な情報を得ようとしているとき、私は両サイドが自らの主張を判事の前で展開しているのを見ているような気分になります。両者の主張を理解して、どちらが正しいのか判断しようと努めます。
調整中は、この眼前の裁判の判決に役立つようにメモを取るようにしています。単純に言えば可能性のある試合展開のパターンのメモです。これには3つのメリットがあります。
サイドボードで勝てる試合展開のパターンに注目するのもかなり重要です。認識の間違いやデッキに革新を起こせる要素に気づく一番簡単な方法ですからね。これについては後ほど説明します。
単純化された作業
意味のある情報を見分けるための作業を数段階に単純化すると、次のようなものになります。
試合をする前に可能性のある「デッキ間の物語」を想像する。
「デッキ間の物語」を想像するというのは、試合がどのように展開するのか、またはデッキAがデッキBに勝つパターンをすべて想像してみることです。上で触れた手札の強弱や試合中のプレイの仕方を導き出すうえで最初の一歩になります。
また、勝利に結びつく状況や特に有利になる関連性の高いプレイパターンについてもメモしておきましょう。
ゲームを数多くこなしたり、配信の視聴を繰り返すことで「デッキ間の物語」を反復する。
この段階では、今まで気づいていなかった試合展開のパターンや勝利方法がほかにもないのかを観察します。
私は試合がどう展開したのか軽いメモを書くことにしています。各ゲームにつき短文1つくらいで十分でしょう。ほんの数秒でいいのです。録画配信を2倍速で見ながらこういうメモを取るのがすごく好きです。情報を得るにためにはいい方法だと思います。
すべての「物語」を見つけたら、両者がどれくらいの頻度でそれを実現できるのか推測する。
得られた知見をもとに、両者がどうやって相性を改善できるのか考える。
以上が要点です。SNSには常に情報が溢れかえっていますが、調整しながら試合展開のパターンを観察し、メモを取ってさまざまなデッキ間の相性について何がうまくいって何がうまくいかないのか自分で真実を見つけましょう。そして、メタゲームの突破口を見つけるのです。
メタゲームを突破するための調整(大局的視点から)
調整を通して質の良い情報を使えるようになったあとなら、よくあるデッキ同士の試合がどういう展開になりやすいのか、イメージがうまくつかめているはずです。それを利用すればメタゲームの流れについて(自分が高い確率で事実だと考えている)仮説のリストが作れるはずです。
この記事では「メタゲーム仮説」と呼んでみましょう。私はいつも文章に落とす努力をしています。たとえば、現行スタンダードを表現するメタゲーム仮説はこのようなものになるでしょう。
これらのメタゲーム仮説がすべて事実だと信じてはいても、狙うのはそこに突破口を見つけることです。真上のリストの文をどれか1つでも真逆にできたとして、それを知っているのが自分だけだったとしたらどうでしょう。
たとえば、グルールが緑単フードに負けるのではなく勝つのだとしましょう(《魂焦がし》が除去としてその役割を担えると発見したというような突破口を見つけたという仮定です)。もしほかの全員が古いメタゲーム仮説のもとで考えているなら、緑単が最大勢力となった大会にグルールを持ち込んで蹂躙できるかもしれません。
メタゲーム仮説を書き出すことで、メタゲームのどこに突破口を開くことができたら一番メリットがあるのかを知ることができます。もちろん言うは易く行うは難し、すべての問題に答えを出せるわけでもありません。しかし、完全に新しいアーキタイプのデッキを作らなくてもメタゲームを突破できるのがポイントなのです。相性の悪いマッチアップを1つか2つ改善すればいいだけですからね。
これを達成できると、大会参加者の中で相当有利になります。そして経験を積んできたプレイヤーはこの方向性でデッキ選択を寄せているのです。これは私にとって、現代マジックでデッキを選ぶときの秘訣です。メタゲーム仮説を逆転させることができるかどうかを常に意識し、反転させることができた場合には、この点を中心にデッキを選ぶことを真剣に考えましょう。
メタゲーム仮説を逆転させる方法は多様で、簡単で単純な方法はありません。似たような状況になったとき、速やかに気づくことができるようにいくつか例を挙げておきます。
別角度からの攻め手を追加する
プロツアー『霊気紛争』以前は、多くのチームがマルドゥ機体は除去中心のゴルガリカラーのデッキに不利だと考えていました。しかし、サイドボードから投入された《領事の旗艦、スカイソブリン》は、ゴルガリ側の《致命的な一押し》や《歩行バリスタ》といった除去をほとんど無効化してくれたため、マルドゥ機体がサイド後に有利になるというすばらしい革新が起きたのです。
これは相当強力なメタゲーム仮説の逆転だったので、私が参加していたチームの多くはマルドゥ機体を使う決断をしたのです。
直近だとヒストリックのゴブリンは、墓地対策やアーティファクト除去があるため、黒単《王神の贈り物》に対して有利だと考えられていました。しかしながら、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaのチームやマイク・シグリスト/Mike Sigristのチーム、そのほかのチームも《王神の贈り物》への依存度が低いゲームプランを編み出し、黒単を使う判断ができるようになったのです。
今までとはまったく異なるサイドボードプランに変更する
2 《沼》
2 《山》
4 《秘密の中庭》
4 《感動的な眺望所》
4 《霊気拠点》
4 《産業の塔》
1 《凶兆の廃墟》
1 《鋭い突端》
-土地 (24)- 4 《歩行バリスタ》
4 《スレイベンの検査官》
4 《模範的な造り手》
4 《屑鉄場のたかり屋》
2 《異端聖戦士、サリア》
-クリーチャー (18)-
マルドゥ機体(このデッキに言及するのは大好きです)に再び触れると、プロツアー『霊気紛争』の翌週にあったグランプリ・ユトレヒト2017では、サイドボード後に10枚のプレインズウォーカーと大量の除去を入れたコントロール型にシフトするマルドゥ機体が優勝しました。
誰もがサイドボーディング後に除去を増やしたり、クリーチャーで戦場を有利にすることでマルドゥ機体に勝とうとしていました。しかし、上述のサイドボードプランは完全に予想を覆すものだったのです。
新しい試合展開のパターンを生みだす
ときには、デッキ自体に変更を加える必要がないこともあります。すでにデッキに入っているカードで、より優れたやり方を生みだすのです。直近の例だと、私が所属するチームではセレズニアヨーリオンはグルールに有利だと考えていました。これは、セレズニアがグルールの脅威に対して1つずつ対処していくのが得意だというのが理由で、そうなるとグルールは《エンバレスの宝剣》や《グレートヘンジ》を早期に出すことはできません。
相性を逆転させるのに必要だったのは、グルール側が序盤に2回呪文を唱えられるターンを作ることができる手札をキープする必要があることに気づくことでした。そうすると、相手に追加のダメージが生まれます(この動画のコメントで視聴者がそれに気づくのを確認することができます)。
古いデッキを再利用する
長い間メモを取っていないとこれはできません。2016年後半のエスパードラゴンと《先祖の結集》デッキの間に起こったことを例に考えてみましょう。当時、《先祖の結集》デッキはエスパードラゴンに有利だと考えられていました。事実、その時点ではエスパードラゴンはメタゲームから消えていたのです。しかし、その1年前には、ルーカス・ブローン/Lukas Blohonはトップ8で《先祖の結集》デッキを3回撃破してエスパードラゴンでグランプリを優勝していたのです。私はそのころからメモを取っていました。
2 《沼》
4 《窪み渓谷》
2 《大草原の川》
4 《溢れかえる岸辺》
4 《汚染された三角州》
2 《血染めのぬかるみ》
1 《乱脈な気孔》
2 《精霊龍の安息地》
-土地 (27)- 3 《ヴリンの神童、ジェイス》
4 《龍王オジュタイ》
2 《龍王シルムガル》
-クリーチャー (9)-
再びメモを読んでみると2つのことに気づきました。まず、ブローンのデッキは打ち消し呪文が多いデッキだったので、《先祖の結集》デッキ側がゲーム後半のターン終了時に呪文を唱えようとしても、打ち消し呪文を複数唱えられる状態なので後続まで打ち消すことができたのです。さらに、《龍王オジュタイ》が盤面に残り続けるとそれは試合の勝利を意味していました。
そのグランプリのあとになると、エスパードラゴンは打ち消し呪文を減らし始めため、《先祖の結集》デッキはターンの終わりに呪文を唱えることで有利になるようになりました。また、《肉袋の匪賊》も《龍王オジュタイ》へのきれいな解答としてデッキに採用されるようになったたので、相性は自然と逆転したのです。
しかし、私が参加するプロツアー地域予選のタイミングではそうではなくなっていました。《肉袋の匪賊》は《反射魔道士》に席を譲っています。打ち消し呪文の立ち位置はあまりよくなっていませんでしたが、エスパードラゴンは《神聖なる月光》をメインデッキに入れることによって、インスタントタイミングで使える妨害手段を増やすことができると考えました。
ほかの調整メモには、グリクシスコントロールがサイドボードの《精神背信》と《ゲトの裏切り者、カリタス》を用いて《先祖の結集》との相性を改善しているということが書いてありました。これはエスパードラゴンにも使える方法です。
何か月にもわたって蓄積したtxtファイルに入っていた知識に基づいて、私はあるプランを思いつきます。いくつかのテストプレイでそれが意味のあるものであることがわかり、私に次のことを気づかせてくれました。
《神聖なる月光》はロングゲームになったときに《時を越えた探索》で持ってきても使いやすいマナ・コストなので、予想よりも役に立つことが判明したのです。大量に試合をこなすことはできませんでしたが、練習した範囲ではいい感触でした。プロツアー地域予選では、私と2人の友人がそのデッキリストで予選を通過し、大会でかなりの数の《先祖の結集》デッキを撃破できたので、すべてがうまくいったと言えるでしょう。
サイドボードからメタゲームの変化に気づく
メタゲームから特定のデッキが消滅したことと、その影響に気づくのは簡単ですが、サイドボードの微妙な変化に気づくのはそれよりも難しいことです。見逃さないようにしましょう!
モダンのプロツアー予選の時期に《墓掘りの檻》をサイドボードに入れていたデッキが、代わりに《虚空の力線》や《トーモッドの墓所》を使い始めました。ドレッジがメタゲーム上で数を増やしていて、墓地に対するストレートでより強力な解答が必要になったのです。
それに気づいたとき、《集合した中隊》を使ったメリーラコンボデッキが再び使えるようになったことを認識しました。《墓掘りの檻》と違って墓地対策にしかならないカードが採用されたため、《集合した中隊》がサイドボード後も強く使え、ただ攻撃してダメージを与えることに集中すればよくなったのです。
メタゲームに突破口を見つけられないときのデッキ選択
最悪のシナリオではありますが、メタゲーム仮説を逆転できないということになって、ほかのプレイヤーも使っているようなデッキの中から自分も選ばなければならないことになったとしましょう。それも特に問題ではないのです。
このシナリオでは、自分が好きなプレイスタイルに寄せてデッキを選んでも大丈夫です。一番使いこなせる可能性が高いですからね。
オースティン・バーサヴィッチ/Austin Bursavichが提唱したやり方は、このシナリオに対するいいアプローチになります。「もっとも成功しているアーキタイプに注目し、それに土地を1枚足して、不可避的に発生するミラーマッチで有利になることを考えなさい」というものです。
おわりに
これ以上付け足したいことはあまりありませんが、最後に言っておきたいのは大会がデッキリスト公開制なのかそうではないのかには注意を払ったほうがいいということです。
以前の記事にも書きましたが、デッキリスト公開制の大会では1枚のカードに依存しているデッキや意表を突こうとするデッキ、テンポよくマナカーブどおりに展開することを狙うデッキは、対戦相手の注意深いマリガンによって手痛く罰せられる可能性があります。それ以外は変わりませんが、私はデッキリスト公開制ならアグロデッキよりもコントロールデッキを使う可能性が高いでしょう。
ルーカス・エスペル・ベルサウド (Twitter)